第5話 不器用で心優しい犬獣人
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こちらは、旧版の改稿版です。
登場人物や流れが旧版と異なります。
旧版→https://ncode.syosetu.com/n7144lx/
冒険者ギルド。ここに来る奴のほとんどが冒険者志望だ。
あと、冒険者以外の仕事の斡旋もしている。
受付はここ。担当は俺だ。よろしくな。
異世界から来た奴らの影響なのか、この窓口にも人が来るようになった。
冒険者以外にも仕事はあって、人手が足りないからありがたい話だ。
***
窓口から犬獣人の青年が顔を出す。
「お邪魔するっす! ここで、仕事を紹介してもらえるって、聞いたんすけど」
「おう。いらっしゃい」
部屋の奥にまで届く大きな声で、元気よく挨拶をした。
チーフは最近、来訪者が多いなと思いながら、青年のところに向かう。
「アンタも冒険者以外を希望してるのか?」
「そうっす! おいらはポイセタっす。よろしくお願いするっす!」
「俺はチーフって呼ばれてる。よろしくな、ポイセタ」
白いもふもふの尻尾を力いっぱい振りながら、ポイセタは笑う。
その様子を見たチーフは、仕事の疲れがどこかに飛んでいくような気がした。
(アニマルセラピーか)
そんなことを考えながら、ポイセタを連れてテーブルに移動する。
まずは必要な書類の記入をしてもらう。
そのあとは魔力測定と面談のあと、実際に紹介する職場の見学だ。
「とりあえず、書けるとこは全部埋めてくれ」
書類を受け取ったポイセタは、この書類に見覚えがあると言う。
「冒険者登録の時に、似たようなの書いたっす」
「ほう。じゃあ最初は冒険者として登録に来てたんだな」
「うっす。でも……訓練で向いてないって言われたっす」
先ほどまで元気に話していたポイセタの表情が曇った。
「あー、そいつは、残念だったな。
だが、そのまま腐らずに別の仕事探しに来たんだろ?」
残念ながら、全員が冒険者になれるわけではない。
「うっす。おいら頭よくねぇんで、悩むより次行こうと思ったっす!」
ポイセタはまっすぐこの窓口にやってきた。
そして、前向きに気持ちを切り替えて、次の職を探そうとしている。
そのような自己判断は中々できるものではない。
チーフは、迷いなく言い切った。
「ポイセタ。アンタは強い」
「……」
「それに、賢い。――自信を持て」
チーフにそのように評価されると、ポイセタは照れくさそうに笑う。
だが、何かを思い出したのか、俯いて、ぽつりと信じられないことを呟いた。
「でも、おいら教官に言われたっす……冒険者が無理なら他も無理だって。
最底辺の仕事もできない犬畜生は、田舎に帰れって……」
「……あぁ?」
思わず低い声が出た。
ポイセタがびくっと身体を震わせる。
チーフは誤魔化すように咳払いをして、
「ポイセタ、確認したいんだが、そいつは訓練所の教官が言ったのか?」
できる限りの優しい声色でポイセタに聞く。
彼の顔は真っ青だったが、チーフの問いに肯定した。
「……うっす」
「ほぉ。なるほどな。貴重な情報ありがとよ」
ペンを握りしめ、ポイセタから聞いた情報をメモに書き留める。
「今、聞いたことは一言一句漏らさず記録した。ポイセタ。そいつの名前教えろ」
淡々とした声で言葉が続く。
「こっちで適切に処理しておく」
部屋の温度が一気に低下したような気がした。
遠くの席に座る職員も身震いをしている。
「……うっす」
チーフの冷たい言葉にポイセタは思わず背筋を伸ばす。
(こ、この人は絶対怒らせちゃいけないっす!)
ポイセタは教官の名前をチーフに伝えた。
彼は大丈夫だぞと言ったが、その顔は全く笑っていない。とても怖い。
「まさか、うちのギルドでそんなことを言う奴がいるなんてな」
チーフにとって寝耳に水の話である。
ハセガワの件といい、ギルドの質が下がっているように感じた。
(こんなんじゃいつか、大ポカをやらかす)
別途、報告書をまとめて提出する必要があるな、と考えつつチーフは目の前の業務に集中することにした。
「ポイセタ。うちの職員が不適切な発言をして、すまなかった」
深々とポイセタに向かって頭を下げる。
「ち、チーフさんは悪くないっす! だから頭を上げてくださいっす!
