22話 プロモし忘れたので、ダンジョンに勇者がまったく来ません
「残るタスクもあと少しだな」
魔導モニターに映し出されたバーンダウンチャートも急速な追い上げをみせ、進捗率も98%のところまできた。
「後はダンジョン内の誘導灯のスイッチをオンにすれば」
ローゼリアがスイッチを押すと、ダンジョン内に、勇者を奥へといざなう灯りがともされる。
進捗率100%「All Done」という文字が魔導モニターに映し出される。
「よし!これで完成だ!!」
ついにここまでやってきた。30日で未経験ながらダンジョンをつくるという無理ゲーに対して、なんとか1日ほどバッファを残すことができた。
「さあ、勇者どもよ。かかってきなさい」
ローゼリアがいつでもどうぞ、と構えているが、ダンジョンは静かである。
「どうなってるのよ。せっかくダンジョンを作ったのに、勇者の人っ子一人も来やしないじゃない!」
思い通りにならない結果に、ローゼリアがテーブルをドンと叩く。
「そりゃあ、知名度がないんだから当然だろ。そもそも、まだ宣伝してないんだから」
「じゃあ、どうすればいいの?」
そうだな、と俺はため息をつく。
「うーん……まずは勇者が集まる場所で告知する、ってのはどうだ?俺らのターゲットユーザーだしな」
「だったら勇者ギルドね」
ローゼリアは顎に手を当てる。
「そいつはまったくもって都合がいい場所があるな」
ローゼリアが言うには、勇者たちの情報交換や依頼を受け付ける場として勇者ギルドというのがあるらしい。いわゆるMMORPGにある一般的なアレだ。
「ギルドには掲示板があるはずだから、そこに貼ればいいと思うわ」
自分で言っておいてなんだが、敵地に赴くのはどうなんだと思いつつも、今回のターゲットは勇者だから、そこに貼るのは集客の観点では合理的な考えだとは思う。
俺らはこのブレイズ火山にある勇者ギルドに向かうことにした。
「敵地に潜入?なんかワクワクするね〜」
ハピたすが翼をパタパタとさせながら、乗り気な声をあげる。
「それで、どんなふうに宣伝をするの?」
「ん〜、そうだな」
俺は言葉を詰まらせる。
というのも、プロモーションは頭では理解しているつもりだが、ゲームの運営でやるプロモーションというのは既存ユーザー向けのものが大半だ。
新規ユーザー向け、となるとあまり俺も経験がない。
「じゃあさ、みんなで考えてみよーよ!」
「そうだな。一案だけ出してみるよりも、複数つくってみて反応のよさそうなクリエイティブを見つけるのが鉄板だしな」
複数案をつくってみて、反応がよかったものをテストしてみるというのがWebではよくある考え方だ。実はクオリティ高くつくったものが反応がよいとも限らず、意外と素人っぽいものが反応がよかったりする、というケースも多分にあるのを知っている。
「まあ、じゃあ一人一案くらいはつくってみるか」
「ボクはそういうのは、管轄外なので、お任せしま〜〜〜す」
クララは面倒そうにあくびをする。
「何でもいいってワケじゃないから、要件だけは確認しよう。今回は俺たちがつくったダンジョンを勇者たちに知ってもらって、来てもらうのが目的だ。そこで誘い込んだ勇者たちを一気に倒す。あとの表現は、まあ任せる」
そうだ。育成には任せるというのも必要だし、一つくらいいいアイデアも出るだろう。
ということで、半分言い聞かせることにした。
◇◇◇
「じゃあ、ローゼリアがつくったやつを見せてくれ」
「ふふん。これは自信作よ」
ローゼリアは、勢いよくばっとつくったチラシを俺たちの前に突き出してくる。
『下等勇者どもよ。我が焔に屈し、魔剣レーヴァテインの供物となるがいい』
と、おどろおどろしい色味で書かれたものだった。
「これは広告というよりは、ただの宣戦布告じゃないか」
「なんかよくわからないけど、ちょっと怖いね」
ハピたすも苦笑いしている。
まあ、でも意外とこういう中二っぽいのが好きな勇者もいるかもしれないしな、と思いつつ。
「じゃあ、次はリザ」
「私のはこれです」
リザは少し恥じらいながらチラシを差し出す。
『ダンジョンの最奥に刺さった硬いレーヴァテイン、抜きたい勇者さんいらっしゃい』
剣が刺さっているというシンプルなビジュアルだが、やたらフォントが色艶めいている。
「なんというか、誤解を生みそうな表現だな」
「え!私はそんなつもりじゃ」
「どんなつもりで書いたんだよ! じゃあ次は俺のだな。これは結構自信作だ」
俺のは要件をきちんと抑えている。これなら問題ないはずだ。
『レーヴァテイン取得イベント開催! 所要時間:120分 参加条件:ブロンズ級勇者以上 報酬:魔剣レーヴァテイン、経験値、ゴールド その他 炎系装備』
どうだ。
いつどこで、誰が何をして、何を得られるかという必要な情報がしっかり網羅されているだろう。これなら、情報がしっかりと伝わるはずだ。
「文字がいっぱいで、ウチは読みにくいかも」
「はあ、長すぎて頭に入ってこないわ」
「ヨシヒロさんの性格がよく現れた文章、って感じがしますね」
まさかのダメ出し。
たしかに、よくよく見てみると免責事項がびっしりと書かれた利用規約のようだ。
「よし、じゃあ最後はハピたす頼んだ」
「ふっふっふー。これはなかなか自信作だよ!」
そこに描かれているのは、バストアップでピースをしたハピたすの自画像風と、ハッシュタグの数々だった。
おハピたす!
