ラージャスティ王国を発つ
「ララ、今日も宜しく頼む」
朝、空間部屋で目を覚ましてリビングルームに行くと、そこにはコーヒーを片手に朝食を食べている中将のオジちゃんがいた。
「うん、おはよう。オジちゃん。今日も頑張ろうね。んで、朝ごはんは自分で……、ああ、チャックたちが作ってくれたのか」
中将のオジちゃんはリビングルームでソファに座って、優雅に食べていたが、二人はダイニングテーブルとキッチンをイソイソと往復している。
きっと、彼らが準備してくれたのだろう。
「ララちゃん、朝食出来ているよ」
「うん。ありがとう。オジちゃんも、向こうで一緒に食べよう」
「そうだな。そうするか」
私はオジちゃんが食べていたプレートを持ってあげた。
オジちゃんはコーヒーカップを片手に立ち上がる。
朝ごはんは目玉焼きとパンみたいだ。
カリカリになったベーコンが添えられている。
「ララ、寝ぐせがヒドイぞ」
「うぇ」
「ララちゃん、涎の痕も付いているよ」
「うげ」
二人に指摘されて、私は髪の毛を手櫛で整える。
大分伸びて来たのか、肩口に届きそうになっていた。
その毛先がまぁ、跳ねる跳ねる。
いつもは姉かフローレンスが整えてくれるのだけど、今は誰も女子がいない。
思い切ってバサっと切っちゃおうかな。
そっちの方が早い気がしてきた。
「今日、終わらせて、良い新年を迎えようではないか」
中将のオジちゃんに唐突に言われて、私はキョトンとした。
新年……。
もうそんな時期か。
もう年が明ける時期なのだ。
千三百五十八年。
ということは、私達は今年で十三歳になるのだ。
「本来であれば、三人とも高等学校に入学だな。そして三年後には成人だ」
「うん。ララは結局学校に通うことなく終わりそうだ」
「お前らは皆勉強が出来るからな。特に通う必要もないだろう」
オジちゃんの発言にレオンが苦笑した。
チャールズとフローレンスは姉と同様に超優秀な頭脳を持っている。
おそらく主席卒業を簡単に勝ち取れるようなタイプだ。
でも、レオンは、まあ普通くらいな感じだろう。
世間一般では優秀な学生として扱われるが、高等学校に入学すれば平均程度。
偏差値で言うと六十は超えると思うけど、七十を超える仲間たちの中にいると、自分がとても優秀とは思えないのだろう。
そんな苦笑だと思う。
「ララは勉強じゃなくて、学生っぽい生活を経験してみたかった」
「ははは。そうだな。まるで物語の主人公のような英雄譚を歩んでいるが、普通の学生とは懸け離れているな!」
「うん。可愛い男の子と仲良くなって、手を繋いでラブラブになるとか。そういうドキドキを経験することなく大人になっちゃう」
「ララちゃん、僕やレオンといつも手を繋いでいるじゃんか。ドキドキすれば良いんだよ」
チャールズに言われて、私はジトっと二人の方を見る。
何だろうな。
全然ドキドキしないんだよな。
いや、恰好良い男子達だと私も思うよ。
学校にいたら、女子達からキャーキャー言われる男子達だと思う。
人気ランキング十位以内には確実に入りそうだ。
「うーん。何だろう。兄とは恋が出来ないって感じかな……」
「まあ、ララが言ってることは俺も分かるぞ。ララのことは大好きだが、全力で守る妹としてしか見られないな」
「ははは、そうだよね。可愛いんだけどね。同じ歳って言われると、ちょっとね。こんな娘が欲しいと僕もいつも思うよ」
兄二人にもそう言い返された。
「アストリッドとフローレンスは、お前ら二人にとっては家族なのか? それとも異性の対象なのか?」
中将のオジちゃんが、ど真ん中に剛速球を投げ込んできた。
二人とも急に下を向いて、ガツガツ食べ始めたよ。
返答はないけど、その仕草が答えだと思う。
オジちゃんも、口の端を上げて、軽く笑った。
「ララ、お前はどんな男性が好みなんだ?」
「え? ララ?」
「ああ。五人組のパーティ。その中で余りものはララだけだ。みんなに相手を見繕ってもらわんといかんだろう」
「オジちゃん、言い方ね」
