パーティ名は『終末の使徒』
昨年の秋に首都スオミアリスに引っ越してから、初めての夏がやってきた。
スオミアリスとネリスの緯度に差異はない。
でも、不思議とスオミアリスの方が温かいのだ。
ネリスでは、一年中長袖を着ていたが、スオミアリスに来て初めて半袖の洋服を着た。
姉は高等学校一年生の前期を首席で通過した。
夏休みが明ければ、残り数か月。
おそらく学年首席は間違いないだろうと思う。
金髪碧眼。
容姿端麗。
才色兼備。
聡明叡智。
博覧強記。
その上、性格も穏やかで面倒見がいい。
家事だって万能だ。
皆んな知らないだろうけど、スレンダーな身体には立派なお胸が付いている。
私が男の人だったら、絶対放っておかないと思う。
そんな姉と二人で父を説得した。
夏休みは家族旅行に行くことになったのだ。
南の隣国サンテール王国首都リュミエールにである。
サンテール王国とカウニア連邦の国力は倍くらい違う。
サンテールは四つの大きな港を保有している貿易大国だ。
東側の色々な国が、サンテールの港に物資を運んでくる。
首都リュミエールの人口は、スオミアリスと大差ないが、売っている品物や活気が全然違う。らしい。
そんなリュミエールで、お買い物をしたいという娘二人の希望をかなえるため、父も夏休みを取ってくれた。
私は正直どうでも良いが、姉は本気で可愛い洋服を揃えようとしているのは間違いない。
まあ、あれだけ可愛い容姿なのだ。
それに相応しい服を着るべきだと私も思う。
もう一つ。
私達は父にお願いしていることがあった。
それは冒険者登録である。
スオミアリスでも、私は大きな畑を借りて、薬草や野菜を育てている。
温室結界のお陰で、その収穫量は高く、とても自分たちだけで消費しきれない量だ。
余った分は、隣人や教会で配ったりも、勿論している。
その状況を受けて、姉が冒険者登録をさせて欲しいと父に交渉したのだ。
収穫物を販売してお小遣いを稼ぎたいと。
何かを販売するには、どこかの組合に加入しないといけない。
もっとも簡単なのは、冒険者組合だ。
冒険者は各国で依頼を受けて、森で狩りをしたり、薬草を採取したりする。
依頼したものは、依頼主に渡すのが当然だが、依頼物以外のものは、自分で組合に売ることを許されているのだ。
私の畑で採れた薬草や野菜を売りたい。
それには、どうしても登録が必要だと主張した。
それを生業にする訳ではない。
あくまでも、学生時代の小遣い稼ぎの一環だと言い張った。
実は父としても、断れない理由もある。
彼も冒険者として組合に登録しているのだ。
しかも、偽名で。
勿論、誰にも言っていないのだろうが、姉は父の部屋から冒険者カードを見つけてしまったのだ。
そして、自分たちも、偽名で冒険者登録させて欲しいと交渉した。
父としては、おそらく、後ろめたさもあったのだろう。
渋々と了承した。
そこまで大きなお金が動く訳でもないし、小遣い程度になるのならばと。
子供達が社会を知ることは、成長の糧にもなるだろうと。
教皇として、そして私達は教皇の娘として、多くの人に顔が売れている。
カウニア国内で登録するのは流石に良くないだろう。
誰が見ているか分からないのだ。
本名での登録は、教会上層部一家のゴシップとなりえる。
偽名での登録は、当然、法律違反だ。
隣国で、こそって済ませてしまおうと考えた訳だ。
ここまでが、表向きの話である。
※
サンテール王国首都リュミエール(Lumière)。
サンテールは聖なる国を、リュミエールは光の都市を意味するそうだ。
かつては、ラルナー教の総本山スオミアリスを守る聖騎士を、最も多く輩出していた国だったと言われている。
そのため、現在でも女神セイント・ラルナーは絶対唯一無二の信仰対象として崇められている。
聖女信仰も根強い。
この国で女王が誕生すると、聖女を意味する『セイント』を冠に付けることが多いのも、その所以と聞いている。
信仰心はさておき、リュミエールの街は華やかだ。
細身のブリオーにカラフルな胴着を纏った上に、さらに色使いの異なるマントを羽織っている。
マントは裏と表が別々の生地になっているので、それだけで二色。
ブリオーと胴着を合わせると四色になる。
毎日、着る洋服を選ぶ際に、カラーコーディネートを考えるのが、さぞかし大変だろうと、私は思う。
姉は物凄い真剣な目で、色々な人たちの洋服をジットリと見ていた。
港町だけあって、市場も賑やかだ。
隣を歩く姉の声すら聞き取れない。
人通りも多く、迷子にならないように、姉の手をいつも以上に強く握りしめていた。
