西園寺家の二人との会談
迎賓館の玄関ホールには、ずらっと扉が並んでいる。
よく考えると凄くシュールな光景だと思う。
そのうちの一つの扉に『ミナセ共和国首都ミナセ』と記載されたプレートがかけられた。
それを見て、タカシおじさんが、『ほぉ』と、また呟く。
壁を端まで歩いて、それぞれの扉に掛けられたプレートを眺めていった。
「タカシ、リュミエールの扉の向こうに行ってみても良いぞ」
「いいのか? フィリップ」
「構わぬ。俺の執務室の横の部屋を専用転移先にしておる。窓からリュミエールの街を眺めてみよ」
マリーが、タカシおじさんの手を取って、扉を開けて入っていった。
しばらくしてから、マリーがペチャクチャと説明している声と共に戻って来る。
「ふむ。本当にリュミエールであったわ」
イケオジが満面の笑みでマリーパパに言った。
何故かマリーが胸を反らして自慢げである。
「タカシ兄さん、ララちゃんのおかげで世界行脚が出来そうですね。楽しみが増えたわ」
「そうだな。寿命が尽きるまで、世界を旅することにしよう」
サイオンジマリさんは、『兄さん』と呼んでいるみたいだ。
私とアス姉と同じような関係なのかな。
お母様とお祖母様は、ニコラスさんにアテンドされて、先にリラクゼーションエリアに向かった。
サイオンジ兄妹二人の迎賓館案内はアス姉とフローレンス、マリーがするらしい。
私は説明も上手くないので、三人に任せる。
執事の『ボブ』ことロバート・マーチが、私の前にスッと立った。
後ろには護衛の様にアリシアとゲオが立つ。
何だか、少しずつ、こうやってオーバーになっていくんだよな。
そう思いつつ、玄関ホールから離れた。
執事のボブは非常に無口だ。
『王女殿下』『殿下』『こちらに』『食事です』、あとは挨拶ぐらいしか話さない。
ゲオ曰く、男の子たちと一緒にいる時はポツポツと話すそうだが、私の前では必要以上には話さない。
話しかけても、『はい』とか『仰る通りです』とかくらいだ。
笑顔すら見たことないのだ。
それでも、非常に優秀で、私が考えていることを先回りして動いてくれているのは分かる。
お風呂に入ろうと思ったら、女子棟に入る扉の前で、バスタオルを持って待っているし、出かける時には、帽子とマントをいつの間にか準備している。
女子棟には男子は入れないルールになっているが、ニコラスさんとボブだけは別だ。
ニコラスさんは女王のお母様のお世話があるし、私を世話してくれる専属侍女はいない。
ジョヴィとボブが実質的には私の担当だ。
まあ、私は身の回りの事を自分で出来るし、不要って言ったら不要なんだけど、最近では冒険者の服以外にも着ることが増えたので、何を着るべきかを教えてくれるだけでも助かるのだ。
私はボブにアテンドされて廊下を進み、ダイニングルームに入った。
スッと椅子を引かれて、席に座る。
目の前にはバスケットに入ったフルーツが置かれていた。
左右にゲオとアリシアも座る。
「ちょうど何か口にしたいと思っていたのですよね」
「さっき食べたばかりだからか、俺の皿はクッキーだけだ」
アリシアとゲオがそう言っているけど、こういう気遣いもボブならではだ。
私とアリシアは朝から高速船に行っていたので、小腹が空いているのは確かだ。
ゲオは確か夜番で高速船に詰めていたのだと思う。きっと遅起きだったのだろう。
「お昼ご飯はどうするんだろうね。晩餐会って言っていたから、あれは夜ご飯だよね?」
「ああ、昼ご飯はジョヴィが用意していたぞ」
「殿下はミナセ料理が宜しかったのではないですか?」
「う、うん……、実はちょっと期待していた」
ボブがティポットを持って戻ってきて、私達に紅茶を注いでくれる。
「ボブ、今日のお昼ご飯はどうするの?」
