壁と月の山とジャングルと
ソル大河の近くだけは、壁を建設している間、結界を張ってあげる必要があった。
いつ自動機械が飛んできて機関銃を掃射するのか分からないのだ。
そのため、私達は数日間壁が完成するまで、その場にとどまった。
ただ、その後は溝を掘り、部隊を空間部屋から出すだけの旅程だ。
木々を除去しながらの道程だったが、セラ・ダ・ルナまで三週間ほどで到達した。
セラ・ダ・ルナは統一街道沿いに建てられた都市だ。
厳密に言うと、統一街道沿いの丘の上に建てられた城塞都市である。
統一街道は西から東にかけて登り、セラ・ダ・ルナを頂点として、今度は東に向かって下っていく。
カスティリオ王国のオリベイラと同じような位置づけの都市だ。
セラ・ダ・ルナ(Serra da Luna)。
名前からして、『月の山』を意味するのだろう。
おそらく夜空が美しい山岳地帯の都市だからだと思うのだが、その字面を改めて見て、私は首を傾げた。
「この世界には『月』がない。何故に、この名がつけられたのか……」
「ララ様、『月』とは?」
私のつぶやきを拾ったペレイラ司令官に、そう問われた。
「『Luna』はラテン語という古語で『月(Moon)』を意味するの。空に浮かぶ、この世界にはない衛星」
「ほぉ。そうなのですか。この都市は建国時から存在する古い都市です。その時の人々は女神の世界のことを知っていたのかもしれませんの」
私達は統一街道から丘の上の城塞都市を見上げた。
既に陽は傾いており、幾つかの星が空に見え始めている。
当然だが、どこにも月はない。
統一街道から丘の上に登るところに、外壁が建てられていた。
門を越えると丘の上をグルっと回るようにして登る道が見える。
その上の方には内壁もあるようだ。
「ペレイラ司令官、統一街道までは溝を作ったけど、統一街道はどうするの? 大きな門でも建てるの?」
「はい。ララ様の仰る通りです。ここには大門を建てます。ですので、第十五分隊をここに出してもらえると助かります。ここから東方面はセラ・ダ・ルナの外壁の向こう側に建てる予定になっています。まあ、今日はセラ・ダ・ルナで休みましょう。明日からですな」
現在二重に建てられた城壁だが、さらにもう一つ壁を作るということなのだろう。
三重の城塞都市。
殆ど攻略することは困難な都市になると思う。
私はペレイラ司令官の言う通り、十五番目に収納した部隊の人たちを統一街道沿いに招き入れた。
空間に作りだした大きな裂け目から、続々と建築物を抱えた兵士達が出て来る。
「さて、我々はセラ・ダ・ルナに入りましょう。第四軍の司令官ならびに参謀との面談が先です」
ペレイラ司令官に促されて、私達は城塞都市の門に向かった。
門には第四軍の人なのだろう。
兵士さんたちが歩哨に立っている。
その向こうには、ペレイラ司令官率いる第三軍の隊長さんが十名程度の兵士と共に待っていてくれているのが見えた。
歩哨の兵士さんからも何も言われずに、私達は中に入った。
「司令官。ロペス第四軍司令官には面談を要請してきました。ガブリエル・サントス参謀ですが……、セラ・ダ・ルナにはおりませぬ」
第三軍の隊長さんから、ペレイラ司令官にそう報告が入った。
ペレイラ司令官の向こう側にいた中将のオジちゃんが眉間に眉を寄せるのが見えた。
「どういう意味だ? 逃げたのか?」
「いえ。第四軍によると参謀はセラ・ダ・ルナには入っておらぬそうです」
「うぇ。やられた」
「ララ、どういう意味だ?」
「コンティスヨの森だよ。王都を出てセラ・ダ・ルナに向かう振りをして、コンティスヨの森に入ったんだよ。やっぱり、コンティスヨの森には拠点があるんだ」
キモ男ことガブリエル・サントス参謀は百人の兵士と行動を共にしていると言っていた。
その百人の中には、ジャングルに詳しい二人の兄妹使徒がいる。
おそらく、その二人に案内されて、ジャングルの中の安全な拠点に逃げ込んだのだろう。
そこに通信の自動機械も設置されているはずだ。
「ララ、それでも壁を建てるのが先よ」
「そうだね……。アス姉の言う通りだ。明日からペースを上げて行こう。下り坂だし」
※
エリザ・ロペス(Elisa Lopes)。
第四軍の司令官は何と女性だった。
四十代前半の逞しい女性だ。
浅黒い肌に彫りの深い顔。
化粧気は全くないのに、美しい顔立ちをしている人だった。
頭の良い人で、ペレイラ司令官、中将のオジちゃん、そして姉が説明した内容をすぐに理解した様だった。
「ララ様、申し訳ございませんが、陛下のご遺体とお会いさせてもらって宜しいでしょうか?」
「うん。いいよ。エリザさん、格好良い司令官。ペレイラ司令官とは大違い。アッと言う間に味方になってくれた」
「ちょっと、ララ様。私とは事情が異なります。エリザの場合は既に三人の司令官の見極めが終わった後なのです。私だって、そういう状況ならば直ぐに判断できます」
「ははは。ララ様、我が国の老いた司令官が大変失礼いたしました。私は斥候からの報告でララ様達が信頼に値する人たちだってことを聞いていましたから」
「斥候?」
「はい。ソル大河から兵士を守りながら壁を建設していたのを斥候に確認させておりましたの」
「え? 全然気が付かなかったよ。声かけてくれれば良いのに」
「ははっ、それでは斥候の役目を果たせませぬ」
「うん……、まあそうか。それに第四軍は北部担当だもんね……。そりゃ、怪しげな壁を建設していたら、確認はするか……。というか、オジちゃん達、エリザさんに何も伝えていなかったの?」
ペレイラ司令官も中将のオジちゃんも苦笑を浮かべて下を向いた。
エリザさんは、その様子を得意気な表情で見下ろす。
そうだ、その通りだと表情が語っていた。
「でも、まあ、参謀がセラ・ダ・ルナにいると思っているのでしたら、気軽に接触出来なかったのも今では理解できます。許しますよ」
「はい……。ロペス司令官、申し訳なかった」
中将のオジちゃんが最初に頭を下げたことで、ペレイラ司令官も渋々従った。
エリザさんは益々得意気な顔になった。
「でも、エリザさん、ララ達は壁を作っていただけだよ? それを見て、どして信頼したの?」
「参謀が言っていた様に、陛下を殺めて、我が国を意のままにしようとする使徒ならば、我が国の民を守る壁を作ることはしません。敷設している壁は本気で守るための壁。しかも、女神の御業を惜しげもなくフル活用して建てている。このペースならば、本当に東の海岸まで敷設できるでしょう。誰であろうと味方だとわかりますよ」
「なるほど……。エリザさんもレオと同郷?」
「レオ……。はい、そうですが、ララ様は陛下と愛称で呼び合う仲だったのですか?」
私はレオとの出会い、そして短かったが、そのやり取りの全てを説明した。
上手く説明出来なかったが、レオの故郷に行こうと思っていること、そこで渡された手紙の相手、選ばれし使徒と友達になろうと思っていることも話した。
「手紙……ですか。そうですか……」
エリザさんは、私がレオから受け取った手紙を見て、目を瞑った。
美しい顔が少しだけ歪んだ。
「アリシア・ロペス。風神の加護を受けた使徒ですが、私の娘です。厳密に言うと、私とマテウス・ロペス第二司令官の二人で育てた娘です。きっとララ様と仲良くなれると思いますよ。いや、是非、仲良くなってあげてください」
「夫婦ですか……?」
姉の質問をエリザさんは笑顔で返した。
ああ、マテウスさんも陽に焼けたイケオジだ。
年齢差はあるだろうけど、お似合いのカップルだと思う。
「エリザさん、じゃあ元は海の人だったんだね?」
「ふふ。そうよ。船乗りよ。本当はこんな山の上の要塞の司令官なんて似合わないのよ。陛下がどうしてもと言うから。しょうがなく引き受けたのよ」
「分かった。じゃあ、戦争を終わらせたら、ララ達と一緒にサン・ミラージュに行こうよ。そこで風の子も紹介して。レオのお葬式もやらないといけないからさ」
「そうですね……。いつ終わるのか分かりませんけど……」
「終わるよ。カサ・デ・アグア戦は最初の一か月を凌げば、もう終わったも同然だよ。後は平時の運用に切り替えればいい。なんなら、ペレイラ司令官に代行をお願いして……」
「ララ様! 私もサン・ミラージュで陛下の葬儀に参列するのです!」
「あ、そうか。友達だもんね。じゃあ、代行できる人を見繕っておいてよ。その人に権限を渡して、ちょっとの間、頑張ってもらう」
「はは! まるでララが女王の様だな!」
中将のオジちゃんにそう言われたことで、私は口に手を当てて黙った。
その通りだ。私が口を挟む問題ではなかった。言い過ぎちゃった。
「良いわね! 西南部連合はララを女王にしてしまいましょ! サンテール、ヴァルデン、カスティリオ、イフヤ、ラージャスティ、全部賛同するわよ!」
「マリー王女殿下……、其方がサンテールの後継者だろう……」
マリーの発言に中将のオジちゃんが半ば呆れて言った。
「私は嫌なのよ! 向かないわ! ララならば皆が喜んで従うわ! パパだって、良いって言うに違いないもの!」
「うう。山猿らしいアホ丸出しの意見だけど、カスティリオ王国の女王のお母様と宰相のお祖母様に言ったら、絶対、その案で進めそうだな……」
「チャック! そうよ! それよ! お母様とお祖母様に言うわ!」
「ストップ。マリーもそこまで。それ以上言うと本当になりそうだからやめよう。まずは東の海岸まで壁を作る。そしたら、コンティスヨの森に行って、キモ男をやっつける。そんでセラ・ダ・ルナに戻って、まだ戦争しているようなら、カサ・デ・アグアをちょっと懲らしめてやる。後は東の海岸から、高速船に乗ってサン・ミラージュに行こう」
『キモ男?』とか『高速船?』とか、エリザさんが質問してきたけど、その辺は姉達に任せて、私は気持ちを切り替えた。
頭の中で、この先のプランを考えていると、膝の上に一冊の本が乗せられたことで意識を戻す。
『コンティスヨの森の神秘』
そんなタイトルの本だった。
顔を上げると、エルザさんの笑顔がそこにあった。
「あ! これ! 読みたかったやつ!」
「ララ様、どうかお持ちになってください。きっと役立つと思いますわ」
「ありがとう。今、考えていたんだけど、きっとララ達がコンティスヨの森から帰って来る方が遅くなっちゃうから、カサ・デ・アグア戦が終わっても、待っていてね」
エリザさんは整った顔をクシャっと崩して、笑顔で応じてくれた。
※
東の海岸まで溝を掘り、私達はセラ・ダ・ルナまで折り返してきた。
海岸沿いは未だに壁を組み立てている最中だろうが、セラ・ダ・ルナ近辺の外壁は既に出来上がっていた。
今は、統一街道沿いの大門の上の方を組み上げているみたいだった。
もし、今日、この瞬間にカサ・デ・アグア軍が攻め込んできたとしても、おそらく十二分に対応可能だろう。
それくらい出来上がっていた。
西方面の外壁造りを担当していたカスティリオ王国軍やサンパウリーナ王国第三軍の人たちも、続々とセラ・ダ・ルナに集結してきていた。
セラ・ダ・ルナ外壁と内壁の間に、彼らのための軍事拠点が建てられているようだった。
セラ・ダ・ルナでエリザさんに挨拶した後、私達はコンティスヨの森に向けて出発である。
時は千三百五十八年四月。
夏は終わり、秋の装いが空に浮かんでいた。
中将のオジちゃんとペレイラ司令官とも、しばしの別れである。
次に会う時は、参謀も倒して、カサ・デ・アグアの侵攻も食い止めた後だろう。
互いの健闘を誓い、固くハグをして別れた。
建てられた壁を確認するように、私達は壁際を走った。
フローレンスとジョディ以外、全員で列を成して走る。
チャールズとレオンは当たり前だが、女性陣も遅れを取ることはない。
一定のペースで走り続けることが出来ている。
一定のペースというのは、一番遅い私のペースに合わせてという意味だ。
かつてはまともに走れなかったマリーも、今では颯爽と走っている。
背筋を伸ばし、ポニーテールに縛ったマリーは、陸上選手の様に格好良い。
たまに私が無事なのを確認するように振り返るところは、ちょっと悔しいけど、私から見ても凄い運動能力の持ち主だなと思う。
一時間に一度、フローレンスに回復魔法をかけてもらう。
その辺も最近はルーチンになっている。
一日のうち、最後の一時間だけ、健康のためにフローレンスとジョディも走っていた。
「この国に入ってから地味よね! ずっと走っているわ!」
「うん。マリーの言う通り。でも、マリーは凄く走れるようになった。フロも見習う」
「良いのよ。ダイエットのためならば、一日に一時間走れば十分だわ。あなた達が走り過ぎなのよ。回復魔法が無ければ健康に悪影響だわ」
「まぁ、そうよね……。わたしもちょっと筋肉質になってきちゃったもの」
「お姉様は引き締まった美しい身体だから、宜しいのですよ」
フローレンスはそう言って、チラっとマリーを見た。
マリーが、え、何よ、という感じにフローレンスを見返す。
「マリー……。肺活量が凄く増えたのでしょうね。声がまた大きくなったわ」
「うそよ! そんなに変わらないわ!」
「いや、その通りだよ。山猿。ますます喧しくなった」
「うるせー! チャック!」
「はは……。でも、ララ、コンティスヨの森ではどうするつもり? やっぱ走るの?」
「うん。それしかないよね。途中で空間ボールで空に浮かび上がって確認しつつ、走るしかないよね」
「自動機械が飛んでいるんだよな?」
「うん。ちょっと、今日、ララはテストしてみたんだけど、明日皆にも新しい鎧結界をテストしてもらうね」
自動機械の機関銃で死ぬことはない。
でも、凄く痛いのだ。
当たるとアザになるし。
だから、最近は空間ボールをずっと並走させながら走る練習をしている。
それと同時に、身体に纏う結界をバージョンアップしてみたのだ。
何度か調整して、この辺が限界かなというところまで辿り着いた。
身体に纏う結界、姉が命名した鎧結界だが、身体の動きに合わせて柔軟に動ける反面、その薄さ、柔らかさがネックになっていた。
だから、柔軟に動けなくても良い場所を厚くしてみたのだ。
防具をイメージしてもらうと良いだろう。
革や鉄で補強されている箇所と、柔軟性を確保する関節部分は造りが異なる。
頭部や胴部は厚くしても動きに問題はない。
手足の付け根までは固めにする。
関節部分を薄めにして、ふくらはぎや太腿は厚くする。
そうやって、濃淡をつけてみたのだ。
※
「とぅー! たー!」
「おい! 山猿! やめろ!」
「てぃ! やー!」
走りながら、マリーがチャールズを蹴ったり殴ったりしている。
今日は、例の新型鎧結界を皆で試しながら走っている。
マリーは固くなった部分を、蹴ったり殴ったりして確かめているのだ。
「どう? チャック?」
「おい、山猿、もういいって。うん、ララちゃん、悪くないね。これで銃弾の痛みは大分軽減できるんじゃないかな。ノックバックは防げないだろうけど、身体への衝撃や痛みは相当軽減されていると思う」
「ララ、手の甲から肘までの部分はもっと厚く出来ないか? そうすれば、格闘にも応用できそうだ」
「そういう意味だと掌はもっと薄くしても良いね」
「顔の部分が厚くなった分、喋りにくい感じがするわ」
「うん、それは分かる。あとは帽子のサイズが丁度良くなった」
皆のフィードバックを受けながら、私はさらなる調整を繰り返した。
もう一つ、コンティスヨの森に辿り着くまでに皆で練習したことがある。
空間ボールだ。
私達の周りに浮かべておく方ではない。
私達を囲むボール型の結界の方だ。
安定した飛行の仕方。
地面に下りた時の転がし方。
それを五人で練習した。
飛行している時は、前三列、後ろ二列。
転がる時は前二列、後ろ三列。
二列はレオンとチャールズだ。
三列は私を中心にして、姉とマリー。
転がる時はレオンとチャールズが前方向への動力役として頑張る。
左右の調整は姉とマリーの仕事だ。
私は少し浮かせたりしてブレーキ役を担う。
やっぱりラージャスティ王国での畑作業で魔法を大量に何度も使ったことで、私の魔力操作は非常にレベルが上がった。
飛行魔法は大分安定して使えるようになったし、それはハムスター移動にも影響があった。
「うん。これ使えるね」
「そうね。これならば怖くないわ」
「こっちの方が楽しいわ! メインはこれにしましょう!」
仲間たちからも好意的なフィードバックを貰えるようになった。
ただ、一日中、飛行魔法を使うには、流石に私がシンドイ。
魔力的な問題よりも、ずっと気を張って集中していないといけないのだ。
やはり基本は走ることになった。
自動機械に襲われたら、これを使うのが良いだろうと。
そのため、姉の合図で皆が私の周りにすぐに集まる練習とかも何度かやった。
まるで組体操の練習みたいだなと思ったけど、私は『気を付け』をして前に立つ役なので、難しくも何ともない。
そうこうしているうちに、私達は壁の西端。
ソル大河の東岸までたどり着いた。
「とりあえず、自動機械は飛んでいないね」
「でも、すぐに見つかってやってくると思うわ」
「そうだな。とりあえず、向こう岸まで飛ぶのか?」
北側にはマラニョン川とソリモンイス川が合流するところが見えている。
マラニョン川の奥がコンティスヨの森だ。
木々の中を川が走っているみたいで、ここからだと良く見えない。
自動機械はもう少し北側を飛んで行った気がした。
とりあえず、マラニョン川沿いを飛んでみるのが良いかもしれない。
「うん。行けるところまで今日は飛んでみようか。もう少ししたら陽が暮れる。それまでなら頑張れると思う」
私がそう答えると、私の後ろにレオンとチャールズが並び、姉が左手を、マリーが右手を握った。
組体操の始まりである。
少し曇りガラスにした空間ボールが浮かぶ。
念のために、透明化処理も施しておいた。
ソル大河沿いを登り、マラニョン川が合流する地点まで飛んだ。
「綺麗だね」
「鳥さんの泣き声が沢山聞こえるわ!」
西から差し込む太陽が深い森全体を照らしていた。
深緑のソル大河、いや、もうマラニョン川か、大きな川幅全体に夕陽が反射して光っている。
上から見ると、川が流れているのかどうか判別しかねるほど、緩やかで穏やかな大河だ。
両岸を見ると、木々が川に沈んでいるように見える。
川から突き出るように木々が生えているのだ。
この森全体が川に沈んでいるみたいだった。
「あ、来たね」
右後方に立つチャールズの腕がスッと北西の方向を指差した。
マラニョン川の右手、奥の方から、自動機械が飛んでくるのが見えた。
1,2,3……。五台だ。
右手を掴むマリーの手に力が入った。
「山猿。動くなよ。バランスが崩れる」
「分かっているわ!」
五台の自動機械は私達の周囲を取り囲むようにして、ガガガガガガと機関銃を掃射した。
カンカンカンカンカンカン、と結界に弾かれる音がする。
「やっぱ、透明魔法は通用しないか。多波長センサーは標準搭載されちゃっているんだね」
チャールズの言う通り、透明魔法は自動機械には効果がないみたいだ。
でも、私の結界を破れる攻撃力はない。
「ララ、このままアイツらを収納出来ない?」
「うーん。飛行魔法で操作しながらだと、ちと厳しい。一度降下しようか。そしたら出来ると思う」
私は木々の間を抜けて、空間ボールを降下させる。
「暗いわ」
「そうね……。光が差し込まない森なのね。北黒の森と同じ暗さだわ」
マリーと姉の会話を聞きながら、私は地面に結界を降ろした。
地面は木々の葉や枝が堆積して腐植質となっているようだった。
「集まっていたよ。ララちゃん、いける?」
「うん。ちょっと待ってね」
意識を五台の自動機械に向ける。
魔力を一気に伸ばして、収納した。
さらに魔力をドーム状に広げて一帯を確認すると、小さな自動機械が二つ見つかった。
当然、それも収納する。
「オッケー。監視の自動機械も二台あったみたいだ。それもゲットした」
私は空間ボール結界を解除した。
ワークブーツ越しに、フワリと柔らかい地面の感触が伝わって来た。
チャールズが指さす方向に向けて、レオンが先行した。
レオン、マリー、私、姉、チャールズの順で森を進む。
走らずにゆっくりと歩いた。
「凄い。同じ種類の木を二本見つけるのも難しいね。色んな木があるや」
「幹にトゲがあるのもあるわ。みんな、不用意に木に触らない方がいいわ」
しばらく歩くと、百二十か三十フィート、建物で言うと十何階はありそうな巨木が見えた。
林冠の上に、きっと突き出るように聳えていると思う。
黄色い花がまた綺麗だ。
「ララちゃん、これ、何の木?」
「うーん。分からないけど、ナッツの木(Bertholletia excelsa)かもしれない。黄色い花と高い巨木が特徴」
「ナッツ? 収穫できるの?」
「花が実になって、自然に落ちた物を収穫するの。グレープフルーツと同じくらいの大きいナッツだよ。だから……、きっと今は時期じゃないんだね。花が咲いているしね」
「面白いわ! こういうの好きよ!」
「そうだな。敵や魔獣がいないのなら、探検に最適な森だよな」
「レオン君、アス姉さんのこと守ってね!」
「当然だ。マリーもララも俺が守る」
この二人がこうやって話しているのを見ると、リアルな兄妹に見える。
顔立ちも似ているし、醸し出す雰囲気も似ている。
二人とも体育会系の代表みたいな感じだし。
「さあ、今日はこの巨木までにしましょう。コンティスヨの森の本格的な捜索は明日からよ。今日は美味しいものを食べてゆっくり寝ましょう」
姉が手を叩いて、今日の終了を告げた。
今日はジャングルに足を踏み入れたところまでで終わりである。
ジャングル探検隊のスタートは明日からだ。




