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20話 悪徳業者

『あなたのダンジョンの困ったを解決!安い★早い★際どい ワナワナカンパニー』

そのチラシには、派手なフォントでデカデカとした文字が書かれていた。


「際どいって何だよ。もっとキャッチコピーに適したなにかがあるだろ!」

思わずツッコミを入れた。


「でもあの営業のお姉さん、印象は良かったわ。あといい匂いがしたわ。手土産もくれたし」

ローゼリアが腕を組んで当時を思い出す。


「典型的な営業が強いタイプの会社じゃ」


「とはいえ、時間もないし、他に選択肢もないわ!」

俺は首を横に振る。


「いや、一社だけに発注は危険だ。信頼できる業者を探そう。リザ、資料室のバインダーに他社の広告なかったか?」

「はい! たしか奥の棚にあったような……」

「じゃあ、ちょっと探そう。ローゼリアも来い」


クララはというと、久しぶりの対人コミュニケーションで疲れたのか、あくびをしている。

「ボクはちょっと電池切れで〜〜〜す。一眠りしま〜〜〜す」


その場に残されたのは、ハピたす一人だった。


「マグマ噴射装置、ねぇ……」

ハピたすはリザのダンジョン設計メモを覗き込み首をひねる。

ノズルは可変式、出力は三段階……


「シンプルなやつよりも、ドラゴンの口からバーン!のほうが映えるよねぇ?」

ハピたすは、リザが書いていたのをかきかえる。


「ん〜、やっぱビジュがいい方がいいに決まってるよね!」


彼女がチラシを裏返すと、そこにはド派手な新製品がかかれていた。

『【期間限定】膨らむバルーンでモンスター大軍団! らくらくデコイセット』


「これ今日までじゃん! これで戦力盛れるし、魔王っぽさもアップ! 時間ないし、今すぐ発注しちゃう!」


ハピたすは、魔導電話をかけることにした。

「もしもーし? ブレイズ火山のハピたすです〜」


◇◇◇

一時間後。

俺たちが資料室から戻ると、ハピたすが涙や鼻水を垂らして通路に座り込んでいた。


「ど、どうしよう……こんなはずじゃ……」

ダンジョンの通路には、ダンボール箱が山積み。その横には請求書――五十万ゴールドと書かれていた。


「どういうことか説明してもらおうか」

俺が眉間を押さえると、ハピたすは事の顛末を語り始めた。


◇◇◇

「こんにちわ! ワナワナカンパニーでーす! ご注文の罠一式をお届けにきましたー!」

「え! めっちゃ早いじゃん!」

「ええ。弊社はクライアント様第一の超スピード主義ですから! じゃあ、早速ここにサインをお願いします」

「はーい」

「サインいただきましたー! じゃあ失礼しまーす」


ハピたすがうきうき気分で開梱すると、そこには梱包すら、まともにされていない酷い状態で商品が詰め込まれていた。

ドラゴンの絵がプリントされた安っぽい蛇口型ノズルが一つと、雑に袋に入ったゴム風船の束が百個ほど。


「嘘、チラシと全然ちがう。どうしようもう一度、電話しなきゃ」

ハピたすが魔導電話をかけようとするも。

「おかけになった電話番号はすでに使われていません」


◇◇◇

「って感じだったの」

「なんだよ、それ!電話がつながらないのも確信犯じゃねーか。こんなの返品だ、返品!」

俺が叫ぶと、ハピたすが紙を差し出す。

「ノークレーム・ノーリターン・ノーキャンセルでお願いします」

「何だよ、それ」

深いため息しか出ない。


「……起きたことは仕方ない。動作確認くらいはしようぜ」


ローゼリアも慰めるように声をかける。

「ハピたす。トラブルなら慣れたわ」

「いや、お前がいつもトラブルの原因だろ?」

いやいや、ん?と首を傾げられても。


「はあ、文句ばかりいってても仕方ないからな。気を取り直して設置するぞ!」


俺はローゼリアとノズルを設置しようとする。

「リザ、図面通りここにつければいいんだな?」

「はい、仕様ではここに設置をすれば、マグマの流れ的に問題ないと判断しました」

「わかった、じゃあここに付けるぞ!」

溶岩壁にノズルをねじ込み、バルブをそっと捻った。



ブシャァァァァアアアア!!!



