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9/28

クレールモンでの出会い


時は夕方。

市場から宿に帰る途中の道は人通りも多い。

石畳を靴が叩く音が幾つもした。


私たちの周囲を何人もの人が通り過ぎていく。

その中で、私たちの時間だけが止まっていた。


姉と向こうの子供たち二人は、完全に動きを止めている。

互いの顔をジッと見つめたまま、フリーズした。


大人の男性だけが、前と後ろ、両方の様子を見渡していた。

判断しかねている感じがした。


茶色い長い髪を後ろで縛った四十代の男性。

右目は多分、見えていないのだろう。

眉毛から真っすぐ下に深い切り傷があった。


服装は冒険者そのものだ。

獣の革を加工したブーツ、ズボン。

麻のシャツの上に毛糸の上掛け、その上にも革ジャケットを着ていた。


殺気は消えたが、武器には手を当てたままだ。

いつでも抜ける。

その判断だけを保留、停止しているに過ぎない。

衛兵の様に大剣を背負っている訳ではない。

もっと細い剣を腰から差していた。

あれは、東の国の刀だ。


「えっと……。私の名はララ・スティエルナ。貴方たちはどなたさん?」


私が声をかけることで、みんな意識を取り戻したみたいだ。

男の子がクスリと笑って、私に向けて返事をした。


「こんにちわ。僕たちはチャールズとフローレンス。驚かせたみたいだね。ごめん。それで……、そっちのお姉さんは……」


「おい。チャールズ、やめぃ。こいつじゃ。こいつが女神が言っていた終末の使徒や。気ぃ引き締めぇや」


片目の茶髪の男性が笑顔で近づくチャールズを制止した。

その進路を自分の背中で塞ぎ、こちらに向けて左目を細めた。

良くみると、右目を潰した縦傷以外にも、頬にも小さな傷が沢山ある。


「オジサンたちも使徒さん? 後ろの男の子と女の子も?」


私がそう言ったことで、チャールズの眼差しにも厳しさが宿った。

片目茶髪剣士がニヤっと笑って、右腕の上着をひっぱって、二の腕を見せた。

『XXV』と紋章が入っていた。


あれは二十五という意味だ。

ローマ数字。

空間部屋の書庫でローマ数字のルールを知った。

私は1。

アス姉の『LV』は五十五。

トールの手甲には『LXV』とあった。六十五だ。


「二十五番目の使徒さんね。どうする? ララ達は話し合いたい。後ろの姉似の女の子は倒したくない。出来れば理解し合いたい。お友達になりたい」


「お友達って学生じゃな……」


チャールズと言っていた男の子が言いかけた途中で、片目茶髪剣士が動いた。

カンっと硬質な音がする。

速いな……。

全然、剣筋が見えなかった。

刀を抜いて、また鞘に収めたのだろう。

その動作すらも見えなかった。

でも、どんなに速くても、結界は斬れない。

あれだけ止まっている時間があれば、私も三人を囲う結界が張れる。


「おい。貴様。何をした?」


「閉じ込めたの……。オジサンの答えはそれ? 話し合いはなし? 友達もなし?」


「ワシは人類の敵と慣れ合うつもりはなか」


「今、むしろ、人類の敵になっちゃっているのは、オジサン達だよ。そのつもりもなく、人類の敵になっちゃっているの」


片目の茶髪剣士がゆっくりと刀を抜き、結界に向けて振り下ろした。

同じように、カンっていう音と共に、刀が弾かれる。

右手に刀を持ったまま、目を瞑った。


「オヤジさん、私は少し話したいわ。この人たちが神の敵とは思えないのよ。おそらく、何らかの事情や理由があるはずよ。それを聞いてから判断したい」


「うん。後ろの美人さんは分かっている。でも、判断って何?」


「判断は、おチビさんのお友達になるか、敵となるかよ」


ニコっと笑いかける顔も、良く似ている。

そして美しいし、可愛い。

こうやってみると、似ているけど違いも分かってきた。

姉の方が細面でシュっとした顔をしている。

この女の子の方が、頬やおでこに丸みがある。

より柔らかい印象、活動的な印象を受ける。


「敵になったら……。ごめんね……、そのままにしておく訳にはいかないの。人類の敵に与する人たちを放置は出来ない」


「おチビちゃん……、本当に自分たちが正義の味方だと思っているのね……。御姉様も?」


姉は、一つ咳払いしてから、返答した。


「わたしはアス・スティエルナ。ララの姉です。まあ、わたし達は使徒なので、血がつながっている訳ではないですが、一緒に育った姉妹です。ご質問の返答はイエスです。そして、出来れば、お話を聞いて頂きたいです。わたし達も悩み苦しみ、この結論に辿り着きました。多くの代償を払ってでも、真の意味で人類のためになる選択をしたつもりです」


