私達の大きな一歩
西園寺家の使徒以外に、ミナセ共和国には二人使徒がいる。
それが境家の二人だ。
漢字表記は『酒井』かもしれないし、『堺』はたまた『坂井』かもしれない。
私が決めてよいと言われたので、一番強そうな『境』にさせてもらった。
境 信 (Shin Sakai)
境 美和(Miwa Sakai)
信さんの方は、片目剣士のオジちゃんと同じ歳。
かつて、オジちゃんが弟子入りした『剣豪』と呼ばれていた人の息子さんだと言う。
オジちゃんが弟子入りした際には、友として共に学んだと寂しそうな目で言っていた。
今では近衛隊の剣術指南役として活動しているそうだ。
美和さんの方は、特別顧問付の近衛隊隊長さんだった。
槍術の名手だと言う。
特別顧問とは、真理伯母さん達のことだ。
あの二人が外で活動する時に護衛として就く隊ということだ。
ちなみに、近衛隊とは、軍隊の中でも選りすぐりの兵士で構成された人たちのことを呼ぶそうだ。
ミナセの軍隊は、天辺が平たい形状の帽子を被っており、上着は七つボタンの詰襟。
近衛隊だけが、帽子、制服の上下に三本のピンクのラインが入っている。
また、白いベルトをしているのも近衛隊だけだそうだ。
このラインの数が格を示しているそうで、首都を守る近衛隊が三本ライン。
北部キラセイと西部キミセを担当する軍隊が一本線。
東部カワセに常駐する軍隊は二本線だそうだ。
カワセの軍隊の格が高いのは、東部山脈の魔獣を相手にする強者が配置されるからだと言う。
話を戻すが、この境家の二人の使徒が、私達の指南役としてアサインされた。
この二人は専任アサインされて私達を鍛えてくれるそうである。
もう一人、近衛隊の責任者、総統と呼ばれる人が随時教えにきてくれるらしい。
橘 雅人(Masato Tachibana)。
この人は柔術の名手だそうだ。
そう言う訳で、私達の活動の中に武術の訓練という日課が付け加えられた。
剣術訓練には、チャールズ、レオン、ゲオの三人が行き、
槍術訓練には、アリシアとマリー、それに何故か侍女のアナも。
たまに開催される柔術訓練には、前述の全員が参加するという感じだ。
なお、槍術を担当する美和さんは合気道の達人でもあるらしく、女性三人はそれらも習得することが目標だと言っていた。
本来であれば、東の山脈の魔獣退治は、一月から三月、南半球で言う夏にやるべき活動であるが、結界を纏っている私達には正直あまり関係ない。
最初の三か月は、武術訓練に集中することになった。
魔獣討伐は四月に入ってから着手する。
そういうことになったのだった。
ちなみにエドゥアルド隊長配下の百人の近衛隊だが、私の護衛を担当する部隊でもあるので、隆叔父さんや橘総統に言われて、ミナセ近衛隊と合同訓練に参加させて貰うことになった。
ミナセ近衛隊は片刃の剣を持つ剣士の集まりだ。
私の近衛隊は両刃の大剣。
流派が違うのだが、これをきっかけに見直させてもらうことにした。
私の近衛隊、一応通称は『ララ近衛隊』と呼ぶのだが、こっぱずかしいので私は呼んでいない。
でも、ミナセ近衛隊と呼び名が被るので、やむなく、ララ近衛隊と呼ぶことにする。
そのララ近衛隊だが、彼らの持ち味は剣の技量というよりも、単純に力持ちの肉体派なのだ。
皆大きく逞しい。
多分、レオがそういう人たちを好んでいたのだと思う。
それをそのまま引き継いだのだが、体格だけは立派だけど、現状ではチャールズやレオンにも劣っている。
まあ、要は弱いのだ。
彼らなりに懸命に訓練をしているのだが、私から見て、イマイチ無駄が多いなと感じていた。
後述の商業関連でも彼らには協力してもらっているので、ここで私が手を入れて、一気に強化させてもらうことにした。
まず武器を両刃の大剣から、槍を主体とした物に変えさせてもらった。
彼らの力を活かすために、ただの槍ではなく、いわゆる『ハルバード』にした。
長い柄の先端が、斧の刃と槍の穂先を組み合わせた形をしており、さらに刃の背部には鉤爪が付いている。
槍の『突く』という攻撃だけでなく、怪力を活かしてハルバードを振り回し、斧の刃で『斬る』ことも出来る。
