25話 ダンジョンにもユーザー目線が必要です
つい感情的になってしまったものの、特に行く宛はなかった。
仕方なく、魔界の外を散策して頭を冷やすことにする。
とはいっても、この一帯は火山地帯なので決して涼しくはないのだが。
「おい!そこのお前!そこで何してやがる」
褐色の肌色をした男は、腰巻き姿で軽装をしており、岩のような体をしている。
片手には幾度の戦いをくぐり抜けた傷跡の残る小盾を携えており、もう片方の手には、鉄槌を握りしめている。
明らかなパワータイプの戦士の勇者だ。
「魔族か。このガチム・ヂーが成敗してくれよう」
この脳筋ビルドの勇者が鉄槌を振り下ろすと、ドゴッと鈍い音を立てて地面をえぐり取った。
「おいおいおい、こんなのに勝てるわけないねーだろ!」
戦闘手段を持ち合わせていない俺は、勇者に出会ったら逃げるしかないのだ。
「待て!逃げるのか?」
俺は一目散に駆け出していった。
後ろを振り返ると、もう追っては来ないようだった。さすがに、あの巨体ですばやさも高かったら反則だ。
しかし、よそ見をした俺は足を滑らせて坂から転げ落ちてしまう。
「うわああああーーー!!!!」
成すすべもなく、滑り落ちていき、ゴツゴツとした岩肌にぶつかってはまたさらに転がり落ちる。
「痛ってえぇ。どうしてこんな目に」
服はところどころが破れ、そこから見える肌は傷と打ち身だらけだ。
「くそっ。どこか休めるところはないのか」
よたよたと歩いていると、湯気が出ているのが見える。
お湯は白濁としており、少しとろみがあるようだった。
手で掬ってみると、思ったよりもちょうどよい温度だった。
俺は顔にばしゃりとお湯をかけ、汚れを洗い流す。
「ふぅ、ひどい目にあったな」
手や顔に負った痛みが和らいでいくような感覚があった。
「まさか、ダメージが回復する温泉か?」
服をそそくさと脱ぎ、恐る恐る足をお湯に浸からせる。
温度は少し熱いが、熱すぎて入れないということはない。
「ふぅ、生き返るな」
ぽわぽわとした感覚に包まれ、たしかに全身の傷が引いていくようだった。
湯船に浸かり、これまでのこと、これからのことに思考を巡らせる。
問題はこの後、どうしていくかだ。
寝床の確保や食料の確保、考えなければいけないことは山積みだ。
しかし、土地勘もまるでないこの世界でどうしていけばいいかなんて考えてもわからないことばかりだった。
「さて、どうしたものか」
首を天に向かって仰ぐと、若い男二人がやってくるのが見えた。どうやら彼らも勇者のようだ。
このまますぐに立ち去っても怪しいので、俺は湯船にある岩陰の方へと静かに移動した。
話し声が聞こえるので、俺は情報収集も兼ねて近くで聞き耳を立てることにした。
「はぁ〜、魔王討伐なんて言ってるけど、マジでキツいわ。ロクに寝る場所もないし、ブラックすぎるわ」
「ほんとだよ。こんな暑苦しいところに来るんじゃなかったわ」
哀愁混じりの会話が聞こえてくる。
「でもよ、もしここで実績を上げられたら、俺たちも名声アップでギルド内の立場も上がるんだぜ?」
「そーだよなぁ。でも魔王討伐云々よりも、むしろもっとラクして稼げたら別にそれでいいんだけどな」
「あ〜、財宝がそのへんに落ちてるとかな」
「いやさすがにそれはないだろ」
二人の間に少しの間、無言の時間が流れる。
「じゃあ、せめて魔王と戦う前に、この温泉みたいな回復ポイントくらい用意してほしいよな。こっちは満身創痍だってのに」
「あ〜、それはアリだな。HPとMPが回復するやつ」
「でも、魔王側にとっちゃなんのメリットもないからなあ」
辛い現実を突きつけられると、現実逃避をしたくなるのは、万国共通なのだ。
「そういえば、噂を聞いたんだけどさ、この近くにいる魔王のダンジョンが襲撃されたんだってよ」
「この近くにダンジョンなんてあったか」
「ああ、なんでも最近できたばかりっぽいんだ」
「つまり、チャンスじゃね?魔王側もあたふたしてるってことじゃねーの?でも、魔王は魔王だ。そいつを倒したら……」
「俺らは魔王を倒した英雄ってことか。それは行ってみる価値があるかもな。もうすぐ”ゲート”も開く頃合いだろうし、ギルドで仲間募集していこうぜ!」
男たちは意気揚々として気力を取り戻すと、そそくさと風呂から上がっていくのであった。
「ついに、”ゲート”とかいうのが開くのか」
俺は風呂の中にぶくぶくと沈んで思考を巡らせる。
脳裏に浮かぶのは、アイツらの顔だった。
「ダンジョンを完成させるのよ、魔族のヨシヒロさん」
「ヨシヒロ……うん。ヨッシー! ウチはハピたすだよ~」
「ヨシヒロさん、おかえりなさい」
「下僕にしては、やりますね~~~」
残された時間は多くない。今からダンジョンとしての再建は難しいだろう。
勇者たちも魔王討伐の大義があるものばかりではなく、楽をして富や名声を求めているものが多い。
魔王の目的は勇者を倒し、大魔王の地位を目指すこと。
そして、火山地帯ならではで使える天然資源の存在。
頭の中の点と点がつながっていくのを感じる。
「もしかして、つくるのはダンジョンじゃなくてもいいんじゃないか?」
一つの解へとつながるのを感じた。
「温泉か……」
「くそっ!あいつらのためじゃなくて、途中で開発を降りるのが癪なだけだからな!」
俺は服を着ると、ローゼリアたちが待つダンジョンへと向かって駆け出した。




