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30話 バーン・ダウン

「ハハッ。もうみんなあの世にいったみたいだね。寂しいね。怖いね。ハハハッ!」


白き天使の仮面を被ったその悪魔は、高らかにその場で笑い声を上げる。


「ヨシヒロ? 冗談は顔だけにしなさいよ。早く起きなさい」


見慣れた頬をペチペチ、とはたいてみても、まるで反応がない。


「ねえ、聞いてるの?……ヨシヒロ」

ローゼリアは、ヨシヒロの手を力強く握りしめた後、そっと手を離した。


「お別れの挨拶は終わったみたいだね。さあ、邪悪な魔王を倒して、この物語を終わりにしよう」

「邪悪?退治?勝手にこの地にズケズケと入ってきて」

ローゼリアの中で怒りの感情が燃え上っていく。


「アンタたちは勇者でもなんでもない。大切なものを壊していく略奪者よ」

ローゼリアの指輪が紅く煌煌と輝き始める。


「はっはっは。傑作だよ。まさか魔王に略奪者呼ばわりされるなんてね」

「私は、アンタを許さないッ」


憤怒の感情に呼応するかのように、宝玉の輝きは勢いを増す。

そしてあたりに鮮烈な光を解き放つ。


「くっ。いったい何が起きてるんだ」


あたり一面が紅色に染め上げられる。

エインゼルが細めた瞼から覗いた先の視界に捉えたのは、黒き魔王の姿だった。

紅蓮の炎を纏った黒き翼。

頭角には高温で赤と橙が混じった炎が帯びている。

そして、深い赤に染まった緋色の瞳。その奥には怒りと悲しみの炎が灯っている。


「堕天使? いや不死鳥か?」


「ここでアンタの命を焼き尽くす」

「ふん。姿が変わったからどうだっていうんだい」

エインゼルは地面を蹴り上げて、空へと駆け上がると、眼下に魔王を見据えた。


「ほらほら、ほら!」


エインゼルの掌から次々と火球が放たれる。

続けざまに撃たれた炎のパレードは、ローゼリアがいる場所を焼き尽くしていく。

元居た場所には砕けた岩石が飛散して、周囲一帯には粉塵が舞う。


「ハハハ! 姿が変わったとはいえ、ただのこけおどしじゃないか」

「誰がこけしですって?」


その声の主はいるはずのない後ろ側から聞こえる。

エインゼルが振り向いた先には、紅蓮の悪魔がいた。

恐怖。それは、自分が最強だと信じていた男にとって初めて抱いた感情だった。

全身の毛が逆立つ。


「墜ちなさい」


ローゼリアは手のひらに炎を纏わせると、そのまま横に薙ぎ払った。

炎の一閃が、天使の白い翼を黒い灰に変えていく。

両翼を失った天使はそのまま飛ぶことを許されず、地面へと落下していく。


「僕が、墜ちる?」


鈍い音が鳴る。

地面に叩きつけられた天使は、即座に片膝をついて立ち上がろうとする。


「どう? 高見から堕ちた気分は?」

「クソっ。僕は!負けるわけにはいかないんだ。僕が勇者なんだ」


エインゼルは強敵を前にし、勝負を決めにかかろうとする。

細剣の切っ先をローゼリアの方に向ける。

そして、切り札となる大魔法の詠唱を始めた。


「大いなる天の祝福よ、彼の邪悪なる者を聖なる炎で焼き尽く……」

「深淵より目覚めし不死の炎。以下、省略! やりなさい!」

「詠唱なしだと?クソっ!」


天から呼び寄せられた聖なる炎と、地から呼び出された闇の炎がぶつかり合う。

その力は互角。拮抗するかのように見えた。

しかし、詠唱の途中で放たれた勇者の魔法は徐々に魔王の魔法に押されていく。


「僕はっ!僕は勇者なんだ!僕がこんなところで!」

「アンタが犯した罪。その目に罰を焼き付けなさい」


ローゼリアが力を込めると、魔界の炎が聖なる炎を飲み込んでいく。

聖なる炎を貪り、巨大な不死鳥へと姿を変える。


「これで、最後。バーンダウンよ」


眼前に迫った焔が墜ちた天使を焼き尽くす。


「僕はこんなところで死ぬわけには! こんなところで終わるわけにはーーーーっ!!」