また、刃の背部の鉤爪で敵をひっかけたり、馬から引きずり降ろしたりも出来る。
そんな武器を全員に配布した。
勿論、魔獣素材の特性武器である。
かつ盾も用意した。
私の身長が隠れるくらいの大盾だ。
背中に背負う革製のホルダーも用意した。
いざ戦う時には左肩に回し、左半身で大盾を固定して攻撃を受けることが出来る。
革製ホルダー付きなので、両手でハルバードを扱いながら盾を使うことも出来るのだ。
橘総統からは、
「大変興味深い。ララ王女殿下は戦の知恵もお持ちなようですな」
とお褒めの言葉を頂いた。
総統の興味を惹けたので、ララ親衛隊はミナセ近衛隊と合同訓練に日々参加することになり、大盾+ハルバードという新たな装備を活かす力を磨かせてもらうことになった。
※
アス姉、フローレンスはお母様達と一緒に、各国の首脳陣が訪れた際にアテンドしたり、打ち合わせ事項を取りまとめたり、事務官として活動している。
それぞれ侍女のヴィルマとイザベラが付き従っている。
軍事同盟や通商条約の詳細議論も、各国の大臣、事務次官クラスが迎賓館に集まって議論しているようだ。
そうなると、必然的に私の手が空く。
でも、ボッチではない。
ナナちゃんがいつでも一緒にいるし、ナナちゃんがボブを引き連れて来ることもある。
三人揃うと、小さな子供達が集まっている感じがするけど、外に出る時は、ララ近衛隊の人たちがついてきてくれるので、補導されるような事もない。
基本的には自由気ままに過ごさせてもらった。
この自由活動時間をどの様に過ごしていたかを、今回は話したい。
私としては、かなり大きな三か月だったとは思っている。
一つ目は、近衛隊のバージョンアップだったが、二つ目は薬学関連のアップデートと製品化の話だ。
ミナセ共和国は、『漢方』という独自の薬学が発展していた。
とはいえ、西側諸国だって薬草を使っている。
植物由来の自然素材を治療に用いるのは一緒なのだが、西側諸国は、より直接的なアプローチだ。
植物の有効成分を特定し、その薬理作用を生薬として処方するのが、西側諸国の特徴だ。
一方、漢方は、人体を一つの有機的な個として捉え、全体を整える、調和させることを主眼においていた。
隆叔父さんが、漢方に詳しいのだが、彼の薫陶を受けたナナちゃんも詳しかった。
漢方の素材となる薬草を私の空間部屋で栽培して、私達なりの薬を作った。
この活動は、医師であるフローレンスや、薬師として学んでいるジョヴィ、その助手として侍女のイザベラも参加した。
皆でワンチームになって頑張ったと思う。
その結果、私達は育てた薬草を売るだけでなく、生薬として販売することを始めた。
胃腸薬、炎症抑制薬の二つを市場に流した。
まあ、複数の薬草を適切な配分で粉にしただけである。
一度、効果的な配分を見出してしまえば、あとはジョヴィ、イザベラが運用していくだけだ。
少し調子に乗ってしまったと思うのは、ここからだ。
最初に作ったのは軟膏だ。
抗生物質は当然、この世界には無い未開領域なので早々に諦めて、抗炎症薬の軟膏を作った。
菜種油、蜜蝋、防腐剤(ヒノキから抽出したもの)に、薬草をすり潰して混ぜるだけである。
これだけなら、まあ、正直簡単だ。
色気を出したのは、フローレンスだ。
「回復エネルギーとか入れちゃえば、爆発的に売れるんじゃない?」
とか言い出してしまったのだ。
「フローレンスが毎回魔力を注ぐ訳にはいかないでしょ」
「あるじゃない。永久に尽きることのない回復エネルギーの源が」
私はマジマジとフローレンスを見つめてしまった。
コイツ、天才かよ、と出会ってから何回目かの尊敬の眼差しを向ける。
何も言わずにナナちゃんが、倉庫からエネルギー鉱石を抱えて持ってきた。
「どこに抽出するか……」
「菜種油に浸ける?」
「ララ様、これを精製水に浸けるのは如何ですか?それを濃縮すれば軟膏に混ぜてローションの様に使えますし、飲み薬として使用すれば……」
「ポーション!」
「はい。世界初のポーションとなります」
それだ! と私とフローレンスは言った。
思いつくフローレンスもだが、すぐに適切な方法を提案できるナナちゃんも凄い。
その後、数週間かけて私達は試作品を作った。
ローションの様な塗り薬と、飲むポーションである。
効果はフローレンスの回復魔法には当然及ばないが、傷が半日程度で塞がるレベルの物が出来上がった。
抗炎症薬も混ぜておけば、飲むことで解熱や炎症が半日で治る優れモノである。
実は私達には精製水が簡単に作れる。
お風呂の仕組みと一緒だからだ。
我が家のお風呂は、排水タンク内で完全に不純物が取り除かれ純度が高い水となって、再利用されている。
その純度の高い水に回復エネルギーが詰まった魔石を浸けることで、最高級の温泉として利用しているのだ。
そう考えると、我が家のお風呂は、ほぼポーションと同じだと思う。
ただ、そこまで行きついて、私達は気づいてしまったのだ。
「ねえ。ララ、私、気づいちゃったんだけど……」
「うん。フロ、言わないで。ララも気づいたから」
色々頑張ったけど、これ、私達が作らなくても良いのだ。
お風呂の魔道具さえあれば、正直誰でも作れる。
軟膏なんて、私達が頑張って作る必要は全くない。
「製造もやってくれる商会を探そう。私達は回復効果のある精製水を卸す。あとは軟膏作りやポーション作り、販売も含めて独占契約でやってくれる商会があればいい」
見本となる塗薬(軟膏とローションの間くらいの粘度)とポーションを幾つか抱えて、私とナナちゃんで各国を飛び回った。
おそらく真理伯母さんや隆叔父さんの推薦もあったのだろう。
結局、ミナセの商会が一番品質高く、かつ丁寧に仕事をしてくれるだけでなく、取り分も私達に有利な条件で契約してくれることになった。
私達は定期的に回復魔法入りの精製水を卸すだけ。
あとは塗り薬も飲み薬も商会が製造し、販売してくれる。
私の収納魔法での検証によると、出来上がったポーションの保存期間は三か月。
三か月を過ぎると日に日に効果が減衰していく。
塗薬の方は防腐剤を入れているので、三年は保った。
問題は、より数が出ると思われるポーションの方である。
その保存期間を鑑みると輸送のやり方を少し考えないといけない。
普通に船便で輸出すると、サンテールに到着する時には保存期間切れだ。
各国の首脳からは、製造したポーションをなるべく早く自国に売りたいと希望が出たので、自動機械を使った高速船が広まるまでは、私の転移魔法を使って、各国に運んであげることになった。
これはエドゥアルド隊長が、各国の冒険者や兵士のために、ララ近衛隊が引き受けましょうと言って手を挙げてくれたのだった。
月に一度、ミナセの商会の工場まで、ララ近衛隊の人たちが製品を引き取りに行く。
箱で大量に仕入れて、迎賓館の転移扉を用いて、各国に配布していく。
転移扉の警備を担当している部隊だからこそ、出来ることではある。
迎賓館内に作業場所が新たに作られた。
回復効果のある精製水を作るためのガラス製のタンクが二つ設置された。
一つはお風呂にも使われている、不純物を除去する魔道具が設置されたタンク。
もう一つはエネルギー鉱石が浸かった回復効果を付与するタンク。
週に一度、タンク内の水を樽に移して、商会の工場まで運んでもらわないといけない。
そして、同じ量の水をタンクに注ぐのだ。
「エドゥアルド隊長、近衛隊員さん達に手当を出してあげたい」
「ララ様、不要です。我らはララ様のための部隊。ララ様が世界の怪我人、病人を助けるべく活動しているのを存じ上げております。それに、新しい装備一式も貰っており、我らは十二分良くして頂いております」
「いや、でも、ララのところにもお金が入るから、ちゃんと分かち合わないと」
私としては労働した分は支払っておかないと後から問題になるとか、私が気持ち悪いとか、薬を横流しされるのがイヤだとか、そんな思いだった。
でも、『分かち合う』という言葉が適切ではなかったのか、エドゥアルド隊長だけでなく、その場にいた近衛隊員達までも、感動してしまったようだった。
