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8/28

サンテール王国への入国

西側立体地図

挿絵(By みてみん)


巨大な山脈に向かって、進み続けた。


隣国カウニア連邦からも、南を向けば、いつでも見えた雪山。

私達は、世界最大のクリスタルハイツ山脈に向かって進み続けた。


スオミアリスから国外に出るには、統一街道と呼ばれる大通りを下るのが最も早い。

第二都市タウリスを超えれば、もう国境だ。


だが、姉はそのルートを選択しなかった。

ルオスティア方面、いわゆる南東へ進路を取った。

統一街道が海沿いのルートとするならば、こちらは山沿いの裏街道である。

奇しくも人食の使徒のお爺ちゃんが入国したルートだ。


八時間馬で走り。

八時間は空間部屋で休んだ。

お馬さん達も、専用の空間部屋で休ませた。

全部で五頭いるので、お馬さん達はローテーションして使っている。


空間部屋で八時間ゆっくり休んでも、現実世界では一秒である。

頻繁に使うと、早く歳を取ってしまうので、滅多に使わない裏技だ。

でも、今回は非常事態だ。

一刻も早く国内から抜けたい。

国外に抜けるまで、そのやり方を続けるつもりだ。


目指すはサンテール王国の山沿いの国境の街クレールモン(Clermont)。

「明るい山」という意味の街だ。

名前の通り、白く輝くクリスタルハイツ山脈の麓にある都市だ。



この川を渡り切れば、国境まで残り数時間。

そんな時に、姉から声がかかった。


「ララ。尾行されている気がする」


姉にしがみついていた私は、それとなく後ろを振り向いた。


「馬で駆けて来る男の人?」


「そう……。休憩前にも後ろにいたと思う。どうして休憩している間に前に出ないんだろう……」


「どうする?」


「道を外れて、森の方に一旦進むわ。何か咎められたら、冒険者カードを出して、薬草を探しているって言おう」


「了解」


姉が進路を森の方角へ切った。

整備された道を外れて、草原を進む。


「アス姉、やっぱり、狙いは私達みたい」


完全にこちらを目掛けて、馬を走らせている。

姉が馬を蹴って、速度を上げた。

こっちは二人乗り。

でも、体重の軽い二人だ。

軽さで逃げ切れるかも……。


「ララ、森に入ったら、馬を捨てましょう」


「分かった」


あと少しで森だ。

お馬さんと別れるのは可哀相だけど、しょうがない。

いや、降りた瞬間にお部屋に送れば良いんだ。

そう考えているうちに、姉の名を呼ぶ声が背後から聞こえた。


「アストリッド! アストリッド! 待ってくれ! 僕だ!」


「アス姉のこと呼んでいるみたい」


「え? 誰? でも、それもマズいわ。知り合いに見つかるのもマズいのよ」


「どうする?」


「うーん。でも、しょうがないか。何て言おう。二人で旅をしているって言うしかないか」


「教皇一家誘拐説が消えちゃうね」


うーんと悩みながらも、森の手前で姉は馬を止めた。

姉が先に下りて、私を抱くように馬から下ろしてくれた。

後ろから近づいてくる人を見て、姉は呟いた。


「え? まさか……」


「誰か分かった?」


「トール・ハルドソン……」


トール・ハルドソン (Thor Haldsson)。

姉に求婚していた男の子だ。


カウニアにいる使徒の一人。

しかも姉と同じ歳。

同じ都市の使徒同士。

必然的に小さい時から交流があったと言う。

教会の近衛兵の隊長の息子として、育てられたと聞いている。

確か……、姉も、彼のことは良く思っていたはずだ。



「アス姉、トールみたいな人がタイプ?」


そんな質問を前にしたことがある。

姉はこう答えていた。


「そうね……。タイプではあるわね。逞しくて強くて真っすぐで裏表がない。そういう人が好みだからね……」


「でもトールとは結婚しない?」


「うん。多分、時期が悪かったのよね。ローラとの旅が終わってから出会ったら、きっと結婚していたと思うけどね」


その時は、私一人で旅するから、アス姉は幸せな家庭を築いてもいいんだよと言った気がする。

鼻で笑われたけど。



「アストリッド! 待っていたんだ!」


「トール……。どうしたの? どうしてここに……、あれ? 卒業式いなかったよね?」


「そうだ。ここで待っていた。三日前から、ここで待っていた」


愛の告白か?

