東の国の首都ミナセ
高速船は速度を上げて北東の方向に進む。
コックピットには、チャールズ、アリシア、侍女のアナの三人が海図と羅針盤が広がったテーブルに顔を寄せ合って話していた。
※
千三百五十九年一月。
私達は数か月滞在したサン・ミラージュを離れて、ミナセへ向かった。
セラ・ダ・ルナでは先々月から再び小規模な戦闘が始まり、念のためにその様子を私達は確認していた。
カサ・デ・アグア軍は北部で冬を越したが、かなり苦しかったそうだ。
元々北部は人口も少なく、町レベルの集落も少ない。
精々が村レベルである。
接収するような住居も、間借りする様な教会すらもロクにない。
おそらく野営や間に合わせの簡易住居で寒さを凌いだはずだ。
また、南部で収穫される食糧に依存していた地域なので、十万人の兵士達を賄う食糧など無いのだ。
北部の雪解けを待ち、半数の兵士がカサ・デ・アグアに戻っていった。
残った兵士達のモチベーションは、だだ下がりで、如何にも嫌そうにしているという。
そんな状態で強固に守られた街を落とすことなど到底出来ないだろう。
それでも、サンパウリーナ王国軍は胡座をかいて休んでいる暇は無い。
エリザ司令官は、私達の迎賓館から日々、セラ・ダ・ルナまで通っている。
朝早く出発して、夜遅く帰って来るようだ。
敵兵の監視だけでなく、長く伸びた防衛ラインの維持も続けないと行けない。
戦争が長期に渡ると疲弊するのは、こちらも同じなのだと思う。
どこかのタイミングで和平協議を始める必要は出るだろう。
ただ、戦後の交渉を有利にするためにも、完全に向こうが諦めるまでは耐え忍ぶ必要はあるとお母様達は言っていた。
ペレイラ司令官は南島部だけでなく、大陸側の南部にも兵士を分散させて、レオが亡くなった後の国が乱れないように治安維持に努めている。
マテウス・ロペス海軍司令官は、新型戦艦の開発を命じられた。
自動機械による新型海軍を造ることが彼のミッションになっている。
そのため、ヴァルデン共和国の商会、私達の高速船を提供してくれた商会と頻繁に打合せしているそうだ。
この辺の情報は、チャールズとアリシアから報告されている。
カスティリオ王国の女王のお母様と宰相のお祖母様は、早々に連邦国家の草案を取りまとめた。
『サウスウェスト連邦』と名付けられた緩やかな統一国家は、夏には合意して公表する予定になっている。
カスティリオ王国とサン・ミラージュ王国の併合は、想定よりも統一国家が早く立ち上がりそうなので、一旦様子見になったそうだ。
その辺の政治的な活動は、アス姉と侍女ヴィルマの金髪コンビ、フローレンスと侍女イザベラのガリ勉コンビの四人が、お母様とお祖母様の教えを受けて動いていた。
マリーは侍女レイラと楽しそうに過ごしているので、結局、ジョヴィの負担は減っていないのではないかと、私は訝しむばかりである。
その間に私がやった大きな活動もある。
ヴァルデン共和国とサンテール王国間のトンネルを通した。
あの霧がどうこうしたとか言う山脈の中を通るトンネルである。
シュタインランドの西側の山から、ヴァルデン共和国ドライヒまでのトンネルと、ドライヒからサンテール王国ルマリの山の麓まで繋がるトンネル。
数か月、時間があったからこそ出来たことでもある。
私が開けたトンネルを今は補強しているところだと思う。
開通までに二年掛かると言うから、相当大規模な工事になるのだろう。
ただ、これで、世界はまた一つ近くなったのだとは思う。
私個人にとって、良いこともあった。
トンネルを掘ることで、空間魔法のレベルがまた一つ向上した。
転移魔法の一種だが、瞬間移動の様なことが出来るようになった。
特定の場所同士を直接繋げる。
一歩前に出たら、百メートル先に繋がる。
視界で捉えることが出来る距離なら、繋げられる。
そんな感じの魔法操作が出来るようになった。
このおかげで、トンネルを掘る速度も加速度的に上がった。
おまけに掘った地盤から硬質な岩石や鉄鉱石も掘りだせだので、収入としても大きなプラスである。
そんな数か月を経てから、私達はミナセへと向かうことにした。
ミナセ共和国(Republic of Minase)。
この世界では『東国』と一言で呼称されることもある東の地域の代表的な国だ。
