31話 強くてニューゲーム
マグマから発せられるポカポカの地熱。
かつて、ダンジョンだったこの洞窟もすっかりサウナつきの温泉施設だ。
天然の溶岩を利用した蒸し風呂。
魔界由来の天然マグマの摂氏44℃のお湯。
勇者を一網打尽にした俺らは、自分たちでつくった憩いの場で休暇を楽しんでいた。
何しろ、この世界に来てからまるっと一か月は働き詰めだ。
「ふう、そろそろ上がるか」
冷水を桶ですくい上げ、頭からざぶんと水を被る。
「くー、冷てー! だけど整うなぁ~」
体から失われた水分を取り戻すために、横開きの扉をあけて脱衣所に戻る。
「あらヨシヒロ、アナタいたのね」
風呂上りのローゼリアはタオル一枚姿で腰に手を当てて、トロピカルフルーツ牛乳を飲み干している。
「ああ、久しぶりの休みだからな。休めるときに休まないとな」
クララが発明した全自動冷蔵ロボから牛乳瓶を取り出して、俺も腰に手を当てて牛乳をごくりと飲む。
肌に纏う汗を団扇で扇ぎながら涼んでいると、後ろからばん!と音が聞こえる。
「はあっ、はあ……大変です!」
振り向くと、そこには汗で塗れたリザが落ち着かない様子で入ってきていた。
「そんなひっちゃかめっちゃかな顔でどうしたの、リザ」
体力のないリザは前かがみになり、手を膝に当て肩で荒く呼吸をする。
「まったくどうしたの? これを飲んで落ち着きなさい」
ローゼリアが濡れた髪をタオルで拭いながら、冷蔵庫から水を取り出す。
リザは無言でこくりとお礼をすると、コップの水を無心で一気に喉の奥へと押し込んだ。
だんだんと呼吸を取り戻すと、握りしめていてくしゃくしゃになった紙を広げていく。
「そんなに急いで何があったんだ? まーた勇者でもやってきたのか」
「ちがうんです。でも、大変なんです。ヨシヒロさんがーー」
「「ヨシヒロさんが?」」
リザは息を大きく吸い込んで。
「魔王として、指名手配されてますーーー!」
「ぶぼっ!?」
その紙に描かれていたのはたしかに俺の顔であり、その下には一千万ゴールドと書かれていた。
俺は口に含んでいた牛乳を噴き出した。ローゼリアの顔は牛乳に塗れる。
「……アナタねぇ」
「す、すまん!待て。指名手配ってどういうことなんだ?」
「そうよ。なんでヨシヒロが魔王なのよ。なにかの間違いじゃないの?ここの魔王は私よ」
「実はロゼちゃんのことなんだけど」
そういったものの、リザは言葉を紡ぐのを躊躇した。
「そのもう一枚の紙は何なの?見せてみなさい」
「ああっ!でも……」
ローゼリアが無理やり紙を奪ってするすると、広げる。
そこには温泉宿で働いている浴衣メイド姿のローゼリアの顔が書かれていた。
「ほらね、私のもあるじゃない。ヨシヒロが魔王なら私は大魔王扱いかしら。そうしたら金額は十倍はくだらないんじゃないかしら」
そして、くるくると紙を広げて、その下に書かれていた金額は。
下働きのモンスター娘 七百ゴールド
「何よこれ!安すぎるわ!魔界の最低賃金以下じゃない!」
ローゼリアは、ばしっと地面に紙を叩きつけた。
「それに何なのよ、この下働きのモンスター娘って! この私がダンジョンの主なのよ」
なぜか俺がクレームを言われることに。発行元にお問い合わせしてくれ。
「そんなこと俺に言われても。ただ、それよりも」
「それよりも何よ?」
「顔が割れて、この場所も割れてるって結構マズいんじゃないか」
「どういうことよ?」
「いや、勇者に狙われやすくなるってことだろ?」
「えっ」
「もう手の内はバレてるし、同じ手は使えないな」
「えええ、ってことはつまり……」
「つくるしかないか。新しいダンジョン」
お読みいただきありがとうございました!
第1部はこちらで終幕です。もし気になればブックマーク・評価をいただけると励みになります。