だとするならば、私は少し離れたところにいようかと思ったが、

姉の手が、私の手を握る力が強くなった。


チラっと姉の顔を見上げると、凄く厳しい目をしていた。

とても、好意を寄せていた男の子に向ける顔じゃない。


「トール。どうしてここで待っていたの? いや……、どうやってここで待つことが出来たのか。それを教えて」


そういうことか。

私達は最速でここまで来た。

二十四時間止まらずに来たのだ。

しかも、このルートを選択することを誰にも言っていない。


「決まっているだろ。君に求婚するためだ。もう一つは……」


そのセリフの途中で、私は肩口を剣で斬られた。

袈裟懸けというやつだろう。

激痛が走る。

身体が後方に飛ばされた。


「トール! ちょっと!」


姉の声がする。

左肩が痛い。上がらない。

頭がフラフラする。

今にも、意識を失いそうだ。

頑張って、上半身を起こすと、アス姉がトールの身体を抑え込んでいた。


「女神様の御神託だ。この街道で待ち伏せしろと。銀髪の少女ローラ・アフ・ラーズドッティルを殺せ。人類に終末をもたらす悪の使徒だと。アストリッド! 君も含めて殺せと言われた! こいつだろ? こいつが悪の使徒だろ? アストリッド、君はこの悪の使徒に騙されているんだろ?」


