21話 ダンジョンの罠もデバッグしないと大変なことになります
「よし、なんとか宝箱の近くに噴射装置をつけられたぞ。これでだいたいは完成か?」
難航していたダンジョンの開発もどうにか形になってきた。
後は、これが正しく動作すれば、いまのところどうにかなるだろう。
「よし!デバッグをしていくぞ」
「そうよ、デバッグ! デバッグするわよ!」
「おいおい。本当に意味わかってるのか?」
「リザ、アナタも初めてだからちゃんと聞いておきなさい」
「あのなあ。まあいい。開発はつくって終わりじゃない。ちゃんと動くかをテストする必要があるんだ。このときに正常に動かない不具合を取り除くのをデバッグっていうんだ」
ローゼリアは、ほえ〜初めて聞きました、という表情をしている。
「うちらのダンジョンだと、マグマ床とかマグマ噴射装置とかあるだろ?それがちゃんと条件を満たしたら動作するか確認するんだ」
「まずは、このマグマ床からだ。重さが50kg以上になったらちゃんと落ちるか確認してくれ」
「どうやって確認するのよ?」
「実際に罠の上を走ってみるとか?」
「私が?」
「そうだ」
「つまり、私が50kg以上あるように見えると?」
「そうだ」
「女の子に体重を聞くのは失礼って学ばなかったの?そこまで言うなら、アナタが確かめなさい」
ローゼリアは火の魔法を詠唱すると、俺の尻めがけて放った。
「あっちゃああああ!!!!」
俺が走っていくと、床が次々とパカッと開いていくようだった。
「テストオッケーで〜〜す」
クララはデバッグシートにチェックを入れる。
◇◇◇
「はあ。ヒドい目にあった。マグマ床は危ないからいったん無効にしておいてくれ」
「はいはい、このスイッチをオフにしておいたらいいのね」
ローゼリアはぽちりとスイッチをオフにする。
「じゃあ、次はこのマグマ噴射装置だな。ハピたすスイッチをオンにしてくれ!」
「おっけー!まかせて」
ハピたすが宝箱の近くにあるマグマ噴射装置をオンにしていく。
「これで後は宝箱を開けると、噴射。閉じると噴射が止まればオッケーなんだが。ちなみに、出力最大だと俺死ぬからな?」
「わかってま〜〜す。出力はいまは最小モードに設定中で〜〜す」
しかし、宝箱を開けても噴射はされない。
「ん?不具合か?」
「みせてくださ〜〜い」
クララが調査をしてみる。
「なるほど。宝箱の開閉と、マグマ噴射装置のオン・オフの通信連携がうまくいってないようですね〜〜〜」
クララが触手でキーボードのようなものを軽快にカタカタとうっていく。
「これで、大丈夫なハズで〜〜す」
「よし、じゃあ開けるぞ?」
宝箱を開けた途端に、足元のマグマ床がパカッと開いた。
「あっちゃああああ!!!!」
焦げた尻がさらにこんがりと焼けてぼんじりになりそうだ。
「おいおい、さっきマグマ床は直ったんじゃなかったのか」
「プログラムの修正の際に、デグレが起きてしまったようですね〜〜〜」
「ヨシヒロ、みんなにわかるように説明しなさい」
「直したと思ったバグが、別のところをいじったらまた再発してしまった、みたいな感じだ」
「つまり、キツネごっこみたいなこと?」
「イタチごっこな」
そうこうしているうちに、クララのほうで調整が終わったようだ。
「これでどうでしょう〜〜〜?」
「じゃあ、もう一度宝箱を開けるぞ?」
パカッ
「おお、噴射装置は作動しているみたいだな?」
「ん?なんか勢いが強くなってきてないか?」
マグマがブシャーと噴き出す。
「あっちゃああああーーー!!!!」
「やっぱり不良品を実戦投入するのはリスクが高いようですね〜〜〜」
◇◇◇
「ねえ、このドクロがかかれたマークはなに? なんかカッコいいけど」
「あ、ローゼリアさん。それはいまは押さないでくださ〜〜〜い!」
「えっ?」
クララの静止は虚しく、好奇心が先行したローゼリアはボタンをポチりした。
ダンジョン内に仕掛けられた、防犯めだまの目が赤く点滅し、パトランプのように周囲を照らす。
「リクエスト承認。絶対防衛システム:『まぐま・マギか』起動シークエンス」
「おいおい、今度は何が起こるんだ?」
警告音とともに無機質な女性の声でアナウンスが流れる。
「怒られそうなネーミングは、やめてくれ」
なんで開発者はいつもこうシステムに、ギリギリのネーミングをしたがるんだ。本番環境にリリースされたらどうする。
「侵入者排除」
「ん?排除」
やたらと物騒なワードが聞こえてきたが、まあカッコイイネーミングをつけたかったんだろう。
大袈裟で厨二っぽい名前をつけるというのはよくあるやつだ。
ゴゴゴゴ、と洞窟内に轟音が鳴り響き、大地が揺れる。
「なあクララ。これって大丈夫なのか?」
「いいえ、大丈夫ではありませ〜〜〜ん」
クララが小声でぽつりと言葉を零した。
「大丈夫ではありませ〜〜〜ん、とおっしゃいますと?」
人間は思考力が低下してくると、相手のいったことを何も考えずにオウム返しするようだ。
「コメントアウトし忘れました」
「つまり、本来は意図してないことが起きるんだな」
クララはこくりとうなずく。
そうこうしているうちに、さっきよりも轟音が近づいてきた。
ブシャァァァァァ!!!!!!
