サンパウリーナ王国第三軍を陥す
ぐーぐーとノッキングチェアに揺られて昼寝していたら、おでこをコツンと叩かれて起こされた。
「ララ、一つだけ付き合ってくれ」
目を開けると、中将のオジちゃんが目の前にドーンと立っていた。
「うん。いいよ。どこに行くの?」
「外にいるサンパウリーナ王国軍と停戦交渉しようと思ってな。まあ、放置していても良いのだが、街を自由に出入り出来ないのもイヤなのでな。早々に交渉することにした」
「そうだね。いいよ。いつ行くの?」
「今だ」
中将のオジちゃんが口をガバっと開けて笑いながら言った。
教会を出ると、沢山のカスティリオ王国軍の兵隊さんたちが揃っていた。
全員集めたんじゃないかと思えるくらいの多さだ。
彼らは私達の後を大行列して付いてくる。
城壁の正門に辿り着くと、横に展開して武器を構えた。
「ララ、いつものあれで行くぞ」
そう言って、オジちゃんが伸ばしてきた手を私はギュっと繋いだ。
空間ボールを幾つか周囲に浮かべて、落とし穴魔法で囲む。
十フィートはある大きな鉄製の扉が、ギィっと音を立てて、開かれていく。
私は中将のオジちゃんと手を繋いだまま、その様子を見ていた。
背後には沢山の兵士。
この人たちは、万が一、サンパウリーナ王国軍が強硬突破してきた時のための抑えだろう。
でも、私達の周りには落とし穴を作っている。
早々抜かれないとは思うのだけど。
城壁の扉が完全に開くと、向こう側で武器を構えるサンパウリーナ王国軍の兵士達の姿が見えた。
気にせず、堂々と城門を超え、二人で歩を進める。
武器を構える兵士たちに向けて、オジちゃんが大きな声で叫んだ。
「カスティリオ王国軍オスカー・フェルナンデス中将である! 第二都市ウマラセドリは我がカスティリオ王国軍の支配下に入った! サンパウリーナ王国軍よ! 軍隊長のところまで案内せよ!」
後ろでギィっと音がして、再び城門が閉じられた。
武器を構える兵士達の後方から、上官らしい人が出てきて、私達に告げた。
「案内します。こちらへ」
「ふむ。俺たちの周囲には近づかないようにせよ。魔法が掛かっておる」
「え? は、かしこまりました」
おそらく隊長格の人なのだろう。
その人について歩くと、集まってきていた兵士さんの間に道が出来た。
進む方向としては、サンパウリーナ王国軍の駐留地の方角だ。
でも、ちょっと遠いんだよな。
そこまで歩くのは嫌だなと思って、しばらく歩いていると、向こうからも人が近づいてくるのが分かった。
沢山の兵士さんに囲まれて、ノソノソと歩いてくる。
中将のオジちゃんと同年代のベテランさんみたいだ。
それなりに偉い人なのだろう。
胸に沢山のバッチが付いていた。
その人の背後にも多くの兵士達。
私達の背後にも、左右にも沢山集まってきている。
このまま、全員収納しちゃえば、半分くらいは減るのではないだろうか。
私は歩きながら、コソっと魔力を薄く薄く広げた。
ここしばらく、畑仕事で鍛えたからだろうか。
随分スムーズに魔力を展開できるようになったと思う。
互いに距離を開けたまま、歩みを止めた。
最初に口を開いたのは、中将のオジちゃんだ。
「カスティリオ王国軍オスカー・フェルナンデス中将だ。第二都市ウマラセドリは我がカスティリオ王国軍の支配下に入った。むやみに死傷者を出したくない。軍隊長よ、このまま帰国することをお勧めしに来た」
「高名なフェルナンデス中将に再びお会いできて光栄です。覚えていないでしょうが、一度、ご挨拶したことがあります。ジョアン・ペレイラ。第三軍司令官です」
ジョアン・ペレイラ (João Pereira)。
今は第三軍司令官をしているそうだが、かつては近衛隊の副隊長だったそうだ。
