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(幕間:レオン・シュヴァルツ、チャールズ・アシュトン)それぞれの死闘


「うわっ!」


そんな愚かな声が、自分の口から漏れた。

通路の床に仕込まれていた罠を踏んでしまった。

光魔石に集中するあまり、床の仕掛けに気付かなかった。

斥候としての自分のミスだ。


地下施設に入り込み、結界を破壊する光魔石を壊しながら通路を進んだ。

おそらく光魔石が壊された時のための罠だったのだろう。

ひょっとすると、光魔石があろうとも最初に訪れた侵入者は落下するような仕掛けだったのかもしれない。

どちらにしても、その罠を踏み抜いた自分は愚かだ。

そう考えながら、地下施設のさらに地下に落下した。


落下した瞬間に周囲から光が照らされる。

縦に細長く続く部屋。

自分が落下した先、奥の方には檻の様な物が見えた。

床に設置されていた罠と連動していたのか、檻の扉が開錠された。

ギィっと檻の扉が開き、中にいた獣がノソっと出てくる。


パリン!

自分を囲う鎧結界が破壊されたのだろう。

ムンっと湿度の高い空気が自分の身体を覆う。

心なしか酸素の量が薄い気がした。

鎧結界が解かれたということは、つまり、自分を守るものは今着ている装備だけということだ。


檻から出てきた獣が二本脚で立った。

天井に付くほどの体長。

体表は長い毛で覆われている。

そして、強烈な悪臭がした。


「キギャー!」


「ちっ……」


鼓膜が千切れんばかりのデカい咆哮。

毛深い腹のど真ん中に大きな目がギョロっと開かれた。


(くそっ)


心の中で一つ目のバケモノに悪態をついた。

背中から機関銃を回し、毛深い腹に銃弾を掃射する。

ガガガガガガ

毛深い腹に着弾して血が噴き出た。

流石に目に当たるのは嫌なのか、右手で腹の一つ目を覆った。

左手は目の無い顔の上部、額を覆っている。

何発も着弾しているはずなのに、倒れない。足も止まらない。

ノシノシと歩いてきていた。


ガガガガガガ

狙いを右手で覆う目の上、心臓があると思われるところに変えた。


カチっと音がして、弾切れを知る。

光魔石を壊すためだけに渡された機関銃だ。

勿論、替えの弾倉は持っていない。

機関銃を床に投げ捨てて、剣を抜いた。

全身に魔力を浸透させ、身体の表面を強化する。

鎧魔法を自身の力で作り出すのだ。

先ほどまで、ララが作ってくれていた鎧魔法を思い出した。

それと同じように、関節以外の箇所を厚めに調整する。


足の筋力を強化して床を蹴った。

狙いは、どでかい一つ目だ。

覆っている右手ごと貫くべく剣を構えた。


「キギャー!」


近づく足音で分かったのか、悪臭と共に叫び声が響いた。

目を覆っていた右目の甲で、思いっきり叩かれた。

裏拳で身体の左側を打ち付けられて、吹っ飛ばされる。

床をゴロゴロと回転して起き上がった。


(大丈夫だ。痛くない。鎧魔法が無くてもいける)


多少の衝撃はあったが、ダメージには繋がっていない。

これならばやれるだろう。

こちらに向けて、ノシノシ歩いてくるバケモノに剣を構えた。


(今気づいたけど、口も腹についているんだな……)


ギョロリとこちらを見据える一つ目の下に、大きな口が見えた。

毛深い体毛に隠されているようだが、腹を切り裂くような大きな口だ。

口から見える牙はいずれも鋭利だ。

肉食獣であることは間違いない。


(あそこに口があるのなら、胃袋はどこにあるのだ?)