そこまでズバっと言えるのは、中将のオジちゃんだからだろう。
親戚のオジちゃんが、姪の嫁ぎ先を心配している感じだ。
「うーん。マリーは金髪碧眼の男の子を見つけないといけないって言っていたな……。ララは……。うーん。別に思うことはないかな」
「ララちゃん、さっき、『可愛い男の子』って言っていたよ」
「ああ、そうだね。チャックやレオンみたいに『ザ・男の子』ってタイプとずっと一緒にいるからね。もうちょっと小さくて可愛い感じの男の子と仲良くなりたいな」
「なるほど……。そうなると、軍にはいないな」
軍って……。
軍人さんとか嫌だよ。
もっと文系な感じの子がいいよ。
※
四人で飛行魔法を使って、中央にある王宮の敷地まで飛んだ。
監視台には兵士さんもいない。
貴族街には足早に中央に向かう人たちがパラパラ見えた。
上空から確認する限り、相当な数の人が王宮の敷地には集まっている。
サンパウリーナ王国軍の兵士、貴族だと思える恰好の人たち、執事、侍女、教会関係者、ラージャスティ王国の兵士さんの姿まで見えた。
「レオン、武装解除しているか見える?」
「ああ。誰も武器も荷物も持っていない。降伏しているな」
「オジちゃんどうする?」
「正門を開けよう。橋を作って貰えるか? カスティリオ王国軍を全て中に入れよう」
了解、と私は行って、南に方向転換した。
沢山の人が集まっている広い敷地を周回するようにターンする。
貴族街を抜けて、南門まで向かう。
南門を守る兵士たちも既にいない。
全面降伏。
そう言っても良いのだろう。
門の前に降下して、透明魔法を解いた。
レオンが早速門を開けに走って行く。
門はレバーを外した後、大きなハンドルを回すことで、引き上げられる仕組みになっているみたいだ。
多分、あれは数人で回す仕様なのだろうな。
レオンは自身の肉体を強化して一人で回しているけど。
ギィっと音がした後、ギギギギギと錆びた鉄の門が上がり始めた。
徐々に門の向こうの視界が開けてくる。
一面の水。湖だ。
その向こう側、統一街道沿いには、カスティリオ王国軍が整列しているのが見える。
ナヴァラトナ大河の川幅と同じくらい距離がありそうだ。
私は門から真っすぐと統一街道に向かって魔力を延ばした。
3フィートほどの高さ。
いや、絶対折れないのだから、1フィートで十分だろう。
それよりも道幅の方が重要だ。
百フィートほどの道幅の橋をイメージした。
ギュイーンと私の魔力は延びる。
真っ直ぐと水の上を走る。
透明だと渡りにくいだろうから、真っ白な色にした。
「「「「オー!」」」」
「「「「ララさまー!」」」」
統一街道沿いに整列している兵士達が剣を掲げて歓声を上げた。
私も両手を大きく振って返事した。
中将のオジちゃんも、同じ様に大きく手を振って、彼らを呼び寄せている。
整列していた兵士達が一斉に動き出した。
全員が私が作った白い橋を走って渡って来る。
「小隊長以上は集合!」
中将のオジちゃんが声を張り上げた。
数十人が私達の前で止まり、残りは邪魔にならないように、都市の奥に向かって展開していく。
全員が抜剣しており、油断なく戦闘態勢を維持したままだ。
「第一軍から五軍までは中央広場に投降している者を確認せよ。無害な者やラージャスティ王国軍は都市に残し、食事を与えよ。サンパウリーナ王国軍と貴族は都市から放逐する。武器も荷物も持たせるな」
「「「は!」」」
「第六軍、第七軍は南側貴族街に残っている者を確保。隠れている奴がいるかもしれん。くまなく探せ」
「「「は!」」」
「第八軍、第九軍、第十軍は北部を中心に遺体を中央まで集めよ」
「「「は!」」」
オジちゃんが指示をすることで、集まっていた隊長陣は走って散開していった。
残っているのは、普段からオジちゃんの周りにいる人たちばかりだ。
「オジちゃん、これで王都ナヴァラトナは陥落?」
「そうだ。ララ、陥落だ。被害ゼロで落としたぞ。王都だけではない。ラージャスティ王国自体が落ちたことになるのだろう」
ハハハハハ!