「違うわ! トール! 騙しているのは女神よ! 聞いて! わたしの話を聞いて!」


「うるさい! この悪魔をまずは殺す! 君を殺すかはそれからだ!」


トールが姉を蹴り飛ばした。

こっちに向かって歩いてくる。

まずい。

集中しろ。

魔力を集めろ。

急げ。


「ララ! 結界魔法!」


姉の声が聞こえると同時に、トールを囲う結界を張った。

トールは結界で捕えたままにしよう。

そのまま、姉と一度空間部屋に逃げ込もう。

どうするかは、休んでから考えよう。

そう思ったが。


「うぁぁぁぁ!」


トールの両腕から血が噴き出ていた。

肘から下が、無い。

腕は……、地面に転がっていた。

両腕で剣を握ったまま、結界の外に転がっていた。


トールは血を流しながら、結界の中で暴れまわっている。

両肩をガンガン左右の結界に激しくぶつけていた。

両腕から流れる血が止まらない。

結界が赤く染まっていった。


姉が駆け寄ってきた。


「ララ、大丈夫?」


「肩が痛いよ……」


「ああ、良かった。斬られてはいない……。はぁ良かったわ……。そのマントのお陰ね……」


姉にギュゥっと抱きしめられた。

痛い。

左肩が痛い。


「トールの腕……」


「う、うん。ララを斬ろうと、剣を振り上げたところで結界が作られたみたい……。結界に切断されたんだと思う……。もう、助からないわ。ララ、結界を解除してあげて」


結界を解除すると、トールはそのまま地面に倒れた。

ゴロゴロと右に左に転がって苦しがっている。

意識は、まだあるみたいだ。


「トール……。もう助からないわ。ごめんね。わたしが楽にしてあげるから」


姉は腰に付けていた短剣を、マントを翻して取り出した。

左手で、トールを動かないように固定する。

目を瞑って、一気に胸に一突き入れた。


「アストリ……」


姉の名を最期に言いたかったのだろう。

最後までは言えなかった。

姉は悲しそうに目を瞑った。

首を小さく横に振る。

トールの目に左手を翳し、目を閉じてあげた。

何か、私には聞こえない声で呟いていた。


立ち上がってトールの遺体をジッと見つめた後、振り切る様にこちらに向いて言った。


「ララ……、どこかに埋めましょう。一旦、空間収納に入れて。トールの馬も一緒に」


「わかった……」


トールの馬は、ララ達の馬の部屋と同じところに送ってあげた。

姉に支えられながら、空間部屋に一度退避する。


痛がる私の洋服を姉は無理やり剥ぎ取り、お風呂に浸からされた。


「痛いよぉ……」


痛さのあまり涙を零していると、しばらくして姉が入ってきた。

その素晴らしい裸体に心が和む。


姉は両手に付いたトールの血をゴシゴシと擦ってから、湯船に入ってきた。


「折れてはいないと思う。でも、腫れあがっているわ……。しばらく、お湯に浸かっていなさい」


「うん……。痛いよぉ」


「うんうん。分かるわ。でも、ここでお風呂に浸かっているのが、一番早く治るのよ」


この空間部屋のお風呂だが、素晴らしい効能がある。

広い浴槽の端に置いてある魔道具の効能だ。

この魔道具は、お風呂のお水を常に最適な温度に保ってくれる。

それどころか、癒しの効能付なのだ。

肌はすべすべになるし、切り傷くらいなら、瞬時に治してくれる。


それを知ってから、姉は毎日、空間部屋のお風呂に浸かるようになった。

思春期特有のお肌のトラブルが全くなくなったと喜んでいた。


お風呂についている魔道具は他にもある。

このお風呂の水は、風呂場の上にある巨大なタンクの水と循環している。

洗い場で流した水も含めて、タンク内で浄化される仕組みなのだ。


この仕組みはトイレにもついていた。

汚物を含めて、全て浄化されて、タンク内に蓄積される。

汚物は、しばらくすると土となるようだ。


「アス姉……。ごめんね……。ララ、結界張るの失敗しちゃった。トール、殺しちゃった」


「ララ、自分のこと『ララ』って呼ぶようになったね」


「あれ? ホントだ」


「ふふ。可愛いから良いのよ。あと、トールのことも良いのよ。止むを得なかったわ……。それに、トドメを刺したのは、わたしよ」


「ありがと。罪まで一緒に背負ってくれるんだね……」


「ララ、これからも、次々と使徒が襲い掛かってくるかもしれない。いや、きっと間違いないと思うの。残念だけど、もう躊躇せずに殺しましょう……。嫌だけど、理解させるのは難しいわ」


「うん……。でも、私達、攻撃力はないよね……」


「まあ、そうね。やり方を考えましょう。例えば、空間収納に入れて、百年時間経過させてから取り出すとか……」


「こわっ、ミイラ魔法じゃん」


「そうそう。考えればアイデアは出るわ」


「でも、トールもそうだったけど、動いている人を結界魔法で囲うのって、凄く難しい……。練習しないとだ」


「空間ボールをぶつけて動きを止めるとか」


「あと、空間結界で常時自分たちを囲いたい」


「馬に乗りながらだと無理だよね」


「うん。四角い結界で囲うからダメなのかな。身体に纏わせるような結界を練習してみよう」


「鎧魔法ね」


話しながら、お湯に浸かっていたら、少し痛みが引いてきた。

チラっと左肩を見ると、まだ腫れあがっている。


「女神にバレていたってこと?」


「うーん。わたし達が逃げ出すのはバレていたと思う。ルートは……。どうだろうね。全ルートに誰かを送り込んでいたって可能性もまだある。きっと統一街道にも誰かいるはずよ」


「でも、完全に敵認定されたってことだよね? いつだろ。いつ認定されたんだろ」


「お父さんの反応も含めて、消したからじゃないかな」


「私達全員死んだとは思わないんだね」


「死んじゃった時と、取り出した時の反応が違うとか? あとは町の通信機器を壊しているからね。トールに事前に指示していたことを考えると、そっちかも」


「こっちに移動しながらも、壊しているからね……。移動ルートもバレバレなのかも」


「ま、襲いかかる使徒を百人倒せば良いってことよ。ララ」


「百人だと、アス姉も入っちゃうし」


「はは、そうね、間違いない……。でも、結果的に女神の指示に従うことになるわね。使徒を平定することになる」


「そうだね。頭の中の自動機械を取り除いて使徒に自由をもたらす。それを平定と定義しよう。あと、ララがムカついたのは、終末の使徒が、人類に終末をもたらすって意味に変わっていたこと」