「逃げろ! ほんとろくでもねーことばかりだな!!」
マグマの地熱で沸騰したアツアツの熱湯がダンジョンに流れ込んできた。
◇◇◇
「ゼェゼェ……今回ばかりは死ぬかと思った」
そのまま雪崩れ込むように、頭から地面に突っ込んだ。
脳内に急速に取り込まれた酸素がだんだんと思考を取り戻していく。
高校の体育の授業ぶりの長距離走だ。
しかも、当時よりも最大スタミナが減っているので堪えた。
全然関係ないが、ソシャゲのスタミナ回復薬っていったいどんな仕組みなんだ。
戦犯のローゼリアはというと、はっはっは、と舌を出した子犬のような呼吸になっている。
そこに魔王の影は微塵もない。背中に生えた漆黒の翼はとってつけた借り物か。
隣をみると、こっちにもお飾りの翼で全力疾走し終えて息を荒げたハーピィ娘がいるのだった。
魔界のモンスターたちってこうもっと翔んだりするもんじゃないのか。
鉄砲水のような爆湯の奔流も落ち着き始めたところで、大きな二枚貝がどんぶらこと流れてきた。
貝の口の部分からは、茹でられて、先がくるくるくると丸まったゲソが一本出ている。
「さすがボク。こんなこともあろうかと、シェルターを用意しておいてよかったで〜〜〜す」
ふぅ、と額の汗を拭うクララにじっとりと冷たい視線が注がれる。
「わ、痛い!何をする! 暴力はやめてくださ〜〜〜い」
「自分だけ安全でいようなんてズルいのよ!」
「これは、リスクマネジメントの一貫で〜〜〜す」
再び貝殻に引きこもろうとするクララは、抵抗虚しくずるずると引き摺り出されたのだった。
俺もどさくさに紛れてゲソを引っ張ってみた。弾力があってやわらかかった。
「それで、この地下3階はどうするんだ。もうお湯浸しだぞ。うちは銭湯でもやんのか?」
この絶対防御システムは俺らの血と汗と涙を台無しにしてくれた。
リリース直前に重篤なバグが見つかって、まもなくゴールだと思ったマラソンが+5kmされる気分だ。
「なあ、どうしてあんなよくわからないシステムをつくったんだ? 仕様にもないだろ?」
「悪の組織に自爆装置があるのはつきもので〜〜す」
「もう悔やんでいても仕方ないな。このエリアは破棄する」
「え!そんなことしたらダンジョンは地下2階までしかないじゃない」
ローゼリアは不満そうにしている。
「これ以上、手を広げるのはキケンだ。もうあまり時間もないからな。それに中途半端にするよりは残りのフロアをちゃんと仕上げた方がいい。それとも寝ずに働くか?」
「うぅ、それはイヤよ」
「逆に、地下2階まででどうにか勇者を迎撃できるようにすれば、目的は果たせるしな」
「そうね。仕方ないけれど、セニョールは変えられないわ!」
「背に腹は代えられない、だな。誰だよセニョールって!」
ということで、優先度のジャッジをして、なんとか急ピッチで仕上げていくことにした。




