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【改稿版】ただの受付なんだが、周りは放っておいてくれねぇ――なんでも屋チーフの異世界職業案内  作者: 猫猫全猫


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第3話 魔力チートに翻弄される青年

小説を閲覧いただきありがとうございます。

こちらは、旧版の改稿版です。

登場人物や流れが旧版と異なります。

旧版→https://ncode.syosetu.com/n7144lx/

 冒険者ギルドには、冒険者志望が集まる。

 こっちでは、冒険者以外の職を紹介をしてる。

 見ての通りのさびれた窓口で、あんまり人は来ねぇな。


 世の中にゃ、色んな仕事が山ほどあるのにな。


 ***


「あの子、続いてるみたいで良かったですね」


 昼下がりのひと時。昼食後はどうしても心地よい眠気がやってくる。


 あと数分で昼休憩も終わりだ。

 スーツ姿にシャツを着た男は、眠気覚ましにコーヒーを入れた。


 自席に戻って、湯気の立つそれを啜っていると、同僚が声をかける。


「あの子?」

「ほら、チーフさんと同じ黒い髪の女性ですよ」

「あぁ、イズミのことか」


 数か月前、この窓口にやってきたイズミと名乗る女性。

 異世界チキュウ出身で、冒険者を断念し、別の職を探していた。


 そして、紹介した先が迷宮サポート課だ。

 やるからには責任を持ってほしい。

 そういう意味で、チーフは彼女に逃げるなよと強めに言ったのを思い出す。


 少し言い過ぎたかもしれない。

 もっと別の言い方あっただろう、と反省する。


「飲み込みが早いってもっぱら評判ですよ。チーフさんは見る目がありますね」

「大したことはしてねぇ」

「それにしても、チキュウ出身の人って教養が高い方が多いですよね。

 あとチート能力を持ってるし。いいなぁ。才能があって羨ましい。

 私も欲しいですよ、チート!」

「関係ねぇだろ」


 おしゃべりを続ける同僚にチーフはぴしゃりと言い放つ。


「チート能力だの、才能だの関係ねぇ。イズミの評判は、彼女が努力した結果だ」

「そうですけど」

「それに、『チート』なんて――ろくなもんじゃねぇよ」


 その声だけが、わずかに低く沈んだ。


「……え? すみません、最後聞き取れなかったです。チーフさん、なんて?」

「いや、なんでもねぇ。おい、休憩終わりだぞ。仕事しろ、仕事」


 コーヒーを飲み干して、椅子から立ちあがる。

 この話は終わりだ、と同僚に向かって時計を指し示した。


「はぁ、どうせ誰も来ないじゃないですか。もう少しゆっくりしても……」

「うるせぇ。やることねぇなら、その辺の書類でも整理しとけ」


 やる気のない同僚を放置して部屋を出る。

 休憩中の札を取り外そうとして、窓口に人が来ていることに気が付いた。


「あの……」


 黒い短髪。黒い目の青年だ。

 イズミを彷彿とさせる容姿をしている。

 年齢も彼女と同じくらいに見える。


 まさか、職を探しに来たっていうのか。

 チーフは彼をじっと見下ろす。


「ここで、冒険者以外の職に就けるって聞いて来たんですけど」


 あってますか。

 最後の方の言葉は小さくしぼんで、かろうじて聞き取れるほどの声量だ。


「おい、来たじゃねぇか」

「え?」

「いや、すまん。こっちの話だ」


 同僚に内心舌打ちしつつ、チーフは営業スマイルに切り替える。

 怖がらせないようにと作られた笑顔。

 それを見て、青年は少しだけチーフと距離を取った。


(この人、さっきから無表情で僕のこと見てて怖いな)


 無表情で見られることに、青年は居心地の悪さを覚えた。

 残念ながら、チーフの笑顔は届かなかった。


 そんなことはつゆ知らず、チーフは笑顔で青年に話し続ける。


「いらっしゃい、青年。探してるのは冒険者以外の仕事で間違いないのか?」

「は、はい……」

「なんだなんだ。最近流行りなのか?

