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49.覗き込んだレコード

 大狼(フェンリル)歴二万五千三百九十一年 魚座(ピスケス)三十日目


 最期まで「弟子に成りたがってた人」は、「弟子に成りたがっていた人」のままで、九十二歳で流行り病に罹って死亡した。

 元が罪人だから、葬儀は行われなかった。

 息を引き取った後、罪人を沈めるために使っている毒沼に運ばれて、弔い人達の手で沼底に沈められた。私に出来たは、胸の前で手を組んだ遺体の胸元に、花を供えるくらい。

 長い間、日記を読み返して来たけど、そろそろ一呼吸置こうかと思ってる所。

 五十年前の大騒ぎの日常から、今はまた一人で生活する日常に戻っている。楽しい動物達も、寿命を終えて、今は庭のお墓の中。

 村の中の様子もだいぶ変わったわ。

 石煉瓦造りの私のお家ちゃんが、古ぼけて見えるくらいには、真新しい家が増えた。


 クミンがあの後どうなったかについて思い出してみると、十年くらいかけてちゃんと魔術を修めてから、彼の家の後継ぎとして実家に戻って行った。

 その時に、クミンを気に入っていた龍族の「ヘンルーダ」も、一緒に彼の家に行く事に成った。

 ヘンルーダは十年経過しても七歳の姿のままだった。彼女が、「人間の形」として覚えていた形状が、七歳の女の子の姿だったと言う事ね。

 クミンは家に帰った後、家の財産と魔術で、治水工事なんかの慈善事業をやっていたみたい。


 ユニカちゃんは、クミンが実家に帰る時に、涙と鼻水が混じるくらいに泣いていた。

「絶対、お手紙下さいね」って言ってたけど、その後どれだけ彼等の間柄が続いたかは、私には分からない。

 モルクは、クミンとの別れ際に「良い嫁さんを探せよ」って言ってたけど、クミンは目を泳がせてから、「ああ」と答えただけだった。多分、実家の方で取り決めている婚約者がいたんでしょう。

 私も、二十五歳の青年に成った弟子を見送る時は、何となく感慨深かったわ。


 最後のお荷物であるディルが亡くなってから、私の家は本当に私しか居なくなった。

 それで、私も心機一転しようと思って家の片づけをしていたら、昔の日記帳が出て来たから、目を通してみたと言うわけ。

 後ろの方に数枚の空きページがあったのが幸いね。こうして、ちゃんと日記の続きを書けてる。


 私は久しぶりに、伝聞紙の取材に応じた。

 魔性の者の血が混じっていない、唯の人間の血筋の魔女が、二百年の間、老化と成長を止め続けたって事で、表彰されたのよ。

 その会場で、二百十五歳に成った感想はどうかって言う、答えにくい質問が飛んできた。

「特に変わりませんね」って答えたら、「どのように変わらないんですか?」と、更なるツッコミが入って来たので、「村は発展する、人間は年老いる、伝聞紙の取材はくる、私は十五歳のまんま」と返事を返した。

 記者達はその言葉から色々想像して、大分湿っぽい記事を書いてくれる事であろう。


 私の遠い親戚である、メヴィラ・フレイムの家系の家には、今は男の子が五人居るらしい。

 その中で、私の家に遊びに来たことのある「ノックス」って言う名前の男の子が、手紙をくれた。

「ばーちゃん、二百十五歳おめでとう!」って、素直な書き出しが書かれていた。

 ノックスは最近、好きな女の人が出来たのだが、結婚を考える仲ではなく、「何時までも崇拝して居たいって言うだけなんだよね」と言う、複雑な心境についても書かれていた。

 私は、返事を書いた。

「初恋おめでとう。何時までも相手を崇拝して居たいって思うのも、愛情の形の一つよ。自信を持ちなさい。

 貴方は自分の身を盾にして、国を守るって事を決意したんだから、その女性の事だって、守って行けるはずでしょう?