私は転ばないように、石畳だけを見つめて歩いた。
そんな私達の服装は、いつも以上にみすぼらしいものだ。
冒険者登録をするのだ。
華やかな格好をしていったら、それこそ格好の餌食となってしまう。
顔が綺麗な姉はさらに危険だ。
今日の姉は髪を縛った上に、ウィンプルで隠していた。
リュミエールの冒険者組合本部は、市場を少し南に抜けた先にあった。
リュミエールは大きな都市なので、北と南に冒険者組合の建物がある。
北は主に、富裕層から依頼を受け付けるために存在する支部だ。
どの都市でも、本部は治安の良くない南側にあるそうだ。
※
リュミエール冒険者組合本部。
私達は三階建ての古めかしいレンガ造りの建物を見上げた。
壁が所々剥げ落ちていることからも、相当な年期を感じさせる。
姉はスウィングドアの前で、一つ大きく深呼吸してから、中に入った。
室内はムワっと独特の匂いがした。
これは、汗と革の匂いだろう。
冒険者たちが着込む革の防具に染み付いた汗の匂いだ。
壁際にいた何人かの冒険者から視線を感じた。
みんな、大きくて太くてイカつい。
姉は受付まで真っすぐ歩いた。
そして、一番優しそうな女性の前に立ち、冒険者登録の依頼をした。
そこから先は、私では届かないカウンターの上での書面のやり取りなので、よく分からない。
冒険者登録用紙。
保護者の同意書。
保護者の身分証(この場合は父の偽冒険者カード)。
登録費用。
その辺をやり取りするだけだと聞いている。
冒険者登録用紙には、予め記入しておいた。
父の偽名に沿う形で、私達は苗字を揃えて登録する。
私はララ・スティエルナ(Lara Stierna)。
姉はアス・スティエルナ(As Stierna)だ。
名前は短い方が庶民的に思われるらしい。
それでも互いに間違えて呼んでしまいそうだから、似ている名前にしようと二人で決めた。
無事に冒険者カードをもらって終了だ。
外に出て、姉は大きく息を吐いた。
「アス姉。ありがと」
「いいのよ。ララ」
新しい名前で呼ばれたからか、少し嬉しくなった。
姉の細いウェストに思わず抱き着いた。
何だろう。
妙にしっくりきた。
※
今日の目的は冒険者登録だけではない。
次は下町に出入りできる格好を、二人して揃えるのだ。
冒険者組合の近くにあった下町向け洋服屋さんで、私達は大量の洋服を購入した。
私は男の子に見えるように、ブレーと呼ばれる長ズボンを買った。
少し成長しても履けるように何本か買う。
ズボンの上から履くショースという靴下も沢山買った。
姉も男性用のブリオーやブレー、ショースを購入する。
ブリオーはオーバーチュニックのことだが、男性用は丈が短く、袖が狭いものが多い。
姉が着たら、女性騎士服みたいな感じになるだろうと思う。
さあ、やるべきことはまだある。
来た道を北上して市場を抜けて、広場まで戻ってきた。
少しさびれた裏道に入り、私達は空間部屋に入る。
もし、誰かが、その様子を見ていたとしたら、きっと驚いただろうと思う。
だって、世界から、いきなり消えたように見えるのだから。
※
今年最大の成果は、この新しい空間魔法だ。
この魔法のおかげで、私達姉妹がやれる事は格段に増えたと思う。
魔法的には、特段新しい魔法という訳ではない。
内実は収納魔法だ。
自分たちを収納した。それだけである。
キッカケはただの思いつきだった。
人を収納したら、果たしてどうなるのか。
怖いからすぐに実施はしなかった。
まずは、お馬さんで検証した。
収納して取り出す。
それだけだ。
もちろん、何の問題もなかった。
その後は、姉に相談した。
あれは、春先のことだったと思う。
全ての説明を終わらせた後、姉は自分が実験台になると言った。
「大丈夫よ。お馬さんが大丈夫だったんでしょ? なら人間も大丈夫なはずよ」
そう堂々と主張していたが、いざ収納しようとしたら、何かに祈るように目を瞑ってブツブツ呟いていた。
覚悟を決めて、胸の前で手を組む姉を、ただ収納して、取り出す。
当然、何の問題もなかった。
取り出した時、ずっと目を瞑ったまま、プルプルしているのが、おかしかったくらいだ。
「アス姉、もう終わったんだけど……」
「え? 嘘でしょ?」
そんなやり取りから始まり、何日もかけて、実験を繰り返した。
その結果、分かった事がある。
収納している間の経過時間は操作できる。
収納している間、その時間を止めることも。
現実世界と同じ時間を経過させることも。
遥か先の時間まで経過させることすら出来たのだ。
それが分かってから、自分たちが何をやったか?
