24話 大魔王への進捗報告MTG
ローゼリアは片手に書類の束を抱え、いつになく眉間に皺を寄せながら忙しなく歩く。
「……アイツがいなくたって、ちゃんとできるわよ」
そう自分に言い聞かせるように呟くが、その声はどこか活力がない。
ハピたすとリザ、そしてクララも集まっているが、皆どことなく落ち着かない表情だ。
「ロゼちん、この後の作業どうしよっか。通路はぐちゃぐちゃだし、宝箱も空っぽだね」
「ロゼちゃん。マグマ床の修理も必要だね」
「ボクは優先度さえ決まれば、作業に取り掛かれま〜〜〜す」
「そ、そうね!まずは朝会をして、今日のタスクを割り振って……あれ、いつもの朝会メモはどこにいったかしら」
ローゼリアは慌てた様子でメモを探すが、どこにあるのかわからない。
「くっ……いったいどこにあるのよ!」
本来ならば、ヨシヒロがぱっと議事録を用意しているのがいつもの日常だった。
待ちの姿勢の三人だったが、ローゼリアが困っている様子を見てリザは口を開く。
「じゃあ、私はトラップの修理をしてこようかな」
「でもさ、リザっち。先にガレキを片付けないとムズいかも」
「そっか。じゃあ私はそっちからやろうかな」
「その間、ボクはどうすればいいですかね〜〜〜」
「えっと、クララちゃんはいったん待機しててもらうのがいいかな」
ローゼリアは両手で頭を抱えて小さな声で呟く。
「もう、全然進まないじゃない。どうしてこうなるのよ。ヨシヒロならこんなときに、優先度、とか言ってすぐに仕切ってたのに……」
つい昨夜、勝手にしなさい、と突き放してしまった手前、もう引き返せなかった。
ローゼリアがダンジョンを歩いていると、「油断大敵」と書かれた掛け軸をかけていた場所に着いた。
ローゼリアが灰まみれの掛け軸に触れると、塵となって消え落ちた。
「はぁ、もうどうすれば」
「ロゼちゃん、大変!ちょっと来てほしいの?」
「リザ、今度はどうしたの?」
「ダンジョン・コアが凍ってるの」
「一体どういうこと?」
リザとともにローゼリアがダンジョン・コアの元へ向かうと、そこには凍りついたコアがあった。
倒した勇者の数がカウントされるシステムだ。
これが使えないと、いくら勇者を倒しても意味がない。
「フローゼの仕業ね」
ローゼリアはがくりと膝を落とす。
「ロゼちん、大変!急いでこっちに来て」
「今度は何よ」
大魔王ハーラス・メメントからの緊急の電話会議だった。
◇◇◇
「焔魔王ローゼリアよ、ダンジョンの進捗はどうだ」
魔導通信クリスタルから映し出された映像の先にいるのは、玉座の間から布一枚で隔てられた大魔王ハーラス・メメントのシルエットだった。
「……現在はまだ完成しておりません」
「ほう。魔界と人間界のゲートがもう少しで開かれるというのに、まったく呑気なものだ」
「……申し訳ありません」
「そして他にも気がかりな点がある。この『マグマ噴射ノズル』『ドラゴンバルーン』が五十万ゴールドというのはあまりにも高すぎるな。今後、コストが発生するものについては、私の承認がない限り発注を禁ずる」
「そんな、このダンジョンの決裁権限は私にあるはずでは?」
「いいや、このようなカネの使い方をされては困る」
「ますます時間がなくなるじゃない」
ローゼリアは俯いて、小声で愚痴を漏らす。
「何か言ったか?」
「……いえ、承知いたしました」
「ところで、フローゼの件で気」
「なんとしても期日までに完成させよ、焔魔王ローゼリアよ」
一方的な要求を言い渡すと、被せるようにブチッと通信は切れた。
「もう、どうすればいいの……」
◇◇◇
時間だけが過ぎていき、作業の進捗はまるでなく、ダンジョンの大半は破壊されたままで、周りは瓦礫が散らかっている。
ローゼリアは途方に暮れつつ、通路を歩いていると、木箱の上に置かれた書類を見つけた。
「ダンジョン開発メモ?」
パラパラとページを捲っていくと、そこには日々の会議事項、ダンジョンの図面、メンバーからの要望などが、丁寧な字で書き込まれていた。
さらに、ページを送っていくと、各メンバーに関することも書かれていた。
リザ:仕事が丁寧。自信がなさげな素振りも多いが、本人が気づいていないだけで全然できる。後は自信をつけさせればOK
ハピたす:コミュ力が高いギャル。ムードメーカー。小さいミスは多いが、周囲がカバーすればOK
クララ:ダウナー。とっつきにくいところもあるが、技術はたしか。なんだかんだやってくれるので、ちゃんと依頼すればわかってもらえる
「……思ったよりちゃんと見ているのね。ダンジョンのことだけでなく、みんなのことも」
ローゼリア:新米魔王。偉そうにしているが、責任感はあるし、ピープルマネジメントがうまい。俺が努力でなんとかする秀才型タイプなら、ローゼリアは天才型。飲み込みも早いので伸びるタイプ。
「意外とよく見てるじゃない」
ローゼリアは思わずその場にしゃがみ込み、ため息をつく。
ローゼリアがページをめくるも、最終ページはまだ白紙のままだった。
「はぁ。こんな時に、ヨシヒロがいてくれたら……」




