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ミナセ・アルプス山脈の魔獣退治


「ララ様の転移魔法があれば、遠征という概念は無くなります。午後数時間だけ東の山脈、森を探索し、また首都に戻れば良いのです」


千三百五十九年四月某日。

橘総統が、魔獣間引作戦の会議でそう言った。


迎賓館の会議室には、私達エッジ・シーカーだけでなく、エドゥアルド隊長、ミナセ近衛隊の隊長陣も参加していた。

隆叔父さんが、その取りまとめ役として、お誕生日席に座っている。


チャールズ達は、三か月間、訓練場で日々鍛えていたが、数か月で一流剣士になれる訳もなく、基本的な型を身につけた程度である。

少なくとも今年いっぱいは修行を続ける必要があるだろう。


ただし、魔獣相手に実戦を行うのも、訓練としては非常に効果的だ。

橘総統は、私達冒険者パーティの依頼任務と、その訓練を合わせて行いましょうと言ってくれた。

「確かに冒険者パーティとして受けた依頼です。通常であれば、国に遣える我らが手伝う訳にはいきません。ただ、その依頼の報酬は、我らとの訓練なのです。そうであるのならば、我らが手伝う事に、何の問題もございません」

そう男らしいことを言う格好良いオジさんなのである。

橘総統は、その間引き作戦には、私達だけでなく、近衛隊も百名規模で参加させると言う。

本来であれば、東部のカワセ軍の担当範囲なのだが、彼らは山脈を越えて来た魔獣の対応で手一杯であり、山脈の東側への侵攻は、首都を担当する近衛隊がやると言っていた。


エドゥアルド隊長配下のララ近衛隊も、訓練の成果を活かす、もしくは問題点を洗い出す良い機会になるであろう。

迎賓館の護衛役以外は、全員で参加するとエドゥアルド隊長は太い腕に力を込めて主張していた。

きっと、本人がハルバードを思いっきり振り回したいだけなのだと思うけど。


「うん、総統さんの言う通りだ。午前中はこれまで通りトレーニング、お昼ご飯を食べて出発。夕方暗くなったら、ミナセに帰ってこよう。翌日は前日進んだところから、また出発すれば良い」