畑を収納して、時を進めたのだ。
あっという間に収穫出来る。
それにより、事実上、欲しい時に欲しいだけ収穫出来るようになった。
「ローラ……。これ売ろう。やり方は、わたしが何とか考える。多分、メッチャ儲かると思うよ。だって、高級な薬草だって、ローラに渡せば無限に増やせるってことだからね……」
これが冒険者登録の裏の理由である。
「そうだね。今は私達が消費するものを育てているけど、高く売れるものを育てるのも良いかもしれない。調べておかないとね」
「そうね。あとは、最後の検証か。無理してやらなくても良いんじゃない? 今までの収納魔法で、十分な気がするわ」
「まあ、アス姉、心配しないでよ。多分、というか、ほぼ確実に問題ないから」
最後の検証は、自分自身を収納できるのかどうかだ。
当然、何の問題もなく収納できるだろう。
問題は、取り出す人がいなくなるという点だ。
収納された本人が、自分自身を取り出す。
そんなことが出来るのか、ということだ。
姉が、心配そうな顔を向けて来る。
綺麗な青い瞳が潤んでいた。
全く、心配性だな。
少し笑みが零れる。
ゆっくりと魔力で自分自身を囲んで、気負いなく収納した。
「ありゃ……? なんじゃ?」
収納魔法をかけた先にある空間は、誰かの部屋だった。
確かに、いつもと違うことをイメージして収納魔法をかけた。
いつもは、何もない専用の空間に対象を収納するイメージだ。
でも、それだと自分の意識がない状態で収納されてしまうと思った。
だから、畑を収納した時のように、具体的な収納場所をイメージしたのだ。
自分自身の意識が保てる場所に。
自分自身だけの特別な空間に。
そうイメージして魔法を発動した。
部屋の大きさは、スオミアリスの自室と同程度。
ただ、天井は高い。
二階、いや三階分くらいありそうだ。
天井全体が光っているのは、畑の部屋と同じだ。
巨大な高級なベッド。
大きな机。
高級そうなソファセット。
ミニキッチンまで付いていた。
壁一面は棚だ。
天井までビッシリと棚が組み込まれていた。
その全ての棚に色々なものが乱雑に積みあがっている。
「あの高さ、どうやって取るんだろう」
部屋の周りをキョロキョロしたが、ハシゴもないみたいだ。
机の上も雑然としていた。
書きかけの紙が散乱している。
スオミアリスの自室と同じように、ウォークインクローゼットまである。
トイレやお風呂場まで付いているじゃないか。
「窓は……。窓がない」
外を見ようと思ったが、この部屋には窓が付いていない。
まだ開けていないドアを見つけて、そっと向こう側を覗いた。
「やば……」
巨大な倉庫。
いや、巨大な書庫だった。
ドア近くには乱雑に色々なものが転がっているが、奥は違う。
整然と並ぶ本棚。
そこにビッシリと詰まった本。
何千、いや、何万冊はありそうだ。
書庫には読書スペースが所々に作られている。
見たことのない形の椅子や、巨大な円形のクッションみたいなものも。
「勝手に入っちゃった感じかな……」
手前の棚から本を取り出そうとして、気が付いた。
「やば、アス姉が心配している」
※
姉を、空間部屋に連れてきた日以降、ここに二人して入り浸っている。
あまり長時間居過ぎた時には、時間を調節して戻る荒業も覚えた。
時間感覚が失われるので、あまり使わないようにしているが。
姉は数学や物理の本を貪るように読むようになった。
いずれも、学校では教わらない高度な内容であるそうだ。
私は薬草、動物、そして人体構造に関して学んでいる。
医学の本が大量にあり、簡単な物から読み始めた。
頭の後ろの自動機械を取り出して以降、人体の内部構造に興味が出てきたのだ。
「ローラ、一つだけ分かったことがある」
ある時、姉にそう言われたことがあった。
「この部屋は、転生前の貴女の部屋だと言うこと」
「どうして?」
「これよ」
渡されたのは一枚の紙だった。
姉が読んでいた本に挟まっていたらしい。
