第4話 即時転送便――前線を支えるエキスパート
小説を閲覧いただきありがとうございます。
こちらは、旧版の改稿版です。
登場人物や流れが旧版と異なります。
旧版→https://ncode.syosetu.com/n7144lx/
ギルドを出てから十分ほど歩くと、大きな赤レンガ造りの倉庫に到着する。
そこが目的地の即時転送センターだ。
倉庫の周りには、荷馬車が止まっていた。
木箱を抱えた人が慌ただしく出入りしている。
大量の荷物が絶え間なく搬入されていく。
入り口で警備をしている老人に、チーフが声をかける。
「よう。ロクベさん。ご苦労さん」
「ん? おぉ、チーフさんか! なんだ、ついに窓口業務もクビかい?」
「勘弁してくれ。今日は仕事で来たんだ」
「なんでぇ。そいつは残念だ。チーフさんだったら、うちはいつだって大歓迎だ。
ギルド長から追い出されたら、いつだってここに来な」
「そりゃありがたいね」
そう言うとチーフは、ロクベにハセガワを紹介した。
「職場見学希望者だ。名前はハセガワ」
「よろしくお願いします」
ハセガワは緊張した顔で深々と頭を下げた。
ロクベは感心したように目を丸くする。
「えらい丁寧な挨拶だ。若いのに感心だねぇ」
「あ、ありがとうございます」
「したら、チーフさん。見学先はどこだい?」
「即時の方で頼む」
「即時か! ようやく人手が増えるのかい。いやぁ、ありがたい!」
ロクベは豪快に笑い、任せなと手を差し出す。
「どれどれ、いっちょ送ってやるから、手を出しなさい」
チーフはその手に自分の手を乗せて、ハセガワにも同じようにするよう促す。
「二名様ご案内だ! がんばりなさいよ!」
次の瞬間、老人から膨大な魔力がほとばしり、二人を包み込んだ。
足元に転送の魔法陣が展開される。
視界が白く弾け――次の瞬間、身体が引き抜かれるような感覚とともに、目的地へと送られた。
***
視界が光で埋め尽くされる。
やがてそれがゆっくりと収まり、輪郭を取り戻していく。
気が付くと、倉庫内に立っていた。
「え? ここは?」
ハセガワは何が起こったのか理解できない。
ぽかんと口を開けたまま立ち尽くす。
常識が、ほんの一瞬で塗り替えられた感覚だ。
「最初は面食らうよな。ここが目的の即時転送センターだ。
ここに来るには、警備員に魔法で送ってもらう必要がある」
「魔法で送る!? え、あのおじいさんが!?」
ロクベは人当たりのよさそうな、普通のおじいさんだった。
そんな人が、転送魔法を当たり前のように使っていたことに驚愕を隠しきれない。
「僕、ロクベさんに粗相とか、しなかったですかね?」
「急にどうした? 丁寧なあいさつだって褒めてただろう」
「いやぁ。だって、あのおじいさんがそんな大魔法使いって知らなくて……」
不安そうなハセガワにチーフは苦笑する。
「魔力量なら、ハセガワだってロクベさんと変わらねぇよ」
「そう、なんですか?」
「ああ。ここは高い魔力を持った奴が集まってる。そういう場所だ。
いちいち、驚いて腰が引けてたら仕事にならねぇぞ」
チーフは、挙動不審なハセガワに落ち着けと声をかけ、倉庫内を歩く。
「この棚に、届ける荷物を保管している」
「すごい……あれが全部届ける荷物なんですね」
ここでも常に人が動き回り、作業で忙しそうである。
荷物を棚に並べたり、不思議な動く床に乗せている。
「動く床。魔道具ですかね。これで荷物の移動を自動化させてるのか」
「あれは、迷宮にある移動の罠だ」
「罠!?」
驚きのあまり、ハセガワは大きな声を出す。
魔道具だと思っていたが、まさか迷宮の罠だったとは。
「便利だからな、罠をひっぺがして再利用してるんだ」
「迷宮の罠って、外に持ち出しできたんですね」
移動の罠は、上に乗ったものを指定の方向に移動させるだけの罠。
それ単体では危険性はない。
迷宮の罠を運搬に転用するという発想が、ハセガワには衝撃だった。
「なんというか……普通の宅配便と変わらないですね」
「確かに。届ける方法以外は、通常の配送業と変わらないな」
二人は棚に近づいて、並べられた荷物を見る。
棚に並んでる箱はすべて配送待ちの荷物だ。
武器、防具、食料、薬、日用品、魔道具。
種別や目的地に応じて、細かく分類分けもされているようだ。
「それじゃあ、次は向こうだ。
こっちの部屋で仕分けられた荷物は、向こうの部屋から出荷される」
チーフに連れられて、次の倉庫へ移動する。
一時保管庫の次は、いよいよ荷物が出荷される倉庫だ。
短い廊下を抜けると更に広い倉庫へ到着した。
「わぁ……すごい。それに大量の魔法陣が……。
もしかして、これ全部転送の魔法陣ですか!?
