第7話・不穏な影を泳がせて~暗に示すは一つの方法~
第4章 発芽の兆しと不穏の兆し
第7話・不穏な影を泳がせて~暗に示すは一つの方法~
不意に言葉を途切れさせたインスが、少し慌てたようにアインの様子を見る。
「インス?」
「っ。静かにしてくださいっ!」
訝し気にステールが声をかけるのを、押さえた声で制したインスは視線だけで上を示した。
アインの様子を気にかけるように動きながら、微かな目の動きで誰かが屋根裏に潜んでいることを伝える。
「「……っ……!?」」
「アイン君が、起きてしまうでしょう?」
ハッとして息を飲んだクロードとステールを制するように、あえてそう告げたインスの意図を瞬時に察した。
泳がせる。
相手が何者かも分からないのだから当然の判断だ。
「ああ……悪い……」
「ん……アインは?」
すぐにインスに合わせた二人に、インスはアインの様子をそっと確認しながら、気配だけで上を探った。
「……大丈夫……起こしてはいないようです」
気づいたことに気づかれた様子はない。
そう伝えたインスに、二人は無言で頷く。
アインを起こさないようにそうっと撫でて、肩口まで毛布をしっかりと掛けたインスは、ゆっくりと二人に向き直った。
「……丁度いいですから、この後のことを決めておきましょうか……?」
「……今か……?」
ベッドの端に腰を下ろしたインスの物言いに、ステールが眉を顰める。
ネズミがいるのに、今後のこと?
「そうですよ? いつまでも足止めは利かないでしょうし、できれば早めに終わらせたいですしね」
「……なるほど……」
どうせなら、このネズミを利用する。
言外にそう告げたインスに、呆れ半分感心半分で頷いたステールは無言で先を促す。
「まず、確認する必要があるのは、問題の薬店の、誰がどこまで関わっているのか、と言うこと……」
「……薬店……?」
話を始めた途端に、クロードが首を傾げる。
「「……ああ……」」
その反応で、インスもステールも思い出す。
「そう言えば、クロードさんには家の外でお待ちいただいていたのでしたね……」
「姫様たちにも、お前は言わなかったからな……」
頷き合ったインスとステールは改めて説明を始めた。
「まず、病気で半ば寝たきりだと言われていたカミルさんは、薬害による体調不良でした」
「……っ!?」
その説明だけで、普段からあまり表情の変わらないクロードが明確に眉を顰める。
「そのことを皇女殿下方に知られると拗れる可能性が高かったので、先ほどは説明を省き、結論だけをお伝えしました。ご家族には正しい減薬の方法をお伝えしてありますので、回復するのは間違いありません……けれど……」
「ほぼ確実に、薬屋の人間が意図的に引き起こした薬害だろう……一応、家族には別の可能性もあるから、と早まらないようには言ってあるが、放置しておくわけにもいかない」
「…………」
インスと、ステールとが交互に説明するのを聞いて、クロードは無言で頷く。
「ですから、完全に部外者である私たちが独自に調べて、必要があれば相応の対処をしておくべきかと……」
「……なるほど……」
インスの言うことはもっともなので、クロードも頷く、頷いて、少し考え込んだ。
「……極秘で……?」
「できれば、ですね……」
それから、確認するように聞いてきたクロードに、インスは軽く肩を竦めて首肯する。
「証拠を押さえて、関係者だけを切るのが最良です……薬剤を取り扱っているのですから、何らかの証拠はあるはずです……裏帳簿か、あるいは調合記録か……」
「……問題は、それをどうやって手に入れるか……だな……」
薬の取り扱い、というのは慎重を期す必要がある。
特に、神殿との取引があり、公的機関にも納めているような店が、取引の記録や取り扱っている薬の記録を持たない、と言うことはあり得ない。
だから、正規の記録は必ずあるし、それに紛れ込ませて誤魔化しているのなら、裏帳簿があるはず。
また、調薬の記録は残しておかないと、在庫との差異が大きくなりすぎてしまう。
だから調合記録がない、と言うこともあり得ない。
何らか証拠があるのは確実。
問題は、それらをどうやって入手し、調べるか。
「……まあ、一番簡単なのは、盗み出すことですが……」
「ばっ!? そんなことできるか!!」
考え込むようにして呟いたインスに、思わずステールは声を荒げる。
クロードもギョッとした様子で少しだけ目を見開いた。
「分かっています……だから、方法を考えているんでしょう……?」
静かにしてください、と眉を顰めたインスはそっと、溜め息を吐く。
「……少なくとも、私たちが盗みをするわけにはいきませんからね……」
「当たり前だ……お前がそんなことをしようとしたら……っ!?」
淡々と告げるインスの、その本気なのか冗談なのか分からない物言いに唸るステールは言っていて、気づく。
(……っ!? こいつ! わざとかっ!!)
屋根裏のネズミに聞かせるために、わざとそう言ったことが分かって、呆れ返った。
「……俺にお前を止めさせたいのか……?」
「まさか……そのつもりはありませんよ……」
溜め息混じりで理解したことを言外に伝えれば、軽く肩を竦めたインスはにこりと微笑んで後はネズミの判断に任せる。
「……まあ、今、これ以上考えても仕方ないですか……とりあえず、少し休ませてください……」
「……そうしろ……少なくとも、もう一日、二日はここで足止めだろう……」
次いで、そっと溜め息を漏らしたインスの声には隠し切れない本気の疲労が覗いて、呆れたようにステールも溜め息を吐く。
ステールの言う通り、ジャンヌが出発を決めるのはセージとリリーの問題を解決して、二人が憂いなく一緒になれるようになってからになることは疑いようがなかった。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
部屋の屋根裏に潜む不穏な「ネズミ」の気配を即座に察知したインス。
ステールやクロードへ静かに視線で合図を送り、あえて気づかない振りをして「ネズミ」を泳がせる判断を下します。
さらにインスは、屋根裏に潜む気配に聞こえるよう、薬店の裏帳簿や証拠の入手方法について誘導するような会話を意図的に繰り広げ始め……!?
次回もお楽しみに!
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▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