互いに王の護衛として挨拶をしたことがあると言っていた。
近衛隊ということは、つまり、カリーム・アーバで会った近衛隊隊長の仲間であり、レオの直属の部下だったということだ。
「エドゥアルドさんのお仲間?」
私がそう聞くと、少し相好を崩してペレイラ司令官は答えた。
「其方が終末の使徒かな。そうだ。エドゥアルドは同郷の幼馴染だ」
「ということは、レオと同じってことだね」
周りの兵士から殺気が漂った。
小さな声で罵詈雑言を呟く人も多い。
不敬ということだろうか。
「レオナルド・ダ・コスタ国王陛下と同郷です。終末の使徒殿。他国の国王を何ゆえに敬称を付けずに呼ばれるのかな?」
「レオは許してくれたよ。ララとレオで呼び合うことにした」
「ほう」っと言って、ペレイラ司令官は目を細めた。
先ほどまで子供に向けていた優しい顔は消え、こちらを見極めるような視線になった。
「愛称で呼び合うことを許されたにも関わらず、其方は我が国王陛下を殺めた。その理由を問いたい」
「殺めた? 誰が?」
「「「「ふざけるな!」」」」
「「「「殺せ!」」」」
「「「「女神様の神敵だ!」」」」
「「「「許すな!」」」」
物凄い怒声が湧きおこった。
どこかから、石が投げ込まれ、空間ボールに弾かれて、前列の兵士さん達に当たる。
「鎮まれ!」
ペレイラ司令官の一喝で、周りの兵士達の怒号は止むが、殺気は消えない。
それどころから膨らむ一方だ。
「女神様から御神託があった。終末の使徒ならびに各国代表に騙されて、我が国の国王陛下は殺害されたと」
「それ誰が言っていたの? 気持ち悪い参謀? しかもその女神は偽物だよ。騙されちゃっているけど、大丈夫?」
一瞬で全員の怒りの沸点を超えた気配がした。
私は兵士全体を収納しようと動くが、私の言葉を上書きするように、中将のオジちゃんが続けた。
「待たれよ! 嘘ではない!」
オジちゃんに続けて、司令官も周りを宥めてくれた。
「皆の者! 鎮まれ! これより勝手に発言したものは、ワシ自らが罰する!」
「ペレイラ司令官感謝する。自分はあのカリーム・アーバの惨劇の現場にいた軍人の一人だ。我が剣に誓って、見た事を伝えよう」
中将のオジちゃんは、私とレオの出会いから話を始めた。
最初は上手く行かなかったが、サンテール国王の仲介で、手を組むことになったこと、
六か国連合の同盟内容までも、正確に伝えた。
カリーム・アーバの女神像の前で、多くの民に合意文書を掲げている中で起きた惨劇も。
私を含む壇上にいた全員が撃ち殺されたこと、自分たち護衛がそれをただ見ていることしか出来なかったことも話した。
奥歯を噛みしめ、何も出来なかった口惜しさ、結果的にサンパウリーナ王国の国王も助けられなかったことを詫びさえもした。
「『時の管理人』である選ばれし使徒がその場にいた御蔭で、何名かの命は巻き戻って助かった。だが、最初に撃たれたサンパウリーナ王とラージャスティ王、王妃は巻き戻せる時間が足らずに……。すまぬ。救うことが出来なかったのだ」
実際は、命を救う順番をつけてしまったことが、レオを救えなかった理由だが、オジちゃんは撃たれた順番の問題に変えて説明していた。
でも、その方が良いと思う。
サンパウリーナ王国の人たちからすると、諦めがつく言い方だと思う。
「我らは直ぐにエドゥアルド・ダ・シルバ近衛隊隊長と相談した。我がカスティリオ王国女王からの助言もあり、貴国の参謀と暗殺の使徒が繋がっている可能性があることを疑った。もし、エドゥアルド・ダ・シルバ近衛隊隊長が貴国に報告する前に、サンパウリーナ王国が侵攻してくるようならば、おそらく貴国の参謀、ガブリエル・サントスの陰謀を疑うべきだと結論付けた」