「ムカつくわ。わたし達で女神に終末をもたらす使徒って意味に上書きしてあげましょう」



空間部屋で二日過ごして、肩のケガを治した。


その間に結界魔法を沢山練習した。

攻撃よりも、まずは鉄壁の防御だ。


色々な感情を整理してから、再びあの場所に戻った。


姉と相談したのだ。

森の中に深い穴を掘って、父とトールのお墓を作ろうと。


森の中を少し歩くと、ひと際大きい、巨木を見つけた。

それを目印にして、大きな穴を二つ、空間魔法で掘った。

動物に掘り起こされないように、深い深い穴にした。


その穴に、二人の遺体を置く。

念の為にトールの頭の自動機械は除去しておいた。

そのままにしておくと、女神に居場所をキャッチされるかも知れない。

何に利用されるか、分かったもんじゃないのだ。


帽子を胸に当てて祈った。

二人で、安らかな眠りが訪れることを祈る。

結果的に私達が殺してしまった二人だ。

もし神が本当にいるのなら、どうか赦して欲しいと思う。


再び空間収納から土を戻して、穴を埋めた。


「殺しちゃった私達が言うのは良くないけど、良い人たちだったんだよね……」


「うん。間違いなく悪い人ではなかった。限りなく良い人の見本みたいな二人」


「ちょっと悪い人の方が、女神インチキ説を理解してくれそうなのが、また悔しい」


「そうね……。良い人であればあるほど、信仰心が篤いからね。わたし達がこれから殺す人たちは、きっと良い人が多いのだろうね……。気が重くなるわ」


「うん。でも、この世界の悪人の代表だった人食の使徒の爺ちゃんも、そこまで悪い人ではなかったように感じた」


「結局、悪いヤツは、アイツ一人なのかもしれない」


姉は帽子を被り直して、踵を返した。

私は姉の手を取り、その手を繋いだ。

森の中を再び引き返す。

トールも父も、ちゃんとしたお墓には埋葬出来ない。

ちゃんと、この場所は覚えておかないと。

いつか花を持って、ワインを持ってこないと。

そう思いながら、森を歩いた。


「トールの家はさ、近衛兵の隊長の家じゃん。まあ、国で一番強くてカッコよい人がお父さんなのよ。だから、奥さんも凄く綺麗な人なんだよね」


「うん……」


「でも、子供が出来なかったみたいでさ。二人とも、本当にトールのことを我が子同然というか、本当に天から授かった我が子だと思って育てていたんだよね……」


姉は空いている方の手で、鼻を啜った。

ちょっと、声が掠れていた。


「卒業したら、自分も近衛兵になるって言って、勉強も剣も一生懸命だった。本当に真面目で真っすぐで謙虚で……良い人だった」


「うん……」


「トールの未来は希望に満ちていた。本人もそう思っていたし、周りもそう思っていた。何よりも……、オジサンとオバサンは……」


「うん……」


「イキナリいなくなって、こんなところで死んじゃったってことも知らないんだよね。オジサンもオバサンも。そして、わたしがトドメを刺したってことも知らない。ずっと待っているんだろうな……、きっと心配して待っているんだろうな……」