オジちゃんは大きな声で笑った。
周りの隊長陣も笑顔でハイタッチを交わしている。
チャールズとレオンもそれに混じって喜んでいた。
私はこの後にやるべきことを既に考えていた。
水路を何とかせねば。
姉達を連れてこないと。
十万人の人たちの食料配給もある。
ここからの方が遥かに大変そうだな。
夏の日差しが照りつける中、空を見上げて私は考えた。
※
食糧庫に食料を戻してあげてから、私は姉達を迎えにウマラセドリに向かった。
この間と同様に高速船で一気に下る。
帰り道も高速船を使って北上したので、昼過ぎには王都ナヴァラトナに戻ってこれた。
みんな、湖に浮かぶ王都ナヴァラトナを見て感動していた。
このままでも良いんじゃないのかとも言われたよ。
メーガンちゃんですら、街の防御を考えても悪くないと言っている。
でも、このままだとユニオン・リパブリックに続く統一街道が、分断されちゃっているんだよ。
水堀は残したとしても、統一街道は復旧しないといけない。
朝作った白い橋を渡って、南門から中に入ると、ちょうど街から放逐されるサンパウリーナ王国軍と貴族達が、兵士たちに左右を囲まれて歩いてくるところだった。
弱っていた軍の兵士達も、多分、何かを食べさせて貰えたのだろう。
ちゃんと歩くことは出来ていた。
街を放逐するにあたり、最低限の食糧も支給すると聞いている。
手に持っている大きな袋がそれだろう。
まあ、統一街道沿いの町を襲うような暴徒になられても困るからね。
必要な処置だと思う。
ウマラセドリは彼らが通過するまで、門を堅く閉じる様に、ナスルのオジちゃんが厳命していた。
彼らはこれから、サンパウリーナ王国まで、頑張って歩き続けないと行けない。
「殿下!」
「メーガン王女殿下ではありませんか!」
整列して歩いていた貴族の数名が、メーガンちゃんを見つけて駆け寄ってきた。
レオンとチャールズがすぐに彼らの行く手を塞ぐ。
私も足を止めて結界で囲った。
「メーガン王女殿下! カスティリオ王国軍の横暴を御止めください!」
「彼らは我がラージャスティ王国を蹂躙し、乗っ取ろうと考えております!」
メーガンちゃんは、冷たい目で彼らを見ていた。
街から放逐されるにも関わらず、貴族達は誰もが貴族だと分かるような格好をしていた。
『クワタ』と呼ばれる刺繍や宝石が散りばめられた長いシャツを着ている。
何名かは夏にも関わらず『シェルワニ』と呼ばれるフォーマルなコートが重ね着してすらいた。
女性もビロード生地の『サリー』だ。
長い一枚布を身体に巻きつけている。
そして、みんな、健康そうな脹やかな体形をしていた。
多分、最後まで自宅に食料を隠し持っていた貴族なのだろう。
一方のメーガンちゃんは、私達と同じような恰好だ。
腿までのチュニックに長ズボン。
靴はワークブーツだ。
顔を知らなければ、この子を王女殿下だとは誰も思わないだろう。
「「「王女殿下!」」」
「「「お助けください!」」」
何名かがメーガンちゃんに気付いて声をあげたことで、貴族達が周りに集まってきてしまった。
結界の周りで懇願するように彼女の名前を呼び続けている。
このまま結界を浮かせて飛び越えようかと考えたところで、周囲にいたカスティリオ王国軍の兵士から笛が吹かれた。
仲間を呼んでくれたのだろう。
「列に並べ!」と大きな声で注意してくれている。
「「「王女殿下!」」」
「「「なにとぞ!」」」
何も言わずに冷たい目で見下ろしていたメーガンちゃんだが、意を決した様に話し始めた。
強い意思が込められた凛とした声だった。
「鎮まりなさい!」
貴族達からあがっていた責める様な声も、懇願する様な声も徐々に静かになる。