レオンやマリーの様に、黒髪黒目の民族が住む。
ミナセの上にあるバイシン帝国(Empire of Bai Xin)や、そこから独立したミョンジュ共和国(Republic of Myeongju)も同じような民族だが、カルチャーが異なる。
ミナセの人たちは、真面目で温厚で努力家だ。
物静かで滅多なことで怒らないと言われている。
その分、社交性に欠け、世界の中でも、ある種の異物、溶け込まない独立性を保持している。
西方の国の人達からすると、分かりにくく、とっつきにくい民族であり、国という訳だ。
私達はバイシン帝国に住む賢人ロン・シュエメイ(Long Xuemei)に会うことで女神の謎を解きたいと思っているのだが、その前にミナセに立ち寄って、東国の情報を得たいとも考えている。
チャールズ、レオン達には別の目的がある。
東国ミナセは剣の使い手が多く、チャールズを育てたオジちゃんも、かつてはミナセで修行したという。
彼らも、ミナセで剣術のレベルを上げたいと考えているのだ。
おそらく、バイシン帝国に行く前に、長くミナセに滞在することになると思っている。
※
高速船はミナセ港を目前にしていた。
雄大な大河が海に流れ着いたところにあるミナセ港は、大きな港町だ。
大型船が停泊できるようなドックも多く、こうして海側から見ても、最大級の港町だと言うことが分かる。
港町だけあって、宿泊場所も多く、中でも高名な魚市場があると聞いていた。
チャールズはミナセ港を横目に舵を大河方面に切っている。
私達が目指す先は、まず首都ミナセだ。
大河をしばらく上ると、統一街道とぶつかるところに首都が建設されているそうだ。
「あとどれくらい?」
「一時間程度じゃないかな。すぐだよ」
今は高速船の舵をアリシアが握っている。
私はチャールズと一緒に窓から見える風景を見ていた。
チャールズ曰く、あと一時間程度らしい。
右手には港町があり、多くの人たちで賑わっているのが見える。
「お刺身、食べたかったな……」
「だよね。僕も楽しみにしていたんだよね。まあ、後からでも来られるから」
私とチャールズが、そんな話を聞いているとアリシアが聞いてきた。
「殿下も東国の食べ物を好まれるのですか?」
「うん……。実は殆ど食べたことが無いんだけど、記憶が残っているんだよね。ララと、マリー、レオン、チャック、フローレンス。皆が東国の食べ物を記憶していたんだよ。お刺身、とんかつ、うどん等々。皆で思い出しながら話していたら、ドンドンと記憶から出てきたんだよ」
「へぇ。それは不思議ですね。東国は米が主食ですからね。サン・ミラージュとは大分違うと聞いています。楽しみですよね」
ミナセ大河沿いには、小さな町が点在していた。
木で作られた家々。
屋根は鋭角な三角形になっており、茅葺と呼ばれる植物で覆われていた。
これもミナセ独特の風景だと思う。
ミナセ大河を上っているうちに、正面に大きな街が見えてきた。
あの大橋がミナセ大橋だろう。
「ララちゃん、あれ見てよ。お城だよ」
「うわっ。スオミアリスのお城とは全然違うね」
「あの『ミナセ城』を見るためだけに、ミナセに来る人たちが沢山いるみたいですよ」
スオミアリスの教会も城の様に見えた。
現地の人たちは『キャッスル』と呼んでいたし、地図にもそう書いてあったくらいだ。
ただ、ミナセ城とは大きく違って見える。
恐らく、最も顕著な違いは建築素材なのだろう。
スオミアリスのキャッスルもそうだが、西側諸国の王宮や教会は、石やレンガ造りで出来ている。
ミナセ城は主に木材が主体だ。
土台のみが精緻に石垣で組まれていた。
ミナセは東部の大きな山脈だけでなく、北西部にも広い森を抱えた国だ。
森林資源が豊富なのだろう。
さらに東部に多いと言われる地震に対する耐性も考慮した結果なのだと思う。
木造の構造は地震の揺れを吸収し、しなやかに変形することで倒壊を防ぐから。
これら構造の違いは外観にも明確に表れていた。
木材の上部は、白漆喰で塗られており、意匠も美しい。
多分、あの最上部が『天守閣』と呼ばれる部分なのだと思う。
他の国の教会や王宮と大きな違いが見受けられた。
大河の岸に設けられた桟橋に高速船を停めて、私達は統一街道に上がった。