「ララちゃん、ミナセ近衛隊とララ近衛隊にも、鎧魔法をかけてあげてよ。そうすれば、余計な装備も不要になるし、何より安全だ」


「あ、チャック、ナイスアイデアだ。総統さんもエドゥアルド隊長さんも、ちょっとこっち来て」


私は二人の隊長さんを呼んで、身体に薄い結界を生成した。

私達が鎧魔法と呼んでいるものだ。

まず斬られたり刺されたりすることがない。

それに外部から酸素、二酸化炭素以外の浸透をシャットアウトしているので、寒さも凌げる。

その分、このままだと食べたり飲んだりが出来ないのが難点だ。


チャールズがその効能を説明してくれている。


「これ、慣れないと動きにくいらしいんだよね。だから、少し慣れてから出発した方が良いかも」


二人とも剣を持ったり、頬を叩いたりして確認している。

隆叔父さんが興味深げにやってきて、橘総統をぺちぺちと叩いている。


「これは……、素晴らしい! 死亡者どころか負傷者すら出ないでしょう!」


エドゥアルド隊長が興奮して言っているけど、骨折とかはすることがあるんだよ。

私は鎧魔法でも防げない攻撃を幾つか説明した。


「寒さを凌げるとエッジ・シーカーの皆様が仰っていたのは、これが理由でしたか。納得です。ララ様が仰る通り、少し慣れが必要ですな。二日ほど、鍛錬に当てましょう」


仲間たちの場合、途中でおしっことかするたびに、私が解除したりするんだけど、これだけの人数いたらどうするんだろうな。

どうでも良いことかも知れないけど、その辺が少し気になった。



ミナセ・アルプス山脈の南端、ミナセ国からすると、国土の東端に『カワセ』という都市がある。

山脈は南北に峻烈な山々を形成しているが、南に行くに従って、標高は低くなり、海岸部分は人が超えることが出来る高さとなる。

その国道沿い、山の中腹にカワセは建てられた街だ。


古い文書によると『側瀬』と漢字で書かれていた。

普通に読むと『ガワセ』なのだが、年を経て、カワセと呼ばれるようになったのだと思う。


側瀬とは、『こちら側の岐路』という意味だろうか。

要は『人間が住む瀬戸際の地』という意図で名付けられたのかしれない。


そのカワセはミナセから馬で十日ほどの場所にあるのだが、今回は日数短縮のために通らない。

高速船でミナセ大河を下り、ミナセ湾に出て、グルっと半島を周り、山脈の東側の岸まで一気に向かうことになった。


橘総統自らが率いるミナセ近衛隊百名。

エドゥアルド隊長が率いるララ近衛隊九十名。

隊長以外の百九十名は収納して運ぶ。


私達の参加者は、チャールズ、レオン、ゲオ、アリシアと侍女アナだ。

一緒に訓練していたマリーは「ワタシは嫌よ!」と言って拒否した。

まあ、元々命を奪うことは嫌悪する彼女だ。

私達も笑って許した。


勿論、私の横にはナナちゃんがいる。

姉はギリギリまで悩んでいたが、私とフローレンスが説得して残した。

「もう私達も大人数になったし、戦う仲間も増えた。ステージが上がったのだから、アス姉が無理して戦場に毎回立つ必要はない」

そう言って、納得させた。

そもそも、サウスウェスト連邦国関連で、姉も多忙なのだ。

フローレンスですら、ゴロゴロ本を読むのをやめて働いているくらいだ。

森で駆けずり回る時間は、彼女たちにはない。


そんな訳で、高速船のコックピットには、チャールズ、アリシア、アナ、エドゥアルド隊長、橘総統と、背の大きな人ばかりが詰めている。

みんな、海好き、船好きの腕白野郎達だ。

私はナナちゃんと、船のソファに座って、外を眺めていた。


「ララ様、あれがイーストエンド半島ですね」


ナナちゃんが指さす方向には、大陸の東端に突き出した半島が見えた。

資料では『東端半島』と記載されていた半島だ。

