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皇宮呪師は護りたい!⑪聖皇国列伝秘聞~盤上《たびじ》で踏割《おど》る薄氷の檻枷《えにし》~  作者: norito&mikoto
第1章 西へと向かう極寒の

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第9話・盲目的な騎士団長と~思いだけならご立派な~

第1章 西へと向かう極寒の



      第9話・盲目的な騎士団長と~思いだけならご立派な~



 途中の町で買った焼き菓子を上品に食べながら、ジャンヌは身分を隠す、という皇帝そふからの条件を達成できていない、というインスに話の続きを促す。



 その食べ方からして隠せていないのだけれど……と思いながらも、促されたインスはゆっくりと口を開いた。



「まず、最上級の部屋を希望した時点で金銭的に余裕がある、裕福な身分にある、と言っているも同然です」



 貴族とまでは分からなくても、この時点で金銭の余裕がある者、と喧伝しているようなもの。



 それに関しては、ジャンヌもファンも理解できる。



「だが、それだけでご身分が判明するわけではなかろう?」


「そうですね……問題はその後です」



 ムッとして言うファンに頷いて、インスは話を続けた。



「先ほど申しあげたとおり、使()()()()()()()()まで借り切る()()()は居ません……なぜか? 必要がないからです。なぜ必要がないのか? ()()()()()()だからです」



 より正確に言うのであれば、護衛など()()()()()()だけではあるが、今はそれはいい。



「「………? ………」」



 そんな、当たり前のことを言われても、ジャンヌもファンも首を傾げるだけ。



 全く理解できていないことが分かって、インスだけではなくリオンも……クロードやステール、果てはアインまでもが何とも言えない表情をする。



「……何が言いたい……?」



 ますますムッとして、ファンが睨むが、びくりと怯えた反応を見せたのはアインだけ。


 リオンはこれ見よがしに溜め息を吐き、ステールもこっそり溜め息を吐き、クロードさえもがちょっと困ったように眉を下げている。



「ですから、いちいち凄まないで下さい……。護衛がいる一般人なんて、そうそう居るはずがないでしょう? つまり、護衛が付いていると思われた時点で貴族か、それに近い者と見なされるということです」


「……え……っ!?」


「……は……?」



 ますますアインを庇うように抱きしめて、インスが説明を加えれば、ジャンヌもファンも目を丸くした。



「バカな……まさか、貴様っ! 姫様に護衛を付けるなとでもいう気か!?」


「それこそまさかです……貴族でなくても、例えば裕福な商人などは護衛を雇っていることがあります。けれど、周辺の部屋を借り切って警護をする、などということはしません」



 一瞬の後、鋭く睨みつけたファンに対して、インスはごくあっさりと答える。


 流石に、身分を隠すために護衛を外せ、などというはずもないし、皇帝もそんなことは考えていないだろう。



「ではどうやって……!」


「「「「「………………」」」」」


 

 言いかけたファンがハタと動きを止める。



 何とも言えない、どこか憐みの籠った表情で見てくる一同を見回す。



(……ご自分の頭で考える気はないのでしょうかね……?)



 内心で溜め息を吐きつつ、インスはゆっくりと唇を開く。



「……ちなみに、周辺すべてを借り切れない場合、どうするおつもりで……?」


「当然、借りれる宿を探すに決まっている」



 一切の迷いなく言い切られて、ますます頭痛を覚えた。



「……一つもなかったら? まさか、町や村で野宿をしようなどとは仰いませんよね?」


「当たり前だ! なぜ宿があるのに姫様に野宿など……!」



 これも迷わず反論してくるのを遮る。



「では、どうするおつもりですか……?」


「その場合、致し方ないので、姫様のお部屋の前に護衛を……っ!?」



 ハッと、ファンが言葉を止めた。



「……それが、一般の方が護衛を雇った際の警護の方法です……」



 ここまで言わせないと気付かないのか……と、インスだけではなく、クロードもリオンもステールも、そしてまだ幼いアインまでもが若干の頭痛を覚える。



「……あの、すごく、お金を持っているって、思われると……悪い人も、いっぱい寄ってきちゃいます……」


「……ああ。それもありますね……」



 それから、遠慮がちにアインが口を開き、インスが頷く。


 アインですらそれが分かっているというのに、どれほどの自信があって、これほど目立つマネばかりを繰り返しているというのか……


 内心で溜め息と頭痛が止まらない。



「……だなぁ……」


「……まあ、来たところで後悔するだけだろうがな……」



 確かに、とリオンも頷くが、ステールはむしろ来た方が後悔する結果になるだろうと判断する。



 皇族の専属護衛騎士団長や護衛官が脇を固めている相手に、そうと知らずに手を出したからと言って、ただで済むはずはない。


 ただで済むはずはないが、ステールが言っていることは正直論外だ。



「どちらにしろ、無用な危険を招く行いを、進んでするのはおろかでしょう」



 呆れたようにインスが言えば、それはそう、と全員が頷く。



「ですので? 今後、宿を取る時は、まず、最初から最上級の部屋など希望しないこと……」


「それでは姫様の……!」


「一つ二つグレードが下がったからと言って、十分なサービスが受けられない、などということはありません。必要があれば追加料金を支払って準備すればいいでしょう? もしくは、初めから貴族向けの、そういったサービスを完備した宿を選んで下さい……無駄に平民向けを選ぶから余計にややこしくなっているんです」



