クレールモンでの出会い
時は夕方。
市場から宿に帰る途中の道は人通りも多い。
石畳を靴が叩く音が幾つもした。
私たちの周囲を何人もの人が通り過ぎていく。
その中で、私たちの時間だけが止まっていた。
姉と向こうの子供たち二人は、完全に動きを止めている。
互いの顔をジッと見つめたまま、フリーズした。
大人の男性だけが、前と後ろ、両方の様子を見渡していた。
判断しかねている感じがした。
茶色い長い髪を後ろで縛った四十代の男性。
右目は多分、見えていないのだろう。
眉毛から真っすぐ下に深い切り傷があった。
服装は冒険者そのものだ。
獣の革を加工したブーツ、ズボン。
麻のシャツの上に毛糸の上掛け、その上にも革ジャケットを着ていた。
殺気は消えたが、武器には手を当てたままだ。
いつでも抜ける。
その判断だけを保留、停止しているに過ぎない。
衛兵の様に大剣を背負っている訳ではない。
もっと細い剣を腰から差していた。
あれは、東の国の刀だ。
「えっと……。私の名はララ・スティエルナ。貴方たちはどなたさん?」
私が声をかけることで、みんな意識を取り戻したみたいだ。
男の子がクスリと笑って、私に向けて返事をした。
「こんにちわ。僕たちはチャールズとフローレンス。驚かせたみたいだね。ごめん。それで……、そっちのお姉さんは……」
「おい。チャールズ、やめぃ。こいつじゃ。こいつが女神が言っていた終末の使徒や。気ぃ引き締めぇや」
片目の茶髪の男性が笑顔で近づくチャールズを制止した。
その進路を自分の背中で塞ぎ、こちらに向けて左目を細めた。
良くみると、右目を潰した縦傷以外にも、頬にも小さな傷が沢山ある。
「オジサンたちも使徒さん? 後ろの男の子と女の子も?」
私がそう言ったことで、チャールズの眼差しにも厳しさが宿った。
片目茶髪剣士がニヤっと笑って、右腕の上着をひっぱって、二の腕を見せた。
『XXV』と紋章が入っていた。
あれは二十五という意味だ。
ローマ数字。
空間部屋の書庫でローマ数字のルールを知った。
私は1。
アス姉の『LV』は五十五。
トールの手甲には『LXV』とあった。六十五だ。
「二十五番目の使徒さんね。どうする? ララ達は話し合いたい。後ろの姉似の女の子は倒したくない。出来れば理解し合いたい。お友達になりたい」
「お友達って学生じゃな……」
チャールズと言っていた男の子が言いかけた途中で、片目茶髪剣士が動いた。
カンっと硬質な音がする。
速いな……。
全然、剣筋が見えなかった。
刀を抜いて、また鞘に収めたのだろう。
その動作すらも見えなかった。
でも、どんなに速くても、結界は斬れない。
あれだけ止まっている時間があれば、私も三人を囲う結界が張れる。
「おい。貴様。何をした?」
「閉じ込めたの……。オジサンの答えはそれ? 話し合いはなし? 友達もなし?」
「ワシは人類の敵と慣れ合うつもりはなか」
「今、むしろ、人類の敵になっちゃっているのは、オジサン達だよ。そのつもりもなく、人類の敵になっちゃっているの」
片目の茶髪剣士がゆっくりと刀を抜き、結界に向けて振り下ろした。
同じように、カンっていう音と共に、刀が弾かれる。
右手に刀を持ったまま、目を瞑った。
「オヤジさん、私は少し話したいわ。この人たちが神の敵とは思えないのよ。おそらく、何らかの事情や理由があるはずよ。それを聞いてから判断したい」
「うん。後ろの美人さんは分かっている。でも、判断って何?」
「判断は、おチビさんのお友達になるか、敵となるかよ」
ニコっと笑いかける顔も、良く似ている。
そして美しいし、可愛い。
こうやってみると、似ているけど違いも分かってきた。
姉の方が細面でシュっとした顔をしている。
この女の子の方が、頬やおでこに丸みがある。
より柔らかい印象、活動的な印象を受ける。
「敵になったら……。ごめんね……、そのままにしておく訳にはいかないの。人類の敵に与する人たちを放置は出来ない」
「おチビちゃん……、本当に自分たちが正義の味方だと思っているのね……。御姉様も?」
姉は、一つ咳払いしてから、返答した。