確か、そこには金鉱があると言われている。

採掘したいのだが、魔獣の森を越える必要があり、採掘は困難だと記載されていた。

不思議な話としては、誰がその話を伝えたのか、それが不明だからだ。

移住当初から、東端半島の金脈のことは記載がある。

でも、その話の出所が不明。

ミナセにある謎の一つでもある。


「行ってみるか。金銀財宝がザクザクだ」


「ふふ。ララ様は既に使い切れない財産をお持ちではないですか」


「そうなんだよね。孫の代まで遊んで暮らせそうだよ」


イーストエンド半島の周りも、海岸付近は崖になっており、船が寄せられるところはほぼない。

グルっと回って、東側まで来たが、この辺も同じ様だ。


高速船が速度を落として、岸の方にゆっくりと近づいている。

ギリギリのところで止めて、空間ボールで飛ぶのだろう。

私は、コックピットに繋がる窓を開けて、チャールズに話しかけた。


「チャック、どうするの? 飛ぶの?」


「そうだね。この辺で止めようか。ここから先は岩場も多くて、船底がやられそうだ」


私は西側に聳える高い山を見上げた。

森での戦闘というよりも、急斜面での戦いになるのだろう。


「じゃあ、屋根に空間ボールを出すね」


「ララ様、空間ボールとは何ですかな?」


橘総統が興味深げに聞いてきた。

そう言えば、この中ではチャールズ以外は未経験かもしれない。

説明はチャールズがしてくれた。

ボール状で出来た結界の中に入り、それを浮かせて進むのだと。


「殿下! 私も乗ります!」

「ララ様、私も乗りたいです」

「私はララ王女殿下の近衛です。当然乗ります」

「いや、この作戦の副長はミナセ近衛隊責任者の私だ」


全員が乗りたそうだけど、落ちそうでイヤだよ。

私の空間ボールの操作性は格段に成長したが、今でも中で動かれるとバランスが崩れる。

チャールズが危険性を説明しているけど、この人たちは誰も聞いてくれない。

おい、アナ、お前は侍女だろ、子供だし、と思ったけど、この子、好奇心の塊みたいな女の子なんだよな。

絶対に譲らないだろう。


「みんな、絶対に中で動かないでね」


皆で屋根に上り、隊列を組んだ。

身長差があるので、背の順にする。

私が前でナナちゃんと手を繋いだ。

次にアリシアとアナ。

デカい三人は一番後ろに一列で並べた。


「じゃあ、行くからね」


私は空間ボールを空中に浮かべる。

途中で高速船を収納した。


少し上がると、後ろの隊長陣から、「おお!」っと興奮した声が上がる。

アナは怖いのか、「きぇー」とか変な声を出している。

アリシアは凄い喜んでいるみたいだ。


崖の高さまで上がってから、山の方に向けて動かした。


「殿下、これって、斜め下から強い風を送ると、凄く早く飛ぶのではないですか?」


「ん? アリシア、ナイスだよ。でも、今はやめようね。もっと安全なところで検討しよう」


「はあ。わかりました……。でも、絶対検証しましょうね。上手くいけば、私達、飛べるのですよ!」


いや、もう飛んでいるから、とは言わない。

アリシアは、こういうのが大好きなのだ。

多分、いや絶対、前世で大型バイクで峠を攻めていた輩だと思う。


アリシアが後ろで拳をギュウっと握っているのが、凄く気になったが、そこから風魔法が発射することはなく、無事に岸、というか崖の上に着陸出来た。


「ふう。もう少し広いところまで歩こう。そこで隊員さん達を出そうね」


空間部屋の裂け目を作ると、既に玄関ホールで待機していたレオンとゲオが出てきた。

玄関ホールを守る近衛隊の隊員さん達が、凄く行きたそうな目を向けて来る。

ごめんよ、でも明日は参加できると思うからね。

ハルバードを持った五人の隊員さん達に、そう告げて、私は裂け目を閉じた。