あ、転送ってそういうこと!?」
即時転送の意味を理解して、ハセガワは感動で震える。
チーフは満足そうに頷く。
「ご名答。ここでは転送の魔法陣を使って、一気に大量の荷物を転送させるんだ」
「なるほど。魔法による輸送ですね」
「届け先は町だけじゃない。迷宮の中。前線の砦。魔物の出る危険地帯。
場合によっちゃ戦場のど真ん中にも……一瞬で届けるんだ」
ハセガワは感嘆の声を漏らす。
「すごい。こんなに大量の物資を一瞬で……」
「俺もそう思うぜ。何度見たってすげぇよ。
魔力も桁違いに必要になるし、座標計算も簡単じゃないけどな」
そんな話をしていると、周囲が騒がしい。
奥の魔法陣で、何かトラブルがあったようだ。
ちょうど良い機会なので、近くで見学することにする。
「シャーデン平原より連絡! 物資が未着! 予定時刻を過ぎています!」
作業員の報告に、チーフは状況を把握する。
「キラーボアの異常発生で、討伐チームが向かってたな」
朝一でギルドから依頼が発行されていた。
緊急依頼なので、冒険者たちは必要最低限の装備で出発している。
必要物資はここから転送する予定だった。
作業員は緊急対応に追われている。各々の顔に緊張の色が浮かぶ。
「座標確認しろ! 転送ログはどうなってる!?」
「ログ確認! 送信済みですが着信反応なし!」
「急いで再計算しろ!」
状況は思わしくない。チーフも険しい顔で様子を見守る。
「ロストだったらまずいな」
「ロストって? 荷物が消えたってことですか」
ハセガワはぎょっとした顔で尋ねた。
「転送ってのは便利だが、完璧じゃねぇんだ。
もちろん、座標計算は慎重に行われる。だから、ほぼミスはない。
けどな、ゼロじゃねぇ」
一般的には、魔力の乱れによる計算がずれてしまうという。
術者自身の魔力の乱れ。転送先が魔力の不安定な地形の可能性。
「そのズレによって、荷物が行方不明になる。それが遅延やロストだ」
ハセガワは不安げに呟く。
「便利だなって思ったけど、そのリスクは怖いですね」
「頼むから、遅延であってくれ……ロストよりはマシだ」
そのとき、通信が入った。
「現場より返信ありました!」
「内容は、予想よりキラーボアの進行が早く、転送ポイントに到着したため、受け取り不可!