 うちで開口一番に冒険者以外の職を斡旋してほしいって尋ねてくるのは」

「え、いやぁ、そのぉ……知り合いに教えてもらいました」


 彼は苦笑いをしながら、戦いは苦手なので、と小声で答える。


 チーフは青年を観察する。


 やはりどこか、イズミに似ている気がした。

 不安そうにおどおどしている。

 一歩引いたまま、必要以上に目立とうとしないタイプだ。


「さしずめ、チキュウから来て、こっちの生活に途方に暮れてるってとこか?」


 半ば勘で、冗談めかしてそう言うと青年はぱっと顔を上げた。


「え!? チキュウってこっちで認識されてるの!?」


 食い気味にチーフに向かって尋ねる。


「もしかして! イズミさんに仕事を紹介してくれた人って、貴方ですか?」


 チーフは落ち着けと、青年をなだめた。

 あまり多くのことは守秘義務があるので、語れないと釘を刺す。


「そんな……」


 落ち込む青年の肩を叩き、仕事はきちんと紹介するから気落ちするなと宥める。


「俺は窓口担当だ。チーフって呼ばれてる。よろしくな」

「よろしく、お願いします」


 職を紹介するために、スキルシートを青年に渡そうとすると、待ったがかかった。


「あ、それは大丈夫です。これをどうぞ」


 事前に用意していた書類をチーフに手渡す。


「何が出来るか面接されるって聞いてたので、僕が出来ることを紙にまとめました」

「おお、準備がいいな。ありがとよ、確認させてもらおうぜ」


 チーフは受け取ったスキルシートに目を通す。

 一応、魔力測定もしておくように、と魔道具を渡した。


 青年の名前はハセガワというようだ。

 思った通り、チキュウ出身。

 そして、基本的な読み書きはできている。


「チキュウってのは、恵まれてて豊かな世界なんだろうな」

「恵まれてる……そうかもしれません」


 元の世界を思い出し、ハセガワは困ったように笑った。


「魔物なんていませんから。それに、僕の住んでた国は戦いとも無縁です。

 この世界と比べると、平和ボケしてます。はは……なんか、すみません」

「平和でいいじゃねぇか。謝る必要なんざねぇぞ」


 世界ごとに事情があると認識している。

 だから、謝罪は不要だ。

 チーフはそうきっぱり告げた。


「こっちの世界に遠慮したり、萎縮したりする必要なんざねぇ。

 そっちはそっちで別の問題があるだろうしよ」

「……そう、ですね」


 世界を比べても仕方がない。

 よその世界に口出しするなど、ご法度だ。


「アンタは争いとは無縁の世界から来た。だから冒険者として戦うのは難しい。

 それだけ分かれば十分だ。そのことで責めたりしねぇ」

「……はい。あ、そういえば、魔力測定しないと」


 ハセガワが魔道具を握ると、部屋全体を光で満たす。


「こいつは……エラーが出てやがる。規格外の魔力量だな」


 あまりに眩しすぎるので、急いで魔道具を回収する。

 確認すると、魔力の波長が珍しいパターンを示していた。


「アンタ、ひょっとしてギルド長から推薦とか受けたんじゃないか?」

「あ、えっと……その、あの……。黙ってて、ごめんなさい!」


 チーフの言葉に、ハセガワは顔を真っ青にさせて謝罪する。


(なんだ? ギルド長からの推薦って言葉に顔色が変わった……何かあったな)


「で、でもっ。僕に冒険者はどうしても無理なんですよ!

 血、とか見ると、怖くて気絶しちゃうし……。痛いのもやだ。

 だから、魔物を倒すなんて絶対無理っ!」

「ハセガワ!!」


 パニックを起こし、ぜぇぜぇと息を荒げる。

 苦しそうに胸を押さえつけた。


「おい、しっかりしろ! ほら、落ち着いて。深呼吸だ」

「はぁはぁはぁ……」


 ハセガワの背中をさすり、安心させるように大丈夫だと諭す。


「良い子だ。いいか、ゆっくり呼吸をするんだ」

「……ふーっ。うっ、げほげほ! はー、はー」

「大丈夫だぞ。焦らなくていい」

「はぁ……あ、ありがとう、ございます」


 顔色はまだ悪い。肩で息をしている。

 ハセガワの容態が落ち着くまで、背中をさすり続けた。


「あの、チーフさん。僕、もう大丈夫です」

「どれ……。顔色が戻ったな。良かった」

「お手数をおかけして、すみません……」

「ハセガワ、無理に答えなくていいが、そうなっちまったのは……うちのギルド長が原因か?」

「……はい」

「わかった。すまねぇ。完全にこっちの落ち度だ」


 エラーを出すほどの高魔力。

 貴重な逸材として、囲い込みたいと焦ったのだろうと、チーフはため息を吐いた。


「ったく、あの融通の利かないカタブツ。

 無理強いすんなって、あれほど言ったのに……。

 ハセガワ、本当にうちが迷惑かけちまって、すまなかった」

「大丈夫ですって! チーフさんは悪くないですよ。頭を上げてください」


 自分にも責任は大いにある。

 チーフはそう思ったが、ハセガワに負担をかけたくないので黙っておく。


 (はぁ……。あいつにギルド長を任せたのは時期尚早だったかなぁ)


 自分の判断ミスのせいで、ハセガワが辛い思いをしてしまった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「本人の意思を無視して、冒険者勧誘を強行するのは禁止されてる。

 このことは後で、きっちりギルド長に話しておくぜ。

 何度も言うが、アンタは全く悪くないからな」

「ぐすっ……あ、ありがとうございますっ!」

「迷惑かけちまった分、アンタに良さそうな職をしっかり紹介させてくれ」


 すでに紹介する職業は決まっている。

 給料は良くて、特別な資格は一切必要ない。

 応募条件はとても単純。魔力量がとにかく多いこと。


「アンタの要望通り、魔物との戦いは一切ない」

「それはありがたいです」

「室内作業で、危険地帯に行く必要もない職だ。

 ちょっとばかし、魔力を多めに使うから疲れはするがな」


 チーフの説明にハセガワは首を傾げる。


「魔力が多く必要だけど、冒険者じゃない。それって、どんな仕事ですか?」

「荷物を届ける仕事だ。 即時転送便。聞いたことあるか?」

「えっと。配達ですか? でも室内作業だって……」

「アンタが荷物を持って、届ける必要はない。

 室内にいて、荷物を指定の場所へ転送させるって仕事だ」


 説明を聞いてもイメージが湧かず、ハセガワは不安そうな顔だ。

 その様子に無理もねぇ、とチーフは苦笑した。


「ま、どんなもんかは実際に見た方が早い。ほら、ついてきな」


 チーフは立ち上がり、行くぞとハセガワを引き連れて、階段を降りていった。


 即時転送便。後方でありながら、前線を支える重要な職業。


 この時のハセガワはまだ、知らない。

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