カスティリオ王国軍の兵士さん達も注意をやめて、メーガンちゃんに向けて踵を揃えた。
「皆様の中で、農民になってでも、我が国にために尽くしたい人はいらっしゃいますか? もし我こそはと思う様でしたら、挙手をお願いします」
何を言い出したんだ? という顔で貴族達は首を傾げた。
互いの顔を見渡して肩をすぼめている。
たった一人すらいなかった。
「いないようですね。ラージャスティ王国は身分制度を撤廃します。つまり、貴族は不要ということです。隣国と合併した後に、王家の身分すら返上する予定です。貴族位にコダワル皆様に与えられる爵位も領地も無くなるということです。どうか、皆様に真の女神様の加護がありますように」
「「「何を仰いますか!」」」
「「「なりませんぞ!」」」
大騒ぎになった貴族達が結界に迫って来た。
カスティリオ王国軍の兵士さん達が大きな声で暴動一歩手前の貴族達を抑えるべく介入してくる。
私はそのまま結界を飛行魔法で浮かべた。
透明化魔法もかけ、外部の音も遮断した。
「立派だったわ。メーガン」
姉がメーガンちゃんの肩を抱いた。
フローレンスとマリーが口々に貴族達を罵り始める。
憮然とした顔のメーガンちゃんの両肩が小刻みに震えていた。
貴族街を飛び越えて、中央の王宮の敷地に向かった。
先ほどまで、街を放逐された貴族達やサンパウリーナ王国軍の兵士達がいたからだろうか、綺麗だった芝生が大分傷んでいた。
その敷地の端には、ラージャスティ王国の兵士さんや教会関係者の人たちに食事が提供されているようだった。
私達は中将のオジちゃんと合流した。
「オスカー中将、王都ナヴァラトナの奪還、ありがとうございました」
メーガンちゃんが深い礼を中将のオジちゃんに示した。
オジちゃんも敬意をもって応える。
「何を。王女殿下の無事の御帰還。お慶び申し上げます」
「十万人の民たちを解放してあげたいのだけど、ここで良い?」
私はオジちゃんとメーガンちゃんに聞いた。
姉とナスルのオジちゃんの顔も見る。
返答したのは姉だ。
「メーガン、ここで民と兵士達に説明しては如何かしら?」
「説明……。戦争が終結したこと、貴族も放逐したこと……あとは?」
「国王陛下と王妃殿下の事も伝えた方がいいわ」
「そうね……」
姉とメーガンちゃんの会話を聞いていたナスルのオジちゃんが助言した。
「イフヤ共和国とカスティリオ王国が支援して貧困対策をする事も伝えた方が良いだろう」
「はい。ありがとうございます。ここでやりますか?」
「役所に拡声器があったはずだ。部下に取りに行かせよう」
中将のオジちゃんが、部下に声をかける。
その場で段取りを決める話が始まった。
私にも幾つもの役割が割り当てられた。
戦争終結に貢献した一級冒険者パーティとして、舞台に上がる事にもなった。
役所からマイクとスピーカーの様な拡声器が運び込まれて、食事を配給されていた兵士さんや教会の人たちが、会場の整理役を請け負ってくれて準備が整えられる。
私は収納していた避難民たちを整列させたまま、会場に出して行った。
整列させていると言っても、十万人である。
十数時間かけて収納したのを簡単にどかーんと出せる訳もなく、二時間程かかった。
舞台は結界で作った。
真っ白な大きな台を作って、この王宮の広い敷地の隅々から見える様にする。
結界階段で皆が舞台に上がると、大きな歓声が上がった。
カスティリオ王国軍オスカー中将、
イフヤ共和国ナスル元首、
サンテール王国アンヌ=マリー王女、
私達、エッジ・シーカーの冒険者パーティ、
そして、ラージャスティ王国メーガン王女。