真紅のマグマが暴力的な勢いで噴射された。

「「あぢゃーーーー!!!!」」

俺とローゼリアは床に転がる。


「おいおい、いったんオフるぞ!」

しかし、出力調整ダイヤルは、MAXからピクリとも動かない。


「このままだと、ダンジョンの中にマグマが流れ込むぞ! 塞ぐ何かないか?」


「目には目を! ドラゴンにはドラゴンよ!」

マグマの熱で頭をやられたのか、ローゼリアがわけのわからないことを言っている。


「おい! そんなんで塞がるわけないだろう!」

混乱したローゼリアはダンボールの方へ駆け出すと、ドラゴンの描かれた風船を袋から取り出した。

すると、あら不思議。風船がぶくぶくぶくと巨大化するではありませんか!


「おい!! なんで風船がでかくなってるんだよ!」

「私は何もしてないわよ!」

「まさか、熱で膨張してるのか!」



ピュウルルルゥゥーーーーーー!!!



ドラゴンが描かれたバルーンはふくよかボディを超えて、どんどんデカくなっていく。

タルのような、ドラゴンの大軍団が通路を埋め尽くし、俺らにのしかかる。

「ちょ、アンタ! 変なとこ触んないでよ!」

「無理だって! 持つとこないんだってば!」



ピョーーーォォォォォ!!



空気が抜ける音がする。

「これはヤバい!!爆発するーーー!」



ボン! ボボーン!! ボボボボボーン!!!



「アァッーーーー!!」


破裂音とともに、ドラゴンの風船は次々と木っ端微塵に吹き飛んだ。

あたりには、チョロチョロとマグマが垂れ流しになっている。


「もう無理だ」


時間とカネ、そして労働を生き抜く貴重なHPもごっそりと削られるのだった。


◇◇◇


「これはいったいなんの騒ぎですか〜〜〜」

アイマスクを額にずらしたクララがパワーナップから、阿鼻叫喚の現場に戻ってきた。


「これは」


クララが言葉をつまらせる。


「酷い状態ですね〜〜〜。その髪型どうしたんですか〜〜〜?」

全員先ほどのマグマで髪の毛がちりちりになっている。


「ああ、ちょっと罠の設置でいろいろあってな」

「ふむ、まずは現状把握をしましょ〜〜〜う」


クララが防犯めだまの記録映像を手早く確認する。

「なるほど。爆発事故ですか〜〜〜」


クララは、ゲソを忙しなく器用に動かして状況解析を進めていく。

「このデータを、解析させましょう〜〜〜。Chat Geso Pandora Tentacleにデータを転送中〜〜〜」


「データ解析中……。バグ:安全弁の欠落。バルブの故障。素材耐熱温度<マグマ温度...」

「要するに、バグを塞ごうとして別のバグが発生した感じですね〜〜〜。不具合の対処療法は悪手ですね〜〜〜」

「進捗データを更新中……。プロジェクト進捗マイナス200%に更新」

「おいおい、進捗がマイナスのプロジェクトとか初めて聞いたぞ!」


「みんな!本当にごめん!!」

いつも明るいムードメーカーのハピたすが頭を深々と下げる。

「なるほど、ハピさんがやらかしましたか〜〜〜」


「最近リザっちもすごい成長してるし、クララが戻ってきてからも大活躍だし、でもウチは何もできてないなって」

ハピたすは涙ながらに言葉を紡いでいく。

「それでちょっと焦っちゃったらこんなことに」


「ハピちゃん……」

リザがハピたすのもとへ駆け寄り、肩に手を添える。


「まあ、成果を焦るというのはよくあることですね〜〜〜」

ハピたすは顔を俯ける。


「ただ、ハピさんはもう十分に、みなさんの役に立ってると思いますよ〜〜〜」

「え?」


「まあ、ボクにはない行動力とコミュ力がありま〜〜〜す。計画が不透明なアジャイルな場面では重要だと思いますよ〜〜〜」

「そうだよ、ハピちゃん!私の場合だと、わりと現実的に考えちゃうっていうか、あまりいいアイデアが思いつかないもん。でもハピちゃんはいつも独創的で楽しいアイデアがでてすごいなって!」

「ふたりとも……」


「まあ、大胆さってのも大事だからな」

「リザはちょっと真面目すぎるし、クララは頑固だからね。アナタがいると、バランスがちょうどいいのよ」


「ヨッシー、ロゼちん……」

ハピたすは涙を拭う。


「よし、じゃあラストスパートに向けてウチもがんばる!」


こうしてダンジョンの完成に向けてラストスパートを切っていくのだった。


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