「はい! 決まりです! 僕はお姉さんの味方です!」


チャールズと言っていた男の子が、そう言った瞬間に前から後ろからツッコミが入った。

前からは、片目茶髪剣士が、振り向いて脳天にチョップを落とし、

後ろからは、姉似の女の子が、脛を蹴り飛ばした。


「まあ、やむをえん。ワシらの家に来るが良い」


「いや……。すみません、出来れば、そこの空き地で話せませんか?」


「ほほぉ。信用できないんけ?」


「はい。今はまだ」


「ふっ。わかった。チビちゃん。この透明な壁を外してくれ。まずワシらがそこまで行く。その後、二人がついてくるでどうや?」


「はい、それで結構です」


空き地に移動してから、再び二重の結界を張った。

彼らの周りに透明な結界を。

もう一つは、私達全員を囲う結界をだ。

外側の結界は、透明効果を付与した。

外から誰も見えないと思う。

当たり前だが、女神との通信電波も遮断した。


姉が最初から説明を始めた。

私の転生時の話。

女神との会話。

人食の使徒の教え。

教会の自動機械も全て。

もちろん、頭の中の自動機械や、教会に設置してある自動機械も実物を見せた。


「わたし達はラルナー教の教皇エイナル・アフ・スヴェンソンに育てられました。今の話を、誠意をもって説明したつもりですが、理解してもらうことは出来ませんでした。その結果……。父は自害しました……。わたし達は理解してもらう困難さを身を持って知っています。理解してもらえない苦悩も十分味わいました。それでも、わたし達は自分が信じる道を歩もうと思っています」


「なぁ、オヤジ……。どこにも論理的矛盾はないと僕は思うんだけど。むしろ神の御業なんて言われるよりも、機械でイカサマしているって方が、よっぽどリアルじゃん。何で信じないのさ?」


「オヤジさん、私も同じ意見よ。私は御姉様とおチビちゃん側に付くわ。リュミエールの教会で女神に謁見した時にも、ちょっと違和感を感じたのよね。今の説明でスッキリしたわ」