 結論を伝えようとしているのに遮られて、インスが少し苛立たし気に声を被せる。


 そもそも、だ。



「あなたの無駄なこだわりで、()()()()()()()()()が達成できていないと、いい加減に理解して下さい」


「……っ!!??」



 真っ直ぐにファンの目を射抜いたインスの言葉に、ファンはグッと言葉に詰まった。



(陛下からは皇族や高位貴族のような待遇を剥奪して、これでもかと不便さを体験させることでこの討伐を中止させるように、と命じられているというのに、何を考えているのですか!?)



 ファンが甘やかして、皇女(ジャンヌ)にふさわしい世話を受けさせ続けるというのなら、それは明確に命令違反だ。



 流石にインスが言葉にしなかった()()()()()を考えれば言い返せるはずもない。



 インスが言うことが正しいと、こうもはっきりと理解させられてしまえば、どこかで妥協するしかなかった。



「……それと、恐らく、この先、西方に進めば、そもそも貴族向けの宿自体が減り、途中立寄ることが可能な町や村も減り、宿がない町や村だって出て来るでしょう……その時になって、ただ金貨を積んで、空き家を一つ借りればいい……などと言われては困ります」



 溜め息を一つ。


 気持ちを落ち着けてインスが言えば、ジャンヌとファンは目を丸くし、ステールは「確かになぁ~。」と呟く。



「……西方は、人が住める地域も限られ、魔物だけではなく、亜魔族さえもが出没する危険地帯です……ただの野生動物であっても、皇都の周辺よりも狂暴化しています……村と村の距離さえも遠く離れ、お金があっても物が手に入らないとすら言われる地域です……」


「「………………」」



 西の現実を、これでもかと突き付ければ、息を飲んだジャンヌとファンは無言。



(……今、申し上げたことは、西方の現実の、ただの表面的なものでしかないというのに……!)



 やはり、何も理解していない。


 実際には、この比ではないくらいに過酷な地域だというのに……



「……物見遊山がご希望なら、次の大きな都市であるブルンまでで引き返すことをお勧めしますよ……それ以上進んだところで、途中で全滅です……」


「「「「「「………………」」」」」」



 静かに言ったインスに、誰も、何も言い返せない。



 この中で、本当の意味で西方の現実を知っているのは、インス以外には恐らくステールだけ。


 もしかするとクロードは、神殿護衛官の任務で西方に赴いたこともあるかもしれないが……



「……物見遊山なんかじゃないわ……」



 けれど、きっぱりと言うジャンヌだけは、一切引く様子を見せなくて……



 本当に、何もわかっていないし、分かろうともしていないのだと、その言葉で()()()()()



「…………本当に、そうだと仰るのなら、言葉ではなく行動で示してください……」



 どうしても、向ける眼差しが冷ややかになってしまうのを、けれども、表情には出さないように穏やかに微笑んで、インスはただそう告げた。

第9話をお読みいただきありがとうございます。


上品に焼き菓子を食べるジャンヌに促され、インスによる容赦のない「お忍び講義」が本格的にスタートです。


インスから極めて真っ当な一般常識を突きつけられても、全くピンとこないジャンヌとファン。


話を理解できずに凄んで見せるファンと、そんなファンの威圧感にビクッと怯えるアインを、すかさずそっと抱きよせて庇うインスの安定の過保護ぶり。


さらに、大人たちよりもよっぽど旅の現実を理解しているアインの賢い一言には、インスも深く同意せざるを得ません(笑)。


皇帝から課せられたお忍びの条件を一切達成できていないファンの盲目的な甘やかしをバッサリと切り捨て、さらには西方の過酷な現実を突きつけるインス。


冷徹に警告するインスに対し、「物見遊山じゃない」と言い張るジャンヌ。


大人たちの常識のズレが浮き彫りになる説教タイム。


果たしてジャンヌは行動で示すことができるのか!?


次回もお楽しみに!


【シリーズ一覧はこちら!】


本編と番外編、それぞれのシリーズ総合リンクです。


過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!


▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク

https://ncode.syosetu.com/s7443j/


▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク

https://ncode.syosetu.com/s8365j/


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「考えない騎士団長WW」「アインの方が常識人WWW」と感じていただけましたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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