その本を読みながら、メモをしていたのかもしれない。
そんな感じのメモ書きだった。
「これが?」
「ふふ。気づかないのね。それ、貴女の字よ」
「うそ。でも、確かに似ている……」
「ちなみに、机の上のメモや棚にあった手書きもあるけど、概ね同じ字ね」
「つまり……。私は転生前も空間魔法の使い手であり、この部屋を自室として使っていた。生まれ変わりだから、たまたま同じ空間が使えた……ってことかな」
「そうね。そういうことじゃないかな。女神が与えた能力じゃないってことね」
「女神インチキ説に、また一歩進んだってことね」
「この本にも書いてあるわ。宇宙の創造に神の役割は不要だと。物理法則によって説明できるってね。人類は神の存在なくして生まれたのよ」
姉は読んでいた本をフルフル振って見せた。
『大きな疑問への簡潔な答え』と書いてあるように……見える。
少なくとも、姉は簡潔な答えに辿り着いたようだ。
「ローラ。お金を溜めましょう。わたしと旅に出るの。そして、この世界に蔓延った欺瞞を暴くのよ。そして、貴女が欺瞞に満ちた世界に終末をもたらせて、真の意味で『終末の使徒』となるのよ」
「アス姉の直観が告げている?」
「そうよ。私の直観が、そう告げているわ」
※
サンテール王国首都リュミエールの中央広場の片隅に、空間部屋から戻る。
空間部屋の中に一度入り、先ほど購入した洋服に着替えた。
その上から、空間部屋のウォークインクローゼットに入っていた、お揃いのマントと帽子を被った。
マントは市場で売られている様な一枚布ではない。
スッポリと頭から被る物だった。
フードが付いているので、頭も隠せる。
襟の部分の生地に余裕があるので、引き上げれば顔の半分も隠せた。
このマントと帽子だが、何の素材で作られているか分からないが、極めて高品質な物だ。
軽い。完全防水。風も防ぐので暖かい。どの様な刃物でも切れないし、傷一つ付かなかった。
素晴らしいの一言だ。
帽子は三つしかなかった。
黒い帽子が二つ。白い帽子が一つだ。
帽子は街では見かけない不思議な形状をしていた。
クラウン(帽子の頭頂部)が中央で折り込まれている。
中央に窪みがあり、前部がつまむことも出来た。
帽子を一周する『つば』もある。
2インチ強のつばだ。
これがあるので、着脱も楽だった。
マントは沢山あった。
小さめ、中くらいのサイズ、大きいサイズ。
私は小さいマントを着ても、まだダブダブだった。
姉は中くらいのサイズでちょうど良い。
マントは黒とグレーの二色あったが、グレーのマントは小さいサイズしかなかった。
「ローラ、いや違った。ララは白の帽子とグレーのマントね。わたしは黒のセットにするわ」
姉にクルクルと髪の毛を巻き上げられて、帽子の中に仕舞い込まれた。
姿見を見ると、男の子みたいに見える。
姉は……。
本人は男性になり切っていると思うが、そんなスタイルの綺麗な男性はいないと思う。
私からみても、男装の女性にしか見えなかった。
まあ、本人がやりたいようにさせれば良いと思う。
互いに買ったばかりの長ズボンの上にショースを履いている。
靴はクローゼットの中に大量にあったワークブーツだ。
正直、毎日これを履いていたいと思える程の履き心地だ。
倉庫から大きなリヤカーを取り出して、収穫した大量の薬草を箱に詰めて、リヤカーに乗せた。
リヤカーごと、サンテール王国首都リュミエールの中央広場の片隅に戻る。
姉がリヤカーを引っ張り、私は後ろから押した。
中央広場の北側に、冒険者組合の北側の支部がある。
そこまで、ほんの少しだ。
セッセと運んで、冒険者組合の素材買取窓口に箱ごと納めた。
そのまま会議室に案内されて、査定が終わるまで待たされる。
待つこと一時間。
受付のお姉さんが、書類を持って戻ってきた。
「スティエルナ様。お待たせしました。こちらが査定額になります」
姉がその書類を受け取り、一瞬だけ硬直したが、すぐに頷いて、言った。