「だからお前らはガキやって言うんや。どれも、この姉ちゃんが言っているだけやないか。その機械だって、どこかのガラクタから拾っただけかも知れんのやで。甘いんや」


「うん。オジちゃんが言うことは正しい。でも、これ以上の証明はララ達には出来ない」


「せやな。じゃから、今から証拠を押さえて来る。ワシらがだ」


「オヤジ、何をするのさ。また無茶を……」


「この街の教会の尖塔に自動機械があれば、確定や。嬢ちゃん達の勝ち。ワシもそっちに乗り換えよう。約束や」


「いやいや、捕まるって! 衛兵に普通に捕まるっしょ!」


「嬢ちゃんたちが出来たんじゃ。何か手を持っているじゃろ? それを見せい」


「分かった。ララも行く。アス姉とアス姉モドキは私の部屋で休んでいて」


「モドキって何よ! 私は私よ」


「ララ、危険よ。わたしも行くわ」


「大丈夫。何かあれば、このチャラ男を衛兵に差し出して、その隙に逃げて来るから」


「チャラ男って……、ひどいよ」


「ふっ。それや。それでいこうや」


時刻もちょうど夕方だ。

教会が閉じる時間。

潜入するにはちょうど良いと思う。


私は姉と女の子を空間部屋に送り込んだ。

その後、オジサンと男の子に透明魔法をかけて、注意点を説明する。


これまでの経験から、自動機械がある尖塔への上り方も分かっている。

女神像がある講堂に忍び込み、女神像の真上の天井を開ければ、尖塔へ登るハシゴが隠されているハズだ。

講堂の天井は高いので、空間ボールならぬ、空間箱を幾つか組み合わせて、階段にして上がるのだ。



尖塔から自動機械を奪った後、安全なところまで透明魔法で行き、空間部屋へ案内した。


「嬢ちゃんの言った通りやったな。約束や。ワシもそちら側に付く。オリバー・アシュトンや。よろしゅう」


ここに戻るまで、何も話さなかった片目茶髪剣士のオジちゃんが、そう言って手を差し出してきた。

私はそれを受けて、握手をした。

友達ゲットである。

男の子の方も手を差し出してきた。

それは一旦無視して、アス姉たちを探すことにした。


「うん。ありがと。アス姉と女の子がいない。どこ行っちゃたんだろう。ちょっとソファに座って待っていて」


アス姉の部屋の扉を開けたが、誰もいなかった。

書庫に行くと、奥の方から話声が聞こえた。


「アス姉! 帰って来たよ!」


「あ、今いくね!」


しばらくすると、二人が戻ってきた。

女の子は両手いっぱいの本を抱えている。

なるほど、本好きも似ているってことか。

きっと、理系の書籍ばかりなんだろうなと思った。


リビングに戻ってから、改めて挨拶を交わした。

三人の頭の中から、自動機械も取り出して見せてあげた。

三人とも諦めた様な顔をして、じっくりと観察していた。

この自動機械を部屋の外に持ち出すと、どう反応するか分からないので、私が三つとも回収した。


オリバー・アシュトン(Oliver Ashton)

今年で四十になるそうだ。

正直、もう少し年上にも見える。

元王国護衛隊員で、今はフリーの冒険者。

二級だと言うから、凄腕なのだろう。


チャールズ・アシュトン(Charles Ashton)

なんと、私と同じ歳だった。

既に姉と同じくらい背が高い。

こっちも、もう少し年上だと思っていた。

同じ歳ということは、この人も『選ばれし使徒』ということだ。


フローレンス・アシュトン(Florence Ashton)

チャールズと同じ日、同じ時にクレールモンの教会前に出現した。

つまり、『選ばれし使徒』だ。

身長をセンチメートルで言うと、百五十五センチくらいある。

十歳にしては、随分大きい。

私が異様に小さい訳じゃないと思う。

この子達が年齢平均より大きいんだ。


「僕らは、オリバーのオヤジに預けられた。それは国王陛下の指示だったそうだ。今年、陛下にも女神にも謁見してきたよ。同じ選ばれし使徒ということになるね」


「チャックも胸に紋章があるの?」


「あるよ」


そう言って、上半身のシャツをめくって、裸を見せた。

別にそこまでしなくてもいいのに。

隣のフローレンスが小さく溜息をついた。

左胸に『XX』と書いてある。

つまり二十番ということだ。


「うん。ありがと。もういいよ。フロは見せなくて良いからね。ちなみにどんな紋章?」


「『V』よ。女神からは『再生』の使徒って言われたわ」


「005(ダブルオーファイブ)ってことだね……。再生か……。何が出来るの?」


「治癒魔法。でも、傷程度しか治せない。オヤジさんの目を治したいと思っているんだけどね」


フローレンスはそう言って、オヤジさんの目に手を当てて、魔法を発動した。

私は念のために、結界魔法で三人を囲っていたので、その魔法を感じ取ることが出来た。

そして、その理由も何となく推察出来た。


「うん……。分かった。多分、練習不足。きっと出来るようになるよ。でも、それはおいおいにしよう。チャックは何が出来るの?」


「『加速』の加護と言われたよ。でも、僕も剣を振るのが少し速い程度だ」


私はチラっと片目剣士の方を見た。

多分、この人に育てられたからだろうと思う。

私には姉がいた。

いつでも、相談に乗ってくれて、助言をくれる存在が。

知的で優しいメンターが近くにいた。

おそらく、その違いだろうと思う。


この二人は、脳筋に育てられた。

それ故、魔法的成長が出来ていないだけだと思う。

きっと、もっと驚くようなことが出来るに違いない。


因みに、片目剣士は、女神に『居合の剣士』と呼ばれたそうだ。

それ以来、ひたすらに剣を磨いてきたと言う。

ミナセという東国の剣の師匠についてから、東国の剣を佩き、居合抜きをマスターしたとのことだった。


「嬢ちゃんたちよ。嬢ちゃんたちの行先はどこや? こいつらが中等学校から卒業したら、同行してもええで」


「いや、同じ思いを持って頂けただけで、有難いです。わたし達は賢者に会いに行こうと思っています。そして、女神を語る不届き者を探し出そうと考えています」


「この自動機械を作って、通信を通して指示しているヤツのことだね。僕も行く。学校なんて何の学びにもならないから、もういいんだ」


「私もよ。チャックの言う通り。この部屋の書籍の方がよっぽど勉強になるわ」


「おいおい。学校を出ているか出ていないかで、将来の職業に大きな違いが出るんや。ワシを見てみい。無学な故に、冒険者にしかなれん」


「オジちゃん、二級冒険者でしょ? すごいじゃん。十分、生きていける」


「チビちゃん、冒険者なんて、社会の爪弾きもの扱いやて。社会の底辺や。幾ら二級でも偉い奴らに体よく使われるだけやて」


「私も三級冒険者。初等科すら出ていない。でも、一生分暮らせるお金は既に貯めた。やりたいことだけやって生きていけばいい。社会の人の評価なんて、別に無くても生きていける」