「わたしはアス・スティエルナ。ララの姉です。まあ、わたし達は使徒なので、血がつながっている訳ではないですが、一緒に育った姉妹です。ご質問の返答はイエスです。そして、出来れば、お話を聞いて頂きたいです。わたし達も悩み苦しみ、この結論に辿り着きました。多くの代償を払ってでも、真の意味で人類のためになる選択をしたつもりです」
「はい! 決まりです! 僕はお姉さんの味方です!」
チャールズと言っていた男の子が、そう言った瞬間に前から後ろからツッコミが入った。
前からは、片目茶髪剣士が、振り向いて脳天にチョップを落とし、
後ろからは、姉似の女の子が、脛を蹴り飛ばした。
「まあ、やむをえん。ワシらの家に来るが良い」
「いや……。すみません、出来れば、そこの空き地で話せませんか?」
「ほほぉ。信用できないんけ?」
「はい。今はまだ」
「ふっ。わかった。チビちゃん。この透明な壁を外してくれ。まずワシらがそこまで行く。その後、二人がついてくるでどうや?」
「はい、それで結構です」
空き地に移動してから、再び二重の結界を張った。
彼らの周りに透明な結界を。
もう一つは、私達全員を囲う結界をだ。
外側の結界は、透明効果を付与した。
外から誰も見えないと思う。
当たり前だが、女神との通信電波も遮断した。
姉が最初から説明を始めた。
私の転生時の話。
女神との会話。
人食の使徒の教え。
教会の自動機械も全て。
もちろん、頭の中の自動機械や、教会に設置してある自動機械も実物を見せた。
「わたし達はラルナー教の教皇エイナル・アフ・スヴェンソンに育てられました。今の話を、誠意をもって説明したつもりですが、理解してもらうことは出来ませんでした。その結果……。父は自害しました……。わたし達は理解してもらう困難さを身を持って知っています。理解してもらえない苦悩も十分味わいました。それでも、わたし達は自分が信じる道を歩もうと思っています」
「なぁ、オヤジ……。どこにも論理的矛盾はないと僕は思うんだけど。むしろ神の御業なんて言われるよりも、機械でイカサマしているって方が、よっぽどリアルじゃん。何で信じないのさ?」
「オヤジさん、私も同じ意見よ。私は御姉様とおチビちゃん側に付くわ。リュミエールの教会で女神に謁見した時にも、ちょっと違和感を感じたのよね。今の説明でスッキリしたわ」
「だからお前らはガキやって言うんや。どれも、この姉ちゃんが言っているだけやないか。その機械だって、どこかのガラクタから拾っただけかも知れんのやで。甘いんや」
「うん。オジちゃんが言うことは正しい。でも、これ以上の証明はララ達には出来ない」
「せやな。じゃから、今から証拠を押さえて来る。ワシらがだ」
「オヤジ、何をするのさ。また無茶を……」
「この街の教会の尖塔に自動機械があれば、確定や。嬢ちゃん達の勝ち。ワシもそっちに乗り換えよう。約束や」
「いやいや、捕まるって! 衛兵に普通に捕まるっしょ!」
「嬢ちゃんたちが出来たんじゃ。何か手を持っているじゃろ? それを見せい」
「分かった。ララも行く。アス姉とアス姉モドキは私の部屋で休んでいて」
「モドキって何よ! 私は私よ」
「ララ、危険よ。わたしも行くわ」
「大丈夫。何かあれば、このチャラ男を衛兵に差し出して、その隙に逃げて来るから」
「チャラ男って……、ひどいよ」
「ふっ。それや。それでいこうや」
時刻もちょうど夕方だ。
教会が閉じる時間。
潜入するにはちょうど良いと思う。
私は姉と女の子を空間部屋に送り込んだ。
その後、オジサンと男の子に透明魔法をかけて、注意点を説明する。
これまでの経験から、自動機械がある尖塔への上り方も分かっている。
女神像がある講堂に忍び込み、女神像の真上の天井を開ければ、尖塔へ登るハシゴが隠されているハズだ。
講堂の天井は高いので、空間ボールならぬ、空間箱を幾つか組み合わせて、階段にして上がるのだ。
※
尖塔から自動機械を奪った後、安全なところまで透明魔法で行き、空間部屋へ案内した。
「嬢ちゃんの言った通りやったな。約束や。ワシもそちら側に付く。オリバー・アシュトンや。よろしゅう」
ここに戻るまで、何も話さなかった片目茶髪剣士のオジちゃんが、そう言って手を差し出してきた。
私はそれを受けて、握手をした。
友達ゲットである。
男の子の方も手を差し出してきた。