「はい、王女殿下。本日はこの迎賓館で皆様一緒に取ります」
こんな感じである。
『今日はジョヴィが、蕎麦を用意していましたよ』とか、そういう気軽な感じの説明はボブからは出てこない。
※
サイオンジ兄妹は、やはり知性派だったのだろう。
書庫に大いなる興味を示したみたいだ。
リラクゼーションエリアに戻って来たのは、大分経ってからだ。
侍女のイザベラとアナが、本を沢山積んだカーゴを押してきたので、きっと読んでみたい本を選んでいたのだろう。
お母様とお祖母様も着替えを済ませてソファに座っていた。
私は冒険者服のままだ。
サイオンジ兄妹もソファに座り、自然と歓談が始まった。
最初に切り出したのは、タカシおじさんだった。
「ララ、君は『日本語(Japanese language)』を解するのかね?」
「日本語?」
「ララ、ミナセ古語よ。私達がサイオンジさん達の文字を書いた、あれよ」
フローレンスに言われて、私も理解した。
私、マリー、チャールズ、フローレンス、レオン、この四人は『西園寺』という古語を知っていたのだ。
やはりそれは、ミナセ古語だったのだろう。
『日本語』と呼ぶのは知らなかった。
「あ、タカシおじさんすみません。日本語と呼ぶのは知らなかったです。でも、ミナセ古語が記憶に残っているのは本当です」
『そうか。どれくらい話せるのかね? 読むだけかい?』
『さあ、わかりません。こちらに生まれてから、使ったことも無いので』
「ふふ。普通に会話も出来るようだな。大変興味深い」
あれ?
隣に座っていたマリーが小さく『日本語での会話だったわよ』と教えてくれた。
「ララ、話していたんだ……」
「何かキッカケがないと思い出せないようだな。フローレンスが言っていた説を後押しする現象かもしれない」
タカシおじさんは、フローレンスに向かって、一つ頷いた。
この人は、フローレンス派だな。
ガリ勉一族だ。
「ナタリア、カタリナ、私達兄妹もここで暫く暮らさせてもらうことにするよ。ひょっとしたら、この迎賓館が無くなるまでか、私達が死ぬまでいるかもしれんがな」
「そう言うと思ったさな。それは主のララちゃんに言うのよ」
「ふむ。ララよ。我らの滞在を許していただけるだろうか」
「はい。勿論です」
「ララちゃん、どうして、タカシには敬語なのかえ? ララちゃんが敬語を使うのは初めてだと思うのよ」
「そうねぇ。私達にも最初から敬語は使わなかったわよねぇ」
「あれ? どしてだろ。タカシおじさんと、マリおばさんは、何だろう。ちゃんと接しないと行けない感じが……、敬意?」
皆からドっと笑いが起きた。
まずったな。これじゃ、お母様とお祖母様に敬意を持っていないことになっちゃう。
「でも、お母様とお祖母様は『様』付けだし」
「サミールやオスカーが泣くぞ」
「うう、間違いない。ごめんなさい」
「ふむ。まあ、我らにも敬語でなくて良いぞ。マリも言ったように親戚の叔父と伯母だ」
「そうね。私の事も伯母さんで良いわよ。楽な口調にしてね」
「はい。じゃあ、叔父さん、伯母さんにします。敬語はまあ徐々に」
「ララ、もう一つ聞きたいことがある。我ら兄妹の名前を漢字で書けると聞いた。一度書いてもらえるだろうか」
スッと、背後のボブから紙とペンを差し出された。
こういう気遣いがボブは凄い。
私はそれを受け取り、サラサラと二人の漢字を書く。
『西園寺 真理』
『西園寺 隆』
紙を受け取ったタカシ叔父さんが、マリ伯母さんにも見せて頷き合っている。
「間違ってました?」
「いや、正解はないのだ。我らも自分の名前を漢字で書けることは知っている。ただ、名付けは漢字ではないからな。ミナセ古語は廃れた言語だ。今ではミナセ共和国の中でも百人程度しか扱えぬ。主に古語の研究者だな。我ら兄妹は学んだので扱えるが、それでも自分の名前の漢字の正解は知らぬ。ただ……、今日からこれを正解とすることにした」