レオンが先頭。

チャールズ、アナ、エドゥアルド隊長が二列目。

アリシア、ゲオが並び、私とナナちゃんが続く。

最後尾は橘総統が務めた。


少し山の中に入り、木々の間を抜けて、開けたところを探す。

その間に、三体のオオカミと接敵した。


物凄い速度で走り回るオオカミで、中々、前衛が捕らえられない。

アリシアとゲオの魔法も、木々が邪魔で当たらない。

後方から襲い掛かって来たところを橘総統が斬り捨てると、残りの二体は逃げて行った。


「うん。これは確かに面倒な相手かも」


「速いですな!」


「エドゥアルド隊長、盾で受け止めてから刺すとか、やり方を決めた方が良さそうだね。四名をチームにして盾で四方を固めるとか」


「なるほど! 流石王女殿下でありますな!」


いや、結構普通の事を言っているんだけどと私は苦笑を浮かべた。


「あれが黒狼(Black Wolf)ですな」


橘総統の言葉で、私は隆叔父さんに貰った本に書いてあったことを思い出す。

黒狼とは、群れで行動するオオカミ型の魔獣だ。

木々の間を高速で移動する。

先ほどの三体は大型犬並みの大きさだったが、中には馬車くらいのもいるそうだ。

知恵があり、相手の人数、戦力によって、戦い方を使い分けるらしい。

あれはひょっとしたら、斥候、要は私達の様子を見に来ただけなのかもしれない。


少し広いところで、隊員さん達を出した。

橘総統とエドゥアルド隊長の指示に従い、小さなチームとなって、分散する。


山際をミナセ近衛隊が、私達よりも下の海岸方面をララ近衛隊が担当するようだ。

私達はその合間を進む。

今日は、海岸沿いになるべく奥の方まで進み、少し平地になった所まで行くのがゴールだ。


「接敵!」


左手の奥の方で声が上がった。

徐々に近くの隊からも、接敵を知らせる声が上がる。

私達も武器を抜いて警戒した。

私は棒を、ナナちゃんは短剣を抜いている。


「ゲオ! 土壁!」


レオンの声が聞こえたところで、ゲオが小さい土壁を周囲に張った。

腰の高さくらいの、小さな土壁だ。

速度を止めるためだけの物みたいだ。


土壁を越えて、黒狼が飛んで来た。

その瞬間を仲間たちが狙う。

チャールズとレオンが剣で斬り落とし、アリシアは風の刃を放った。

ゲオは指弾を撃っている。


「凄い、二人とも指弾をマスターしているんだね」


「勿論です! 今日はこの訓練ですよ!」


走り回られると捉えられないけど、土壁を越えてジャンプしたところを狙うのはやりやすい。

上手い戦い方だと思う。


「メッチャ多い!」

「奥の方が混戦になっている!」


私達は丁度良い広さで戦えているけど、木が密集したところだと黒狼に有利だろう。

混戦になるとボコボコにされるんじゃないのかな。

飛び込んでくる黒狼が減って来たところで、応援に行くことにする。


「レオン、どっちに多い?」

「前方!」

「じゃあ、前に走るよ!」


ゲオが前方の土壁を解除した。

私達は一斉に前に走り出す。

少し前に行くと、混戦の状況が見えてきた。

木々の間を走り抜ける黒狼に、近衛隊が体当たりされている。

坂道を転がって来る隊員が多い。

でも、体当たりくらいじゃ、鎧魔法で守られた隊員さん達は傷一つ付かない。

直ぐに立ち上がるけど、次々に黒狼が来るから、また体当たりされていた。

ボコボコ、ゴロゴロだ。


「指弾が撃てないぞ」

「ゲオ、接近戦だ」


ゲオも剣を抜いた。

アナとアリシアは既に槍を構えている。


バシっと音がして、私は吹き飛ばされた。

「ララ様!」

ナナちゃんが駆け寄ってきて、私は直ぐに立ち上がる。


「くそぉ。全然見えなかったよ」


ナナちゃんが反応して、迫る黒狼の首に短剣を差し込んだ。

キャン!

