ジャングルの地下での死闘
地下施設へと続く階段を下りると、同じような幅と高さの通路に繋がった。
チャールズとレオンが言う通り、一定の間隔で左右の天井に光魔石が埋め込まれている。
燦然とスポットライトが埋め尽くされていた。
光魔石以外にも光源があるようだ。
壁全体が薄く明るくなっている様な感じも見受けられた。
私は通路と同じ大きさの結界を作る。
結界を何重にも重ねた。
その全てを絶界へと変える。
全ての光を通さない結界に変えることで、私達の視界も全て塞がった。
勢いよく、そのまま通路の奥まで押し込んだ。
パリン!
パリン!
パリン!
途中のスポットライトに照らされて、何枚かの絶界が割れた様だが、無事に通路の奥まで辿り着いた様だ。
機関銃を保有している飛行の魔道具は、その絶界に押し込まれて通路の向こう側まで押し込まれている。
姉が膝立ちになり、ライフル銃を構えた。
チャールズとレオンも銃を構える。
姉が頷くと一撃放った。
ターン!
パリン!
今聞こえた割れた様な音は最奥の光魔石が割れた音だ。
チャールズが左、レオンが右。
走りながら、近くの魔石を銃で破壊する。
姉が奥から順番に破壊し、二人が手前から割っていった。
全ての光魔石が破壊されても、やはり薄明かりが残ったままだ。
壁と天井がボンヤリと光っている。
チャールズとレオンは、そのまま左右から奥へと進んだ。
姉が立ち上がり、私とマリーと三人で廊下へと足を進ませる。
「アス姉、ナイス」
「これくらいの距離なら余裕よ」
私は姉からライフル銃を預かって、マリーと姉と手を繋いだ。
「うわっ!」
そんな声が右奥から聞こえた。
「えっ?」
「レオン! あっ」
レオンが突然空いた床に落ちて行った。
それを見て、近づいたチャールズも、同じように空いた穴に落下していく。
「レオン!」
「チャック!」
姉とマリーが走りだそうとするのを、私は踏ん張って引き留めた。
「ちょっと待って! 罠がある!」
私は透明な結界を床に敷き詰めた。
廊下の奥まで固い絨毯の様に敷き詰める。
その上を三人で小走りで走った。
「まずいわ。ララ、下がどうなっているか分からない?」
空いた穴は既に元に戻っており、先ほどまでの黒い鉄鋼製の床になっている。
そして、この床は塔の外壁と同じように魔力を通さない鉄鋼だった。
「うん……、アス姉、魔力が通らないよ」
「わたし達も落ちましょう」
それしかないか。
マリーも頷いているので、やむなく私は三人を囲う結界を作ってから、床の結界を解除した。
「あれ? 反応しないね……」
「こんにゃろ! こんにゃろ!」
マリーが飛び上がって床に衝撃を加えているが、落とし穴が開かない。
姉が色々な個所を手で叩きながら、確認していた。
「完全に分断されたわね……。後衛を失った前衛。わたし達は前衛を失った」
「うん。回復役を持たない前衛は辛い」
「ララ! ワタシに銃を頂戴! ゲームで使ったことがあるわ!」
マリーにそう言われたけど、銃はもう取り回しの悪いライフル銃しかない。
機関銃もリボルバーも彼ら二人に渡したままだ。
「マリー……、もうライフル銃しかないの。アス姉のボウガンを渡しておくよ。ライフル銃はアス姉に持ってもらおう。接近戦はララがやるから、二人とも前には出ないでね」
私はそう言って、一度しまったライフル銃をアス姉に渡した。
姉は背中に背負っていてボウガンをマリーに渡して、使い方を説明している。
通路の先に向けて、マリーは試射を始めた。
空間収納にしまっている武器を思い返した。