「ふふ。妹みたいな力があれば、それで良いのでしょうね。でも、オリバーさんが言っていることも間違ってはいないと思います。チャールズさんとフローレンスさん次第ですが、勉強だけであれば、わたしが教えますよ。でも、卒業資格は手に入りません」


「はい! 僕、やります!」

「チャックは不要! 私が生徒になります!」


片目剣士さんは、はぁと溜息をついた。

まあ、社会常識を考えると、学校を出ておけと大人が指導するのは間違っていない。

多くの選択肢を子供に与えることになるからだ。

でも、この二人は、社会で通用する特性を既に持っている。

それが分かっているのならば、その特性を伸ばしてあげる教育をするべきだったと思う。

自分の葛藤を他人に、特に子供に押し付けちゃダメだよ。

そう心の中で呟いた。


「それに……。もし、皆さんが宜しければ、わたし達が雇うという形でも宜しいですよ。わたし達には十分な資産があります。その使い道もないので……。護衛費用とかでも……」


「それはダメです。お姉さんと対等な関係にならなくなる」


「ちょっと、チャック、調子に乗らないで。お姉様、私は教育を受ける側です。むしろ払うのは私達なはず。まあ、お金はないですけど……」


「アス姉、パーティメンバーにしちゃおうよ。これから先のパーティの収入は皆で分け合えばいい。オジチャンは護衛役。チャックは肉壁。フロは新たな癒し役。アス姉が勉強教えて、ララが魔法を教えるよ」


「ちょっと肉壁って……」


「それよ。決まりね、チャック。頑張って肉壁になりなさい。お姉様、そうしましょう」


「はあ。終末の使徒側についたからにゃ、やむをえんかの。ガキども、腕一本で這い上がる覚悟を持つんやで」


「元々そのつもりさ」


「私もよ。でも、お姉様、そろそろ敬語はやめてもらえません?」


「ふふ。わかったわ。じゃあ、チャールズとフローレンスって呼ぶわ。わたしの事はアス姉で良いからね」


「うん。ララのことは、ララって呼ぶことを許す」


「ふっ。小さな妹が一番威張っちゃって。僕はララちゃんって呼んであげるよ」


「そうね……。同じ歳には見えないわ。私もララちゃんか、チビちゃんにしようかしら……」


「ちっ」


「ふふ。でも、チャールズとララって、似ているわよね。わたしとフローレンスは前世で姉妹だったと思えるけど、貴方たちもそう見えるわよ」


それは、実は私も思っていた。

チャックの髪の色は、私と全く一緒だ。

少し黒が混じった銀髪。

この世界に、自分と同じ髪色を持つ人がいるのかと、まず驚いた。

あと顔立ちも似ている。

色々な国の血が混じっているのも同じ。

チャックの方が、東国の血が多い感じがする。

私はもう少し西側の国の色が強い。

でも、精々それくらいの差なのだ。

アス姉と私が姉妹と言うと、誰もが疑うだろうが、

チャックと兄妹と言えば、全員が頷くだろうと思う。


それに……。

何となく同族の匂いもするのだ。


「うぇ。何か嫌。ララ、こんなチャラくない」


「ちょっと、ララちゃん、何気にずっとヒドイこと言っているからね」


「ひょっとしたら、前世で兄妹、姉妹だったからこそ、ララが転生する場所の近くに置いたのかもね。仲間になって、ミッションを協力して遂行させるために」


「そしたら、女神は大失敗したってことだね。逆に敵が結束しちゃったんだから」


「まあ、概ね、同意出来たってことで良いんやけど、嬢ちゃん達、リュミエールに行ってみんか? パーティ登録もする必要があるし、そもそもガキたちは冒険者登録も必要や。あと……、王様には伝えた方が良いと思うんや」


「リュミエール王にですか?」


「そや。あの御方のことは、よう知っておる。ずっと傍付の護衛官やったけんな。あの御方はきっと信じると思うぞ。そして、女神打倒の支援をしてくれると思うんや。ワシが繋いじゃる。悪いようにはせんから、考えてみいや」