 お母さん達に、『お嫁さんはまだ?』なんて聞かれたら、『俺には崇拝する女神が居るんだ』って、正々堂々と宣言してあげなさいな。

 お悩み相談があったら、休暇を使って私の家に来ても良いわよ? 恋話を根掘り葉掘り聞いてから、答えてあげる」

 そう言う内容だったけど、ノックスは納得してくれたかしら。


 本当に休暇の日を使って、彼は私に会いに来た。

 友達を連れて来てたから、本気で悩み相談に来たわけじゃないみたい。

 その友達は、アルフォードって言う名前の精悍な青年と、ガルムって言う名前の中性的な青年の、二人だった。

「実は、ガルムはもう除隊した後なんだ」と、ノックスは紹介してくれた。「これからの、この二人の人生相談をしたいんだけど」

「お前の人生相談じゃないのかよ」と、アルフォードは反論する。「お前が、どうしてもついて来てくれって言うから、俺等はついて来ただけだろ」

「まぁまぁ、そう言うなって」と、ノックスはニヤニヤしながら言う。「それじゃぁ、全員分、相談してみようぜ」

「三人分が大変だったら、ノックスの奴の人生相談だけで良いですよ?」と、ガルムと言う青年は、遠回しに「相談する事はない」と告げて来た。

「じゃぁ、相談じゃなくて、占いにしよう」と、私は話題を切り替えた。「複数人がいる所で人生相談って言うのも、難しいものね」

 そんなわけで、私は「水晶玉占いと、タロット占いのどっちが良い?」と聞いてみた。

 ノックスは水晶玉、アルファオードとガルムはタロットを選んだ。

 水晶玉占いはトランス状態にならないといけないので、まず頭がはっきりしているうちに、タロットを切った。

 テーブルの上に六芒星の描かれたクロスをかけて、決まった場所に順番にカードを置いて行く。

 カードを全部表に返してリーディングしてみる。

 アルフォードには、「よく知っている見知らぬ他人が、貴方の家を訪れるだろう。快く迎え入れ、決してお礼を求めてはならない。そうすれば、貴方も満たされた思いがするだろう。そのよく知っている他人の訪れは、今既に起こっている」と言う結果が出た。

 ガルムには、「旅をすると良い。見知らぬ場所に行く時は、道案内が必要だ。だが、何処の誰も貴方を拒まないだろう。やがて朝が来たら、新しい友を見つけに出発する時だ。好機を逃さぬよう」と言う結果が出た。

 最後に、一番手のかかる水晶玉占いの番である。

 中央に結晶の割れ目が集中している、透明な水晶玉を覗き込み、ノックスに言葉をかける。

「貴方の年齢は?」から聞いて、「貴方の子供時代の思い出は?」まで聞いてみた。

 数回言葉のやり取りをして行く内に、水晶玉の中にぼんやりと影が浮かび上がった。

 白い長い髪をした、青い瞳の女性。

 彼女は小さな女の子を連れている。彼女によく似ているが、親子と言うには似すぎている。

 恐らく、その女の子は「過去のその女性」と言う所だろう。

 やがて二人の像は滲み、別の二人連れが見えた。

 灰色の髪を持った女性のような青年と、金色の髪と水色の瞳を持った八歳くらいの少女。

 何かの象徴と言うより、時間軸に記された「記録(レコード)」を見ているようだった。

 術に限界が来て、火を吹き消すように二人の影は消えた。

「何が見えた?」と、ノックスは興味深そうに聞いてくる。

 私は大きく息を吐いてから、返事を返した。

「白い髪の女性。それから、灰色の髪の青年と、金色の髪の女の子。これからの人生で、貴方に関わってくる人達かもね」

「白い髪の女性って言ったら、アンさんだよな」と、ノックスは勝手に納得してしまった。「後、灰色の髪の男と、金髪の女の子ね。暗記した」

 どうにも、この三人は、普通の人とはちょっと違った「記録(レコード)」の中を生きる事になるみたいね。

 その後、宿泊施設の無い村の中に三人を追い出すわけにも行かず、私の家とディルの小屋に泊める事になった。

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