翠の魔砲兵
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大休止と些か刺激的な昼食を終えたあたし達は再び鬱蒼と立ち並ぶ木々の奥へと歩を進め始め、それから一時間ほど歩いた後に開けた場所へと到達した。
木々が切り払われる事によって生じたそのスペースには切った木々によって建造されたとおぼしき木製の小さな砦の様な建物が建っていて、あたしはその建物を見詰めながらマリーカに問いかけた。
「ここが、マリーカさんの言っていた魔砲兵隊の拠点なんですか?」
「そうですわ、魔砲兵隊の隊員はエルフですのでこうして森の中に拠点を設けておりますの」
あたしの問いかけを受けたマリーカが答えていると砦から幾つかの人影が姿を現して此方へと近付き、それを確認したマリーカは穏やかな笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「私達に気付いた様ですわね」
あたしがマリーカの言葉に頷きながら近付く人影を見詰めていると人影は白磁の肌と特徴的な形状の耳が印象的な女エルフの兵士達で、彼女達はマリーカの存在に気付くと足を止めて敬礼した後に代表者らしい一人が口を開いた。
「お久し振りです、マリーカさん、本日はどの様な御用でしょうか?」
「お久し振りですわね、本日は私が協力している御方をお連れしましたの、こちらは宝積寺裕香さん、カミラさんやスコルさんが主として仕える事になった御方ですわ」
「そうだよ、裕香はあたしやカミラの主なんだよ」
女エルフの兵士から問いかけを受けたマリーカが穏やかな笑みと共にあたしの事を紹介すると、スコルも明るい笑顔で言葉を続け、その言葉を受けた女エルフの兵士達は驚きの表情であたしを見詰めながら口々に口を開いた。
「カミラさんやスコルさんの、主!?」
「マリーカさんも協力しているって言ってたよね」
彼女達はあたしを見詰めながら驚きと興奮が入り交じった声をあげ、あたしがその様子に若干居心地の悪さを感じているとマリーカが穏やかな笑みを浮かべたまま先程質問をして来た女エルフの兵士に声をかけた。
「と言う訳で今日は裕香さんと共に重大なお話をお持ちしましたの、隊長はいらっしゃるかしら?」
「は、はい、直ちに御伝えします、暫くお待ち下さい」
マリーカの言葉を受けた女エルフの兵士はそう言うと他の兵士達にここに残る様伝えた後に砦へと向かい、残った女エルフの兵士達は興味津々と言った様子でスコルに話しかけてきた。
「本当にこの方がスコルさんやカミラさんの主なんですか?」
「そうだよ、裕香はあたしとカミラの主だよ、とっても優しくて、とっても素敵な女だよ」
「ちょっ、ちょっとスコル、い、言い過ぎだよ」
女エルフの兵士達の問いかけを受けたスコルは朗らかな表情と共に言葉を返し、そのこそばゆい言葉にあたしが頬を火照らせながら抗議の声をあげると小首を傾げながら言葉に続けた。
「言い過ぎなんかじゃないよ、裕香はとっても優しくて、とっても素敵だよ」
「す、スコ……ル!?」
スコルはそう言うといきなりあたしに抱き着き、密着してくるスコルのはち切れんばかりに瑞々しい肢体の感触と温もり、そして仄かに漂うスコルの甘い薫りを受けたあたしが頬を更に火照らせながら戸惑いの声をあげていると女エルフの兵士達から歓声の様な声があがった。
「裕香は優しくて素敵な女だよ、あたしとカミラの主は裕香だけだかね」
「……うん、ありがとね、スコル、スコルやカミラに相応しい主になってみせるね」
スコルの真っ直ぐで表裏の無い言葉を受けたあたしは頬が熱を帯びるのを感じながら答えると、抱き着いてきたスコルの身体を少しぎこちなく抱き締め返し、あたしに抱き締め返されたスコルは心地好さそうに頬を緩めると甘える様にあたしの抱き着いて頬を刷り寄せてくれた。
「あらあら」
あたしとスコルの様子を目にしたマリーカが穏やかな笑みを浮かべながら呟き女エルフの兵士達が真っ赤になっていると、砦に戻っていた女エルフの兵士が戻り、抱き合うあたしとスコルの様子を目にした彼女は頬を仄かな桜色に染めながらマリーカに向けて敬礼した後に言葉を続けた。
「た、隊長の所に御案内致します」
「分かりましたわ、それでは行きましょう、裕香さん」
「……あっ、はい」
女エルフの兵士の言葉を受けたマリーカはあたしに視線を向けながら声をかけ、それを受けたあたしは今更ながらに今の状況を思い出して頬を更に火照らせながら応じつつスコルから離れ、それを確認したマリーカに頷きかけられた女エルフの兵士は小さく頷いた後にあたし達を砦へと案内してくれた。
女エルフの兵士達は歩きながら真っ赤な顔でちらちらとあたしの方に視線を送り、あたしは頬が火照るのを感じながら自分の行った行動を思い返して軽く凹んでいた。
「どしたの、裕香?」
「うん、何でもないよ、スコル、少ししたら立ち直るから心配しないで」
あたしの様子を目にしたスコルが怪訝そうな面持ちと共にかけてくれた言葉を受けたあたしは軽く凹んだまま応じ、その様子を目にしたマリーカは穏やかな笑みを浮かべていたが不意に何かに気付いた様で前方を示しながらあたしに声をかけてくれた。