「ララちゃん、ありがとうね。家宝にするわ」
家宝って、オーバーな……。
「ララ、この漢字の意味は分かるか?」
「うん。『真理』は本質とか真実。『いつの時代も変わることのない正しいこと』。『隆』は高くて大きいこと。だから、『飛躍と成功』を願って付けられる名前だと思う」
叔父さんは、紙の裏にさらさらと私が説明したことを書いた。
綺麗な文字だった。
少し不安になって、フローレンスを見たら、間違っていないと頷いてくれていた。
「フローレンスはミナセ古語だって分かっていたの?」
「当然よ。だって、『西園寺』って漢字を書いたじゃない。漢字は東国よ。あと、書庫にも沢山あるわよ」
「ん? 何が?」
「あんたね、自分の書庫にある本くらい真剣に読みなさいよ。日本語の本が奥の方の棚には沢山あるのよ」
「うぇっ、知らなかったよ……」
フローレンスに呆れられたが、私にも言い訳がある。
だって、私が森で戦っている間、フローレンスは家のソファでゴロゴロしているんじゃんかよとか……、使える時間が違うんだよ、とは思ってるけど言えない。
私が書庫の本を、そこまで真剣に読んでいないのは事実だからだ。
真理伯母さんがクスっと笑って言った。
「私と兄で日本語の本は全部読ませてもらうわ。寿命との戦いだけどね」
「その通りだ。ララ、世話になるぞ」
昼食はパスタだった。
マリーパパは早々にサンテールに帰国したが、それ以外のメンバー全員でパクパクと食べた。
ジョヴィの料理の腕は姉に迫っており、大変美味しいご飯を作ってくれる。
四人の侍女の中では、ヴィルマとレイラが料理好きであり、三人で作ることが多いと言う。
アナは棒を振りまわしている方が似合っているし、イザベラはどうせフローレンスと一緒に勉強しているのだろう。
特に期待もしていない。
食事をしながら、西園寺家の話を教えてもらった。
かつて、ミナセ共和国にも貴族制度があったらしい、『華族』と言っていたが、中身は貴族制度そのものだった。
西園寺家も高名な貴族だったらしいが、二人が徐々に貴族の中で力を持ち、信頼を勝ち取ることで、貴族制度自体を廃止していったそうだ。
貴族主体の政治から、民主的な政治への変換。
静かなる革命だと思う。
一部の貴族が保有する軍権を取り上げ、国が保有する軍隊にし、議会制民主主義を導入した。
初代総理大臣が真理伯母さんだそうだ。
隆叔父さんが官房長官や軍務大臣を担当して支えたという。
三期十五年務めて、一度引退。
その後、再び請われて二期十年総理大臣を務めた後、本当に引退したそうだ。
今では二人とも『特別顧問』という役職で、アドバイザー的な役割を担っていると言っていた。
「私達はね、エッジ・シーカー、そしてララさんの活動をずっと見ていたわ。それこそアヴェリーヌの時から」
「アヴェリーヌ? 凄く前からですね。ララがまだ十歳。子供だった時だ」
「あんたはまだ子供じゃない」
ボソっとフローレンスが何か言っていたが、黙殺する。
私も今年で十四歳。
ちゃんと大人になっているのだ。
その話は、また別途したいと思う。
「色々事情があってね。その時から諜報員に調べさせていたわ。それこそ延べ百人くらいの諜報員を投入してね。ごめんね。何だか気分悪いわよね」
真理伯母さんは少し困った様な顔で謝ってきた。
目を付けるのが流石に早過ぎるとは思ったけど、女神に逆らって、国々に多大な迷惑? 少なくとも何らかの大きな事件に巻き込まれてきたのだ。
そりゃ、調査もするだろう。
「ううん。むしろ当然だと思う」
