第2話・無言の非難と殺気立つ~押し殺した感情の限界値~
第6章 ブルンの宿の朝
第2話・無言の非難と殺気立つ~押し殺した感情の限界値~
こっそりと宿の宿室へと戻って来たインスとステールだったが……
「「「…………」」」
部屋の前に立つ巨漢の神殿護衛官と視線が合った瞬間、何とも言えない奇妙な沈黙が落ちた。
「……………」
「…………」
「……………」
まずはインスをまじまじと見て、インスが少し困ったように微笑めば、クロードの視線は責めるようにステールを見る。
「…………」
「……………」
ギュッと、眉間に皺を寄せてステールが無言で頷けば、少しだけ首を傾げたクロードは顎をしゃくって離れるようにと合図した。
「「…………?」」
「……今、アインと顔を合わせない方がいい……」
「「……っ……!?」」
流石に理由が分からなくて戸惑う二人に、押さえた声で囁けば、二人は揃ってハッとする。
確かに、あの、敏感で繊細な幼い子供に、明らかに何事かがあったと分かるような状態で顔を合わせればきっとすごく心配するだろう。
ただ心配するだけならば宥めようもあるが……それだって、インスからすれば自分のせいでアインに心労をかけるのは避けたい……もし、魔力を暴走させるほど感情を乱したら大惨事では済まなくなる。
「……二人とも、殺気立ってる……」
「「…………っ」」
そう思っていたら、それ以前のことを告げられて、インスもステールも揃って絶句した。
「……ありがとうございます……少し、お茶でも飲んで、気持ちを落ち着けますか……」
「だな……悪い。クロード……なるべく早く交代に戻るから……」
そっと息を吐いて気持ちを落ち着けながらインスが言えば、ステールも同意し、クロードにも声をかける。
「……大丈夫。ファンとリオンと、三人で回してる……」
「「……ああ……」」
クロードがずっと一人で見張りをしていると思ったステールの申し出に、クロードは軽く首を横に振った。
その返答に、それはそうだ、とインスもステールも思い至って頷く。
人数が減れば減ったなりに回す。
そうしなければ回らないのは当然で、今夜二人が外出することはファンとリオンにも事前に伝えてあったのだから、深夜を過ぎても戻らない、となればそれに合わせて交代の予定を調整するに決まっていた。
(……どうやら、自分で思う以上に視野が狭くなっていたようですね……)
(……全く頭が働いてないな……これはマズイ……)
インスもステールも内心で少し反省し、一旦宿の一階にある茶室で気持ちを落ち着けられるようなお茶でも飲んでくることにする。
「……やっぱり、もう一部屋借りときゃよかったか? 空きができたってことだろう……?」
移動しながら、ふと思い出してステールが囁く。
初日の空きが貴族用の客室一つと、ベッドが三台ある従者用の客室が一つしか開いていないと言われた、とファンがなぜか物凄く悩んで告げたことを思い出す。
その時は、ただ一泊するだけの予定だったので、なにも困らない、と思ったが、今は別に部屋があればアインに気を遣わせずにインスを休ませられただろう。
「……いえ、どうせ落ち着くまでの間です……余分に借りる必要はないでしょう……」
しかし、インスはこともなげにそう返し、それもそうだな……とステールも一応は納得する。
納得はするが……
(……それでも、やっぱり横にさせておきたいよなぁ~……)
青い顔でふらつくインスを支えて歩くステールからすれば、無理をさせたくない、というのが本音だった。
それに何より、支えていることで不快感を思い出すらしく、時折微かに眉を顰め、息を詰めているのも気になる。
クロードの言う殺気立っている、というのもその辺りから来ているのだろう。
自分自身も己への不甲斐なさや、いいようにあしらわれたことに対する憤りで苛立っていたのも認めるところだ。
そんな、殺伐とした空気を纏って部屋に入れば、例え眠っていたとしてもすぐさまアインは目を覚ましてしまうだろう。
まして、それを誤魔化して何でもない、と言ったところで信じるはずがない。
(……本当に、よくもやってくれましたねぇ……っ)
ステールが内心で色々と考えているように、インスもまた指摘されたことから思考を巡らせ、更に内心で苛立ちを募らせていた。
とは言え、落ち着かせなければいけないことも理解しているので、時折意識的に深い呼吸を行って感情を逃がす。
そうしないと、あまりにも重く圧縮された怒りでうっかり体内の魔力を動かしてしまいそうだ。
万が一にもそうなってしまったら、アインにどんな苦痛を与えてしまうか……
(……っ……!)
考えれば考えるほど怒りが募り、それを押し殺し、を繰り返していて、自分でもいつ決壊するかわからない。
「……ステールさん……」
「ん? どうした?」
だから、インスはステールに声をかける。
「……もし、私が感情を爆発させそうだったら、落としてください……」
「……………そんなにか?」
「……残念ながら……」
言われて、一瞬絶句したステールが恐る恐る確認すれば、インスは感情を完全に削ぎ落した無表情のままで頷く。
「……わかった……」
「お願いしますね……」
その様子に、これはまずいと理解して、ステールも緊張気味に頷けば、インスはまた息を吐いて落ち着かせながらそう告げた。
第2話をお読みいただきありがとうございます。
こっそりと宿室へと戻ってきたインスとステール。
部屋の前で待っていたクロードからの無言の非難を受けつつ、インスは昨夜の出来事や理不尽な状況に対する静かな怒りを胸の中で限界まで押し殺します。
魔力が動くことでアインへ苦痛が及ぶのを防ぐため、必死に感情をコントロールするインス。
しかし、限界まで圧縮された怒りの爆発を危惧したインスは、ステールに対してあることを頼み……!?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