という叫び声と共に黒狼が倒れる。


私も棒を構えて、深呼吸した。

周囲の気配を探る。


「ここ!」


バシっと棒で捉えた。

思いっきり殴ったけど、殴るだけじゃダメだ。

棒に空間の刃を生成させた。

音、風、気配。

反応する練習だ。


アリシアが、ゲオが、レオンが、チャールズが何度か飛ばされているのが見えた。

アナはゴロゴロと坂道を転がっちゃっている。


「皆、受けの練習だよ! 最小限の動きで反応!」


ナナちゃんは全然やられていない。

落ち着いて短剣で捌いている。


他の仲間たちも何度か体当たりを食らっていたけど、少しずつ捌けるようになってきてみたいだ。

チラっと見るだけでも、形になっているのが分かる。

こうして見ると、接近戦はゲオだけが少し劣っているな。

でも、彼はその分、土魔法という強力な武器がある。

今は敢えて魔法を使わずに、剣の練習をしているみたいだ。


チャールズは、そもそも速度負けするタイプではない。

でも、今は速度に頼らずに剣の技量だけで戦うことにしている様だ。

見ていても綺麗な受けの型が取れていると思う。


アナは力任せに槍を振り回し過ぎだと思う。

アリシアは流石だ。

ピタっと下段に構えている槍が一瞬だけ動いて黒狼を刺している。

顔もスタイルも恰好良いし、素敵すぎる。


レオンは剣だけでなく、蹴りを入れたり、殴りつけたり、何だか分からないけど、強いのは確かだ。

剣も片手に持ち、ダラリと下げている。


しばらくすると、黒狼の攻撃が止んだ。

群れを倒し切ったのか、通り過ぎたのか。


「死骸を回収しろ!」


隊長たちの声が響いた。

私達の周りに死骸が集められて行く。

黒狼は魔石と牙が素材として売れる。

積み上げた死骸から、私はその素材だけを収納していった。


「三百八十六体ですな」


「多いね」


「いや、ララ様、半数は逃げられました」


「そんなに多いんだ」


「はい。特大の個体もいなかったので、ボスはまだ現れていません」


橘総統曰く、群れ単位で巨大な個体、いわゆるボスがいるらしい。

それが出てきていないということは、主力がまだ他にいるということだ。


「負傷者はいる?」


「打ち身程度です。骨折、ヒビ含めてゼロです。驚異的ですな。あれだけ吹き飛ばされても傷一つなし。これは、完全に掃討出来るかもしれません」


エドゥアルド隊長の方を確認したが、ケガ人ゼロは同じ様だった。

でも、隊長の機嫌が著しく悪い。

どうも思ったよりも討伐出来なかったことが、隊長として悔しいらしかった。


ミナセ近衛隊の人たちと、橘総統、そして私達の仲間が、受けの剣の話をし始めて、反省会、感想戦が始まっていった。

ララ近衛隊の人たちも、布陣や戦い方を皆で協議し始めている。

うん、こういう事が自然に出来るチームは、良いチームだと思う。


私は地面に空間魔法で穴を掘り、黒狼の死骸を入れて、収納から火を出して燃やした。



初日は夕方までかけて、三回、黒狼の群れと遭遇した。

正確に言うと、遭遇したのではなく、襲撃された、が正しいのだろう。


合計で九百八十四体の黒狼を討伐した。


相当な数の黒狼を倒したのは事実であるが、橘総統は油断していない。

むしろ、倒せなかった黒狼の数が徐々に増えている方が気になっているようだった。

初回は半分近くの黒狼を逃したが、逆に言うと半数以上は打ち取れていた。

それが、二回目は半数以上に逃げられ、三回目は七割近く逃げられているという。


「こちらが黒狼に慣れてきているのは間違いありません。明らかに討伐力は上がっている。それを察して無理して攻めて来なくなっているということでしょう」


橘総統はそう言っていた。


「向かってきてくれないと黒狼は倒せないものね」


「明日は少し山に登るのですよね?」


「うん。三回も襲ってきてくれれば、大体の群れの位置が分かるからね。黒狼の棲み処を探してみよう」


私はミナセ近衛隊の練習場まで直接転移する。

そこでミナセの近衛隊員を収納から呼び出し、鎧魔法を解除して解散する。

捻挫や打ち身など負傷している人には、ポーションを配布しておいた。

皆が綺麗なオジギをして、敬意を表してくれるので、温かい気持ちになれる。


「隊長陣とはこれから反省会をやります。まあ、吞みながらですけどね」


「深酒はダメだよ。明日も午後一時にここに迎えに来るから」


「は。ララ様、貴重な体験をありがとうございました。明日以降も宜しくお願いします」


橘総統も綺麗にオジギしてから踵を返した。

私とナナちゃんは、冒険者組合ミナセ本部に行き、千個近い魔石と牙を売却した。

八十万G。

思わぬ大金が手に入ってしまった。

これは参加者にお小遣いを出さねばならぬレベルの収益だ。

半分をパーティ予算にして、半分を人数割りすると、日当2千Gか。

新入隊員の月給近い日当になっちゃうな。

明日相談してみよう。


サン・ミラージュの近衛隊拠点に隊員たちを送った後、私とナナちゃんは迎賓館に帰った。