腹に口があるということは、胃袋はその下なのだろう。

体長は大きいが、手足は長くない。

むしろ短足だろう。

大きく長い胴体。

口の下に胃袋が直結しているのかもしれない。


手足が長く無いと言っても、こっちの剣の間合いよりも、向こうの手足の間合いの方が長い。

ブンブンと両手を振って攻撃してきた。

ステップを踏み、身体をフェードしながら、間合いに入る。

振り下ろす左手の内側を剣で切り上げた。

シャっと体表が裂かれて血が出るが、剣が奥まで入りきらない。

体表の下には固い組織があった。


(筋肉なのか……? 銃弾もそこで止められたということか……)


ドンと下から突き上げられる様な衝撃の後、左手の爪で切り裂かれた。

相手の間合いから逃げるように横に転がって退避する。

蹴りの後の爪攻撃か。

マントが無かったら、強化魔法だけじゃ切り裂かれたかもしれない。

左手でマントの胸についているボタンを手で触って確認した。

マントが飛ばされたら致命傷を負う可能性もある。

ちゃんとボタンが閉じられていることを確認してから、再びバケモノに向かって床を蹴った。


バケモノの体表を切り裂く代わりに、相手の殴打を食らって吹き飛ばされる。

バケモノは多少の血を失い、こちらも多少のダメージを負う。

収支がプラスなのかマイナスなのかも分からない。

何度か、その攻防を繰り返しながら、他に手は無いものかと考えた。


「キギャー!」


三回目の雄叫びと悪臭。

他の攻撃手段を考えていたのは向こうも同じだったらしい。

ダッシュして、こちらに走って来た。


(ヤバっ)


横にローリングして体当たりを躱す。

転がってから立ち上がろうとしたところで、宙に浮くバケモノの姿が見えた。


(フライング・ボディアタック……?)


両手を広げて、覆いかぶさろうとするバケモノ。

咄嗟にうつ伏せ姿勢となり、身体に魔力を浸透させて、衝撃に耐えられるように強化した。


ドン!

床全体に衝撃が広がる。

ぐふっと口から息が漏れたが、ノーダメージ、大丈夫だ。


「ヒヒャー」


という変な声と共に両脇腹が締め付けられる感触がした。


(噛みつきか!)


マントを着ているおかげで、あの牙が刺さることはないが、かみ砕かれてしまいそうだ。


「うぉぉぉぉー!」


全力で筋力を強化して、身体を持ち上げる。

そのまま立ち上がり、右手に持っていた剣を背中に嚙みついているバケモノに刺し込んだ。


「キギャー!」


剣を半分以上刺し込んだのは流石に効いたのだろう。

悪臭と叫び声を残し、身体を離してくれた。


(ふぅ……あぶね。でも、刺し込めば固い組織部も貫けるな。倒すには、それしかないか)


バケモノの体表の下は、固い筋肉層に覆われているのだと思う。

ダメージを加えるとしたら、その下の内臓部分まで刃を刺し込まないと意味がない。

剣を完全に刺し込まないと届かないだろう。

ただ、そこまで剣を刺し込んだら、抜けない可能性もある。

そうなると、次の手が打てない最後の一手になってしまう。


(確実に仕留める場所に一突き入れるしかない……どこだ?)


一つ目のバケモノの弱点と言えば、当然目だろう。

ただ、目を潰しただけで死ぬのか。

ただ視力を奪って暴れまわるだけにならないのか。

こちらは最悪、剣を失うのだ。

剣を失った状態で、盲目のバケモノを倒せるのか。


(心臓か、魔石か、脳だろうな……)


剣を最も失うリスクが低いのは、脳だろう。

心臓と魔石は相当深い位置にあるだろうが、脳はそうでもない。

剣を刺し込んで抜くことも容易だろう。

ただ、刺すためには、天井近くまで飛び上がらないといけない。

刺す難度自体は跳ね上がるのだ。


何十回目だろうか。

体表を切り裂いて血を奪う。

その代わりに、殴り飛ばされて床を転げまわった。

直ぐに立ち上がるべく、足に力を入れて体勢を整えた。


(ん? まずいな。筋力強化が弱まっている……、魔力切れが近いのか?)


足の筋力に回す魔力が不足していた感じがした。

戦闘開始から十数分経過しただろう。

筋力強化だけでなく、鎧魔法も自分でかけている。

これまでにない魔力消費量だ。

自分の魔力が尽きる可能性は大いに考えられる。

もし魔力枯渇したら、あの攻撃は耐えられないだろう。

そして……、それは、自分の死を意味する。


(仕掛けるしかないのか……)


ここから先は魔力量をどれだけ効率的に使えるかだ。

リスクを負って、鎧魔法を解除するしかない。

残りの魔力は、筋力強化に回そう。


体表の強化に使っていた魔力を止めた。

床を蹴って、バケモノの横をすり抜ける。

もう懐には入れない。

バケモノが回転する前に背中を取りたい。


グルっと回ったところで、反転してバケモノの背中に組み付いた。

長い体毛を掴み、肩に登った。


「キギャー!」


「うわっ!」


叫び声と共に、バケモノ自身が暴れまわり振り落とされた。

床にローリングして着地する。

すぐにその場から離れようとしたところで、マントを掴まれた。


(まずい……)