「問題ございません。こちらでお願いします」
「分かりました。お金はお預かり金にしますか? それとも現金で? 現金の場合は、しばらくお待ちいただくことになります」
「一万Gだけ、現金でください。後は預り金で」
「かしこまりました。お預けは個人名ですか? それともパーティ名で?」
「どんな違いがありますか?」
「パーティ名での預け金の場合は、複数指名した人が引き出せます。個人の場合は当然、ご本人様だけです。パーティ登録して弟さんをご指名しておけば、お二人、どちらでも引き出せますよ」
「分かりました。それではパーティ名でお願いします」
「かしこまりました。こちらのパーティ登録用紙にご記入ください。お二人の冒険者カードもお預かりします」
姉は自分の名前と私の名前を両方書いた。
少し考えて、パーティ名を記入する。
「ではお手続きしますので、また暫くお待ちくださいませ」
組合のお姉さんが出て行った。
「アス姉、『エッジ・シーカー(The Edge Seeker)』ってパーティ名、どこから来た?」
「いや、直接的に『終末の使徒(The Apocalypse Apostle)』とかにするのはマズいから。まぁ、なんか、探究者、追及者、狩人っぽいでしょ。世界の境界線を探しに行く、わたし達的な? 意訳すれば同じ意味よ。『終末の使徒』よ」
「はは、まあ、いいよ。それで幾らだったの?」
「それがさ……。三十万Gよ……」
三十万。
全くピンと来ない。
前に泊まったルオスティアのホテルが、一部屋一泊百Gだった気がする。
リュミエールの高級ホテルのスィートルームで、一泊千Gだ。
今日の洋服大量買いが、二人で五十G。
あれ?
ルオスティアのホテルで十年くらい過ごせるやつ?
「うぇ。あの薬草って高いんだね……」
「そうみたい……。単価みたら、恐ろしいものを気軽に育てちゃったと思ったわよ」
大きな袋を持って、組合のお姉さんが戻ってきた。
あれが一万G。
ひょっとしたら、一万枚の銀貨が入っているのかな。
「お待たせしました。大金貨だと使いにくいと思うので、銀貨と小金貨でご用意いたしました。また、冒険者ランクですが、規定取引金額を超過したので、五級となりました。おめでとうございます。これで買取金額も二割ほど増えますので、どうか、また買い取らせて頂けると助かります」
「あ、ありがとうございます。ちなみに、薬草の買い取り単価リストってありますか? 他にもあれば探してくるので」
「かしこまりました。単価は変動しますので、概算単価で宜しいですか?」
「勿論です」
お姉さんが持っていた書類束から、一枚取り出して渡してくれた。
姉は丁寧に礼を言って、受け取る。
部屋の外には男性職員が待っていてくれたようで、冒険者組合の外までアテンドしてくれた。
入口でリヤカーを受け取り、私達は速度を上げて、その場をイソイソと離れた。
「ローラ、お金とリヤカーを空間部屋に戻して。もう一軒行くよ」
「分かった。どこ行くの?」
「薬草屋さん。種を買えるだけ買おう。旅の軍資金の心配がいらなくなったね」
「うん。あと、五級って何?」
「冒険者ランク。一番下が十級で、一番上が一級。まあ真ん中になったってこと。これは気にしなくていいよ。普通の冒険者ってことだと思うから」
「了解」
※
こうして、私達はカウニアとサンテールにおいて、それなりに有名な『薬草収集専門ハンター』として名を馳せた。
一風変わった帽子を被り、数か月に一度、冒険者組合を訪れる私達には、指名依頼をする固定客もつくようになった。
私の畑部屋は、高級薬草さん達が占める割合が増え、当初の目的であった野菜さん達が日々追いやられていくことになる。
姉は、出来たての野菜よりも、採りたての高級薬草の方を喜ぶようになった。
これが女神が言っていた、多くを追い求める際限なき欲望というやつか。
姉の綺麗な髪の色と同じ色をした目で見つめる姉を見るたびに、私はそう呟くのだった。