それは一旦無視して、アス姉たちを探すことにした。
「うん。ありがと。アス姉と女の子がいない。どこ行っちゃたんだろう。ちょっとソファに座って待っていて」
アス姉の部屋の扉を開けたが、誰もいなかった。
書庫に行くと、奥の方から話声が聞こえた。
「アス姉! 帰って来たよ!」
「あ、今いくね!」
しばらくすると、二人が戻ってきた。
女の子は両手いっぱいの本を抱えている。
なるほど、本好きも似ているってことか。
きっと、理系の書籍ばかりなんだろうなと思った。
リビングに戻ってから、改めて挨拶を交わした。
三人の頭の中から、自動機械も取り出して見せてあげた。
三人とも諦めた様な顔をして、じっくりと観察していた。
この自動機械を部屋の外に持ち出すと、どう反応するか分からないので、私が三つとも回収した。
オリバー・アシュトン(Oliver Ashton)
今年で四十になるそうだ。
正直、もう少し年上にも見える。
元王国護衛隊員で、今はフリーの冒険者。
二級だと言うから、凄腕なのだろう。
チャールズ・アシュトン(Charles Ashton)
なんと、私と同じ歳だった。
既に姉と同じくらい背が高い。
こっちも、もう少し年上だと思っていた。
同じ歳ということは、この人も『選ばれし使徒』ということだ。
フローレンス・アシュトン(Florence Ashton)
チャールズと同じ日、同じ時にクレールモンの教会前に出現した。
つまり、『選ばれし使徒』だ。
身長をセンチメートルで言うと、百五十五センチくらいある。
十歳にしては、随分大きい。
私が異様に小さい訳じゃないと思う。
この子達が年齢平均より大きいんだ。
「僕らは、オリバーのオヤジに預けられた。それは国王陛下の指示だったそうだ。今年、陛下にも女神にも謁見してきたよ。同じ選ばれし使徒ということになるね」
「チャックも胸に紋章があるの?」
「あるよ」
そう言って、上半身のシャツをめくって、裸を見せた。
別にそこまでしなくてもいいのに。
隣のフローレンスが小さく溜息をついた。
左胸に『XX』と書いてある。
つまり二十番ということだ。
「うん。ありがと。もういいよ。フロは見せなくて良いからね。ちなみにどんな紋章?」
「『V』よ。女神からは『再生』の使徒って言われたわ」
「005(ダブルオーファイブ)ってことだね……。再生か……。何が出来るの?」
「治癒魔法。でも、傷程度しか治せない。オヤジさんの目を治したいと思っているんだけどね」
フローレンスはそう言って、オヤジさんの目に手を当てて、魔法を発動した。
私は念のために、結界魔法で三人を囲っていたので、その魔法を感じ取ることが出来た。
そして、その理由も何となく推察出来た。
「うん……。分かった。多分、練習不足。きっと出来るようになるよ。でも、それはおいおいにしよう。チャックは何が出来るの?」
「『加速』の加護と言われたよ。でも、僕も剣を振るのが少し速い程度だ」
私はチラっと片目剣士の方を見た。
多分、この人に育てられたからだろうと思う。
私には姉がいた。
いつでも、相談に乗ってくれて、助言をくれる存在が。
知的で優しいメンターが近くにいた。
おそらく、その違いだろうと思う。
この二人は、脳筋に育てられた。
それ故、魔法的成長が出来ていないだけだと思う。
きっと、もっと驚くようなことが出来るに違いない。
因みに、片目剣士は、女神に『居合の剣士』と呼ばれたそうだ。
それ以来、ひたすらに剣を磨いてきたと言う。
ミナセという東国の剣の師匠についてから、東国の剣を佩き、居合抜きをマスターしたとのことだった。
「嬢ちゃんたちよ。嬢ちゃんたちの行先はどこや? こいつらが中等学校から卒業したら、同行してもええで」
「いや、同じ思いを持って頂けただけで、有難いです。わたし達は賢者に会いに行こうと思っています。そして、女神を語る不届き者を探し出そうと考えています」
「この自動機械を作って、通信を通して指示しているヤツのことだね。僕も行く。学校なんて何の学びにもならないから、もういいんだ」
「私もよ。チャックの言う通り。この部屋の書籍の方がよっぽど勉強になるわ」
「おいおい。学校を出ているか出ていないかで、将来の職業に大きな違いが出るんや。ワシを見てみい。無学な故に、冒険者にしかなれん」