強引に壁に投げつけられる。

思いっきり背中を打ち付けた。

ごほっ……と肺から息が吐き出された。

バキっと音がして殴られたことを悟る。

強烈な痛みは後からやってきた。

目の前に毛深い腕が見えた。

肘鉄を食らったのか…。

ぐふっ……、腹を思いっきり殴られる。


(これ……、まじでまずいな……)


このままだと、ここで殴り殺されるだけだ。

やむを得ない。ここで仕掛けるしかない。

全身の筋力を強化する。

ここで出し切ってダメなら、自分は終わりだろう。

ぐふっと上がって来た胃液を吐き出すと血の塊だった。


「うぅぅぅりゃーーーぁぁぁ!」


全身の全ての力を使って、バケモノに体当たりをぶつける。

ほんのわずかだけど、押し返すことが出来た。

反転して壁に向かい、飛び上がって、壁を蹴った。

後方宙返り。

高く高く飛ぶ宙返りだ。


着地箇所はバケモノの肩の上。

右手で剣を抜いた。

このまま頭蓋に差し込んでやる。


「キギャー!」


先ほどと同じように暴れられるが、左手で頭部の深い毛を掴み、振り落とされないように踏ん張る。


「キギャー!」


叫び声と共に右手が掴まれた。

物凄い力で右手がねじられる。


「うぉぉぉ!」


バキバキっと右手から嫌な音がしたが、ここで負けたら終わりだ。

強引に右手を引き寄せた。

ただ、この右手では刺し込めないだろう。

瞬時に右手から剣を左手に持ち替える。

暴れるバケモノから振り落とされる前に、肩の上で跳躍した。

左足首が掴まれた感触がする。


「うぉぉぉーーーー!」


引き摺り落とされる前に、渾身の力を込めて、剣をバケモノの眉間に差し込んだ。

深く深く、反対側から剣の先が出るくらい差し込んだ。

そして引き抜く。

可能ならばもう一度……。


「キギャーーーーー!」


これまで以上の大声で叫び声が上がった。

もう自分の鼻は機能していない。

ボタボタと血が流れるままだ。

もし、鼻が機能していたら、最強の悪臭がしただろう。


掴まれた左足首を捻られて、壁に叩きつけられた。

もう一度勢いをつけて投げられる……

そう思ったところで、掴まれていた左足首が離された。

そのまま、頭を下に落下した。


ズン!

自分の身体が床に落下すると同時に、大きな音が床に響いた。

仰向けに倒れた自分の視界にはバケモノは映っていない。

首を少しだけ傾けると、同じような姿勢で仰向けに倒れたバケモノの姿が目に映った。


(やったのか? これで立ち上がってきたら、俺は終わりだな……)


煌々と照らし出していた光魔石の光が消えた。

バケモノが死ぬと消えるのか?

どんな仕掛けなのだろうか……。


薄暗くなった部屋。

視界は不思議と碧色に染まっていった。

意識が急速に薄れていく……。


(海に行きたいな……。ターコイズブルーの海に……、そこで波に、乗りたい……)


小高い丘の上から、波乗りに最適な海の風景が頭をよぎり、自分の意識は閉ざされた。



「レオン! あっ」


踏み抜いた床に落とされるレオンに手を差し出したところで、自分の床も抜けた。

無様な姿のまま、落ちていく。

十フィート以上離れたレオンに手を伸ばしてどうする……。

瞬間的に反応してしまった自分に、笑いが込み上げてきた。

結果、両手を万歳したまま、落下していく。

無様な姿を照らし出すように、スポットライトが周囲から浴びせかけられた。


パリン!

身体を纏う結界が割られたようだ。

結界で抑え込まれていたマントが捲れあがって、首から脱げてしまった。


『マントのボタンは閉めろ!』


いつもフローレンスに怒られていたことを思い出して、また笑いが込み上げてきた。


着地してから周りの様子を確認した。

前方を確認しようとした瞬間に、身体が横から吹き飛ばされる。


「痛ぇ、めちゃくちゃ痛ぇ」


ゴロゴロと吹き飛ばされてから、急ぎ立ち上がる。

鎧結界は既に無いのだ。

衝撃は即ダメージに繋がる。

自分を攻撃する何かがいるのは確かだ。

同じ場所に留まって周囲を確認するのは危険だ。


加速の魔力を身体に浸透させ、まずはその場から急速離脱する。

チラっと、自分の横を通り過ぎる、巨大なトカゲの姿が見えた。


部屋の端にあるのは檻の様だ。

その檻のところで、反転して、敵を確認した。

巨大なトカゲ。

トカゲだと思うが、頭が三つある。

ズメイ・ゴリニチの小さい版か?

体表は壁に設置された光魔石を反射する玉虫色。

三つ首の口から、ペロリと長く赤い舌が蠢いていた。


「まじいな……。マントも脱げちゃったし、防御力無しじゃん」


トカゲは高速で向かってきた。

速い。

結構な速度で動き回れるようだ。


とりあえず逃げよう。

檻の向こう側に向かって走るが、扉は見えない。

そのまま壁伝いに走り回った。

トカゲが追いかけて来るけど、僕には追い着けないでしょ。


グルっと一周廻ったけど、どこにも扉が見当たらなかった。

コイツを殺せば扉が開く仕様か。

もしくは外からしか開かない仕様か。

どちらにしても戦うしかないみたいだな。


リボルバーを腰紐に差した。

光魔石を割るのに四発撃ったから、残り二発。

少なくとも剣で、一つは頭を斬り落とさないといけない。

オヤジから受け継いだ東の国の刀を抜く。


「来いよ。トカゲちゃん」


走る時は手も使って四つ足になるみたいだ。

四つ足を器用に動かして、高速で近づいてくる。

剣を正眼に構える。

体当たりをしてくる刹那、身体を素早く横にずらして、剣で頭を薙いだ。


シュ、っと刃が風を切る音がしたが、奥まで刃が入りきらなかったようだ。

トカゲの右端の頭の付け根から血が滴っている。

表面は斬れても、中は硬いみたいだ。

もっと刃を立てて両断しないと無理なのだろう。

そうなるとちょっと面倒くさいな。


再び体当たりをしてくるところを待ち構える。


「さぁおいで、トカゲちゃん。もう少し意思決定がしやすいように軽くしてあげるからね」


「「「キエェェェー!」」」


三つ首が同じタイミングで同じような声を上げた。

こちらにむけて、頭を下げて走って来る。

さぁ、来いと待ち構えていると、三つの首がこちらに一斉に向いた。

口を大きく開けて近づいてくる。


「うそだろっ!」


喉の奥に怪しげな光が見えた。

急いで加速して退避する。

十分な距離を取ってから振り向くと、そこには火を噴く三つ首のトカゲがいた。


「トカゲちゃん、全然可愛くないね……。それじゃ、ミニドラゴンだよ」


再度、こちらに向けて走って来る。

三度目のチャレンジだ。

剣を上段に構える。

あの堅い首を落とすには、上から力を込めて叩き落とさないといけない。

口を開けて光らせたら退避。

そのまま体当たりして来たら、サイドステップで剣で斬り落とす。


「さぁ、来いや。ミニドラゴンちゃん」


走りながら三つ首が再び首を上げた。

火を噴くのか?

そう思ったが、左側の首だけみたいだ。

最左の首の口の奥だけが光った。

逆側、向かって右側にステップを踏む。

少なくとも、左のヤツからは死角にならないと大やけどだ。

死角の位置まで移動したところで、最右の首元に剣を振り下ろした。

ボゥっと炎が身体の左を掠めていく。


「あっちぃ! めちゃくちゃ熱い!」


剣は首の根元の骨まで達し、そこで止まった。

剣を抜いて退避する。

切ったところから血が噴き出ているが、致命傷にはならないようだ。


「くそ硬いじゃんかよ!」


全力で距離を取ってから、ダメージを確認する。

ズボンの左側は完全に燃やされている。

腿の外側は火傷だ。

ジクジクしてきた。


「こりゃ、先に銃で首の数を減らさんとダメか」


剣を鞘に戻して、銃を抜いた。

出来れば光っている喉奥に銃弾を発射したい。

溜まったエネルギーと共に内部で爆発してもらった方が致命傷になりそうだ。


四回目のトライ。

右か左か、はたまた真ん中か。

走って来る三つ首をじっくりと観察した。

ギリギリまで見極めよう。

剣を振る分の時間を退避時間に確保できる。

先ほどよりも、引きつけられるはずだ。


三つの首が持ち上がり、こちらを向いた。

右だ。

向かって一番右側の首の口内に光が収束している。

加速して一歩近づいた。

銃口を口に触れる距離まで近づけてから、奥に向けて発射する。

ターン!

