第8話・躍るネズミと行商人~見送る気配のその後は~
第4章 発芽の兆しと不穏の兆し
第8話・躍るネズミと行商人~見送る気配のその後は~
一方、屋根裏ですべてを見聞きしていた行商人は……
(くくく……っ。最高だね……!)
呆れ半分、それ以上の興奮を感じて薄く口元に笑みを浮かべる。
まさか気づかれるとは思わなかったが、気づいたことを隠して聞かせに来るとは……
(まあ、気づいたら放置はできなくなるだろうからね……お互いに気づかないのが一番か……どうやら、訳アリのようだし……)
会話の端々から他にも同行者がいて、どうやらそちらが上位者らしい、と言うことは分かった。
なるほど、その相手は相当な立場の存在なのだろう。
皇宮呪師が護衛に付いて来るなんて、一体どんな相手なのか……
探ってみるのも一興だが、とりあえずは後回しだ。
それよりも……
(……いいだろう……その依頼は受けてやるさ……代わりに、こっちも愉しませて貰うから、覚悟しておくんだね……)
見下ろす室内で、本当にさっさと寝ることにした様子なのを見て取って嗤いを堪える。
クロードが先に見張りに立ち、室内に残ったのはインスとステール、そして既に眠っているアインだけ。
普段はここにファンかリオンも加わるのだが、今夜はジャンヌのプロポーズ大作戦の立案のために戻ってくることはないだろう。
そんなことは知らないが、行商人は部屋の明かりが消されたのを確認すると、気配を殺して屋根裏を抜け出し、外に降り立つ。
「……それにしても……こっちが目的の店を知らない可能性は考えなかったのかねぇ……」
そう、インスは一言もターゲットとなる薬店の名前を口にしなかった。
(……いや……住宅街から尾行ることに気づいていたなら、調べがついている、と見て当然か……)
だが、すぐに気づく。
ほんの一瞬、偶然視界に入ったようにしてこちらを見たインスは、あの時点で尾行に気づいていたのだろう。
だから、屋根裏に潜んでいるのが調べが付いている者だという前提で話していたのだ。
まさかあの時点で気づかれていたとは思わなかったが……
(……さすが、というべきかね……魔法を使えるバケモノは、こっちの想定を超えてくる……)
まさか、インスが呪いをかけられていてろくに魔法を使えない状況にある、だなんて分かるはずもないので、当然のように気づいたのは魔法を使ったからだろう、と当たりを付ける。
そのまま行商人は迷いのない足取りで歩き出した。
向かった先は商店街。
その一角にある、老舗の大店。
(……昨日、シメた奴らが言っていた、あの嬢ちゃんに懸想して、積極的に言い寄っている男がこの、ナペル薬店の跡取り息子……そして、さっきの奴らの話からして、嬢ちゃんの弟が長年寝たきりだった理由が薬害なら……)
「……自作自演……面白いことをしてるじゃないか……」
くくく……っと嗤って呟いた行商人は路地裏に入ると素早く薬店に忍び込む。
表に出せないものを隠す場所というのは大体決まっている。
だから、まずは当たりを付けた場所から調べていき、難なく目当てのものを見つけ出す。
ついでに色々と仕入れもさせて貰って、依頼の品を盗み出した。
「……ちょろいもんだね……さて、どうしてくれようか……」
このまま、すんなり渡してしまうのは面白くない。
ちょっとばかし意趣返しも仕掛けたが、それだけ、というのもつまらない。
「……そうだね……」
少し考えて、行商人はニヤリと唇を歪める。
「……一つ、こっちからも仕掛けてやるか……」
クツクツと笑って、行商人は愉し気な足取りで滞在中の宿へと向かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
明かりを消して、しばらくじっと気配を窺っていたインスとステールは、ややあって屋根裏から完全に気配が消えたことを察してそっと息を吐く。
「……行った、か……?」
「………そのようですね……」
囁くようなステールの確認に、インスも同様に声を押さえて返す。
「……で……? 何者なのか分かっているのか?」
「さあ? とりあえず、屋根裏に潜めるのですから、依頼は達成してくれると思いますが……」
「おま……っ!」
ぎろりと睨んだステールに、あっさりと返したインスの返答に絶句する。
「……お前なぁ……」
大きく溜め息を吐いて、呆れ返った。
「大丈夫ですよ。別に、明確にどうしてくれ、と頼んだわけでもありません……動かないのなら、それはそれで問題ありませんし……」
同時に動いたら動いたで、それもまた大した問題ではない。
気にもしないインスの様子から、正体はともかく、どんな相手なのかは大体察しているようだと分かって、ステールの溜め息が深くなる。
「まあ、とりあえずは明日ですね……向こうからの接触があるか、ないか……ないことも見越して、早めにこちらも動きましょう……」
「つまり、ネズミがいなくても、どうにかする手立てはあった、と言うことか……」
本気で寝るつもりらしいインスの様子に、これだけはとステールが問いかければ。
「……当然でしょう? そうでなければフィール家でこちらで動く、だなんて申し上げられませんよ……」
クスリと、小さく笑ったインスは、もう休むから……と告げて毛布を引っ被る。
溜め息を漏らしたステールもまずは一旦眠ることにした。
果たして、インスと行商人。
どちらが本当に盤面を支配しているのか?
その答えが出るのはもう少し先のこと……
第8話をお読みいただきありがとうございます。
屋根裏に潜む気配を感じ取り、あえて聞こえるように誘導の言葉を投げかけていたインス。
その意図を察し、不敵な興奮とともに夜の街へと駆け出していく行商人。
標的である薬店から見事に目的の品を盗み出すものの、ただ素直に手渡すつもりはないようで……?
互いに相手の存在を意識しながら繰り広げられる、暗黙の心理戦と盤面の奪い合いの結末は!?
次回もお楽しみに!
【シリーズ一覧はこちら!】
本編と番外編、それぞれのシリーズ総合リンクです。
過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
https://ncode.syosetu.com/s7443j/
▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク
https://ncode.syosetu.com/s8365j/
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「素直に渡さないWW」「本気で寝るインスWWW」と感じていただけましたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト




