第5話・タイミングよく駆けつけて~薬屋の破滅~
第5章 悪魔と躍る・あくまで踊る
第5話・タイミングよく駆けつけて~薬屋の破滅~
まずいっ!!
警備隊の制服を目にしたシェイドは反射的に逃げようと地面を蹴る。
「……っ!?」
「まてっ!!」
走り出そうとするが、体勢が悪い。
前かがみになった状態から、身体を捻って立ち上がり、路地の奥に駆け込むよりも警備隊の動きの方が早かった。
「うわ……っ!!」
「貴様っ!! なぜ逃げたっ!!」
そんな怪しげな動きを見せれば当然、警備隊は後を追う。
「ちが……っ!! 俺は……っ!?」
走り出そうとした直後に、何かに躓いたシェイドはあっさりと身体を地面に押し付けられた。
(……っ!? 何でこれがここに……っ!!??)
その目の前……地面に見覚えのある革張りの手帳を見つけて息を飲んだ。
咄嗟に手を伸ばし、隠そうとするが、手帳を掴む前に両手を後ろに回され、押さえつけられてしまう。
「貴様! ナペル薬店のシェイドか!!」
「ま……っ!!」
明かりに照らされた顔を見て、取り押さえた隊員が素性を特定してしまう。
「っ!? 誰かっ!! 毛布を借りてこいっ!! 担架と馬車も回せっ!!」
ほぼ同時に、明かりを持った隊員が路地の奥に倒れ伏す巨漢の護衛と、シェイドが膝を着いていた場所に着衣を乱され、見悶える未亡人を発見して声を張り上げた。
その直前、ごくりと唾を飲み込んでしまったのは乱れる未亡人の色気に一瞬当てられてしまったから。
しかし、即座に我に返って適切な処理を指示したのは流石と言えるだろう。
すぐさま後続の隊員が動き出し、近くの民家から毛布を借りてくる。
戸板を担架代わりにも借りてきて、道の先、馬車が入り込めるギリギリまで馬車も寄せた。
「はな……っ!! 俺は何も……っ!!」
「黙れっ!! この状況で、言い逃れできると思っているのか!!」
拘束から逃れようと身を捩り、必死に声を上げるが警備隊は聞く耳を持たない。
暴れる身体を数人がかりで押さえつけて後ろ手に縛り上げ、喚く口を封じるために布を噛ませる。
その間に持ち寄られた毛布でインスの身体を包み、移動させるために一人の隊員がそっと抱き起こす。
「……っ!? あああ……っ!!」
「「「「……っ!!??」」」」
その瞬間、インスの唇から上がった悲鳴に思わず手を止めた。
動かされたことで前かがみになったインスが、意識もないままで右肩を押さえる。
ギョッとした隊員は、まさかと顔を青ざめさせてそっとインスの右肩の状態を確かめた。
「っ! ……肩が、外されてる……っ」
「「「「……な……っ!?」」」」
その隊員の怒りを抑えた声に、他の隊員たちと一緒にシェイドも目を見張る。
「貴様……っ!!」
「んっ!! んんぅっ!! (ち……違う……っ!!)」
シェイドは警備隊の、殺気立った眼差しに青くなって必死に首を横に振るが、視線は冷たくなる一方。
負傷していることが発覚したため、インスは一人ではなく二人の隊員によって慎重に担架代わりの板に乗せられ、馬車へと運び込まれて行く。
「大丈夫ですか!?」
その間に別の隊員が四名、路地の奥で地面に倒れていたステールにも駆け寄り、首筋に刺された太い針と、意識はあるようだが動けない様子であるのを見て取って状況を察する。
「針……麻痺毒か……馬車に運びます……」
ステールの巨体を運ぶのには、結局六人がかりで身体を支えることになった。
場所が場所だけに周囲には人も多くいたが、インスの姿は隊員たちの手によって厳重に隠され、ステールと二人、馬車で神殿の治療院へと運ばれていく。
一方のシェイドは傷害及び暴行未遂の現行犯として警備隊の詰め所に引っ張って行かれることとなった。
警備隊員の一部はそのままそこに残って現場検証が始められる。
当然、周囲に散乱するいくつもの証拠品が押収されることになり、そこにはインスが飲まされた薬の空瓶や怪しげな革張りの手帳などもあった。
薄く雪が積もる地面には踏み荒らされた跡や、引き倒されたことでできたと思われる摩擦痕なども残っており、相当乱暴なやり取りがあったことが伺われる。
「……ん……? これは……!?」
そして、手帳の中を見た隊員の一人がそこに記された……薬を取り扱う者が犯してはならない犯罪の記録を目にして絶句した。
「……おい……」
「はっ!」
慌てて、手近にいた部下を数人呼び寄せ、小声で何事かを指示する。
「「「……っ!? すぐに」」」
指示を受けて、三人がその場から急いで走っていく。
(……こんなことが公になったら……)
指示を出した一人がゾッとして顔色を悪くする。
(……頼むから、シェイド一人の犯行であってくれ……!)
それも問題ではあるが、薬店全体が関わっていたとなった時の被害は計り知れない。
それなら女性に乱暴しようとした、若い跡取り息子一人の欲の暴走で終わる方がマシ。
流石にシェイドがそういった犯罪を犯したことまでは……この人の多さでは隠し切れないのだから。
そして、まだ若い男がそういった欲に流されてしまうことはよくあること。
この手帳に記された犯罪と比べれば……引き起こされる混乱は最小限で済む。
だからこの警備隊員が望むように、店全体が関わっている証拠が出ないでくれるのが一番良い。
もし薬店全体が関わっていたのなら……最悪、店の関係者全員の血が流れる未来が確定してしまう。
そうならずに済むように、と……密かに女神に祈りを捧げて、警備隊員は現場の指揮を続けた。
第5話をお読みいただきありがとうございます。
間一髪で駆けつけた警備隊によって、その場であっけなく取り押さえられるシェイド。
現場には麻痺針で動けないステールと、薬の影響で乱れるインス。
さらに現場から押収された手帳から恐るべき悪事の記録が発覚して事態は一気に急展開を迎え……!?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




