第9話・解析したら怒られて~警備隊は青ざめる~
第2章 要衝都市の光と影
第9話・解析したら怒られて~警備隊は青ざめる~
十人近い男たちと立ち回り、何とか救出されたかと思ったら無理やり吐かされて、すっかり体力を使い果たしてしまったインスはぐったりとして息も絶え絶え。
インスが男の一人に妙な小瓶の中身を飲まされたのを目撃していたアインが、毒物だったら大変だと、何はともあれ吐き出させるのを優先した結果だった。
実際のところ、何を飲まされたのかはインスにも分からない程度には何ともなかったのだが、アインの処置が間違っていたとも思えない。
正直、疲労困憊で意識が怪しくなってしまっているが……
(……これ、飲まされた薬のせいじゃなくて、単なる疲労……ですよね……?)
色々重なりすぎていて、インス自身にも判断がつかなくなってしまっていた。
もしかしたら、雪の積もった地面に押し付けられたせいで、冷気にやられているのもあるかもしれない。
地面に転がっていた小瓶を拾い上げたアインは、その中身の匂いを嗅いで、ちょっと首を傾げる。
(……この匂い……毒じゃない……?)
香りから思い当たる材料と、その効果を想定するが、匂いだけでは確証は持てない。
「それか? インスが飲まされたのは……」
「……はい……ちょっと、甘い匂いがします……」
ステールが寒さでガタガタと震えるインスを横抱きにして、アインに声をかけると、頷いたアインはそう答えて瓶の縁を指でなぞった。
ちょっとだけ付着したそれの匂いをもう一度確認して、濡れた指先をぺろりと舐める。
ごく微量を口に含むことで薬液の成分を分析した。
(……ぁ。やっぱり……これ、インス様には効き目ないお薬だ……)
その瞬間に軽く目を見開いて、小さく吐息を零す。
「「……っ……!!??」」
しかし、そんなアインの、幼児の好奇心によるものにしか思えない行為にギョッとしたクロードとステールが一瞬絶句する。
「バカやろう! 何かわからんものを不用意に口にするな!!」
すぐさまクロードはアインから瓶を取り上げ、ステールは顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「……ヒっ! ご、ごめ……、んぐぅ……っ!!」
飛び跳ねるようにして怯えたアインが泣きながら謝り、クロードはアインの口に指を入れて吐かせる。
先ほどのインス同様、ちょっと舐めただけのアインも胃の中身を全部吐き出させられて、ぐったりとしてクロードに抱き上げられた。
「連れてきた……ぜ……? え? 何があったんだ??」
「お待たせしました! 被害者の方……は……?」
そこに、街の警備兵の一団を案内して戻ってきたリオンが、離れる前よりカオスな状況に目を丸くし、案内されて来た警備兵の隊長も巨漢の大男二人に抱きかかえられ、ぐったりとする二人に目を丸くする。
「……これ、飲まされたらしい……」
先ほどアインから取り上げた小瓶をクロードが差し出せば、サッと顔色を変えた警備隊長が瓶を受け取り、アインがしたのと同じように匂いを確認した。
「……これは……最近問題になっている薬ですね……命にかかわるようなものではないのですが……その……いわゆる興奮剤の一種で……その……」
匂いを確認し、一瞬顔を顰めた警備隊長は、ちらちらとインスとアインを見ながら言葉を濁す。
「粗方吐かせたが……解毒剤はあるのか?」
「……いえ……時間が経てば問題なく抜けますので、明確な解毒剤、というものは……」
大真面目に確認してきたステールに、何とも言えない微妙な顔で警備隊長は答える。
解毒剤も何も……
(……媚薬だぞ? 解毒するなら、つまりそういうことなんだぞ……?)
困惑気味に警備隊長は心の中でツッコミを入れる。
要するに、欲の発散をさせるしかないのだから、少なくとも、小さな子供の前で口にすべき話題ではない。
「……なら、待つ……?」
「まあ、それしかないわな」
アインを抱いたクロードが言えば、軽く肩を竦めたリオンが同意する。
「ええと……」
とりあえず事情聴取は必要になる、と警備隊長が伝えると、リオンも、クロードも、ステールも溜め息を吐く。
「仕方ない。出発を延ばして貰おう。流石に一晩もすれば抜けるだろ? 明日、事情聴取を受けさせて……出発はその次の日以降か?」
「……ファンの野郎が文句つけそうだな……」
ステールが結論付ければ、リオンがぼそりと呟き、クロードもちょっと困ったように眉を寄せる。
「……では、念のため、ご連絡先を……」
そうして、部下がごろつきを拘束して引きずって行くのを横目に警備隊長が確認すれば、告げられた宿泊先が貴族用の宿であることに内心顔を引きつらせた。
(……っ! 貴族の未亡人様に手を出したのか!? 命知らずだな……)
そんな、警備隊長の心の叫びなど知らず、明日の午後一で警備隊の詰め所に行くと伝えて帰路につく。
「……下手したらこいつら、死罪ですかね……?」
見送って、警備隊長の後ろで控えていた副隊長がぼそりと呟いた。
「……分からん……まあ、事件そのものがなくなるかもしれんしな……ただ、どちらにしろ、違法媚薬の流通経路の関する情報を吐かせる必要はある……」
「……ですね……」
答えた警備隊長が、手にした空の小瓶を軽く振って示せば、副隊長も溜め息を堪えて頷く。
彼らは知らない。
被害に遭ったのは貴族の未亡人でも何でもなく、未婚の青年である、と言うことを。
そして、リオンやクロード、ステールも知らない。
インスとアインが未亡人とその愛娘だと思われている、ということを。
ましてやこの時、強引な催吐で意識が朦朧とするほど疲労困憊だったインスとアインも気づくはずはなく……
結果的に、誤解は一切正されることなく、それが真実としてひそやかに、けれども確実に街中に広がってしまう。
何しろ現場は、人通りも多く、いくつもの商店が立ち並ぶ一角だったのだから。
第9話をお読みいただきありがとうございます。
拾い上げた小瓶を舐め、ごく微量の薬液からその成分を一瞬で分析してみせたアイン。
インスには効かない薬だと見抜きますが、周囲の大人たちには「幼児の危険な好奇心」にしか見えず……?
案の定、ステールに大目玉を食らい、クロードによって即座に強制嘔吐させられる理不尽なデトックスの連鎖。
一方、警備隊長の口から語られた薬の呆れた正体と、それに対するステールたちの生真面目すぎる問いが、現場に妙な困惑を呼び込みます。
そして、彼らの衣服や宿から、警備隊長の中で膨れ上がっていく「貴族の未亡人を襲った命知らずの暴漢たち」という凄まじい大誤解。
誰一人として真相に気づかぬまま、人通りの多い商店街で起きたこの大騒動は、ひそやかに、けれども確実に街の噂として広がっていき……?
次回もお楽しみに!
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過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