「皆様、ラージャスティ王国第一王女メーガン・ナイアールです」
拡声器ごしにメーガンちゃんの声が響いた。
私が想像していたスピーカーとは少し違うみたいだ。
大きな音がスピーカーから出された感じはしない。
それでも、全体に声が届いている様だった。
壇上にいるのが、王族、しかも王女殿下と聞いて、十万人の民が皆、地面に座り額を付けて傅いた。
壇上から見ていると波が引いていく様に皆が平伏していく。
彼らも壇上に上がっているのが、まさか王族とは思わなかったのだろう。
「皆様、どうか、頭を上げてください。そのまま、お座りになられて結構です。お歳を召した方もいらっしゃるでしょう。赤子を抱えたお母様も。どうか楽な姿勢で私の話を聞いてください」
様子を伺う様に、人々の顔が上がっていった。
メーガンちゃんは、壇上の端から順番に私達を紹介していく。
その後、戦争が終わり、サンパウリーナ軍と貴族を王都から追い出した事を説明した。
サンパウリーナ軍だけでなく、貴族が追い出された事に、ざわめきが広がった。
「そもそものキッカケは、六カ国同盟の調印式での暗殺事件にありました。偽女神の神託に拐かされた三人の使徒が、サンパウリーナ王国の国王陛下と……、我が国の国王陛下、王妃殿下を暗殺しました」
さらに騒めきが広がった。
えー、という声も、キャーという叫びも上がらない。
静かな騒めきが広がった。
一人一人の小さな呟きが、十万人分重なった騒めきだ。
「ラージャスティ王国の西部は偽女神の攻撃で、全ての町が壊滅的な被害を受けました。サンパウリーナ王国の参謀が偽女神に加担して兵を侵攻させてきました。我が国は……、この壇上にいる各国の方々の支援が無ければ、立ち直れないダメージとなった事でしょう」
再び私達の事を手で示し、西部から始めた支援活動、王都奪還の話を説明していった。
そして、サンテール王国とヴァルデン共和国が、サンパウリーナ王国を南から逆侵攻している事まで紹介した。
「数日後に、父上と母上の葬儀を行った後、私はラージャスティ王国の女王の座を継ぎます。ただし、これまでと同じ様な国を作るつもりはありません。もう二度と民が貧困に苦しむ事なく、特定の人達だけが富を独占する様な事の無いように、政治体制を一新します。具体的なお話はまた別にさせて頂きます。どうか皆様、まずは健康を取り戻して頂きたいのと、町の再建の御支援を宜しくお願いします。真の女神の御加護があらんことを」
今度は騒めきでは無かった。
周囲にいたカスティリオ王国の兵士達の大きな拍手を呼び水に、民の間から拍手がパラパラと広がった。
その内に、皆が立ち上がり、大きな拍手を送ってくれた。
「王女殿下!」みたいな呼び声は流石にかからない。
でも、ちゃんと十万人の民が称賛のスタンディングオベーションを送ってくれているのは、壇上の私達の元にちゃんと伝わってきたよ。
※
ニコニコ国王と王妃さんの葬儀は同じ場所で慎ましやかに行われた。
メーガンちゃんの就任式も豪華絢爛な物ではなく、葬儀と同じメンバーで最低限の段取りで執り行われた。
メーガンちゃんが女王として最初に指示を出した施策は、王宮、教会、貴族街の取り壊しだった。
メーガンちゃん自身は、貴族街に新しくできる洋館に住む様だ。
貴族街はある種の高級住宅街になるのだろう。
貴族の居住区は取り壊されたとは言え、街自体が綺麗な地区なのだから。
私は勿論取り壊しを手伝った。
手伝ったというよりも、主戦力として活動した。
その瓦礫を空間収納で数百年寝かせた後、コンクリート材を混ぜ込んで、水堀の枠材にさせてもらった。
ナヴァラトナ大河から水路に繋がる堰に水門を設けることで、王都ナヴァラトナの水堀に流れ込む水量を調整できるようにした。