そのまま全力で走り抜けた。

後ろから、ボンっと何かが弾けた音がしたが、まずは距離を開けよう。

檻の近くまで行ってから、反転して確認した。


「よっしっ! やったぜ!」


三つ首の一つが、完全に吹き飛んでいるのが見えた。


「「キエェェェー!」」


二つの首が咆哮して火を噴き出しながら、走って来た。

そんなことも出来るんかい。

全力で逃げ回る。

あれは近づけない。

細長い部屋の中での鬼ごっこになってきてしまった。


「めっちゃ、怒ってるがな……」


変な訛が口から漏れてしまった。

ミニドラゴンは一旦落ち着いたのか。

火は消したみたいだが、反対側の端で、首をブルブル振り回している。


「「キエェェェー!」」


再び咆哮を上げて突進してきた。

火は噴いていない。

銃を握りしめて待ち構えた。

左か真ん中か。

いや、二つしかないのだ。もう右か左かだな。

一番右の首はダラリと垂れ下がったままだ。


じっくり構えていると、光ったのは左側の首だ。

一歩踏み出す。

ターン!

銃を口の中に突っ込み引き金を抜く。

そのまま左側を駆け抜けた。

ボン!

背後から音が聞こえた。


「あと一つ!」


反転して剣を抜いた。


「さて、どないするか」


確実に火は噴きそうだ。

ファーストトライ以外は、かならず火を噴いていた。

左右に退避しながら、上段から振り下ろすにはパワー不足だ。

もっと力を込めて体重を乗せる必要がある。


「体重……?」


よし、これで行こう。

加速の魔力を足に練る。

腕と剣は速度よりパワーだ。

下半身でどれだけ速度を、勢いをつけられるかが勝負の分け目だ。


「キエェェェー!」


独りぼっちになった首が吠えた。


「来いやー!」


首を下げてミニドラゴンは走りだす。

速度を上げる時に首を下げるのは、コイツの習性だ。


こっちも一歩目から全力だ。

目で見えないくらいの速さで一気に加速して、ミニドラゴンに向けて走った。


数歩で距離が縮まる。

思いっきり、跳躍した。

眼下に首を上げたミニドラゴンが見える。

おそらく見失ったのだろう。

今、首を右に傾けて僕の居場所を探ったところだ。


天井に頭をぶつける勢いで跳躍した後、ミニドラゴンの首に向けて落下する。

やつが気付いた時には首が落とされた後だろう。

刃を立てろ。

体重と速度の勢いを全て刃に乗せろ。

上段から剣を振り下ろしながら落下した。


ジュサ!

首を切断した感触が手に伝わった。

そして、同時に自分の胸を何かが貫いた感触もした。


地面に両足を付けて着地した。

右手から剣が落ちた。

カランと乾いた音がする。


胸にはミニドラゴンの尻尾。

長い尻尾の先が胸に刺さり、背中まで達しているようだった。


ぶほっ。

血が噴き出た。


「全然……、ノーマークだったよ……、尻尾かよ……」


ミニドラゴンは右側を下にして崩れるように倒れた。

胸から尻尾が抜けていく。

ヨロヨロと檻の方に向けて歩を進めた。

意識が朦朧としてきた。


「こりゃ……、ダメだ……。フローレンス、ごめんよ。レオン、マリー……ララちゃ」


壁に右肩がぶつかった。

そのまま背中を付けるように、身体が沈んでいく。


家族を置いて死にたくないな。

でも、家族を全員見送るよりは良いのかな。

弱いな、僕、弱いな。

みんなを守りたかったよ。

ごめん、ごめんよ……。

先に太陽で待っているからね。


(あれ? どうして太陽なんだろう? 普通、死んだら星になるんだよな?)


死ぬ前に頭をよぎったのは、本当にどうでも良いことだった。


世界地図

挿絵(By みてみん)

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