姉はそう言われて考えた。

このまま裏街道を進む訳にもいかない。

隣国のヴァルデン共和国に行くまでに、厳しいウィンザーグローブの雪山を踏破する必要が生じるからだ。

どこかで、海岸沿いの統一街道に出るつもりではいた。


でも、リュミエールはカウニアに近すぎる。

もう数日で多くの教会関係者が網を張るだろう。


ただ、上手くいけば、サンテール王国の支援を受けて楽な旅路が出来るかもしれない。

サンテール王国内の通行を認めてもらうだけで、私達には十分すぎる支援だ。

でも、最悪、不要な諍いや戦闘に巻き込まれる。

これは賭けだと思う。


「はい。少し考えさせてください。私の直感はリュミエール王に会えと言っているのですが、不安要素が多すぎて怖いのです」


「良い良い。考えるのじゃ。パーティのリーダーは嬢ちゃんじゃ。さて、ワシらは家に帰るか。旅の支度もせんといかんしの」


「嫌よ。私はここに住むわ。お姉様とチビちゃんと一緒に住む。毎日勉強して過ごせるのよ。あんな汗臭いところには帰らないわ」


「ふふ。旅の間、夜は全員がここで休むのよ。また改装しようかしらね」


「改装? そんなこと出来るんか?」


「ここはララが作った異空間なので、自由に拡大できるのです。ただ、壁やドア、家具は揃えないといけません。どなたか口の堅い大工さんを知りませんか?」


「勿論知っておる。ワシらの部屋も作ってくれるんか?」


「はい」


「アス姉、むさくるしい男たちと同じお風呂に浸かるのは嫌。男湯と女湯は分けて欲しい。トイレも。魔道具はまだある」


「そうね……。でも、そうすると二週間以上、内装工事に時間かかっちゃうかも。あと数日で、教会の人たちがクレールモンに来ると思うの。危険だわ」


「しゃーないな。ワシとチャールズは野外で寝泊りするけ、リュミエールまで行こうや。アヴェリーヌまで十日。そこからリュミエールまで十五日程度や。それくらいなら、我慢するわい」


「宿屋があれば、宿屋を取りましょう」


「分かったわい。出発は明日の朝。チャールズ、行くで。フローレンスの荷物もワシらが纏めんといかん」


「オヤジさん、私の分は捨てても良いわ。お姉様のお洋服を借りるから。私も同じような旅装が着たいのよ」



男性陣は自宅へと戻り、私達は宿屋に入った。

宿屋の部屋に入り、そのまま空間部屋に戻る。


フローレンスは姉から衣服を沢山貰い受けていた。

ワークブーツに黒のマントと帽子も渡す。

悔しいけど、凄く似合っていた。


三人で一緒に湯船に浸かり、フローレンスの膨らみ始めた胸を揉んで私は癒された。

少し膨らんだ胸の間に、『V』と大きく刻まれていた。


そして、私の部屋の大きなベッドで三人で川の字になって眠った。

当然、私は真ん中の位置である。

どっちを向いても抱き着く相手が出来て嬉しい。


「あーもう可愛い。こんな可愛い妹が欲しかったのよね」


フローレンスは私の頭を抱えて、やたらと撫で回す。

これじゃ、妹というより娘みたいな扱いだと思う。


「フロ。同じ歳。ララの成長が遅いだけ」


「ふふふ。そういう所も可愛いわ。ずっとチビちゃんでいてね」


隣を見ると、姉も穏やかな笑みを浮かべていた。

少し、身体から余計な力が抜けた様にも見えた。


私と姉は、実はちょっと寂しかったんだと思う。

二人で仲良くやってきた。

それでも、父がいなくなったことで、

大きな穴が心に空いていたのだと思う。

家族を亡くす時は大抵そうだ。

不在感を感じるという不思議な感覚に襲われる。

そして、それは決して、埋まることのない穴だ。


フローレンスは、その穴を埋めたのではなくて、

新しい家族として、新しい形を私達に与えた。

一晩にして、私達の心の中に入ってきた。


貴女達は間違っていない。

私が全肯定するわと。

神敵になるのならば、自分がその片棒を担ぐわと。

そう全身で表現してくれていた。


その振る舞いは私達を安心させたし、有難くもあった。

社会の全てを敵にするのは、正直二人だけでは重すぎるのだ。


フローレンスの胸に顔を埋めていると、

不思議と、魂が震えているのが分かった。

私の魂の奥の方が、喜んでいるのが分かった。


世界地図

挿絵(By みてみん)

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