「その話を信じよと?」
ペレイラ司令官は静かにそう言った。
「だが、貴国の参謀が女神の神託云々と言って、軍を煽ったのは事実であろう」
「エドゥアルドは何処にいる?」
「首都ポルト・ド・ソルに向かった。だが、既に参謀の策に陥って戦争を仕掛けている場合は、サン・ミラージュで連合軍と合流することになっている」
「は? エドゥアルドは他国と手を組むと言っているのか! ありえん! 我らと戦うなどと」
「違うよ。エドゥアルド隊長は自分の国を守ろうと決めたんだよ」
「どういう意味だ? 終末の使徒よ」
「カサ・デ・アグア。きっと来るよ。北からカサ・デ・アグア。西からはカスティリオ王国、南からはサンテール王国とヴァルデン共和国の連合軍。どうするの? 滅んじゃうよ?」
サッと周りの兵士達の顔色が変わった。
でも、ペレイラ司令官だけは全く反応を示さない。
既に想定済みということだろうか。
そのリスクを負ってまで、復讐に駆り立てられたのならば、説得することは難しいのではないかと私は思った。
「だからどうした? ラージャスティと終末の使徒パーティに神託の鉄槌を我らは行う。その後、自国で神敵を撃ち払おうではないか。それが陛下の遺志だ。オスカー・フェルナンデス中将よ。貴殿に敬意を示して、この場は見過ごそう。次に会うのは戦場だ」
「ペレイラ司令官。我らは貴国の兵士、一万人を捕虜としている。それを渡すので、引き揚げてもらえないだろうか? それでも、戦う意思を変えぬのか?」
捕虜という言葉に、周囲の兵士達の怒りがまた湧きおこった。
仲間が捕らえられている。
それが彼らの怒りをさらに強くしたのだろう。
もう私は面倒くさくなって、周囲の兵士達を全員収納した。
ペレイラ司令官以外は全て周りから消える。
周囲を見渡してから、殺気を含んだ目で私を睨みつけて来た。
「戦争が終わったら返すよ。もう合意は無理ってことだね? じゃあ、オジちゃんも収納する。サン・ミラージュでレオを埋葬する時には、オジちゃんは出してあげるよ」
「収納? 殺していないのか?」
「うん。いつでも出せるよ」
私は、結界を作り、素っ裸の兵士さんたちを百名取り出した。
ペレイラ司令官が確認した後、再び収納する。
「陛下の埋葬はいつだ?」
「ララがサン・ミラージュに着いた後」
「陛下のご遺体も貴様が持っているのか!」
「そうだよ。エドゥアルド隊長に頼まれたの。ララが持っていけばレオの遺体は傷まないから。ララ、レオから手紙も受け取っちゃったから、サン・ミラージュに行くの。レオとの約束を果たしに」
「見せてくれ」
私は収納から、レオから貰った許可証や手紙を、ペレイラ司令官の足元に取り出した。
それを手に取って眺めた後、ペレイラ司令官は首を振って違うと言った。
「これではない……。陛下のご遺体にお会いしたいという意味だ」
「あ、ごめんね」
私は手紙と許可証を再び収納して、ペレイラ司令官の横に先ほど接収したベッドをドンと置いた。
ギョッとするペレイラ司令官だったが、その後、そこにレオの遺体を寝かせてあげると、レオの手を取って号泣し始めた。
私と中将のオジちゃんは、黙ってその様子を眺めた。
彼が落ち着くまで待つ。
エドゥアルド隊長だけではない、あの場にいた護衛隊の人たちも、同じ感じだった。
レオが親しまれていたのは知っている。
お別れくらいは、ちゃんとさせてあげたい。
長い長いお別れだった。
私達は待った。
ペレイラ司令官は、暫くして、吹っ切った様に立ち上がった。
レオの横に立ち、握っていたレオの手を、再び胸の前に組ませた。
そして、静かに頭を下げる。
長い長い礼をしていた。
「終末の使徒、ララ、と言ったな。礼を言う。陛下をサン・ミラージュに連れていってあげてくれ」
私はレオを格納し、ベッドもしまった。
中将のオジちゃんが、もう一度ペレイラ司令官に問うた。
「ペレイラ司令官。先日の一万人も、ここにいた兵士達も、帰国していただけるのならば解放しましょう。如何しますか?」
「フェルナンデス中将、もう一つだけお願いしたい。メーガン王女殿下、ナスル国家元首とお会いさせて頂きたい。正直言うと、あのエドゥアルドが陛下の遺体を預けたのだ。よほど貴殿らを信じたのだろうとは思う。それでもエドゥアルドも含めて殺して、陛下の遺体を奪った可能性も残っているのだ。すまぬ」
「もちろんだ。行こう」
「わかった」
私は落とし穴魔法を解除して、二人のオジちゃんと街に戻った。
城壁に配置されていたサンパウリーナ王国の兵士達は皆、いなくなっていた。
私達の周りに全員が集まっていたのだろう。
私達は城門を開けてもらって、普通に歩いて中に入ったよ。
教会の講堂に、ペレイラ司令官を案内した。
兵士達が、メーガンちゃんやナスルのオジちゃん達を呼びに行っている。
私は講堂にソファセットを取り出して、座って待ってもらうことにした。
メーガンちゃん、姉、ナスルのオジちゃんがやってきた。
三人とも順番に挨拶した。
ペレイラ司令官も丁寧に頭を下げて、挨拶を返していた。
レオの遺体と会えたからだろうか。
最初に会った時と比べて、少し身体から力が抜けた気がする。
張っていた気が、緊張が解けたのかもしれない。
中将のオジちゃんが、自分が説明したことを三人にも共有した。
そして、ララが収納した捕虜を全て返すので、帰国してほしいと交渉していると。
ペレイラ司令官から、メーガン王女殿下、ナスル国家元首と会って話したいと言われたので、連れて来たことも、説明した。
「なるほど。偽女神とは言え、御神託と言われたら信じてしまうのが人の心と言うものです。私達で良ければ、ご質問にお答えいたしましょう」
ナスルのオジちゃんが、渋い低音ボイスでペレイラ司令官に言った。
「ありがとうございます。まずはメーガン王女殿下にご質問させて頂きたい。殿下は父母である国王陛下と王妃殿下を亡くされた身です。その……。大変言いにくいのですが、ナスル国家元首、カスティリオ王国女王や終末の使徒のパーティに騙されているとは思わなかったのでしょうか?」
「騙されている……?」
「はい……。女神様の神敵と神託があった使徒とその支援者達です。それこそ国家を乗っ取る悪意があり暗殺したことだって考えられるかもしれません」
「ああ、理解しました。はい、そうですね……」
メーガンちゃんは質問を受けて、少し苦笑を浮かべた。
ナスルのオジちゃんも同様だ。
「えっと、例の自動機械の件はお聞きになられましたでしょうか?」
「自動機械?」
ペレイラ司令官が私と中将のオジちゃんの方を向いて、何の件かと聞いてきた。
まだ説明していない。
中将のオジちゃんが、未だ説明していないことを答えた。
「わかりました。まず、その話を聞いた方が良いでしょう。お答えの一つは女神の神託自体に大いなる疑念がある。それが理由の一つです。また、ペレイラ司令官もお気づきでしょうが、ここにいる皆様。そしてサンテール国王陛下、カスティリオ王国女王陛下、ヴァルデン共和国の首相閣下もそうですが、全て信頼に値する方です。それに、もし、ララちゃんが我が国を率いて頂けるのであれば、私は喜んで差し出すつもりですよ」
私は小さく首を横に振った。
もちろん、国の偉い人になるつもりは全くない。
ナスルのオジちゃんも、笑って同意する。
