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27話 勇者の顧客満足度をあげましょう

「信じられないわ。なんとかなるものね」


「ああ。もはやモノはいいようだ。大自然を活かした温泉ということにしてしまえばいい」

クララのゲッソーロボの力でどうにか一夜城が完成した。


ぱっと見でフックになるようにするには、最初の印象が大事だ。


ということで、外観の入口だけは、この魔界の中でも目立つように情緒あふれる古風な旅館のようにしてある。しかし、ハリボテみたいなもんだ。


〈魔界の天然温泉 まお湯へようこそ〉


看板にはそう書かれている。

あとは、ハピたすが一晩でつくってくれたポスターが勇者ギルドに貼られた頃だろう。


ローゼリアはというと、ぽつんと立っている。

さすがにいたたまれなくなったのか、ローゼリアは俺の方に目をやる。


「ねえ、私に仕事はないのかしら?」


プロジェクトの後半になると、メインで稼働するのは現場サイドだ。

プロデューサーの役割といえば。


「よし、魔王様にしかできないとっておきのことをお願いしよう」

「ふふ。そうこなくちゃね!」

「じゃあ、これを着てくれ」


俺がローゼリアに手渡したのは、まお湯と背中に書かれた浴衣だ。


「はあ?なによこれ?」

「あの三人はあんなに汗水流して遅くまでがんばってるのになー。でも嫌なら仕方ないかー」

俺は罪悪感を刺激する言葉を続ける。

「せっかく作ったとしても集客できないなんて悲しいなー」


ローゼリアは無言でぷるぷるしながら拳を握り続ける。


「は~~~。わかったわ!着ればいいんでしょ、着れば!着替えてくるから、絶対に覗くんじゃないわよ」

「そうそう、そう来なくっちゃ!」


自分の口からやると言わせることに成功した。


しばらくすると、裏手の方からローゼリアが戻ってくる。

白の和風のニーハイソックスでぎゅっと絞られ、ぷにっとした太ももが見えるショート丈の浴衣。

袖の部分にはフリルがついており、どことなくメイドを思わせる。

真紅の生地はまさに、炎を扱うローゼリアにお誂え向きのように見えた。


「ねえ、この丈ちょっと短すぎじゃない」

「んー?似合ってると思うぞ」

「会話になってないわよ!」

「それはいいから向こうを見ろ」


こちらに向かってくる二本の人影が見える。


「おい、勇者(と書いて客と読む)が来たぞ。いいから接客しろ!」

「はあ!?何よ接客って。何したらいいのよ」

「まずは元気な挨拶だ!」

「どういうこと!?」


やってきた勇者はふたりともブロンズ級だ。

スキンヘッドでガタイのいい、荒くれ者の勇者と、ホビットのようにやや小ぶりでヒゲをたくわえた、こどもおじさんの勇者だ。


「俺は裏手にいく。俺みたいなのは、まお湯のコンセプトに邪魔だからな。あとはよろしく頼んだ」

「ちょっと!後で覚えてなさい」

そうこうしているうちに、勇者が銭湯の入り口までやってきた。

「い、イラッシャイマセー!」


まず、スキンヘッドの勇者が口を開く。


「こんなところに天然温泉? まお湯?そんな情報はなかったが」


続いて、こどもおじさんの勇者がローゼリアを見上げる。


「お嬢ちゃん、何をしてるんだい。こんなところにいたら、恐ろしい魔王に見つかってしまうよ」

「こ、ここは、勇者のみなさんのために作られた癒やしの拠点よ」

「癒やしの拠点だぁ?」

「魔王のダンジョンが近くにあるというので、有志が集まって温泉施設を立ち上げたんです」

「それは凄いね、お嬢ちゃん。それでここはいくらで入れるんだい?」

「えっと、基本プレイ無料、じゃなかった。入浴するだけなら無料です」


「無料? なんか怪しくないか」


スキンヘッドの男がズイと乗り出してくる。

よく見ると頭頂部に数本にょろりとアホ毛が生えている。


「ああ、でも施設内に追加サービスがありますので、よかったらご利用くださーい」

「ふぅん。まあいいか。タダってことで、ひとっ風呂浴びさせてもらうぜ」

「では、奥へどうぞ。ご案内します」

「おお~、本物の洞窟の中みたいだな、お嬢ちゃん」

「魔界のマグマの地熱を利用したサウナ、それから魔界の湯をお楽しみくださーい」

「お嬢ちゃんもいっしょに俺らと楽しもうか? ぎゃはは」


がしっとお尻を掴まれた。


「あーお客さまー、そういうのはおやめくださーい」

勇者の腕を力強く鷲掴みする。


「っいたたたた!ごめんって」


二人の勇者たちはそのまま洞窟の奥へと向かっていった。

ローゼリアははあ、と大きな溜息をつきながら入口に戻ってくる。


「ほらな。なんとかなるもんだろ」

「こんなのたまたまうまくいっただけでしょう?」

「この調子で、どんどん勇者を入れ込むんだ。ローゼリアなら絶対にいける!魔王なんだし!その浴衣も一番よく似合ってるし!」


俺は精一杯鼓舞して、やる気を出させる。


「ほんっとにもう。仕方ないわねー!今回だけなんだから!」

「よし、その調子でどんどん頼むぞ!」


◇◇◇

数時間前。