「オジちゃん、二級冒険者でしょ? すごいじゃん。十分、生きていける」
「チビちゃん、冒険者なんて、社会の爪弾きもの扱いやて。社会の底辺や。幾ら二級でも偉い奴らに体よく使われるだけやて」
「私も三級冒険者。初等科すら出ていない。でも、一生分暮らせるお金は既に貯めた。やりたいことだけやって生きていけばいい。社会の人の評価なんて、別に無くても生きていける」
「ふふ。妹みたいな力があれば、それで良いのでしょうね。でも、オリバーさんが言っていることも間違ってはいないと思います。チャールズさんとフローレンスさん次第ですが、勉強だけであれば、わたしが教えますよ。でも、卒業資格は手に入りません」
「はい! 僕、やります!」
「チャックは不要! 私が生徒になります!」
片目剣士さんは、はぁと溜息をついた。
まあ、社会常識を考えると、学校を出ておけと大人が指導するのは間違っていない。
多くの選択肢を子供に与えることになるからだ。
でも、この二人は、社会で通用する特性を既に持っている。
それが分かっているのならば、その特性を伸ばしてあげる教育をするべきだったと思う。
自分の葛藤を他人に、特に子供に押し付けちゃダメだよ。
そう心の中で呟いた。
「それに……。もし、皆さんが宜しければ、わたし達が雇うという形でも宜しいですよ。わたし達には十分な資産があります。その使い道もないので……。護衛費用とかでも……」
「それはダメです。お姉さんと対等な関係にならなくなる」
「ちょっと、チャック、調子に乗らないで。お姉様、私は教育を受ける側です。むしろ払うのは私達なはず。まあ、お金はないですけど……」
「アス姉、パーティメンバーにしちゃおうよ。これから先のパーティの収入は皆で分け合えばいい。オジチャンは護衛役。チャックは肉壁。フロは新たな癒し役。アス姉が勉強教えて、ララが魔法を教えるよ」
「ちょっと肉壁って……」
「それよ。決まりね、チャック。頑張って肉壁になりなさい。お姉様、そうしましょう」
「はあ。終末の使徒側についたからにゃ、やむをえんかの。ガキども、腕一本で這い上がる覚悟を持つんやで」
「元々そのつもりさ」
「私もよ。でも、お姉様、そろそろ敬語はやめてもらえません?」
「ふふ。わかったわ。じゃあ、チャールズとフローレンスって呼ぶわ。わたしの事はアス姉で良いからね」
「うん。ララのことは、ララって呼ぶことを許す」
「ふっ。小さな妹が一番威張っちゃって。僕はララちゃんって呼んであげるよ」
「そうね……。同じ歳には見えないわ。私もララちゃんか、チビちゃんにしようかしら……」
「ちっ」
「ふふ。でも、チャールズとララって、似ているわよね。わたしとフローレンスは前世で姉妹だったと思えるけど、貴方たちもそう見えるわよ」
それは、実は私も思っていた。
チャックの髪の色は、私と全く一緒だ。
少し黒が混じった銀髪。
この世界に、自分と同じ髪色を持つ人がいるのかと、まず驚いた。
あと顔立ちも似ている。
色々な国の血が混じっているのも同じ。
チャックの方が、東国の血が多い感じがする。
私はもう少し西側の国の色が強い。
でも、精々それくらいの差なのだ。
アス姉と私が姉妹と言うと、誰もが疑うだろうが、
チャックと兄妹と言えば、全員が頷くだろうと思う。
それに……。
何となく同族の匂いもするのだ。
「うぇ。何か嫌。ララ、こんなチャラくない」
「ちょっと、ララちゃん、何気にずっとヒドイこと言っているからね」
「ひょっとしたら、前世で兄妹、姉妹だったからこそ、ララが転生する場所の近くに置いたのかもね。仲間になって、ミッションを協力して遂行させるために」
「そしたら、女神は大失敗したってことだね。逆に敵が結束しちゃったんだから」
「まあ、概ね、同意出来たってことで良いんやけど、嬢ちゃん達、リュミエールに行ってみんか? パーティ登録もする必要があるし、そもそもガキたちは冒険者登録も必要や。あと……、王様には伝えた方が良いと思うんや」
「リュミエール王にですか?」
「そや。あの御方のことは、よう知っておる。ずっと傍付の護衛官やったけんな。あの御方はきっと信じると思うぞ。そして、女神打倒の支援をしてくれると思うんや。ワシが繋いじゃる。悪いようにはせんから、考えてみいや」