転送先変更あり、新規座標が送られてきました!」
「よし。急いで、再接続しろ! まだロストしてないぞ!」
荷物の無事という一報。
続いて、新しい転送先の座標が送られてくる。
作業員たちは、速やかに再転送の準備に取り掛かった。
「転送班、再転送分の魔力充填準備!」
「了解! 充填開始! 完了まであと五分!」
チーフは腕を組んで、見守る。
「ハセガワ、見ておけよ。これが転送の仕事だ」
「魔法陣起動! 『転送』!!」
魔法陣が起動し、倉庫中が光に包まれる。
やがて光はゆっくりと落ち着く。
一瞬の静寂。そして。
「着信反応…………確認! 物資、転送完了です!!」
「「「よっしゃあああああ!! 良かったぁぁぁぁ」」」
あちこちで歓声が上がる。
無事、荷物は届けられたようだ。
チーフは小さく安堵のため息を吐いた。
「……届いたか。久々に冷や冷やしちまった」
ハセガワも胸をなで下ろす。
「よ、よかったぁ……本当に、よかったです」
チーフは静かに言う。
「この仕事は、安全だ。魔物とは戦わない。荷物を送るだけだ。
派手さはねぇし、荷物の積み下ろしっていう作業もある。でもな」
一拍置く。
「この荷物が届かなきゃ、戦えねぇやつがいる」
例えば、今回のように緊急討伐に向かった冒険者たち。
この荷物がなければ、戦うことすらできない。
「この薬が届かなきゃ、助からねぇ命がある」
例えば、紛争地帯の医療班。
この薬が届かなければ、救えない命がある。
「この食料が届かなきゃ、帰れねぇやつがいる」
例えば、未開拓地域の調査隊。
この食料がなければ、帰ることすら叶わない。
「即時転送便は、大勢の命を背負ってる仕事だ。
ここは安全だが、そのことを肝に命じて仕事をしないとならねぇ」
ハセガワはチーフの言葉をじっくりと噛みしめる。
「この仕事、どう思う?」
「思っていたより大変で……重いです。でも、かっこいいと思いました」
「そうか」
チーフは満足そうに頷く。
「その感想、あとで現場の連中にも言ってやれよ。喜ぶぞ」
そのとき、再び緊急の声が響いた。
「緊急依頼! 現場からの着信です。
これは、座標指定されてますが、魔力不安定地域です。
至急、第二転送陣の用意! それと補助魔法陣も起動!」
チーフは肩をすくめる。
簡単な転送業務を体験させようと思っていたのだが、この状況では難しそうだ。
「どうやら、今日は慌ただしい日らしい」
そしてハセガワに視線を向けた。
「それで、どうする? アンタ、この仕事。やってみるか?」
「僕は……」
答えを口に出すのが怖かった。
「僕に、できるかな……」
また、取り乱さないか。迷惑をかけないか。
胸の奥で、その不安だけが消えずに残っていた。
「また、ご迷惑をかけてしまうかもしれない……」
「なぁ、ハセガワ。周りを見ろ」
「え?」
チーフに言われて、周囲を見渡す。
多くの人が作業に関わっている。
複数人で協力したり、声掛けをしながら仕事をしていた。
「たくさん人がいるだろ。アイツら、皆、お前の仲間になるんだ」
「仲間」
「そうだ。一人で抱え込む必要なんざねぇ。失敗は誰にでもある。
特に新人なんてそうだ」
「……」
「新人は迷惑をかけるのも仕事だぜ。不安だったら、周囲に相談すりゃいい。
俺で良ければ、話を聞くくらいはできる」
胸の奥が、熱くなる。
不安はまだ拭いきれていない。
ふと、ハセガワの脳裏にイズミの姿が、浮かんだ。
(イズミさんは変わった。仕事を紹介してもらって。
僕と同じ、冒険者は怖かったと言ってたのに、前に進んでる)
このまま、何も変われないまま終わるのは嫌だった。
彼女のように、自分も前に進みたい。
もうトラウマから逃げたくないと思った。
ハセガワはぐっと拳を握る。彼の中で答えが定まった。
「やり、ます」
一度、言葉が途切れる。声が震えてしまう。
「この仕事――やらせてください」
それでも、逃げずに彼は自分の思いをチーフにぶつけた。
その言葉に、迷いはなかった。
チーフは、ほんの少しだけ目を細める。
「おう。一緒に戦おうぜ。ハセガワ」
短く、それだけ言った。
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