炎は焦がす。その身のすべてを。

炎は食らう。その魂までも。

その後に遺るのは、灰燼のみ。


魔界の炎が地へと還っていくと、ローゼリアを纏った炎も静かに怒りを収めていく。

静まり返った大地。先ほどまでの激闘が嘘だったかのように、しんとする。

一筋の煙があちらこちらで一本、また一本と立ち込めている。


「終わった……」


ローゼリアは一歩、また一歩とその足を前に進めていく。

その視線の先には、戦火に飲み込まれて、がれきで入口で塞がれたダンジョン。

焦げた看板を掘り起こす。煤を払うと、手書きの文字が浮き出てくる。


『まお湯へようこそ』


「ようこそって、もう誰もいないじゃない」

哀し気な目で指先の宝玉を見やる。

すると、たちまち指輪が煌めく。


「なにが起きているの?」

明滅が激しくなると、あたり一面の空間ごと光で包み込む。

がれきの下から聞き馴染んだ声が聞こえて、一瞬、耳を疑った。



「げほっげほっ。いったい何が起こったんだ」



考えるよりも先に、掘り起こしていく。

煤けた岩の中から小憎らしいやりとりを何度も行った男の顔が見えた。


「ヨシヒロ? アナタどうして?」


夢か幻でないかを確かめるため、頬をはたいてみたり、つねってみたりする。


「ちょ、いてててっ! 何しやがるんだ」

「うん。夢じゃないようね」

「こんなに痛いのか夢でたまるかそれよりも、ここから出してくれ」


岩に埋もれたヨシヒロの腕を引っ張る。

勢いあまって、ヨシヒロを掘り出すも、ヨシヒロはローゼリアの上に覆いかぶさるかたちになった。

むにゅ。ヨシヒロがローゼリアの柔らかい何かをもう片方の手で掴む。


「あ、すまん」

「ッ……!どこ触ってんのよっ!」


そのままヨシヒロはもう一度、がれきの中に弾き飛ばされるのだった。


◇◇◇


大きく抉れた地面、そして焼け焦げた地面。折れた細剣が激闘があったことを物語る。

俺はその状況から何が起きたかを推察した。


「勝ったんだな?」

「ええ、倒したみたい」

「他のみんなは」

ローゼリアは目を伏せては首を横にふる。


「そうか」

気絶する前のおぼろげな記憶を手繰り寄せる。

記憶違いであってほしいことを願うも、ローゼリアの紡ぐ言葉が現実を突きつけてくる。


「みんな、アイツにやられたわ」

「ああ」

なんて言葉を続ければいいかわからない。


勇者を一網打尽にし、ローゼリアの仇であるプラチナ級の勇者を倒したというのに。

しばらくの間、沈黙が続いた。


遠くをぼんやりと見つめると、岩場に三つの影が見える。

それは少しずつだが、こちらへと近づいてくる。


ローゼリアは何かを確信したかのように、まっすぐ駆け出していった。

「おい、待てよ!」

「おーい!ロゼちーん」

「ロゼちゃん!ここにいたんだね」

足を引きずったハピたすにリザが肩を貸す。

その後ろからペタペタと周囲のゲソに歩かせたクララもやってくる。

「はああ〜これは想定外で〜〜す」


「みんな、どうして……?」

「それが、ウチも全然わかんないんだけど、急にあったかい光に包まれたと思ったら、すっかりもうビンビンだよ!」

「ハピちゃん、ビンビンってなんかちょっと」

「はぁ〜、もうこれ以上は限界で〜〜す」

「フェニックス、不死鳥の炎の力なんじゃないか」

「そんな奇跡みたいなことが起きるなんて」


ローゼリアは、不思議な力を与えてくれた指輪を見やる。


一瞬、ローゼリアの父の顔が映ったかのように見える。かと思うとその指輪は力を使い果たしたかのように輝きが失われた。


「ああ、指輪が」

「守ってくれたんだな」

「ええ、力を貸してくれたみたい」


ローゼリアはそっと指輪を撫でた。


「よし。何はともあれミッションコンプリートだな。それじゃあ戻るか」

「私たちのダンジョンに!」

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