姉はそう言われて考えた。
このまま裏街道を進む訳にもいかない。
隣国のヴァルデン共和国に行くまでに、厳しいウィンザーグローブの雪山を踏破する必要が生じるからだ。
どこかで、海岸沿いの統一街道に出るつもりではいた。
でも、リュミエールはカウニアに近すぎる。
もう数日で多くの教会関係者が網を張るだろう。
ただ、上手くいけば、サンテール王国の支援を受けて楽な旅路が出来るかもしれない。
サンテール王国内の通行を認めてもらうだけで、私達には十分すぎる支援だ。
でも、最悪、不要な諍いや戦闘に巻き込まれる。
これは賭けだと思う。
「はい。少し考えさせてください。私の直感はリュミエール王に会えと言っているのですが、不安要素が多すぎて怖いのです」
「良い良い。考えるのじゃ。パーティのリーダーは嬢ちゃんじゃ。さて、ワシらは家に帰るか。旅の支度もせんといかんしの」
「嫌よ。私はここに住むわ。お姉様とチビちゃんと一緒に住む。毎日勉強して過ごせるのよ。あんな汗臭いところには帰らないわ」
「ふふ。旅の間、夜は全員がここで休むのよ。また改装しようかしらね」
「改装? そんなこと出来るんか?」
「ここはララが作った異空間なので、自由に拡大できるのです。ただ、壁やドア、家具は揃えないといけません。どなたか口の堅い大工さんを知りませんか?」
「勿論知っておる。ワシらの部屋も作ってくれるんか?」
「はい」
「アス姉、むさくるしい男たちと同じお風呂に浸かるのは嫌。男湯と女湯は分けて欲しい。トイレも。魔道具はまだある」
「そうね……。でも、そうすると二週間以上、内装工事に時間かかっちゃうかも。あと数日で、教会の人たちがクレールモンに来ると思うの。危険だわ」
「しゃーないな。ワシとチャールズは野外で寝泊りするけ、リュミエールまで行こうや。アヴェリーヌまで十日。そこからリュミエールまで十五日程度や。それくらいなら、我慢するわい」
「宿屋があれば、宿屋を取りましょう」
「分かったわい。出発は明日の朝。チャールズ、行くで。フローレンスの荷物もワシらが纏めんといかん」
「オヤジさん、私の分は捨てても良いわ。お姉様のお洋服を借りるから。私も同じような旅装が着たいのよ」
※
男性陣は自宅へと戻り、私達は宿屋に入った。
宿屋の部屋に入り、そのまま空間部屋に戻る。
フローレンスは姉から衣服を沢山貰い受けていた。
ワークブーツに黒のマントと帽子も渡す。
悔しいけど、凄く似合っていた。
三人で一緒に湯船に浸かり、フローレンスの膨らみ始めた胸を揉んで私は癒された。
少し膨らんだ胸の間に、『V』と大きく刻まれていた。
そして、私の部屋の大きなベッドで三人で川の字になって眠った。
当然、私は真ん中の位置である。
どっちを向いても抱き着く相手が出来て嬉しい。
「あーもう可愛い。こんな可愛い妹が欲しかったのよね」
フローレンスは私の頭を抱えて、やたらと撫で回す。
これじゃ、妹というより娘みたいな扱いだと思う。
「フロ。同じ歳。ララの成長が遅いだけ」
「ふふふ。そういう所も可愛いわ。ずっとチビちゃんでいてね」
隣を見ると、姉も穏やかな笑みを浮かべていた。
少し、身体から余計な力が抜けた様にも見えた。
私と姉は、実はちょっと寂しかったんだと思う。
二人で仲良くやってきた。
それでも、父がいなくなったことで、
大きな穴が心に空いていたのだと思う。
家族を亡くす時は大抵そうだ。
不在感を感じるという不思議な感覚に襲われる。
そして、それは決して、埋まることのない穴だ。
フローレンスは、その穴を埋めたのではなくて、
新しい家族として、新しい形を私達に与えた。
一晩にして、私達の心の中に入ってきた。
貴女達は間違っていない。
私が全肯定するわと。
神敵になるのならば、自分がその片棒を担ぐわと。
そう全身で表現してくれていた。
その振る舞いは私達を安心させたし、有難くもあった。
社会の全てを敵にするのは、正直二人だけでは重すぎるのだ。
フローレンスの胸に顔を埋めていると、
不思議と、魂が震えているのが分かった。
私の魂の奥の方が、喜んでいるのが分かった。