結果的に、エドゥアルド隊長配下のララ近衛隊は、他の職場よりも倍近い手当が貰える非常に人気の働き場所になるのだが、それはまあ、後日談ということで。
なお、この塗薬とポーションの商品名は『真女神の塗り薬』と『真女神のポーション』である。
色々口を挟んだが、最後は何も言わずに受け入れたよ。
※
千三百五十九年二月。
転移魔法を使えるようになったことで、やり残していたことを終わらせることが出来た。
片目の剣士のオジちゃん、オリバー・アシュトンの葬儀だ。
チャールズが転移扉を使って、かつて住んでいたクレールモンに何度か通った。
前に住んでいた自宅を取り壊し、オジちゃんのお墓を建てた。
前の自宅は賃貸で、既に他の人が住んでいた様だが、お金を渡し交渉して移ってもらったそうだ。
土地は当然買い取った。
石屋に立派なお墓を作ってもらい、準備が出来たことで私達は葬儀を執り行うことを決めた。
喪主は、チャールズ、フローレンスだ。
私達は当然参列した。
マリーパパやテオドール隊長だけでなく、王都から何名も昔の仲間たちがやってきてくれた。
面識があるミナセの人たちも。
境家の信さん、美和さん、橘総統、他数人。
面識はないけど、お母様やお祖母様、真理伯母さんや隆叔父さんも来てくれた。
教会の司祭として、ナスルのオジちゃんが式を執り行ってくれた。
「この参列者を見れば、故人の人柄、その功績が計り知れないことは想像に難くありません。故人の思い、願い、希望は今、大きな力となって、世界へと広がることでしょう」
ナスルのオジちゃんは、そう言って、葬儀を始めた。
オジちゃんの遺体は、私が収納していたため、傷んではいないが、頭部の無い遺体である。
テオ隊長に渡されたサンテール王国の国旗に、チャールズとフローレンスが泣きながら包んでいた。
マリーパパはいつの様に号泣し、大きな声で何かを言っていた。
珍しくテオドール隊長も、同じような様子だった。
フローレンスは葬儀の間、顔も上げられないほど泣き続けていたので、ずっとチャールズが肩を抱いて支えていた。
「オジちゃん、ごめんよ。遅くなっちゃったけど、クレールモンに戻って来たよ。チャックとフロは立派になった。まだオジちゃん程じゃないけど、チャックは強くなったよ。友達も沢山できたし、女神討伐は順調……、順調ではないけど、何とか前には進んでいる。心配しないでね。あと、ありがと」
私は棺が埋められる前に、手を置いて、ちゃんとお別れを言った。
「なんや、お前ら、泣いておるんやない。さっさと、前を向いて、頑張れや」
チャールズが、泣き顔でそう言って別れを告げていた。
※
千三百五十九年三月までの、三か月間。
首都ミナセでの滞在の最後の学び、それは日本語で書かれた書物から得た情報だった。
真理伯母さんと隆叔父さんの二人は、私の書庫の日本語の書籍を、ほぼ毎日読んでいた。
読んでは、ノートに書き留め、気になった所は二人で議論し、必要に応じて、他の英語の書籍を探して何かを学んでいた。
何を中心に勉強しているのかは分からない。
二人曰く、残りの人生をかけたライフワークとまで言っていたから、夢中になれる何かを見つけたのだろうと、私はただ見守るだけにした。
そんな私に提案してきたのは、ナナちゃんだ。
「ララ様、ここミナセには女神教の歴史改変から生き延びた貴重な資料が残っています。宜しければ、それを読んできませんか?」
彼は、そう私に提案してきた。
かつてセレニカーナ王国で知性の十使徒賢者マルコ・デ・ラ・ロッカが言っていた。
『古文書を探せ。教会は女神の指示で禁書にしたが、東の国にはある』と。
まあ、もう枝葉の様に瘦せ細って、声も出せない状態だったので、途切れ途切れの言葉だったのだが、その様なことを言っていたのだ。
お母様達は、おそらくバイシン帝国にいる『賢人ロン・シュエメイ』の元を訪ねろという意図だろうと言っていた。
賢人様は世界各国の文献に詳しく、色々な知識を保有しているからだと。
ただ、ここミナセに残っている文献にヒントがあるのならば、是非、読んでみたいと思う。
「ナナちゃん、セレニカーナ王国の賢者の話はしたっけ?」
