19話 ゲッソーロボ
「それで、最新の資料はどれですか〜〜〜?」
「これだよ、クララちゃん」
クララは、リザが渡した仕様書の束を受け取ると、ゲソでするするとめくっていく。
「ちゃんと精査ができてなくて、つくるのに結構時間かかっちゃうかも」
リザが小声でつぶやく。
「そうですね〜〜〜。ざっと見積もると、工数は200人日というところでしょうか〜〜〜」
「200人日って、どれくらいなの?」
ローゼリアがぐいと体を乗り出す。
「極端な話、1人でやるなら200日。10人でやるなら20日という感じだ」
「じゃあ200人でやれば1日で終わるじゃない!」
とにかく明るいローゼリア。
「そんな人員どこにいるんだよ!」
うぐぅ、とうめきながらローゼリアは肩を落とす。
「ただ、これはふつうにやる場合ですね〜〜〜ボクがやるなら、もっと早くできますね〜〜〜」
「本当か!?」
「まあ、一度ラボにきてくださ〜〜〜い」
俺らはクララの後をついていく。
そこには、魔法でかかれたディスプレイや、キーボードなどが散らかっていた。
「Chat Geso Pandora Tentacle、この仕様書読み込んでタスク化、実行してくださ〜〜〜い」
天井から吊るされた魔法のモニターが光り、機械的な声が洞窟にこだまする。
『残リノ アクションアイテムヲ リスト化シマス──進捗率ヲ計算中……』
「すごいな、全自動のAIみたいなものか。人間界にもこんなのはないぞ」
数秒後、空中に三本の線が描かれた折れ線が浮かび上がった。
「すごいな。バーンダウンチャートか?」
クララは無言でこくりとうなずいた。
「バーンダウン? 何かを燃やし尽くすの? 準備ならできてるわよ!」
ローゼリアが炎をまとわせて構える。
「お前はもうプロジェクトを十分燃やしてるから、それ以上は間に合ってる」
これ以上、燃やされてたまるかと消火する。
「これはなにかを表してるのよね? 見方がさっぱりわからないのだけど」
「ああ。バーンダウンチャートというのは、縦軸は残りのタスク、横軸が時間を表したグラフだ。一般的には三つの線があって、理想、計画、実績という線がある」
聞いておきながらも、聞き慣れない単語の洪水に、ローゼリアはまるで集中していない。
「まあ、計画と実績というグラフが離れているほどやばいと思ってもらえばいい。それだけ理想と現実の間にズレがあるからな」
「つまり、私たちのダンジョンは……」
「このままだと、確実に急行デスマーチ行きだな」
ローゼリアは肩を落とすのだった。
「残りのタスクが見えてきたので、あとは作業にとりかかりま〜〜〜す」
クララは、巨大な螺旋状プレスとドラムを備えた金属塊をがちゃがちゃとと操作をし始める。
「ガジェット No.48 ――ねりねりねーりね君で〜〜す」
「ツールに変な名前つけるの、エンジニアのあるあるだよな……」
俺は苦笑した。
「ボクらでダンジョンを掘るのは非効率なので、ここはゴーレムにやらせま〜〜〜す」
「おお、そんなことできるのか」
クララは土と水を計量カップへ放り込み、スイッチを一押しする。
機械が低く唸り、三つの粘土の塊が吐き出される。
それが、いそいそとベルトコンベアのようなものを通り過ぎると、三台のビークルのようなものへ早変わりした。
無機質な金属装甲が形成され、キャタピラやドリルがついている。
「これはゴーレムというより戦車だな」
「これはゲッソーマシンで〜〜〜す」
「ゲッソーマシン?」
「合体したら、ゲッソーロボ2号になりま〜〜す」
「なんか権利的に不安な名前だな」
「ロマンは正義で〜〜す」
パーツが回転し、三台は一瞬で人型のロボットへと合体した。
ドリル状のゲソが高速回転を始めると、地面が震え、わずか数時間で新フロアが掘り進められていった。
「おいおい、なんで今までやらなかったんだ!」
「あまり気乗りがしませんでした〜〜〜」
「なんでだよ!」
「報告デス。作業中二未確認ノ遺物ヲ発見シマシタ」
「遺物?」
ゲッソーロボが掘り起こしてきたのは、布でぐるぐるに巻かれた棒状のものだった。
「なんだこれ、剣か」
巻かれた布をくるくると剥がしていくと、地中に埋まっていたのが信じられないくらいサビ一つない剣が出てきた。
刀身は真紅に煌めいている。
鍔元に埋め込まれた宝玉の中では、魔界の炎がゆらめいている。
「この剣はもしかして」
リザの視線が剣に集中する。
「魔剣レーヴァテインね。まさかこんなところにあるなんて」
「すごい剣ってことだよな」
「以前、人間界の勇者と魔界の魔王で大きな戦いがあったんです。その頃、劣勢に追いやられていた魔王が一太刀で一軍を切り裂いたとも言われています」
リザはこめかみに指をあて、思い出すように口を開く。
「そんなすごいものだったら、ローゼリアがこれで勇者を倒せばいいんじゃないか?」
「そうね。じゃあちょっとやってみるわ。って重いわね」
ローゼリアは剣を受け取って、振りかぶろうとするも、持ち上げることができなかった。
「ちょっと私には使えないわね」
「そうか」
一同に沈黙が走る。
「じゃあさ、売っちゃう? 大金持ちになれるってことだよね?」
ハピたすがぽんとひらめく。
「いや、売ろうとしてもどこに売るんだ? それに、そんなにすごいものだったらさすがに手放さない方がいいだろう」
「それもそっか〜。じゃあさ、もう飾っちゃおうよ! ありがたや〜って」
「ハピたす、アナタもうちょっと真面目に考えなさいよ」
「いや、悪くないんじゃないか?」
「え?」
一同は驚く。
「このダンジョンに来たら、伝説の魔剣があると知らしめるんだ。そうすれば、このダンジョンにきたところを一網打尽にできる」
「でも、この一本しかないのにそんなにうまくいきますかね」
リザも不安げだ。
「一本あれば十分だ。このお宝をゲットして油断したところで、即死級の罠を発動させればいい。そうすれば、勇者は倒せるし、またそのお宝を回収できる
「アナタ、だいぶ悪そうな顔をしてるわね」
「でも、マグマ床はまだ動作が不安定で」
リザは不安げだ。
「ん〜、それだったら、マグマを下からだけじゃくて、上からも横からもぶしゃーってやるのはどう?」
ハピたすが小悪魔な笑みを浮かべる。
「確実性は高いほうがいいな。それでクララ、そういうのはつくれるのか?」
「それは残念ながらできませ〜〜〜ん」
「なんでだ?ゲッソーロボはつくれるのに?」
「あれはロマン枠なので〜〜〜。それに、ボクは魔法使いではないので、仕様がないものはつくれませ〜〜〜ん」
「じゃあ、リザ。そういうのは仕様に起こせそうか」
リザは首を振る。
「ダンジョンの図面ならイメージできるのですが、罠のほうは仕組みがあまりわからなくて」
「そういえば、前にトラップ開発の営業にきた会社があったわね」
ローゼリアが取り出したのは、一枚のチラシだった。