「ハピたす、ちょっと来てくれ。大事な話がある」

「どーしたのヨッシー。大事な話って?」

「ハピたすには重要なミッションがある」

「ミッション?」

「そうだ。勇者たちがやってきたら、このドリンクを飲ませるんだ」


そして、エメラルドグリーンに透き通る液体をコップに注いだ。


「これは何が入ってるの?」

「俺もあの森で餌食になった、あのマジカルリーフだ。これを飲ませて勇者たちを錯乱させる」

「でも、どうやって飲ませるの」

「そこはウェルカムドリンクということで、来た勇者に無料でどんどん振る舞ってしまえばいい。温泉に入る前には水分補給が大事だとか言えば飲んでくれるだろう」


「ん~ナルホド。さすがヨッシー、やっぱ頭イイんだね」

「ああ。それに温泉にも、このハーブを入れておいた。内側からも外側からもじわりじわりと効いてくるはずだ。これで勇者たちを一網打尽にするんだ」


これから起きることを想像すると、ふふふと笑みがこぼれてくる。


「ヨッシー、なんか魔族っぽくなってきた?」


◇◇◇


「リザ、来てくれ。大事な話がある」

「だだだ、大事な話っ!?」



(もしかして、最終決戦を前に想い人に気持ちを伝えるってことなのかな。でも、どうして私?ヨシヒロさんだったら、ロゼちゃんやハピちゃんの方が??)



「おーい。リザ、聞いているのか?」

「ぴゃい!」

どぎまぎしている。


「勇者たちがサウナにいくように誘導してくれ」

「サウナ?どういうことですか」

「勇者たちにマジカルハーブ入りのドリンクを飲ませたあとに、同じくそのハーブ入りの温泉に入れるわけだが、少し時間がかかるかもしれない。それに幻覚が見えたら一部の勇者たはの異変に気づくかもしれないだろう」

「そうですね、もしも回復職の勇者がいた場合、怪しまれてせっかくの作戦が失敗してしまうかもしれません」

「だからこそだ。サウナに入れてじんわりと整わせるんだ」


「整う?」


「サウナのリラックス効果で少しずつ思考力を奪って、正常な判断をできなくするわけだ。そこにハーブの効果も合わせていくわけだ」

「つまり、ハピちゃんの方で仕込んだハーブの効果がバレないように、時間稼ぎをするということですか」

「その通りだ」

「でも、私にそんな大事な役目できるかな」

視線を下に落とすリザ。


「いまのリザなら大丈夫だ。さらに、二の矢を仕込む」

「二の矢、保険をかけるということですか」

「保険というわけでもない。俺はリザを信じてる。湯上がりのあとにちょっとしたアトラクションを楽しんでもらおうと思ってな」

「アトラクション?」

「そうだ」


頭の中でいろんな点と点がつながっていく。

ダンジョンでの過酷な労働も、ゲーム開発現場で明かしたあの夜の経験もすべてひとつに繋がっていく。


「ヨシヒロさん、すごい悪い顔してますよ」


◇◇◇

「天才ハッカーのHACHIこと、クララにお願いしたいものがある」

「なんですか~~~?」

「こういうものを作って欲しいんだが」

俺はメモ書きをクララに渡す。


「これは?」

「ガチャだ」

「ガチャ~~~?」

「まあ、くじ引きみたいなものだ。勇者たちの射幸心を刺激し、散財させて財力を低下させる作戦だ。それと同時に俺らの経済力を上げる役割もある」


「ふ~~ん。でも、具体的にはどうやるんですか~~~」

「事前に、ハピたすとリザに先手を打ってもらう。ハピたすのマジカルハーブで状態異常にかけたあとに、リザがサウナに誘導してやんわりと弱らせる」

ふふふ、とクララが口元を抑える。


「そんな奇抜な発想よく思いつきましたね〜〜〜」

「そして、温泉といえばお楽しみだ。もちろん本来なら食事処やマッサージがあればベストだ。しかし、そんなものを用意している時間も金もない」


「だから、俺らのお財布事情を改善しつつも、勇者たちを弱体化させる作戦が必要だ」

「それでさきほどのガチャ、ですか〜〜」

「そうだ。だいぶ思考力が落ちてきているところを狙って金を稼ぐ」

「なるほど。それで、肝心の景品はどうするつもりですか〜〜〜?魅力的なものがなければ、そう簡単には〜〜」


「これをつかう」


刀身が紅く煌めく炎の剣を取り出す。

「これは」

「魔剣レーヴァテインだ。この間発掘された、炎の魔剣だ」

「ふふふ、ヨシヒロさんは面白いですね。魔剣を景品にするなんて罰当たりもいいところです〜〜〜」

「さらに、賑やかしとして、ハピたすが発注でミスったこのレプリカの剣をB級の景品に入れる。それで大事なことなんだが」

「大事なことですか~~?」

「レーヴァテインは、当たりそうで当たらないようにしてくれ」

「確率操作ですか〜〜〜。なかなか悪人になってきましたね〜〜〜」

「ああ、目的達成のためならもはや手段は選んでられない。頼んだぞ、クララ。お前だけが頼りだ」

「お任せくださ〜〜〜い」


クララにまかせて立ち去る。

「すっかり悪の親玉感になりましたね〜〜〜」

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