それに、おいらのことは、何を言われてもいいんすよ」
「いや、よくねぇだろ」
「おいらが悲しかったのは……」
一瞬、言葉に詰まる。
「冒険者さんが最底辺の仕事だって、言われたことっす」
自分より、冒険者の事を悪く言われたことに、ポイセタは憤りを感じていた。
「冒険者さんはすごいっす!
おいらが、手も足も出ない魔物をあっという間に討伐するんすから!」
あの時は、本当にダメかと思ったっす。
ポイセタはかつて自分の命を救った冒険者について語る。
「……あの時、冒険者さんがいなかったら……おいら今頃、魔物の腹の中っす」
目を潤ませて、自分が生きているのは冒険者がいたからだと、胸の内を吐露した。
「おいらも冒険者になって、誰かを助けたかったっすよ」
そう言って、ほんの少しだけ、悔しさを吐き出す。
それから、何でもないと言うように、笑顔でチーフの方を向く。
「そうか」
冒険者になりたかった、という彼の言葉を噛み締める。
きっとポイセタは、かつて自分を救った冒険者に強く憧れている。
諦めているようで、今も心の底は諦めきれない思いが燻っていることをチーフは感じた。
出来ることなら、ポイセタを冒険者にしてやりたいと思った。だが。
(こればっかりはな……、どうしようもねぇ。適性がねぇ奴は登録できない)
第一にポイセタの命が保証できない。
そして、他の冒険者にも迷惑をかける可能性があった。
組織である以上、登録されている冒険者全員を預かる責任がある。
彼一人のために、リスクは背負えない。
なら、冒険者以外の職でポイセタの思いを叶えればいい。
「冒険者じゃなくたって、誰かを助けることはできる」
チーフは断言した。
「……本当っすか?」
「おう。だがまずはアンタのスキルシートを確認してからだな」
「うっす!」
ポイセタはペンを握ると、書類を記入し始めた。
「できたっす!」
「ありがとな。どれ……」
クセの強い文字に苦戦しつつ、内容を確認していく。
頑丈、解体、毒耐性。前線向きの良いスキルがそろっていた。
能力値も確認していく。
「腕力C、体力Bか。良い数値だな」
「昔から体だけは丈夫っす!」
ポイセタは自信満々に胸を張る。
ここまで見ると、とても冒険者向きの能力値だ。
「俊敏Fに……魔力F−か」
「そ、そうっすね……」
チーフは魔力の項目を見つめた。
ポイセタの語尾は弱々しいものとなる。
(なるほど。魔力値が最低値以下だったのか)
ポイセタが冒険者に受からなかった原因だ。
最低値はFからとなっている。
本当にギリギリのところで、ポイセタは受からなかったのだ。
歯がゆいなと思いつつ、チーフはポイセタの方を向く。
「まぁ、今から紹介する仕事に問題はねぇ」
「本当っすか!?」
何でもないというように、そう言い切った。
項垂れていたポイセタだが、チーフの言葉に顔を上げる。
「ちょうどスキルも持ってるし、これで決まりだな。
ポイセタ、アンタに紹介するのは魔物解体師って職業だ」
「解体っすか?」
「そうだ。冒険者が倒した魔物を解体して、素材にしてるだろ」
「うっす。受付に素材を持ち込んでるのを、何度も見たことあるっす。
魔物を丸ごと持ち込む人もいたっすね!」
チーフが紹介したかったのは、魔物をそのまま持ち込んだ方である。
「知ってるなら話は早いな。まさにそれだ。
うちでやってる魔物解体サービスだな」
冒険者は魔物を解体して、ギルドに買い取りをしてもらう。
「全員ができるってわけじゃねぇからな」
「解体が難しい魔物もいそうっす」
「その通り。そこで魔物解体師による解体サービスの出番ってわけだ」
「なるほどっす!」
ポイセタは目を輝かせて食いついてくる。
魔物解体に興味が出たようだ。
「ギルドの収入の柱の一つでもあるんだ。重要な仕事だぜ。
実際に現場を見た方が早いだろうな。どうだ? 見てみるか?」
「ぜひ! 見たいっす!」
食い気味に立ち上がり、チーフの手をぎゅっと握るポイセタ。
まさかそこまで食いつくとは予想外だった。
「お、おうっ……わかったから、落ち着け!」
彼の勢いに押されながら、どうにか大型犬をなだめる。
「チーフさん、ぜひ、紹介してくださいっすよ!」
「わかったから、落ち着いてくれ……」
興奮しっぱなしのポイセタを連れて、チーフは歩き出す。
ギルドの裏手――命を取り出す、解体場へ。
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