正月の火事
実家では自分の部屋の窓から富士山が先っぽだけ見えるので、かつて女子高生だった頃(時代で言うとプラキオサウルスが都庁に巣を作っていた頃)の一月一日に、富士山の先っぽと共に新年の空を拝もう! と張り切って「おはよう! 新年!!」と盛大にカーテンを開けたら、窓いっぱいが灰色になっていたことがあった。
別に早起きしたわけでもないので、十時くらいだったと思う。びっくりするほど灰色だった。ただ、焦げ臭いとか、何かが燃えている音がするとか、そういう分かりやすい異変はなかった。ただただ、カラーコード#778899の世界が窓に張りついていた。
私はそのまま階段を駆け下りた。祖母と母は台所でご飯を作っていて、リビングのカーテンはすでに開いていた。こちらも見事に#778899の世界。それなのに二人は、何事もない顔で食事の用意を続けていた。
狂ったか?
世界か……私か……この二人が……。
と慄いたが、どうやら単に気づいていなかったらしい。私が騒ぎ出すと、二人も窓を見て、そのまま一緒になって騒ぎ出した。当時は言葉として知らなかったけれど、たぶんこれが正常性バイアスというやつなのだと思う。こうやって人は死ぬんだろうなあ。
この#778899の謎を解明すべく、私はコートを引っかけて外へ飛び出した。そして目にしたのは、道を一本挟んだ向こう側で、激しく燃え盛っている民家だった。
一月一日に!? 燃えるの!?
今なら盆だろうが正月だろうがクリスマスだろうがバレンタインだろうが災厄は時と場所を選ばないと分かっているけど、当時は可愛い女子高生なので恐れおののきほうほうの体で帰宅。
道をひとつしか離れてないといっても、風の向きで煙が来ているだけで距離としてはだいぶ離れているので、消防隊員を熱く応援しながら正月を過ごすことになった。今思うと私も罹患している。正常性バイアスに。
ちなみに火事の原因は、2階を貸していた学生が寝タバコをして発火したらしい。ご近所の噂話なので実際そうなのかは分からない。とりあえず死者は出ていないことだけは確かなので、不幸中の幸いだと思う。
溶けかけた雪の白、澄んだ空の青、吹き上がる炎の赤と風で拡散される灰。色彩豊かな正月だった。




