第7話 のんびりせっかち圧強女史
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ここは冒険者ギルド。やってくる連中のほとんどが冒険者志望だ。
実は冒険者以外の仕事の斡旋もやってて……って、なんだお前か。
仕事はどうした、サボリか。
休憩? ならいい。
俺は見ての通り、仕事中だよ。
前までは暇で仕方なかったが、最近はぼちぼち人が来るようになってね。
冒険者以外の道もある。そういう認識が広まったんじゃねぇかな。
良い傾向だ。どこも人手不足だからな。
***
いつも以上に束が分厚くなっている書類に、チーフは頭を抱えた。
「チーフさん……大丈夫ですか」
同僚が気の毒そうな目で見つめる。
「大丈夫に見えるか……」
「い、いえ!」
いつも以上に表情をなくし、虚ろな目をしているチーフ。
同僚はそそくさと自席に撤退した。
「仕事仕事ーっと」
あからさまに逃げた同僚を睨む。
「こういう時だけ、テキパキしやがって」
愚痴ったところで書類が減るわけでもない。
チーフは諦めて、書類の束と向き合う。
「お。ポイセタのやつ、元気でやってるな」
気が滅入る書類の山に、微笑ましいものを発見した。解体室からの報告書だ。
以前、この窓口を訪れた犬獣人のポイセタ。
彼に関することが記載されている。
要約すると、解体師見習いとして、頑張っているということだった。
チーフが報告書で癒されていると、ふと報告者の名前が目に入った。
「ロウ・スカルペル」
ガタッ。
反射的に椅子から立ち上がる。
そのまま勢いで、椅子がひっくり返り、大きな音がした。
「うわっ! どうしたんですか!?」
仕事のフリに忙しかった同僚も驚き、流石に手を止めてチーフの方を見る。
「ポイセタが……解体変質者にバラされちまう……」
「解体って……またロウさんですか?」
一体、何をそんなに慌てているのか。
同僚も報告書に目を通す。
そして、あぁ……と即座に状況を飲み込む。
その顔は諦めに満ちている。
「手遅れ、じゃないですかね」
「縁起でもないこと言うんじゃねぇ!」
「いやいや、最初に言い出したのはチーフさんでしょう」
報告書は丁寧に簡潔な文章で綴られている。
文句無しの100点満点。完璧だ。
報告者の名前以外は。
「ロウさん、最近は真面目に仕事をしてるみたいですよ」
一応のフォローが入った。だが。
「それが不味いんだ。アイツ、初対面の新人に『生きの良い素材』だって言いやがったんだぞ」
同僚は「じゃあもう手遅れ確定ですね」という言葉を飲み込む。
「えっと、前向きに考えましょうよ。ほら、新人の面倒をみてるうちに、上司としての自覚が出てきた……とか」
同僚は自分で言ってて、それだけは絶対ないなと思った。
「散々上から警告されても、好き勝手してた奴がか? おかしいだろ。絶対何か企んでやがるぞ」
確かに、気に入らない冒険者ごと解体しようとしただとか、作業手順をミスした作業員をフックで吊るしあげたとか。
本当かどうかは分からない。
だが、そんな物騒な噂が絶えない男。
それがロウ・スカルペルだ。
ちなみに、冒険者も作業員も生きてはいる。少なくとも、今のところは。
「とは言ってもですねぇ」
最近の情報だけなら、問題はない。
報告書も、聞こえてくる話も、どれも真っ当だった。おかしな部分は何も見つからない。
「何もねぇのが、逆におかしい」
「憶測だけで疑うのはダメですよ」
「だがなぁ」
「気持ちはわかります。あの人は、元S級冒険者で、それに――」
チリン。
「あ、ベルが。チーフさん、仕事です」
「チッ……行ってくる」
来客の気配に、重い腰を持ち上げた。
書類は全く進んでいないし、ポイセタの安否が心配だ。
だが、来客を疎かにするわけにはいかない。
窓口から顔を出して、来訪者を確認する。
桃色のふわふわした髪。
そこから、ちょんと突き出た巻き角。
ぶかぶかの白衣を着た羊獣人の女児がいた。
いや、華奢な見た目に反して、出るところは出ている。恐らく成人だ。
「いらっしゃい、ここは――」
「こんにちは~。冒険者以外の仕事を希望してます~。スアーマと言いますよ~」
「どうも、チーフと呼んでくれ。それじゃあ、まずはスキルシートを――」
「スキルは鑑定、解呪。魔力B。学院で考古学を専攻してましたぁ~」
のんびりとした、間延びしている口調。
だが、チーフの思考を読んだみたいに、先回りする。
「こりゃ、どうも。あー、改めて、冒険者ギルドの職業窓口へようこそ、スアーマ。
にしても、えらく段取りがいいな?」
「はい~。あのですね~。
ここで仕事を紹介してもらうなら~、先に伝えた方が話が早いと聞きました~」
この人もか、とチーフは思案した。
この職業紹介窓口について、自主的に宣伝する人物がいるのだ。
一度だけではない。定期的に行われている。
その影響かどんどん来訪者が増えていた。
(こりゃ、本格的に宣伝担当としてスカウトするべきかね)
「あ、一応、証明として~、紙にまとめたのも渡しておきますね~」
スアーマは、びっしりと文字で埋められたスキルシートを提出する。
チーフはそれを受け取り、魔道具を彼女に渡そうとするが。
「それじゃあ、確認してる間に、この道具で魔力測定を――」
「はい~。事前に測定しておきました~。こちらですね~」
そう言って、スアーマは魔道具の受け取りを断る。代わりに、魔力の測定結果を渡す。
やることに無駄がない。
チーフは戸惑いつつ、急いで書類一式に目を通していく。
「こりゃ、何から何まで助かる。
アンタ、のんびりしてるようで、効率よく動くんだな」
「そうですね~。よく言われます~。
私は~、作業は迅速に終わらせたいんですよ~。のんびりというか、どちらかというと~せっかちな性分です~。
……それで~、確認。まだですか~?」
「っと、悪い。もうちょっと待ってくれ」
スアーマの黒目が忙しなく蠢く。
羊特有の瞳に、不気味な圧を感じる。
笑顔だけは、ずっと変わらないままだった。
チーフは手早く書類を確認する。
学院を卒業していて、スキルも魔力も優秀。
これなら引く手数多である。
「スアーマの能力なら、色々と紹介できるぞ。希望はあるか? スキルを活かすなら鑑定士が適正で――」
「はい~。鑑定士でお願いします~。
あ、さっそく見学って~、させてもらえるのでしょうか~?」
即答だった。
希望の職業までも既に決めていたようだ。
調子を狂わされるな、とチーフは眉をひそめた。
「どうかしましたか~?」
「何でもねぇ。独り言だ。見学はすぐできる。こっちだ」
この手のタイプは、時間をかけると一気に押し切ってくる。
手早く書類をまとめて、席から立ち上がる。
「ちょっと、職場案内してくる」
「お気をつけてー」
同僚に声をかけて、留守を任せると、スアーマを連れて現場に向かった。
――ろくなことにならない予感しかしない。