翌日、上空から空間ボールでレオンが遠見をした甲斐もあって、黒狼たちが多く群れているエリアに侵入することが出来た。

まるで行く手を遮るように、分厚い波状攻撃が襲い掛かって来る。

斜面を登るように侵攻しているので、多くの近衛隊員が坂道を転がっていた。


「アリシア! 木々を風の刃で切り裂いちゃてくれ!」

「ゲオ! 左右に土壁を!」


私は余り積極的に攻撃に参加することなく、ナナちゃんと一緒に黙々と斜面を登っていた。

昨日、迎賓館で五人は感想戦を入念にやっていた。

今、伸び盛りの彼らだ。

思う存分やってもらった方が良いだろう。


役割分担も明確だ。

ゲオとアリシアは魔法中心でサポート。

レオンとチャールズが先頭で切り裂く。

アナは私達の後方から襲いかかる敵を相手するようだ。


レオンとチャールズの剣筋は各段に良くなっている。

変に大振りすることなく、最小限の動きで剣を振っているが剣速は上がっている。

刃が綺麗に立っているので、相手に与えるダメージも深い。


ゲオとアリシアも効率的に魔法を放つことが出来ているようだ。

指弾は二十メートル程度の距離にとどまっているが、命中精度は高い。

黒狼程度なら、威力的にも十分みたいだった。

指弾だけでなく、土壁や突風と言った防御系の技の切替も出来ている。


アナはまあ、まだ子供だ。

興奮すると槍をブンブン振り回しちゃうところが改善ポイントだろう。


たまにナナちゃんが短剣で近づく黒狼に対応するので、私は本当に何もすることがなかった。


「王女殿下! 発見しました!」


前方から、近衛隊の人たちが叫ぶ声が聞こえた。

発見ということは、黒狼の棲み処が見つかったということだろう。

でも、発見って言葉を使うのかな。


黒狼を相手しながら、斜面を登ると、少し開けた平地に辿り着いた。

そこでミナセ近衛隊とララ近衛隊が黒狼たちと混戦になっている。


「洞窟か!」


レオンが奥の方を指差して言った。

大きな洞窟の入口があるのが見える。

なるほど、これならば発見と言っても良いだろう。


「この平地に結界を張るよ。中の黒狼を倒し切っちゃおう」


「了解、ちょっと待ってね」

「おーい! 全員平地に上がってくれ! 結界を張るぞ!」


皆が散らばって、斜面で戦う近衛隊員たちに声をかけていく。

私は先に洞窟の入口を塞ぐ結界を張った。


「ララちゃん、オッケー!」


チャールズの合図で、私は魔力をギュイーンと広げる。

この程度の広さなら一瞬だ。

そのまま、長方形の結界を張り、隊員たちを囲った。

中にいる黒狼たちを全員が囲って倒していく。

結界に外から突撃する黒狼たちが多数いるが、この子たちはもう何も出来ない。

私達を襲えないし、洞窟に戻ることも出来ない。


「ララ様、どうしますか?」

「王女殿下、突撃命令をください!」


橘総統とエドゥアルド隊長の二人が近づいてきて言った。


「あと二時間で陽が沈んじゃうね。今日は早めに上がろう。明日、朝から活動する。それでどう?」


「そうですな……。宜しいかと思います」

「は! かしこまりました」


「洞窟だからね。どうする? 私達だけで行こうか?」


比較的大きな洞窟だが、それでも十人が横並びで戦える程度の幅だ。

群れのボス戦もあるだろうし、大量の戦力が必要というよりも、高質な戦力が求められるのだと思う。


二人とも、自分たちも参加したいというので、ジャンケンで決めてもらった。

勝ったミナセ近衛隊が突撃部隊となる。

ただし、ボス戦は私達だ。

ボスの居場所を確認したのちに、戻って来ることを約束させた。


「ボス戦は私も行きますよ」

「王女殿下! 自分もです!」


「分かったよ。じゃあ、各近衛隊は三人までね。私達六人と合わせて十二人でボス戦をやろう」


ボス戦に臨む布陣は決まった。

後ろからチャールズが口を挟んできた。


「ララちゃん、空間収納で一瞬で終わらせないでね、僕らが戦うよ。今回のララちゃんはあくまでセーフティネットだからね」


「分かったよ。でも、ショボい戦いだったら、ポイっと収納するからね」


「いやいや、大丈夫だよ。僕らも成長しているからね」

「そうだ。ララ、安心して見ててくれ」

「俺の土弾で一撃かも知れんがな」

「殿下、首を切り裂いてみせますよ」


「はいはい。四人とも頑張ってね。アナは子供だからね。私の近くで護衛役ね」


「そんな! 子供って! ララ様の方が……」


「アナ、失礼なことを言ったら、私が首を落とすぞ」


「いえ……、申し訳ございません」


アナは私の方が子供じゃないかと無邪気に言おうとしたのだろう。

ナナちゃんが殺気駄々洩れで威圧していたけど、子供相手に大人気ないよ。

まあ、私とナナちゃんの方がアナよりも小さいし、見た目も子供みたいに見えるだろうけど、これでも君より強いんだよ。


明日のボス戦に備えて、私は鎧魔法を解除して、全員を送り届けた。



世界地図

挿絵(By みてみん)

東側立体地図

挿絵(By みてみん)

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