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ミントゥスさんは持っている紙切れに目を通しながら話す。
「我らが調べたところによれば、なんでも歳を取らないその巫女は、宙を舞うことができ、人の心を読み解き、そして願いが叶う未来を与える……という話です」
「そりゃあ、魔法があった時代から見ても胡散臭さしかないだろ? よく今まで摘発されなかったな」
肩を竦めてシシロウさんが言う。
するとミントゥスさんが釣り上がった口角を隠すよう、口元を指先で隠しながら答えた。
「“巫女”と呼ばれているようですからね……『神事における魔法は目を瞑る』というのが、当時からの暗黙のルールですし」
その当時、世界で最も信者の多い信仰は“魔の神信仰”であったが、古からの土着信仰や精霊信仰も残っていた。
そういった旧信仰が対抗するべく、自分たちの神にも『不可思議な力がある』と誇示していたのだということだ。
……ついてくる人はついてくるのだから、そんな張り合う必要があったのか、私にはわからないけど。
「ですがどうやらこの村の者たちが崇拝しているのは“魔の神”なんだそうです。しかも噂が立つようになったのはここ10年ほど前からだとか……どうです? 気になりますよね?」
ミントゥスさんがシシロウさんの顔を覗く。
その微笑みは何かを孕んでいるとでもいうように、歪んでいた。
だが、シシロウさんも負けじと目を爛々とさせて笑った。
「ああ――で、その村への行き方もちゃんと調べてあんだろ?」
「もちろんもちろん。村へ入るには専用の通行証が必要なのですが、内通者の協力によって、ここに用意してあります」
そう言うとミントゥスさんはスーツの内ポケットから長方形の木板を取り出す。
どうやらそれが通行証らしい。
「これがあれば今すぐにでも村に入ることはできるでしょう」
通行証を受け取ったシシロウさんはさっさとポケットにしまう。
「善は急げって言うしな、荷物をまとめたらすぐにでも――」
「あ、あの!」
私の一言にシシロウさんの視線がこちらを向く。
「私も一緒に行ってもいいですか?」
「行くって、どこにだよ?」
「その巫女様がいるという村です」
「なんでだ?」
「なんでって……行きたい、見てみたいんですよ」
単純な好奇心、と言ってしまえばそれまでなのだが。
未だ魔法を使うと言われている巫女がどんな人物なのか。興味が湧いたのだ。
だが、いかにも面倒くさそうな顔でシシロウさんは首を左右に振る。
「ダメだ。お前は家で掃除してろ」
「ど、どうしてですか!? 私はシシロウさんのお世話を頼まれてるんですから、一緒に行ってもいいと思います!!」
なんとか食い下がろうと、とにかく思ったことを叫んで対抗する。
すると、意外なところで助け舟がやってきた。
「実のところ、ここにもう一つ通行証があるんですよ。せっかくのお世話してもらっているのですし……いいじゃないですか、彼女を連れていっても」
そう言ってミントゥスさんはもう1つの通行証を取り出してみせた。
シシロウさんと私で、しかめっ面と笑顔の正反対の表情を浮かべる。
「本当にいいんですか!?」
「お前は……余計なことしてくれてんじゃねえよ」
「いえいえ、私はシシロウ殿の買い取り価格とこの情報料&通行証一つでは割に合わないと思ったまで。責めるならば値を吊り上げた貴方自身を恨んでください」
どうやら法外な買い取り価格で脅迫したことへの意趣返し、というやつらしい。
それを裏付けるかのように、ミントゥスさんはヒヒヒと口端を吊り上げていた。
「やった! ありがとうございます!」
通行証を受け取った私は大事にそれを両手で抱きしめる。
と、ミントゥスさんはやおらもう一つ、それを私に差し出してきた。
「ついでに、特別サービスでこの“残滓のオーブ”も差し上げましょう」
「……え? いいんですか?」
思わぬサービスに私は目を白黒させながらミントゥスさんとオーブを交互に見つめる。
彼は大きく頷いて言った。
「はい。貴方に持たせた方が何かと面白――役立つかと思いますので」
明らかに『面白そう』と言いかけていた。
お金にうるさい人かと思ったが、案外そういった遊び心も持ち合わせているようだ。
「ただし、オーブには使用限度がありまして、それを超えてしまえばただの塊となってしまうのでご注意を」
オーブの説明書も一応もらいはしたが、並んでいる文章に目を通すだけで頭が痛くなりそうだった。
「それでは! ワタシはこれにて失礼いたします。また何か売買の話がありましたら、いつでもご連絡ください」
丁寧に腰を折り曲げてそう言い終わるなり、ミントゥスさんたちは馬車に乗り込んだ。
そして、颯爽と去っていったのだった。
彼らの馬車が消えた後、シシロウさんは深いため息を吐いた。
「まったく、相変わらずいい加減な野郎だぜ……マルルも気を付けとけよ。アイツらは元賊あがりだから、付け込まれたらあっという間に無一文だ」
「そうなんですか?」
確かに買い取り価格の交渉で見せた“凄み”は商人と言うより“賊”のそれだと言われると納得してしまうが……。
私は軽く首を傾げながら言った。
「シシロウさんのことよく理解している“良い人”そうじゃないですか」
「お前は……どこをどう見たらそう思えんだ?」
頭を抱えるシシロウさんを他所に、私は通行証とオーブを大切に抱えながら家の中へと戻っていく。
「それよりも! 善は急げなんですよね? だったら、荷物をまとめて早く出発しないと!」
「……つか、なんでそんなに楽しそうなんだよ」
「まあまあ、いいじゃないですか」
巫女様への興味もあるが、何気に“旅”という言葉に胸が高鳴っていた。
なにせ生まれてこの方、シシロウさんの家にやって来るまで島外に出たこともなかったのだから。
「そこの村って、温泉とかあったり美味しい名産品とかあったりしませんかね?」
正直言って浮かれている私の背に、シシロウさんのぼやきが聞こえてくる。
「観光と勘違いしてるみてえだが……そういう村は楽しいもんじゃねえんだよ。絶対後悔するぞ」
彼の忠告に、私はいまいちピンと来ない。
「はーい、わかりました」
なんて、軽い返答をして荷物をまとめていた。
だが、シシロウさんの言葉は間違っていなかった。
まさか、これから向かう村であんな展開が待っているとは――。
このときの私は微塵も思ってはいなかったのだった。