伝説の魔剣ゲットしにいこー♡
いまならウチと会えるかも?
# 魔剣レーヴァテイン⚔️
# ブレイズ火山#ダンジョン
# ブロンズ勇者 # シルバー勇者 #ゴールド勇者
# モンスター娘 #てへぺろ女子 #自撮り女子
「わ!ハピちゃんかわいい!」
「おお、なんかよくわからないけど、目立つは目立つな」
「まあ、来てくれれば、私が業火で焼き尽くすだけよ」
なにはともあれ、ダンジョンに魔剣があるということはどれを見ても伝わるだろう。
後はこれを目に留まる位置に置くだけだ。
◇◇◇
「よし、じゃあダンジョンの広報活動を始めるぞ」
勇者ギルドというのも、一大産業のようで魔界の各地方に点在している。
このブレイズ火山地方も多分に漏れず、勇者ギルドの支部がある。
「ここが勇者ギルドか」
そのままの姿で潜入するのは、さすがに目立ちすぎる。
俺たちは正体がバレないように、黒いローブを上からバサッと羽織っている。
こんなの余計に目立つじゃねーかと半ば呆れつつ、扉を開けて足を踏み入れた。
床には無数の靴音や話し声が聞こえ、活気に満ち溢れている。
見渡す限り、勇者たちが何十人もいるように見える。
「ここが勇者ギルドか。さすがに、人が多いな」
「まぁ、勇者が集まるところだものね。私が魔王として来るのも妙な気分だわ」
ローゼリアは、ゴゴゴと威圧的なオーラを出しながら警戒する。
「なんだ、寒気が」
勇者たちは違和感に気づいたのかビクッとしながらもこちらに視線が集まってくる。
「おいおい、なんか禍々しいやつが出てるぞ、抑えろ」
ハピたすは任務を忘れたのか感嘆の声を漏らす。
「うわー!思ったより広いね~!掲示板ってあそこかな?」
リザがきっとそうだね、と呟く。
掲示板の前には、討伐クエストや収集クエストなど、依頼を物色する勇者たちが立ち止まっている。
「勝手に貼るわけにはいかないから、さすがに受付を通すか……?」
俺はローゼリアに目配せをした。
「こういう時はハピたす!アナタの出番よ!」
「オッケー!ロゼちん。ウチにまかせて!」
ハピたすが物怖じせずに掲示板の方に向かっていく。
「ちょっとごめんね〜!そこのスペース空けてくださーい!」
ハピたすがよく通る澄んだ声を出し、貼るためのスペースを確保しようとする。
しかし、いかにも強面の勇者たちがチラッとこちらを見て目を光らせる。
俺は「すみません」と平謝りしつつ、急いで掲示板の端の方に、広告をピンで留めた。
そそくさと立ち去ろうとすると、勇者たちが広告を異様な目で見やる。
「なんだ、魔剣レーヴァテイン?」
勇者の一人が呟く。
「えーっと、場所はブレイズ火山?なんだダンジョンが発生したのか」
いや、自然発生じゃなくて、僕らががんばってつくったんです、とは言えない。
「このおハピたすって書いてある嬢ちゃん、なかなかかわいいじゃないか」
「どれどれ」
三者三様の異なるトンマナのチラシが目に止まったのか勇者たちが集まってくる。
どうやら悪くはない結果が得られたようだ。
「よし、じゃあバレないうちに戻るか」
ギルドを後にしようとした時、ギルドの扉が静かに開く。
その姿をみると周囲がざわつく。
「あの首元のプレート……すげぇ白銀級だ。初めてみたぞ」
「天使を思わせる白い翼……まさかあの人は?」
「エインゼルさん、S級クエストの達成おめでとうございます。ファフニールの討伐お疲れ様でした。」
ギルドの受付嬢が声をかけると、辺りで傍観していた勇者たちがざわざわと騒ぎ立てる。
「ファフニール? 魔界の伝説のドラゴンじゃないのか?」
「人間一人で相手にできるものなのか、一体どういうことなんだ!」
「ありがとう。今回ばかりは少し苦戦したかな」
エインゼルという男は驕ることもなく、静かに語る。
「何をおっしゃるのですか。本来、このS級クエストというのは、ゴールド級の勇者が8人のパーティーを組んで挑むものですよ。苦戦しない方がおかしいんです!」
「おいおい、なんかとんでもない勇者が来てるぞ。さっさと帰るぞ」
俺は小声でローゼリアに耳打ちする。
「そうね、さすがに分が悪いわ」
さすがのローゼリアもダンジョンの外で、これだけの勇者をひとまとめに相手するだけの力はないようだ。
ということで、俺たちは目的も達成できたということで、そそくさと勇者ギルドを後にすることにした。
エインゼルは掲示板のほうに向かって歩いていくと。
「魔剣レーヴァテイン、か。そしてどうやら面白い鼠たちが紛れ込んだようだね」