「我ら兄妹はもう国の公職には付いていない。だが、調査して助言するのは我らの仕事だ。だから、アヴェリーヌの奇跡から始まって、リュミエール、セレニティアの惨劇、ヴァルデンでの伝説の魔獣退治、セラーノの事件、カスティリオのクーデターも全て知っている」
「そうよ。賢者マルコ・デ・ラ・ロッカ、アリーチェの事も……」
元セレニカーナ王国の女王アリーチェ・デ・ラ・ロッカ。
カスティリオ王国のクーデータに巻き込まれた形で殺害された。
その兄の賢者マルコは女神の空襲の犠牲者だ。
いや、賢者は人生自体が女神に壊されたと言っても良い。
アリーチェさんの名前が出て、お母様とお祖母様も少し俯いた。
真理伯母さんも含めて、友達だったと言っていた。
レオの話が出ないけど、まあ良いだろう。
「貴女がやってきたことは立派だと思うわ。あの中東の二国アル・ナジール、ラージャスティすらも変えることが出来た。それは本当に凄いことよ」
「いえ……、ララは仲間に恵まれて……、凄い助けられて、でも助けられなかった人もいて」
「うんうん。そういうものなのよ。でも、中心はララちゃん、貴女でしょ。だから、マリーもアストリッドもフローレンスも、他にこんなに沢山の使徒が集まって協力する。私はね、いや私も兄もね、アル・ナジール王国が滅んだ時くらいから、貴方達の味方になると決めていたのよ」
「ふむ。俺は実際に会ってみてからにしようと真理には言ったがな。まあ、結果は一緒だな。我ら二人が目指した世界と、ララが目指した世界はおそらく同じ景色だと思ったのは間違いない」
真理伯母さんの言葉を、兄である隆叔父さんが補足した。
目指している世界という言い方をしているが、具体的に明確なヴィジョンが私達にある訳じゃない。
少なくとも私には。
あの女神に支配された世界が嫌なのと、目の前で苦しんでいる人を助けたいという思いだけだ。
「ミナセは女神の影響が少ない国って聞きました。戦争もしない国とも聞いています。巻き込んじゃうことになっちゃうかも……」
「ふむ。確かに我らの国は独自の宗教観があるからな。女神教の力は大きくない。だから、女神像を壊すことも出来た」
「え? 隆叔父さん、壊しちゃったの?」
「もちろん、壊したのは俺ではなく、国の判断だ。隣国、友好国だがバリカン共和国は熱心な女神教の国だ。壊して自動機械を回収して、似た様な女神像を作って飾ってある」
「はは、なるほど……。まあ、気づかないだろうしね」
「後は、我らの国は積極的に戦争を起こすことはしない。レオナルドが暴れまわっていた時も静観した。ただ、仮想敵国がいるのも事実だ。油断ならぬ相手だからな。軍事には力を入れている。簡単にやられる様な国では無い」
「バイシン帝国ですね」
隆叔父さんの『仮想敵国』という単語に、姉が付け加えた。
先ほどの友好国と言っていたバリカン共和国は、ミナセ共和国の西側の隣国だ。
バリカン共和国の向こう側には海があり、それを越えるとサンパウリーナ王国となる。
サンパウリーナ王国から統一街道沿いを東進するのならば、バリカン共和国を通り、ミナセ共和国に入るのが通常ルートだ。
ただ、私達は海で一気にミナセまで来たので、バリカン共和国には立ち寄っていない。
本物の女神像もない国なので、優先度を下げたのだ。
一方バイシン帝国はミナセ帝国の北にある。
二十五年くらい前までは、北の国境を接していた国だが、バイシン帝国の南部がミョンジュ共和国として独立したので、今では直接的には国境に面していない。
ミョンジュが緩衝地帯となってくれている。
それでも、謎に包まれた独裁帝国であるバイシン帝国が、何をしてくるかは不明だ。
国力があるだけでなく、国の中で何が起きているか分からないのだ。
