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29話 ダンジョンのリリース後にもアクシデントはつきものです

「さて、勇者どもを一網打尽にしたことだし。おなかが空いたわ」

「私もお腹が空きました」

「ウチももう限界だよ〜〜〜」

「同感で〜〜す」


作戦は大成功だった。


勇者どもを油断させ、一網打尽にする。

まさに、ローゼリアが掲げたコンセプトである「油断大敵」そのものだった。


「さあ、ヨシヒロ。食料を調達して私たちに料理を振る舞いなさい」

「なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ」

俺とローゼリアが言い合いをしていると、足音が響く。


「はあ〜、もう今日は終わり終わり。ハピたすいい感じに引き取ってもらってくれ」

「了解だよ〜〜ん」

ハピたすはその男の元へと足早に駆け寄る。


「すみませ〜ん!今日はもう店じまいだから、また明日ヨロシクね〜〜」

しかし、その男はハピたすのことは見向きもせずに、魔王のことを一点に見つめる。



「探したよ。紅き魔王」



その声色は穏やかではあるものの、ガラスのように透き通っており、凛としていた。

短く整えられた絹のようにきめ細やかな白い髪。

聖なる力を蓄えた白いローブ。

腰に収められているのは遠目に見ても一級の業物に見える、きめ細やかな黄金の装飾で彩られた細剣。

首元のランクプレートは、陽の光を反射して煌めく雪の結晶を彷彿とさせる。

つまり、この目の前にいるのはプラチナ級の勇者ということになる。


その男は六枚の光の翼を広げると、

「ここにいたんだね。焔魔王ローゼリア」

「ッ……エインゼルっ!」

「ローゼリア、コイツは……」

「僕の名前はエインゼル。エインゼル=ミカエリス。天の祝福を受けた人間界に平和をもたらす勇者だよ。まずは挨拶代わりさ」

「ずいぶんと大げさな名前だな!ローゼリア、お前も名乗ってやったらどうだ」

さっさと魔法の一発でも撃って終わらせてもらおう。そう思ってローゼリアの方を見やる。

「……ローゼリア?」

「あ、あ……」

ローゼリアの小さな身体が小刻みに震える。


「どうやら思い出したようだね。それじゃあ余興を始めようか」

人差し指をこちら側に向けると、指先に光が集まる。


「穿て」


詠唱なしで指先から放たれた一筋の光がハピたすの胸を貫く。


「えっ」


何が起きたのかもわからないまま、ハピたすは音もなく地面に倒れ込んだ。


「その翼、天使の紛い物のようで、見ていて気分が悪い」

「ハピたす?」

リザがハピたすの元に駆け寄っていく。


「ハピちゃん?」

地面に臥せた彼女に声をかけてゆするも、目は虚ろなままで返事がない。

口からは血の泡がこぼれている。


「よくも、うわあああ!!」


既にリザはエインゼルに向かって走り出していた。

鞘の鍔に手をかけ、対象を眼前に捉えたかと思うと、抜刀し斬りかかる。

しかし、その渾身の太刀筋はあろうことか指二本で受け止められてしまう。


「うわああああ!」


リザが力を込めて押し込もうとするも、剣先はピクリとも動かない。


「友愛か?美しい。実に美しい」


そのまま指を横に捻ると刀身はパキンと音を立てて、割れてしまう。


「そんなっ……」


重心を崩したリザが前かがみに倒れそうになる。そのリザを支えたかと思うと。


「君も友人を追って、逝くがいい」


もう片方の手のひらをリザの腹部に当てると、静かに力を込める。


「爆ぜろ!!」


衝撃とともにリザの身体が後方に吹き飛ばされ、宙に投げ出される。

そのまま地面に打ち付けられるが、動きがない。


「二人とも……」


唇を噛み締めたクララが三体のゲッソーマシンを向かわせる。

三方向から展開される同時攻撃は、逃げ場を奪い、敵の死角から攻撃を行う。

さすがに、この攻撃からは避けられないと思いきや。

一機、二機、そして三機を舞い踊るかのように切り捨てる。

ジジジ、と行き場を失った動力源が熱を帯び始める。

爆発まで後わずかになったそれを、一体鷲掴みするとクララの前に一気に駆け寄る。


「これはプレゼントさ」

「えっ」


不意に渡された贈り物に、注意を奪われると。


「じゃあ、そろそろ頃合いかな」


臨界状態を迎えた残骸は、その作り手とともに爆風に包まれた。


「これでは余興にもならないね」


「そんな……。クララ、リザ、ハピたす……」


あまりにも一瞬の合間にメンバーの三人がやられてしまった。


「やっと片付いたね。”あの時”と同じように、燃やし尽くしてあげるよ」

エインゼルは無詠唱で次々と魔法を発動させていく。


〈焔塔〉、〈炎舞〉、〈朱星〉。


地面から噴き出す火柱、周囲を燃やし尽くす炎の渦、上空からの炎の熱線が次々とローゼリアを飲み込んでいく。

敢えて、ローゼリアと同じ火属性の魔法で勝負を挑むあたりに、勇者としての余裕を感じる。

高温になり、焼けただれた橙色の岩肌からはところどころから湯気が立ち込める。

また、熱された空気により、あたりの光景は揺らぎ蜃気楼のようになっている。


ローゼリアはというと、足元に紅い紋様が書かれた魔法陣を展開している。

同じく炎の魔法をぶつけることで、勇者の魔法をすべて相殺していた。


「エインゼル、私は、絶対にアンタは許さない」

「さすがは紅き魔王。生半可な攻撃では通じないようだね。じゃあこれならどうかな」

強烈な閃光を放ち、目くらましをする。


「ッ前が!」

「ハハ、眩しいよね。見えないよね? 暗いよねぇ?」


高笑いをしながら剣の切先をペロリと舐める。


「……もう飽きた。紅き魔王も地に落ちた。先代とは比べるまでもない。もうここでお終いにしよう」

急に声のトーンを落として笑みを止める。



「さようなら、紅き魔王」



「やめろ!!」


俺は後先を考えずにエインゼルに向かって駆け出した。

もちろん、戦闘経験のない俺が出ていったところで何の戦況変化も起きないだろう。


ただ、これから先。

目の前で起きようとすることを想像したら動かずにはいられなかった。


「虫けらがもう一匹いたみたいだね。穿て」


眼前に迫る光がだんだんとスローモーションになっていく。

そうか、これが走馬灯というやつだ。

異世界転生先で死んだら、また異世界にいくのか。それとも現実世界に戻るのか。そんなことはもうわからない。



「ローゼリア後は頼む」



これが今際の最期の言葉になった。

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