「うん……」


姉も、私もだが、涙が止まらなくなってきた。

悔しい。

すごく悔しい。


「ずるいよね。人の真面目さに付け込んで。真摯な信仰心を利用して。自分の思い通りにしてさ……。何が人類のためだよ……、お父さんを返してよ、トールを返してよ」


「うん……」


父を殺し、友を殺した。

地元カウニアでの出来事だ。

知り合いと争うとしたら、この国でしかありえないだろう。


隣国でも、さらに次の国でも、もう一つ先でも、同じようなことが起きるかもしれない。

いや、きっと起きるんだろうと思う。


きっと、その人たちも悪い人たちじゃないのだろう。

ひょっとしたら、父やトールと同じように、ピュアな善人かもしれない。

実際に知らない人たちだから、私達にはきっと分からないだろう。

分からないけど、襲われたから殺してしまうのだ。


だから、せめて、今日の思いを忘れないようにしようと思った。

その人たちにも、正義があり、理念があり、生活があり、待っている家族がいる。

それを忘れないようにしようと思った。



目の前に国境が見えた。

国境と言っても、裏通りの国境だ。

道沿いに、衛兵たちの詰所があり、通行人の身分証をチェックしているだけだ。

念のために、確認しています、という程度だ。


それが嫌なら、少し道を外れたところから、侵入すればいい。

森も草原も畑も沢山ある。

抜け道は幾らでもあるのだ。


「アス姉、どうするの?」


「お馬さんたちを厩舎に帰しておいて。透明魔法で普通に歩いて通り抜けるわ」


「厩舎ね。確かに厩舎だ。空間厩舎くらいにしておこうか」


「ふふ。そうしましょう。空間厩舎に帰しておいて」


「了解」


いつもの様に、アス姉に馬から下ろしてもらってから、お馬さんを空間厩舎に帰した。

自分と姉の両方に透明魔法をかける。


姉の気配を感じつつ、後ろについて歩いた。


何もなく衛兵の詰所を通り過ぎる。

テクテク、しばらく歩き続けた。


「ララ、ちょっと道を外れるわよ。あの右手の木の辺りね」


前方を歩く姉から声がする。

右前方に大きな木が見えた。

あそこで馬を出すのだろう。


大きな木の裏に回り、透明魔法を解いた。


「ふう。ようやく国外脱出出来たわね……。長かった……。十日間くらいかな」


「うん。時間間隔がないけど、私達時間で十二日。現実時間で五日かな……」


「もう今日からは普通時間で過ごしましょう。夕方までにはクレールモンに着くわ。そしたら、沢山食材を買わないと」


「パンを買えるだけ買おう」


「ミルクとか、ジャムとか、その辺も買っておかないとね」


「空間部屋で休むんでしょ?」


「うーん。念のために、宿は取りましょう。宿を取って、実際に寝るのは空間部屋。それが一番怪しまれないと思うのよね。都市にいる時だけはそうしましょう」


「了解。そうじゃないと、お金の使いどころがないもんね」


この二年の薬草売却で、私達の資産はとんでもない額まで増えている。

おそらく、一生何もしなくても暮らしていけると思う。

冒険者ランクも三級にまで上がった。

もう一つあがれば、二級になる。

二級になれば、どの国に入国する時も無税となる。

世界でもトップクラスの冒険者の扱いだ。



クレールモンは、ネリスと似たような街だった。

サンテール王国は『シティ』規模の都市が七つある。

首都リュミエールを入れて、四つは港町だ。

大きな都市は、その四つ。

残りの三つは、クレールモン同様に裏街道沿い、つまり山側に建てられた街だ。

港町に比べると人口も少ないし、賑やかな市場もない。


クレールモンもクリスタルハイツ山脈の麓だけあって、林業が盛んな街だ。


クリスタルハイツ山脈への登山街道の入口でもあるので、登山家のための街でもある。

登山家と言っても、冒険者組合に所属している冒険者だ。

クリスタルハイツ山脈だけでなくて、ウィンザーグローブと呼ばれる、この雪と氷に覆われた高山一帯の資源を獲って来ることを専門としている人たちだ。

平地にはない貴重な薬草や鉱物、獣など、高価なお宝が沢山あるそうだ。

そのために命をかけて、雪の高山にアタックする。

真の意味において冒険者だと思う。


国境側から街に入ると『ようこそ冒険の入口の街へ』と書かれた大きな看板があった。


その看板の横の案内図を見る限り、

山側が登山家や冒険者が集まる地域らしい。


「北側が安全って言っていたよね」


「そうね……。だから、この辺りかな。次の角を左に曲がろう」


何度か街の人に聞きながら、評判の良い宿屋にチェックインした。

二人で一部屋八十Gだ。安い。

馬は宿屋に預けて、歩いて市場に向かった。


リュミエールと違って、ガヤガヤしていないけど、それでも多くの人が買い物していた。

野菜、お肉、穀物、パンと沢山買う。

露骨に空間収納に入れると流石に怪しまれるので、半分くらいは自分たちで持った。

それでも、両手にいっぱいの荷物になってしまったが。


紙袋で前が見えない中、宿屋に戻る途中の道中で、声をかけられた。


「ローラ・アフ・ラーズドッティルですかな?」


来た。

そう思って、すぐに足を止めた。

姉と私の周りにだけ結界を張る。


「はい? 違いますが……」


姉が答える。


「え?」

「え?」


姉ともう一人、女性の声が重なった。

紙袋を足元に置いて、私も前方を見た。


男性二人。女性一人。

いや、違うな。

大人の男性と、二人の子供。

姉よりも少し小さな男の子と女の子だ。


声をかけてきたのは男性だろう。

そして、驚いた声を上げたのは、女の子だ。


その女の子の顔を見て、私も驚いた。


「え?」


同じような声を発してしまった。

私だけ一人遅れて、同じ驚きを発してしまった。


その子は、姉に、アスティ姉さんと同じ顔をしていたから。




世界地図

挿絵(By みてみん)

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