仮想敵国として扱う方が良いと思う。
そういう意味では北にある三国は似ているとは思う。
北東のバイシン帝国。
中央のセヴェルスカ帝国。
この大国二つだけでも脅威だが、真ん中の小国ウルグル帝国も不気味だ。
未だ欲望の使徒が国を治めているし、信頼できない。
「私達の国、ミナセ共和国が軍隊を強化しているのは、バイシン帝国だけが理由ではないの。そして、これは貴方達エッジ・シーカーへの依頼事項でもあるのよ」
私が世界地図を頭の中に広げて考えていると、真理伯母さんが冒険者としての私達への依頼と口にした。
「私達はララちゃん達の冒険者としての活動にも注目したの。そして、それが今、私達が困っていることの解決策にならないかともね。ミナセ共和国の東の山脈の事は知っているかしら?」
ボブがスッとリラクゼーションエリアに設置された棚の中から、地図を持って戻って来た。
それを姉が受け取り、ソファ中央のテーブルに広げる。
ミナセ共和国、バリカン共和国、ミョンジュ共和国の地形を立体で表した地図だ。
隆叔父さんが、東側の山脈を指差し、説明を続けた。
ミナセ共和国の東端には峻烈な山脈が南北に連なっている。
その高さは、ヴァルデン共和国とサンテール王国を隔てていた山脈の高さに近いものがある。
ただし、特徴的なのはその峻烈さ、険しさだ。
急激に山が大地から盛り上がっている。
これを登るのは流石に困難だと思う。
山登りではなく、崖登りだ。
「ミナセ・アルプス山脈と呼ばれる山脈だが、人間が山を越えて向こう側に行くのは不可能だ。どうしても東に出る時には、この南部のカワセという街をくだり、海岸沿いを通って回るしかない」
隆叔父さんの話を要約すると、その山脈の向こう側にいる強力な魔獣を間引きしてほしいというものだった。
長年、強力な軍隊を鍛え上げて戦ってきたが、近年議会から、その人的損害を問題視する声が大きくなったために、間引きが進んでいないそうだ。
その結果、魔獣が山脈を越えて、こちら側に進出してくる事件が多くなってきているという。
「うん。いいよ。全滅させるのは無理だと思うけど、間引きくらいなら、チャック達が引き受ける」
「って、ララちゃん? 自分は行かない感じ?」
「うん。ララは別に興味ない」
チャールズは一緒についてきて欲しいみたいだが、魔獣の間引きくらいなら自分たちで行けと思う。
アリシアやゲオもいるのだから戦力は充実している。
「ふむ。ただ、魔獣の強さは本物だ。ミナセの歴戦の剣士を多数集めても苦労するくらいだ。ララを含めて最強戦力で望まないとならぬだろう」
「えー、ララ、もう戦うのとかイヤ」
隆叔父さんは、その強さを説明した後、魔獣の本を後で渡しておこうと言った。
うん、聞いた感じだと、確かに今まで会った伝説の魔獣並みかもしれない。
それが多数いるのなら、私も行った方が良さそうな感じがしない訳でもないと、思わないことも無いという気もするかもしれない。
「隆様、エッジ・シーカーとしてお受けします。その報酬はお金ではなくても宜しいでしょうか?」
「ほう。アストリッド、かまわぬ。言ってみなさい」
姉は剣の指導を依頼した。
自分たちの戦力向上を考えている。
そして、それを導く指導者を求めて、この国に来たという意図もあると。
隆叔父さんは真理伯母さんと視線を交わして、それを了承した。
指南役を数名アサインしましょう、と言ってくれた。
食後のコーヒーを飲みながら雑談は続いたが、午後は一度ミナセに戻り、指南役アサインの調整をすると言って、隆叔父さんが話を閉めようとした。
ランチ会はこれにて終了。
その最後のタイミングで、真理伯母さんが私を向いて告げた。
そして、それは、これまでにない真剣な表情だった。