水堀から再びナヴァラトナ大河に流れる水路を掘り、コンクリート製の枠で補強したことで、湖から王都をキチンと囲う水堀へと変わった。
南門から水堀を越えて統一街道に繋がる橋は今は簡易的なものだが、その内ちゃんとした橋を建てるとメーガンちゃんは言っていた。
人類歴千三百五十八年二月。
私達は王都ナヴァラトナを離れた。
カスティリオ王国軍の兵士たちと一緒に出立した。
ナスルのオジちゃんと、イフヤ共和国の憲兵さん達が当面の間は残ってくれるそうである。
王都の復興がある程度終わった後に、王権の返上と共和国との合併がある。
それまではナスルのオジちゃんが全面サポートしてくれるだろうと思う。
出立の日、多くの民が見送ってくれた。
彼らの拍手と歓声の中、カスティリオ王国軍の兵士達と一緒に馬に乗って、街を出る。
街を出た直後に高速船でナヴァラトナ大河を一気に下る予定なのだが、一応、こういうセレモニーには参加すべきだと言われたのだ。
メーガンちゃんとナスルのオジちゃんとは、昨晩お別れをした。
次に会うのが、いつになるかは分からない。
でも、そんな先の話じゃないのだろうと思う。
それでも、私達はハグを交わしながら、キチンとお別れをした。
メーガンちゃんは泣きはらした顔で姉と抱き合った後、私達、選ばれし使徒に向かって跪いて礼を述べた。
私、フローレンス、チャールズ、レオン、マリー、ジョヴィに対してだ。
「我がラージャスティ王国の人間は、皆様を真の女神様の使徒として永遠に祀らせて頂きます」
そんなオーバーな口上を述べていたよ。
皆、全力で否定した上に、跪いたメーガンちゃんを立ち上がらせていたけど。
それでも、皆が嬉しそうな顔をしていたのを私は知っている。
マリーは胸を反らせて、「人類皆兄妹よ!」と何処かで聞いたことあるセリフを言っていたし。
メーガンちゃんとナスルのオジちゃんが南門で見送ってくれた。
私たちは、手を振って、彼らと別れる。
「皆、また会おう!」
低く響き渡る声が背中に聞こえた。
手を振って、私達も応える。
統一街道沿いのナヴァラトナ大河は今日もドブみたいな色をしていた。
しばらく進んだら、部隊を半分に分けると中将のオジちゃんから聞いている。
半分は私の空間収納による搬送だ。
半分はウマラセドリを経由して、各町の様子を確認しながら、サンパウリーナ王国首都ポルト・ド・ソルまで統一街道を進む。
私達はナヴァラトナ大河を一気に下降して海に出る。
すぐに首都ポルト・ド・ソルの港に着くだろう。
つまり、今日中にはサンパウリーナ王国に上陸するということだ。
ラージャスティ王国でも、多くの使徒から自動機械も回収できた。
010選ばれし使徒、光の聖女インドラ・アリ(Indra Ali)
029元護衛隊員サニヤ・クマール(Saniya Kumar)
054ラージャスティ王国メーガン・ナイアール(Megan Nair)
076十王の使徒、ラージャスティ王国国王ラフール・ナイアール(Rahul Nair)
もちろん、自動機械の回収も、殺害することも出来なかった使徒もいる。
096暗殺の使徒サンディヤ・バルガヴァ (Sandhya Bhargava)
コイツはいつの日にか捕まえて、レオのカタキを絶対に討ってやる。
北に逃げて行ったと聞いているが、ひょっとすると統一街道を北に進み、ユニオン・リパブリック、もしくはサンパウリーナ王国に逃げ込んだかもしれない。
遭遇することは十分にあり得るだろう。
いずれにせよ、次なる国も戦地だ。
気を引き締めて行こうと、私は気持ちを入れ直した。