「いえ。何があったのかは報告書で読んでいますが」
「だよね」
私はナナちゃんに賢者さんとの会話をなるべく正確に思い出して話した。
上手く説明出来たか分からないけど、ナナちゃんが上手に質問をしてくれたことで、必要な情報は全て渡せたと思う。
「『人類の起源を調べる』その賢者様の意図にあった丁度良い資料がある訳ではありません。ただ、それを推測できる記録は幾つか残っています」
ナナちゃんはそう言って、古文書が保存された図書室に案内してくれた。
三百年以上前の古文書は、閲覧に国の承認が必要であり、その手続きも得てくれた。
私はナナちゃんの案内で、古文書の閲覧室に行った。
実際には古文書そのものを閲覧できるのではなく、読ませてもらえるのは、その写本だ。
「まず、こちらの本の、この章をお読みください」
ナナちゃんに渡された写本の指定部分に目を通す。
日本語で書かれた文章なので、縦書きだ。
最初は物凄く違和感があったが、慣れてくると普通に読めるようになるから不思議だ。
ひらがな、カタカナ、漢字での記述も問題なく理解できる。
たまに、理解できないところがあるが、それは、書かれた時代を知らないと理解できない物や事柄だったりするそうなので、ナナちゃんでさえ、推測でしか分からないと言っていた。
「ナナちゃん、ひょっとして、この図書室の本って、全部読んだの?」
「はい。勿論です。ただし、全ての本の一語一句を読んだわけではありません。どんな内容が記載されているのか、全て把握できる程度には」
「凄いね……。勉強家だ」
「いえ。ララ様にお会いするまで、残念ながら長きに渡る時間がありましたので止む無く、お役に立てる様な情報収集をしておりました」
「え、あ、はあ……」
どんな頭の構造をしているのかは分からない。
でも、目的に沿った古文書を次から次へと出してきては、私に読ませていく。
私も気になったところは、ノートに書き写していった。
「ララ様、書き写すのは自分がやります。指示してください」
「うん、分かった。ありがとう」
そんな感じで、二十日ほどかけて、必要な情報だけ抜き出して読ませてもらった。
試験対策のために、長大な小説をあらすじだけ読んで覚えるみたいなやり方だけど、正直凄く助かった。
本来であれば、真理伯母さん達みたいに、十年単位で腰を据えないと手に入らない情報だと思う。
色々な知識を手に入れたが、目的に沿った重要な事実だけを端的に述べると下記となる。
・千三百五十九年前に、ミナセ人はこの地に『移住』した
・首都ミナセには最初から移住できる街が存在していた
・移住の際、ミナセ城、教会、迎賓館の三つは既に建設されていた
・統一街道とミナセ大橋、『国道』と呼ばれる道も最初からあった
逆に言うと、見つからなかった事実は以下だ。
・どこから移住したのかの記録はない
・誰が建設したのかの記録はない(城や教会を建てた人を誰も知らない)
・移住前にミナセ以外で生まれた人の記録(口伝含む)はない
私は仲間たちにも分かった事実は共有した。
フローレンスとチャールズは、一緒についてきてくれた日もあった。
「大きな一歩ね。ナナ、お手柄よ」
フローレンスはとても偉そうな感想を述べた。
彼女はサンパウリーナ王国のコンティスヨの森の地下施設の件からも、独自の仮説を考えていたそうだ。
「やはり、この世界には古代文明がいたのよ。おそらく、女神グループはその生き残りか、古代文明から引き継いだ連中よ」
「ロボット兵士を作るだけの技術を持った文明だね」
フローレンスの仮説をチャールズが補足する。
「そうよ。おそらく、北の帝国。どっちか、両方か。その辺に未だにいるのよ」
どこから移住したのか。
何故移住したのか。
その辺は『分からない』とフローレンスは言っている。
でも、少なくとも今の世界の人たちではない連中がいるのは、私も間違いないとは思う。
自動機械の存在。
古い教会に設置されている事実。
その全てが、その仮説を裏付けているとは私も思う。
大きな一歩か分からないけど、少なくとも解き明かすべき謎の一端は見えたとは思う。