「どうやら隊長自らお出迎え下さる様ですわ」
「えっ」
マリーカの言葉を受けたあたしが慌てて視線をマリーカの示したら方向に向けると其処には静かに佇んでこちらを待ち構えているとおぼしき人影があり、それを目にしたあたしは脳裏にあるURキャラの姿を描きながらマリーカに問いかけた。
「あれが魔砲兵隊の隊長なんですか」
「そうですわ、きっとあの方も裕香さんの事を気に入って下さいますわ」
あたしの言葉を受けたマリーカは穏やかな笑みと共に答え、あたしは頷いた後に砦の前で佇む人影に向けて歩を進めた。
佇む人影はあたし達が歩を進めるに従ってその輪郭を徐々に明らかにして行き、やがてあたしが脳裏に描いていた通りの姿の人物の姿となった。
艶やかな金糸のストレートロングの髪と白磁の肌に澄んだ碧眼に特徴的な形状のエルフ耳の形成する美貌にエメラルドに輝くライトアーマーに包まれた女性らしい緩やかな曲線を有したしなやかな肢体、凛々しさと美しさを併せ持った美女は静かに佇みながら近付くあたし達を見詰め、マリーカは穏やかな笑みを浮かべながら佇む美女に向けて口を開いた。
「お久し振りですわね、メルクリリスさん」
「珍しいわね、アンタがここに来るなんて」
マリーカに声をかけられた美女、URキャラ、メルクリリスは勝ち気な表情と共に言葉を返し、それからあたしに視線を向けながら更に言葉を続けた。
「ところでコイツ誰なの?アンタやカミラが一緒なんだしその格好からあたし達の御同業なのは分かるけど初めて見る顔なんだけど」
メルクリリスは訝しげな顔付きであたしを見据えながら言葉を続け、それを受けたあたしは慌てて一礼した後に口を開いた。
「はじめまして、あたしは宝積寺裕香と言います、宜しくお願いします」
「裕香さんは現在私が協力させて頂いているお方ですわ」
「そしてあたしとカミラが仕えている主だよ」
あたしが自己紹介を行うとマリーカとスコルも言葉を続け、それを聞いたメルクリリスは訝しげな表情を浮かべたまま言葉を続けた。
「……使いの兵もそう言ってたけど、どうやら本当みたいね、その話、それにしてもアンタがスコルやカミラの主ねえ」
メルクリリスは半信半疑と言った面持ちで呟くとあたしを見詰め、暫くした後に小さく肩を竦めながら言葉を続けた。
「まあ、良いわ、それで、あたし達に何の用なの?単なる挨拶だけに来た訳じゃ無いわよね」
「勿論ですわ、メルクリリスさん、今日は御仕事の話をしに参りましたの」
「仕事?誰が依頼主なのよ?」
メルクリリスの言葉を受けたマリーカは穏やかな表情を浮かべながら言葉を返し、それを受けたメルクリリスが訝しげな表情のまま発した疑問の問いかけに対して穏やかな笑みと共に返答した。
「今、貴女の目の前にいらっしゃる方ですわ、メルクリリスさん」
「……えっ?」
マリーカの返答を聞いたメルクリリスは戸惑いの声をあげ、それを聞いたマリーカは穏やかな笑みを浮かべたまま更に言葉を続けた。
「依頼主は裕香さんですわ、より正確に言えば私達は今、来るべき戦いに備えてある部隊を編成しようとしていて、裕香さんはその隊長ですの、ですから依頼主が裕香さんと言う事になりますわ」
「……ふーん、アンタが隊長ねえ」
マリーカの説明を聞いたメルクリリスはそう言いながらあたしを暫く見詰めると、勝ち気な笑みを浮かべながらあたしに向けて口を開いた。
「……良いわ、取りあえず話を聞いてあげるわ、退屈しのぎくらいにはなるでしょうから」
「ありがとうございます、メルクリリスさん」
メルクリリスの言葉を受けたあたしは一礼しながら言葉を返し、メルクリリスは小さく頷いた後にあたし達を砦の中へと案内してくれた。
あたし達が砦の中に入ると女エルフの兵士達が滑らかな燻し銀の光沢を放つ銀製の小型砲を磨いていて、それを目にしたあたしは思わず口を開いていた。
「……あれが、魔砲」
「……そうよ、あれがあたし達魔砲傭兵隊が使用している4ポンド魔砲よ、現在あたし達は8門装備しているわ」
あたしの呟きを受けたメルクリリスは勝ち気な笑みと共に説明してくれ、あたしは頷くと磨かれている4ポンド魔砲の燻し銀の砲身を横目に見ながらメルクリリスの後に続いた。
(……これからあたしはこの世界の歴史に加わる事になる)
あたしは胸中でそう呟きながら前を進むメルクリリスの背中を一瞥し、その後に脳裏にカミラの姿を思い描きながら傍らを進んでくれているマリーカとスコルに視線を向けた。
あたしが視線を向けるとマリーカとスコルは穏やかな表情で頷いてくれて、それを目にしたあたしは微かに頬を緩めて頷いた。
(正直言うと不安でしょうがない、だけどあたしには彼女達がいてくれる、彼女達と共にこの世界を征こう)
あたしは胸中であたし自身に喝を入れ、その後に視線を前方に戻して前を進むメルクリリスの後に続いた。
迫る戦雲に備えて部隊を編成する為に訪れた森の中の小さな砦、その砦であたしは新たな出逢いを経験した。
気高き森の種族の兵達が操る銀の魔砲兵隊を指揮する凛々しくて勝ち気な美女、あたしが出逢った四人目の女は凛々しく勝ち気な翠の魔砲兵……