統一街道はミナセ大橋を渡ったところで、北に折れ曲がっていく。
このまま北に真っ直ぐ進めば、南バイシンとも呼ばれるミョンジュ共和国となる。
首都を囲う外壁などは特に設けられていなく、右手にも左手にも木造りの街が広がっていた。
「とりあえずミナセ城の方に向かってみましょうか」
アリシアがそう言って、北方向に向かって歩き出した。
南の方が賑やかな商店や宿場街になっているようだ。
いずれも木造建ての二階か三階の建物の様だった。
「サン・ミラージュはレンガ建てだけど、高い建物がないのは良く似ているね」
「はい。殿下の仰る通りですね」
ミナセの民は上半身に『六尺半纏』と呼ばれる東国の服を羽織って、腰の位置を布帯で縛っている。
女性は足首までの長い装いだが、腰帯が太く豪華だった。
レオの葬儀で、マリーが着ていた喪服に似たシルエットだ。
この辺りがこの街のメインストリートなのだろう。
大きな商店が立ち並ぶ広い通りを私達は北に向かって歩いた。
所々にある洋館には各国の旗が掲げられている。
多分、大使館なのだと思う。
石畳をトコトコと歩いていると、向こうから馬に乗った兵士が数人でやって来た。
「あれは近衛隊ですね」
アリシアが向かってくる兵士さん達のことをそう呼んだ。
天辺が平たい形状の帽子を被り、詰襟タイプの制服を着ている兵士達だ。
制服の腰には白いベルトを付けている。
その近衛隊の人たちは私達の前まで来ると馬から下りた。
腰を綺麗に折り曲げ、深く頭を下げて、私達に向かって告げる。
「ララ王女殿下とお見受けいたします。迎賓館にお招きするように仰せつかっております。今、馬車を呼んでおりますので、案内させて頂きたく」
私の前に立っていたアリシアとチャールズが、二人して私の方を振り向いた。
正体はバレていますよ、どうしますか?
そんな顔を向けていた。
「うん。わかった。ありがとう。でも、私達もお馬さんに乗っていくから、案内だけしてくれるかな」
そう告げて、私は三頭の馬を収納から出した。
いきなり出現した馬に、兵士達はおそらく凄く驚いたのだろうが、表情には出さない。
目を少し大きくしただけだった。
すぐに、『かしこまりました』と言って、再び馬に跨った。
きっとカスティリオやセレニカーナの人達なら、両手を広げて大袈裟に驚いて見せただろう。
前に二人の兵士が先行する。
私、チャールズ、アリシアと並び、後ろに三人の兵士が続く。
護衛されているのか、連行されているのか分からないけど、私達はポクポクと石畳を進んだ。
私は帽子を目深に被り直し、背筋を伸ばして、なるべく優雅に見える様に、馬上で体勢を整えた。
ミナセ城にかなり近づいたところで、大きな建物が続くエリアに入った。
右手に特大の石造りの建物が聳えている。
私達は左手の洋館の方に進んだ。
こっちが外国の賓客を招くための建物なのだろう。
迎賓館、兵士さんも確かそう呼んでいたと思う。
「ララの仲間も呼んでも良い?」
「は? 王女殿下のお仲間ですか? 構いませんが、今どこに?」
迎賓館の中に案内されながら、先行する兵士の人に声をかけた。
問題なさそうなので、答える前に空間に裂け目を作った。
アリシアがスルッと中に入っていく。
ベルがチリンと鳴ったところで、私は一度裂け目を閉じた。
「うん。今、呼びにいったから、先に部屋に行こう」
「は……、かしこまりました……」
もう色々聞くのは諦めたようだ。
兵士さんはそのまま歩を進めた。
案内先は一階の奥の部屋の様だ。
兵士さんはドアの前に立ち、頭を垂れる。
右手で、この先に進んでくださいと示した。
他の兵士さん達も、ドア横に並んだ。
ありがと、と言いながら開いたドアを潜った。
高い天井の大きな会議室。
洋館の中のはずだが、床も壁も天井までも木材で出来ていた。
木造りの豪華なテーブルと椅子。
既に手前の列には数人揃っていた。
「ララ王女殿下。ようこそミナセ共和国へ。共和国は歓迎いたします」
小柄の女性が、椅子から立ち上がって近づいてきて、代表して口上を述べた。
私は、御礼を言いつつ、仲間を呼んで良いかを尋ねた。
首を傾げながらも了承を貰ったので、空間に裂け目を生じさせる。
最初に出てきたのはニコラスさんで、その招きでお母様、お祖母様、アス姉やマリー、フローレンス達まで全員が出てきた。
「カスティリオ王国女王陛下……!」
「ふむ。今代の総理大臣かの?」
「マリはいないのか?タカシもか?」
お母様、お祖母様が優雅な振る舞いで、小柄な女性に声をかけた。
「はい、顧問のお二方は、もうすぐいらっしゃいます。あ、失礼いたしました。現総理大臣を務めております、エリ・サトウと申します」
「そうかえ。皆の者、席に座って構わぬ。わらわ達も座らせてもらうぞ。互いの紹介はそれからじゃ」
現総理大臣の佐藤さん自らが、女王のお母様達をアテンドした。
席に座ったのは、いつも通りだ。
お母様とお祖母様の間に私が座り、一つ空けてマリーが座った。
姉達は後ろに立って並ぶ。
「おー、遅れてすまん」
開けっ放しのままにしていた裂け目から、ニコラスさんが次にアテンドしたのは、マリーパパだった。
マリーの横に空いた席にツカツカと歩いて座った。
「ふむ。今日はこのメンバーで臨ませてもらうかえ。ヴァルデンの首相やナスルは明日挨拶にやってくると言っておったわ」
「は、ありがとうございます……」
私達の前に緑色のお茶が出された。
お母様達は、おぉ懐かしいの、と言いながら飲む。
マリーが大きな声で『お茶ね!』と言った。
温かいお茶を啜っていると、急にピンと張りつめた空気が会議室に漂った。
私達にも分かる緊張感だ。
湯呑みを置いて、顔を上げる。
向こう側に座っていたミナセ共和国の人たちが、一斉に立ち上がって、扉の方に身体を向けた。
シズシズと歩いてくる衣擦れの音がする。
どれだけ大物がやってくるのかと思っていたら、扉から現れたのは小柄の女性だった。
落ち着いた色合いの着物を纏って、優し気な微笑みを浮かべた大人の女性。
お母様と同年代だろう。
童顔だからか、老け顔には全く見えない。
少女のまま大人になったような人だった。
この人が、サイオンジマリさんだろう。
十王であり、お母様の友達。
少し後ろを歩く男性が、知性の十使徒の方だろう。
長い髪を後ろで雑に縛っているが、白髪混じりのイケオジだ。
「お久しぶりね。ナタリア、カタリア、また会えて本当に嬉しいわ」
対面の席に座らずに、こちら側に歩いてきて、お母様とお祖母様の手を順に取った。
凄く嬉しそうな笑みを浮かべたサイオンジマリさんは超絶可愛い人だった。
「マリ、今日は私の子供達を連れて来たのさえ。自慢の子供達よ」
「タカシも元気そうね。良かったわ。レオの件もあったからねぇ」
「ふふ。ナタリア、カタリア、話は聞いているぞ。こちらは問題ない。二人も元気そうで何よりだ」
サイオンジタカシさん。
声も落ち着いた知性的な人だった。
マリさんの後で、タカシさんも二人と握手した。
「貴女がララさんね。初めまして。マリ・サイオンジです。親戚の伯母さんだと思って仲良くしてね」
「ララです。宜しくお願いします」
私は東国風に深く腰を折って『オジギ』した。
「ほう。ミナセ風の礼儀を知っているようだな。興味深い。私はタカシ・サイオンジだ。ララ、宜しく頼む」
「はい。タカシおじさん。ララです。宜しくお願いします」
私に続いて、仲間たちも挨拶した。
マリー、レオン、チャールズ、フローレンスは私と同じように綺麗に『オジギ』していた。
アリシアやゲオも真似をしているけど、やっぱり全然違うんだよな。
何だろう、背筋が曲がっちゃうからかな。
アス姉は、普通に握手で応じていた。
そっちの方がスマートに見えて好感が持てるよ。
皆が席についてから、ミナセ側の紹介もしてもらった。
総理大臣を筆頭に外務大臣が並び、現閣僚が勢ぞろいしていた。
「ミナセ共和国の皆よ。わらわ達を歓迎してくれて感謝するぞ。引き続き友好的な関係を願いたい」
女王のお母様が代表して礼を述べた。
その後、『アストリッド』と声をかけて、姉が持っていたプリントをミナセ側に配布した。
「まず、わらわ達が、これまでやってきたこと、そしてミナセ共和国を訪れた理由を説明したい。アストリッド」
「は! 改めてまして、一級冒険者パーティ、エッジ・シーカーの代表を務めております。アス・スティエルナです。かつてカウニア連邦に住んでいた際には、アストリッド・アフ・スヴェンソンを名乗っておりました。その辺の経緯も全てご説明させて頂きたいと思います」
