第4話・見習いたちの数稽古~練習であり、本番である~
第2章 要衝都市の光と影
第4話・見習いたちの数稽古~練習であり、本番である~
先に、慌てて神官呪師が出て行き、その様子に困惑しつつも護符を運んできた神官はインスが仕分けた通りに、別々の箱を用意してしまうと一礼して出ていく。
二人きりで残された応接室で、質問してきたステールに答えたら、急に大きな声を出された。
「うるさいですよ……護符や呪符……そういった魔法の道具などを安定的に作れるようになるためには、どうしても数をこなして熟練度を上げるしかありません。ですから、呪師学校の生徒は毎日のようにそういったものを作ります」
少し迷惑そうにしながら、インスが説明する。
神官呪師であれ、皇宮呪師であれ、物に魔力を込めて魔法の道具として成立させられるようになるには、数稽古をこなすしかない。
特に、神官呪師は専門分野ごとに作れる護符や呪符の種類や効果が大きく異なる。
その上、多くは命に直接かかわるような……守護の魔法や浄化の魔法などになるので、半端なシロモノを出回らせるわけにはいかない。
せっかくお布施を納めて手に入れた護符が不良品だったら?
当然、もしもの時に効果を発揮してくれず、最悪の場合は命を落とす。
そんなことが万が一頻発したら、それこそ国家存亡にかかわる信仰の危機だ。
「ブルンは今、直轄領でしょう? しかも、東方と西方の分岐となる大きな街です。当然、沢山の方が旅の安全を祈願しに神殿を訪れ、護符を貰って行きます」
実際には安全祈願に来て購入していくのだが、建前上は神殿から譲り受ける、と言うことになる。
「それは……分かるが……?」
それと、どうして見習いが練習で作ったものがこんなところに山ほどあるのかが分からない。
首を傾げて困惑しきりのステールに、インスは溜め息を吐いた。
「……皇都にどれほどの需要が……?」
「え? 何の話だ?」
ぼそりと呟いたインスがいきなり何を言い出したのか分からない。
「……皇都に、安全を祈願する護符の需要がどれほどあるのですか? それに、使われることがない、と言われて作ったものが、何の練習になると?」
「……え?」
溜め息を吐いたインスの説明に、理解が追い付かなくて瞬きを繰り返す。
「……実際に、誰かの身を守るために使われる、と言われて作る護符と、練習だから、作ったところで廃棄するだけだ、と言われて作る護符とに、どれほど真剣に向き合いますか?」
「そりゃあ……当然、誰かのためになるって……あっ!!」
完全に呆れ切った声音になったインスに、胡乱げな眼差しを向けつつ答えていたステールは途中気づく。
練習であれ、実際に使われる、と言うなら、一切の手抜きなどできない。
もし、半端なものを作って、それが誰かの手に渡り、もしもの時に役に立たなかったせいで犠牲が出た、となっては一大事だからだ。
けれど、数をこなさなければ熟練度は上がらないのだから、毎日のように、場合によっては魔力が切れるまで、いくつもの護符を作ることになる。
すると、どうなるか?
品質が様々な、大量の護符が出来上がる。
できた護符は本当に、実際に誰かのために使われる。
そう、ブルンや、他にも大きな都市にある、神官呪師が常駐している神殿にまとめて送られ、そこで人々に譲られることになるのだ。
だから、先ほどの箱の中にはぎっしりと……一見同じにしか見えない、実際には様々な品質の護符が入っていた。
「本来なら、流石に全く使えそうにないものは弾かれるのですけれど、ああやって、たまにいくつか混ざってしまうことがあります」
インスが最初に示したグループは、存外数が少なかった。
けれど、使えないどころか、問題になりかねない、と指摘していて、だから主神殿に差し戻すようにと言ったのだ。
次の二つのグループは、敬虔な信者向けと、一般向けで、この一般向けと言ったグループが一番数は多かった。
次に、万が一に備えて残しておくようにと言ったグループにあったのは二つだけと一つだけ。
どう違うのかはステールには分からなかったが、恐らく神官呪師には分かったのだろう。
インスに言われて素直に頷いていたのはそのためと思われる。
「……じゃあ、お前が欲しいといったソレはどんな問題があるんだ?」
大体わかってきたステールは、だが、インスが購入した護符を目で示して問い詰める。
神官呪師の反応からして、品質自体は良いものなのだろう。
けれど、何かの問題がある、というのもやり取りから明らかだった。
「ああ……この護符は、神官としての修行をしていない者にはあまり意味がないんですよ……品質だけは最高級なんですけどね……」
問われて、ごくあっさりと答えたインスに「はあっ!?」とステールは声を上げた。
「おまっ! そんなもの、何の役に立つって……!」
「何を言っているんですか? 神官としての修行を積んでいれば、最高級品としての効果を発揮してくれるんですよ?」
「だから……っ!!」
声を上げたステールは、さも当たり前の口調で返すインスに苛立つ。
神官なんて……!
「……あっ!?」
がりがりと頭を掻き毟って唸るステールは漸く気付く。
今回の極秘討伐隊としての同行者の中には、神官呪師見習いがいるということに。
第4話をお読みいただきありがとうございます。
なぜ神殿には品質がバラバラな、大量の護符が存在するのか?
インスの口から語られる、見習い呪師たちの「数稽古」と、それが実際に人々のために使われるという神殿の仕組み。
そして、インスが選んだ「高品質ながらも使いにくい」とされる護符の真実。
その護符に最大の効果を発揮させられる対象が誰なのか?
それをステールがようやく理解します。
適温袋への魔力の補充のはずが、そこにはアインを誰よりも慈しむインスの、言葉にしない静かな信頼が息づいていて……?
次回もお楽しみに!
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「品質《《だけ》》は最高級WW」「神官なんて……「あっ!?」WWW」と感じていただけましたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
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ノリト&ミコト