倒した兵士達が持っていた剣があるはずだ。
その中から一本取り出して、手に持ち振ってみる。
「重いよ……、こりゃ無理だ」
両手で持っても、まともに触れない。
そもそも持ち上げることすらやっとだ。
ラージャスティで倒した元護衛の使徒のことを思い出した。
光魔法を扱う使徒と暗殺の使徒と一緒に活動していたサニヤとかいう女の護衛さんだ。
彼女の槍を取り出して振ってみた。
「うん。こっちの方がしっくりくる」
少しだけ私には長い気がするけど、重さも感じない。
ブンブン振り回して動きを確認した。
悪くない。
身体が反応するまま、色々な動作を繰り出してみた。
「ララ、すごいね。経験者みたいに見えるわ」
「え? アス姉、ほんと? 嬉しい」
「ララ! もっと後ろを持つんじゃないの?」
この槍は先端に直刀が付いたものだ。
柄自体は軽い鉄で作られていた。
柄の持ち手の部分は魔獣の革が巻かれている。
マリーが指摘する通り、私が持ちやすいところで持つと、護衛さんが持っていた痕よりも真ん中の位置になっちゃうのだ。
多分、あの護衛さんはギリギリまで長く持っていたのだと思う。
直刀で突いた時に最長まで伸ばせるように。
「うん……、マリー、言っていることは分かるんだけど、そうすると振りにくいし、扱いにくいんだよ」
「ただの棒の方が、ララには扱いやすいのかもね」
「ああ、そうかも。でも、そうすると武器にならないね。ただ殴りつけるだけになっちゃう」
「棒にして、両方に結界の刃を付ければいいのよ!」
「マリー、結界の刃って何さ?」
「あれよ! あのビュって、指で放つやつ!」
指弾か。
確かにあれはボウガンの矢をイメージして放っている。
刺さった後、上下左右に動かせば、何物も切り裂ける断裂魔法だ。
あれを棒の両端に付ければ良いのか……。
私は直刀が付いていない柄の部分に五インチ程度の刃を生成してみた。
うん、行けそうだな。
こっちの方が良いかも。
空間結界で直刀が付いていた部分を切り落とした。
ただの棒にしてから、ブンブンと振ってみる。
次は両端に魔法で刃を生成する。
ハハ…、やばい、これ楽しい。
クルクルと棒を回すことも出来る。
身体が自然に反応しているし、筋肉が喜んでいるのも分かった。
「ララ、ちょっと貸して。その魔獣の革の取っ手の場所を調整してあげるわ」
姉が柄の部分に巻き付いていた魔獣の革を巻きなおしてくれた。
真ん中にバランス良く巻きつけてくれている。
私は姉から槍、というか棒を受け取って、もう一度振ってみた。
うん、すごくしっくりきた。
「これでララは前衛だ。二人とも安心するが良い」
「ずいぶん、小さくて可愛い前衛ね……」
「はは! かわ格好いいわ!」
さて、奥に進んで、チャールズとレオンと合流せねば。
私達は練習がてら、飛行の魔道具を相手に戦ってみることにした。
姉は少し奥の方まで下がって、ライフルを構えた。
私とマリーは、絶界の直ぐ近くで棒とボウガンを構える。
「行くよー!」
絶界を解除すると、すぐに五台の飛行の自動機械が飛び出してきた。
ターン!
という音と共に、一番奥の自動機械が落下した。
私は棒を伸ばして、一台の自動機械に魔法剣付き棒の先端を差しこんだ。
当たり前だけど、指弾よりも狙い安いし、当てやすい。
さぁ次だと思ったところで、全ての自動機械が落下しているのに気づいた。
「あれ?」
「わはは! 無敵よ!」
落下した三台にボウガンの矢が刺さっていた。
マリーが早撃ちしたらしい……って、あれか!
「ずるい。マリー、時間止めた?」
「当然よ!」
姉が苦笑しながら近づいてきた。
マリーに飛び道具渡せば最強ねって、マリーの頭を撫でている。
確かにそれは間違いない。
でも、止まっている的だとしても、すぐに当てられる様になるマリーも凄いのだ。
私達は意気揚々と通路の奥に進み、その扉を開けた。
※
扉を開けて、三秒。
しずかにその扉を閉じた。
「うう……」
「最悪ね」
「ムカつくわ!」
三人で顔を見合わせながら、溜息をついた。
扉を開けた先は、広い空間。倉庫や体育館にも等しい広い空間だった。
そこにブンブンと飛び交う飛行自動機械。
壁だけでなく、体育館と同じように高い天井に光魔石が敷設されていた。
それに……、何だか分からない人型の自動機械まで闊歩していた。
「ララ! あのロボットは何よ!」
ロボット。
マリーが言う通りだ。
あれはロボット。機械兵士だ。
「武器は機関銃? わたしにはそう見えたけど」
「うん。アス姉の言う通りだ。全員が機関銃を保有していた」
「二十? 三十?」
「三十人、いや三十台は歩いていたわね」
さて、どうするか。
女子三人で案を出し合った。
自動機械と機械兵士はさておき、厄介なのは光魔石だ。
壁の光魔石は私とマリーで何とかなるが、高い天井にある光魔石は姉に狙撃してもらうしかないだろう。
問題は、姉が天井の光魔石を狙撃している間、自動機械と機械を兵士からどうやって姉を守るかだ。
「壁の光魔石は私が割って来るわ! 時間を止めて走って来れば行けるはず!」
マリーのその案は可決だ。
ただ、ここで時間魔法を使い過ぎると、私達に何かあった時に巻き戻し時間が減ってしまうかもしれない。
全速力で体育館を走り回って数分。
それ以降の時間は取っておいた方が良いだろう。
マリーが帰ってきたら、と言っても私達の時間では一瞬なのだが、その後は私が機械兵士が乗り越えられない程度の高さの壁をドア付近に設置する。
多重絶界で生成した壁を三つ。
コの字型に設置すれば、しばらく凌げるだろう。
天井部分は空いているので、姉はそこから天井に設置された光魔石を狙撃する。
天井から入り込んでくる飛行の自動機械は、私とマリーで何とか迎撃するしかない。
「これしかないわね。頑張って、わたしが早めに終わらせるわ」
「大丈夫よ! アス姉さんはワタシが守るわ!」
「マリーは時間魔法を使い過ぎないように注意ね」
まずは姉の周囲に空間ボールを幾つか浮かせた。
直径十インチくらいのボールを四つ。
狙撃の邪魔にならないように、かつすり抜けてきた飛行の自動機械の攻撃を弾いてくれるように。
せーの、で私と姉でドアを開けた。
マリーが一瞬だけいなくなり、そして戻って来る。
息が上がっていることで、全速力で走り回って来たことが分かる。
壁に設置された光魔石は全て割れていた。流石である。
おまけに機械兵士の半分くらいが、仰向けに倒れていた。
とぅー! って言いながら蹴り飛ばしている姿が頭に浮かんだが、何も言うまい。
私は多重絶界の壁を三つ生成した。
ターン!
壁を生成し終わる前に、姉の狙撃が始まっている。
自動機械が飛んで来た様で、マリーがボウガンで射撃していた。
多重絶界の壁が生成し終わるが、終わった瞬間から、パリン! と割れる音がする。
どうも天井の光魔石はスポットライトの様に動的に動くようで、上を見上げると私達に向けて全ての光が集まっていた。
パリン!
割れたのは私達が纏う結界だろう。
ムンっと蒸し暑い気温が肌に感じられる。
姉の周囲の空間ボールまで割れてしまったようだ。
視界に飛び込んできた自動機械を反射的に棒で突いて落とす。
そのまま、棒の先端から矢が飛び出るイメージで、頭上の光魔石に指弾を飛ばした。
パリン!
割れた音が、光魔石が砕けた音なのか、絶界が割れた音なのか分からない。
私達を照らす光魔石を先に割らないと、ここで自動機械が飛び込んできたら即死だ。
視界を広く確保する。
自動機械が目に映ったら棒を突きさす。
棒が届かない位置にあっても、そのまま矢を飛び出す様に放つのだ。
自動機械がいない時は光魔石を突く。
ターン!
ターン!
カンカンカンカンカンカン
パシュ!
ターン!
パリン!
パシュ!
カンカンカンカンカンカン
色々な音が耳をつんざく。
もはや判別しようもない。
私達を照らすスポットライトが無くなったところで、私は漸く息を吸い込んだ。
三人に再び鎧結界を纏わせる。
蒸し暑さが一気になくなり、深呼吸で呼吸を整えた。
バクバク言っている心臓を宥めつかせる。
パリン!
足元に再びスポットライトが射した。
「ララ! 壁が!」
三つの壁のうち、真ん中の壁が壊された様だ。
多重の絶界が全て破壊されたのだろう。
がガガガガガガ
身体中に銃弾が当たる感触がする。
姉が後方に吹き飛ばされた。
マリーが亀の様に縮こまった。
私は急ぎ、絶界を一枚生成して正面の壁を作り出す。
カンカンカンカンカンカン
絶界を囲う絶界を積み重ねて積層型にする。
左右の壁も補強した。
「くそっ……、痛いんだよ!」
頭上から顔を出して機関銃を掃射する飛行の自動機械に棒を向けて矢を飛ばした。
矢はど真ん中に刺さって、自動機械は煙を出して落下してく。
「ふぅ……、アス姉、マリー、大丈夫?」
「うん……、鎧魔法をバージョンアップしてくれて助かったわ。前のバージョンだったら、アザだらけよ。ちょっと痛いくらいで済んだわ」
「ワタシも大丈夫よ!」
天井の光魔石も残り数個だと思う。
それを破壊したら、一度、廊下に撤退しよう。
ターン!
ターン!
カンカンカンカンカンカン
パシュ!
ターン!
パリン!
パシュ!
カンカンカンカンカンカン
ターン!
「終わったわ!」
「廊下に撤退!」
姉の完了合図と共に、私は撤退を叫んだ。
三人で転がるように廊下に逃げて扉を閉める。
床に身体を投げ出して、息を整えた。
「うぇ……、結構きつかったね」
「そうね……」
「ワタシは楽しかったわ!」
飛行の自動機械は結構な数落としたと思う。
それでも、まだ何台かは活動しているだろう。
あれは姉に任せよう。
機械兵士は私とマリーでやっつけるしかない。
「次は機関銃を身体中に浴びることになる」
「そうね。でも結界が割れないのなら、恐れることはないわ。精々痛い程度よ」
「平気よ!あのロボットはワタシがやっつけるわ!」
私は少し鎧結界を調整した。
顔を覆う結界をぶ厚くする。
喋りにくくなるが、戦場だ。
姉の顔に傷つくことだけは避けたい。
「なんか……、瞬きすら重いわ」
姉が呟いているが気にしない。
目なんて乾けば良いのだ。
その他、身体の表面を中心に結界を厚くする。
棒をブンブンと振って、動きに支障がないかを確認した。
姉もマリーも身体を動かして確認している。
目を合わせて、突入の意思を確認する。
ドアを開けて、空間ボールを大量に空中に浮かべた。
十個、二十個、百個を数秒で生成して、私達の頭上をランダムに飛ばす。
色を付けて、私達にも識別できるようにした。
「じゃあ、壁を解除するよ。壁の向こうには機械兵士が沢山いるからね。一旦、私とマリーで蹴とばして向こう側まで行こう」
「了解よ!」
機械兵士も自動機械も体育館のこちら側に集まってきている。
奥まで一度走り抜けてから、反転して戦うつもりだ。
壁を解除して、私は棒を振りまわした。
目の前の機械兵士を結界の刃で両断して、道を空ける。
マリーが機械兵士が持っていた機関銃を拾い上げて、走っていった。
姉が後を追う。
少し遅れて、いや、速度も二人に比べると遅いのだけど、それは足の長さの問題だ。
頑張って私も走る。
棒を振りまわして、後方から追って来る機械兵士に指弾を放った。
体育館の向こうの壁際で姉が膝立ちになり狙撃を始めている。
その頭上に数個の空間ボールを浮かべておいた。
マリーは既に折り返して、走りながら機関銃をぶっ放している。
足も速いし、動作も機敏だ。
ここ数か月のランニング移動で持久力も高い。
実は戦闘に一番向いているのはマリーだと思う。
体育館の真ん中で私は反転した。
身体中に自動機械の狙撃弾が当たっている感触がするが、全然痛くない。
機関銃を撃ちながら近づいてくる機械兵士に向かって、逆突撃した。
表七本、表九本、中位五箇条、九本の乱……。
幾つか基本形の技が魂の中から呼び起された。
突き、薙ぎ払い、打ち。
身体が反応するまま、私の周りを囲う機械兵士達を切り裂いていく。
私、結構、近距離戦強いんじゃね?
三回ほど、機関銃の弾を大量に顔面に受けてノックバックしたけど、何とか倒れずに踏ん張った。
なるべく、動きながら、敵の間を狙って足を運ぶ。
止まったら、四方八方から乱射されてしまう。
それだけを避けて、動き回った。
姉に向かう機械兵士の集団が見えた。
マリーがその背中に銃弾を浴びせて、何体か倒している。
私も急ぎ、そちらに向かって走った。
頭から両断して一体を切り裂き、折り返しで右の機械兵士を薙ぎ、そのまま回転して反対の刃で左の機械兵士の首を飛ばした。
ギギギギという音と共に、首から火花を散らして倒れていく。
「飛んでいるのはいないわ。わたしも機械兵士をやるわ」
姉が落ちていた機関銃を拾い上げて、マリーの周りに集まる機械兵士に向けて乱射した。
あと数台だ。
私は近くの機械兵士を切り裂き、マリーの元に向かう。
走りながら、床でまだ動いている機械兵士にトドメを刺していくうちに、姉達が倒し切ったようだ。
「終わったわ!」
マリーの声が体育館に響いた。
「ふぅ。流石にしんどかったわね…」
「ララ! 機関銃を回収しておきましょ!」
元気なマリーが床に散乱している機関銃を集めてくれている。
私も機械兵士が胸と腰に装着している替えの弾倉を回収してまわった。
「この弾倉を付けるホルスターも回収しましょう」
姉に言われて、機械兵士の上半身からホルスターも奪っておいた。
マリーと姉は早速、マントを脱いで、自分自身に装着していた。
胸の前で革製のベルトが交差するようになっているようだ。
大量の機械兵士達のおかげで、物凄い量の弾薬も追加できた。
本当ならば一度空間部屋の湯船に身体を浸からせたいところだが、チャールズとレオンが心配だ。
私達はそのまま奥の扉へと手をかけた。
「どう?」
少しだけ開けた扉から私は向こう側の様子を伺った。
マリーが後ろから声をかけてくる。
私は扉を大きく開けた。
目の前には通路が横切っており、右と左に道が見える。
「光魔石なし。自動機械なし。兵士もいない。左右とも行き止まりに見えるけど、多分、廊下が降り曲がっているのかも」
姉が左右の様子を見て言った。
「どっちから行く?」
「うーん。そうね。右かな?」
「レオンがいる方向だね」
「違うわよ。何となくよ」
マリーは口をニカっと開けて笑みを見せているが、敢えて何も言わないようだった。
私と目を合わせて目を細めるだけだ。
私達は廊下に出て、右に進路を取った。
空間ボールを廊下に転がして罠の有無を確認する。
廊下の角まで行くと、右に戻るように階段があった。
先ほどいた体育館の下。
まさにレオンが落ちたエリアかもしれない。
自然に私達は足早になった。
階段の下の扉を少し開けて、私は中の様子を見る。
体育館よりは少し狭い、そして暗い部屋だった。
壁と天井、床の鉄鋼材から漏れだす薄明りだけだ。
大きな鉄製の檻。
奥には魔獣がいた。
そして、人が倒れていた。
「レオン!」
私が叫びながら扉を開ける。
開けると同時に走り出した。
すぐ隣を姉が、マリーが走り、私を追い抜いていく。
マリーが機関銃で魔獣に銃を放つが、当たっているのに反応がない。
既に死んでいるのか。
「レオン、レオン!」
姉がレオンに声をかけているが、レオンは生きている。
私は診断魔法をかけて、その心臓が動いているのは確認した。
でも、右手、左脛、左足首、鼻骨に頬骨も折れている。
内臓にも損傷が見られた。
治療はフローレンスに任せるとして、私は骨折部分の整形だけ急ぎ実施した。
「アス姉、このまま空間部屋に送り込むよ。アス姉も一応着いて行って。ララとマリーはチャールズのところに走っていく」
「了解。チャールズのところが戦闘中だったら、すぐに、わたしも呼んで」
「了解」
私は死んでいる魔獣を収納魔法でしまっておいた。
魔石を取る時間も惜しい。
非常に大きく毛深い生物だった。
腹ばいに倒れており、そのお腹には目が見えた。
大きな一つ目を開けたまま死んでいた。
「マリー、走ろう」
「行くわよ!」
姉とレオンを空間部屋に送り込んだ後、私達は元来た道を走った。
走りながら、私達が分断されてから、何分経過しただろうかと考える。
三十分は経過していないはずだ。
最悪、チャールズが落下して直後に殺されたとしても、今なら何とかなる。
この速度は重要だ。
一分一秒が生死を分ける。
「マリー! 先に行って! 私に合わせないで!」
「分かったわ!」
マリーが速度を上げた。
腿を高く上げて、跳躍するように床を蹴っていく。
帽子の後ろのポニーテールが揺れていた。
すぐに奥の角を曲がり、マリーの姿が消えた。
私が角を曲がり、階段を駆け下りたころ、眼下の扉がしまったところだった。
えいっと、数段をとばして飛び降りる。
着地の勢いのまま、扉に身体をぶつけて、中に転がりながら入り込んだ。
「チャック! 起きなさい! チャック!」
起き上がって床を蹴った。
状況は同じ。
大きな獣が檻の向こうに倒れている。
チャールズは壁際に背を預けて崩れるように倒れていた。
魔力を延ばし、チャールズの体内を診断する。
胸を何かに貫かれたのだろう。
心臓が止まっていた。
血の気の引いた真っ白な顔。
胸の穴からの血すら止まっていた。
「マリー! もう死んでる! 戻して! 時を戻して!」
既に準備していたのだろう。
私がチャールズのところに着いた時には、時間魔法が発動していた。
ボワっと光に包まれて、まさに時間を巻き戻した様に傷口が塞がっていく。
診断のために体内に浸透させていた魔力が切断された。
元に戻すのに不要な要素と判断されたのか、元々無いものだから除去されたのか。
でも、チャールズの顔色に血の気が戻ってきた。
「チャック! 起きなさーーい! チャーーーック!」
マリーが泣き叫ぶ。
チャールズの目が開いたところで、時間魔法の光が止まった。
「ん? 山猿? どした?」
「どしたじゃねーわ! どアホーーーー!」
グーで思いっきり顔を殴られて、バキっと鼻から嫌な音がした。
ボタボタと流れる血を見て、チャールズがキョトンとした顔をする。
私は溜息をつきながら、彼らを空間部屋に送り出した。
この部屋の魔獣も回収しておこう。
立ち上がって、周囲を見渡した。
チャールズのマントだろうか……、馴染みの黒いマントが床に残されていた。