姉は説明を始めた。
プリントに詳細は書いてあるのだろう。
説明は比較的、端折った形でなされた。
私達の出自から始まり、サウスウェスト連邦国が設立するまでの話だ。
連邦国設立という新しいエピソードが今回は追加されたが、私が驚いたというか、そうするのかと思ったのは、私達が身分を変えたことを正式に伝えたことだ。
身分詐称は法律違反である。
これまでの各国の首脳たちはそれを知った上で付き合ってくれていたが、それは目を瞑ってくれただけである。
これから先は、姉も国の正式な役職に付いて活動することが増えるだろう。
足元をすくわれないためにも、こうして理由があり、やむなくそうしていると公に説明することにしたのだと思う。
一通り説明した後に、ミナセ共和国の現総理大臣が礼を述べつつ答えた。
「アストリッド様、ご説明ならびに詳細な報告書ありがとうございます。大変たすかります。さて、私どもミナセ共和国は、サウスウェスト連邦国を歓迎いたします。つきましては、早速軍事同盟ならびに通商協定の具体的なすり合わせを始めさせて頂きたく考えております。また、エッジ・シーカーの皆様のご支援も当然ながらさせて頂きます。国の各所に隠されていた自動機械も既に回収済みです。今はコンテナにしまって、ミナセ大河に沈めておりますが、後ほどララ王女殿下にお渡しいたしましょう」
「ほぉ。さすがさな」
女王のお母様が感嘆の声を漏らした。
私もそう思う。
決断が早い。
ヴァルデン共和国もそうだったが、同じように詳しい事前調査をしていたのだろう。
ヴァルデン共和国はレナさんに調査を依頼していたからこそ、早く決断出来たところがあったから。
「どうせ、タカシが影を動かしたのだろうよ」
「ふっ。フィリップよ、俺はもう国の役職には付いていない。全て現役の政府が判断したことだ」
マリーパパが『影』という諜報機関っぽい名前を口にして、タカシおじさんが事実上、それを肯定した。
『影』って、格好良いな。
忍者みたいな人たちを思い浮かべてしまった。
「ナタリア、カタリア、それにフィリップよ、今日のところは、大方針としては合意したということでどうですか? 細かいところのすり合わせは、色々な国の代表だけでなく、各大臣間も協議が必要でしょう。時間がかかると思うわ。もう私達は食事をしたり、おしゃべりをしたりしましょう」
ふんわりとサイオンジマリさんが言う。
佐藤総理大臣もそれに頷いた。
「はい。顧問の仰る通りですね。具体的な協議は明日から始めましょう。今日は晩餐会を催したいと思います。この迎賓館の二階に皆様のお部屋もご用意させていただきます」
「ふむ。ありがたいことよの。ただ宿泊部屋は不要じゃ。ララちゃんの館で、わらわ達は寝泊りしているからの。一部屋だけ、厳重に警護された部屋を作ってもらえるかのぉ。そこに出入口を作らせてもらうかえ」
姉がお母様の発言の補足をした。
空間魔法の存在と、創り出した空間、迎賓館の話をだ。
お母様とお祖母様が、晩餐会までの間、私達の迎賓館にサイオンジマリさんとタカシおじさんを招待すると言っていた。
「ありがたく招待を受けますわ。ナタリアのお歌も久しぶりに聴きたいもの」
「ふむ。大変興味深い。早速訪ねさせて頂こうか」
ミナセの十王と知性の使徒も了承する。
佐藤総理大臣が、二階の最奥の一室に案内してくれた。
滞在までの間、この部屋を、出入口として使って欲しいと言う。
入ってみると、部屋というより、もはや家では? と思うくらいの大きな部屋だった。
本当に扉を置くだけだから、こんな広いスペースは不要と伝えたのだが、各国の偉い人たちが倉庫の様な部屋から出入りするわけにはいかないと言われて、納得した。
皆で、迎賓館への入口をどこに設置するかを考えた。
結局、執務室の様な部屋に付随している物置部屋の扉、そこを開けると私の迎賓館に繋がるようにした。
ミナセの兵士さん達は、この最奥の部屋の前に護衛を置き、さらにこの執務室の扉の前も厳重に警備すると言ってくれていた。
皆でそのまま、空間部屋へ繋がる扉を通って戻る。
サイオンジの二人はニコラスさんにアテンドされて、中に入った。
扉の向こうでは、佐藤首相と大臣が深く『オジギ』をして見送ってくれていた。