「ララちゃん、もう一つお願いがあります。これは、国の指導者としてではなく、一人の母親としてのお願いになります」
「ん? 真理も母親になったのかえ?」
私も同じようなことを思ったが、口に出したのはお母様だった。
というか、女王のお母様も母親役をやっているだけで、自分で産み育てている訳ではない。
あ、そうか、真理さんも使徒を預かって育てているということか。
「はい。ナタリアやカタリナの気持ち、私にも今は分かりますよ」
凄く可愛い顔をして、お母様に返答していた。
「真理伯母さん、お子さんは使徒さん?」
「そうなの。選ばれし使徒。ララちゃんと同じ歳の男の子なの」
「うんうん。友達になるよ。チャック達も喜ぶ」
当たり前の様に頼みごとを引き受けたが、隆叔父さんが苦笑を浮かべて俯いた。
真理伯母さんも少し笑みが引き攣っている。
「あれ? どした?」
「その……、息子の希望は友達ではないの……。実は、ララちゃんの従者になりたいと。人生をかけてお仕えしたいと言っているのです」
「え?」
「すごいわ! ララ、面白いじゃない!」
「おっと、想定外の依頼だったね。ララちゃん、会った事無い子だよね?」
チャールズに聞かれたけど、当然出会ったことのない子だと思う。
「うん……、ちょっとオーバーだよね。友達とか仲間でララは良いんだよ。その子にそう言おうか?」
「ありがとう。私も兄もずっとそう言ったのですけどね、本人は従者になりたいと……、まあ、そう言う理由は分かるの。あの子はね『無加護の使徒』なの」
「むかご……?」
「ふむ。こちらに来て直ぐ、女神像に謁見させたのだが、女神から言われたのは『選別ミスだったかもしれぬ』という言葉だったのだ」
「そんな……」
「ヒドイわ!」
「うん、ララもそう思う。そもそも加護なんて無い。元々持っている資質を開花させているだけ。だから、女神の言うことを気にする必要はない」
「ララちゃんはそう言ってくれると思うのだけどね、選ばれし使徒は全員、特別な能力があるでしょ? 本人は気にしていないのだけど、周りがね」
「ララ、育て親の俺が言うのもなんだが、息子は優秀だ。学問だけでなく武芸にも秀でておる。選ばれし使徒でなければ、近衛隊のエースになれるかもしれない子だと思う」
「おお、隆叔父さんがそう言うのなら、そういう道もあるんじゃないの?」
「そうなの。もちろん、私も兄も何度も話したわ。でも、五歳の時から、ある人にお仕えするためだけに、この世界に来たと本人が言い張るのよ。そしてね……、その、私達がララちゃんを早くから調べていたのも……」
「ララの情報がこちらに入って来た際に、息子が言ったのだ。『この方に違いありません』とな。まだララがスオミアリスの普通の使徒として扱われていた時のことだ」
「すごい……まさに神の導きかしら」
「アス姉さんの言う通りよ! ララ! きっと良い子よ!」
「でも、ストーカーみたいだよね……。転生を乗り越えてララちゃんについてきた……」
「チャック、やめなさい」
仲間たちが色々言っているが、私も少し怖いと思うよ。
「こうして、私も兄も実際にララちゃんに会ってみて、確かにこの子なら、息子を預けても良いなと思えたわ。そして、きっと、貴女が成すべきことを助けてくれる子だと思う。だから……」
「うん。真理伯母さん、大丈夫。午後に連れてきてよ」
従者って、要は執事ってことだよねと私は考えた。
最近充実してきた侍女、執事のサポートメンバー達だが、さらに強化されるらしい。
しかも男の子。
ボブとキャラが被るし、女の子が良かったなとは思う。
西園寺家の御子息なので、もちろん、そんなことは言えない。
私はキチンと受け入れることを、西園寺家の二人に伝えた。