「その通りだな。ララにだったら、イフヤ共和国も預けよう。きっと民は幸せになるだろうな。ははは!」
メーガンちゃんは、その後、自分たちがラージャスティ王国に入ってからやってきたことを説明した。
畑を開墾し、病気やケガの人を治療し、瓦礫を片付け、遺体を燃やし、困窮する民を救って進んできた日々を。
こうやって、他人の口から話されると遠い国の誰かのエピソードの様に聞こえるから不思議だ。
自動機械の話は、いつも通り、姉が説明した。
ちょうど女神像がある講堂にいたので、実際に天板を外して、ハシゴを登り自動機械が設置されていた場所を教えてあげたりもした。
ペレイラ司令官は、聞きにくい質問もストレートに聞いて確認していた。
六か国同盟の意図や、各国の負担、今後の展望。
また今回、サンパウリーナ王国が同盟国に侵攻してしまったことによる影響や対応の仕方も率直に聞いていた。
「まずはレオナルド・ダ・コスタ国王陛下亡き後、誰が王の座を継ぐのか。それが重要であろう」
ナスルのオジちゃんが言う言葉が全てだと思う。
国王の考え方によって、サンパウリーナ王国の方針も、同盟国の考えも全て変わる。
それこそ、キモ男参謀が王の座に就いたら、敵としてしか考えられないだろう。
「その上で、新国王が同盟に対してどう考えるのか。今回の侵攻の件をどう考えるのか。全てはそこからだ」
「ねえ、ペレイラ司令官。後任の候補はいるの? キモ男参謀が国王になることはないの?」
私は率直に聞いてみた。
ペレイラ司令官は静かに首を横に振った。
候補すらもいない。
そういう事なのだろう。
「良くも悪くもレオナルド陛下はワンマンでした。陛下の下に序列なし。所謂ナンバー2もございません。また、参謀が国王になることだけはないでしょう」
「そうなると、戦争の方針、それこそ戦争する、しないも含めての決定は誰がするの?」
国家の最も基本的な権限。
国家の中で最も大きな決定権かもしれないが、それに関しても曖昧な様だった。
「第一軍が現在、首都ナヴァラトナに侵攻しています。第二軍は海軍ですのでポルト・ド・ソルにいるか、サンパウリーナ海峡を守っているかです。第三軍、我々ですが、本来は国の南を守っています。第四軍は北部担当。セラ・ダ・ルナに駐屯している軍です。おそらく、その各軍が個別判断することになるのではないでしょうか……」
「第三軍はこれからどうするの?」
「エドゥアルド親衛隊隊長と合流して、南側を守ります。特に南島は陛下の故郷の地。カサ・デ・アグアに侵攻される訳には行きません」
「ペレイラ司令官と一緒に活動しれくれる人はエドゥアルド隊長だけ? 第一軍の人とかは同調してくれないの?」
「そうですね……。第二軍、海軍ですが、司令官のマテウスは私とエドゥアルドと同じサン・ミラージュの仲間です。おそらく同調してくれるでしょう。首都ポルト・ド・ソルにいれば合流します」
「第一軍は友達じゃない?」
「はい……。残念ながら……。おそらく参謀に最も近い人物だと思われます」
アレクサンドル・バルガス(Alexandre Vargas)。
第一軍司令官。
首都を守る軍隊であり、サンパウリーナ王国の主力でもあるそうだ。
エドゥアルド隊長やペレイラ司令官は、田舎のオジちゃん的な匂いもするけど、第一軍司令官は生粋の軍人の様な堅物だと言う。
「そうなると、例えばペレイラ司令官が説得したりしても意味がない?」
「申し訳ございません」
ペレイラ司令官はそう言って頭を下げた。
これは同じ手は使えないということだろう。
そうなると、最悪全面戦争になるしかないのかな。
「ペレイラ司令官。バルガス司令官を排除したとしたらどうだ?」
中将のオジちゃんが問うた。
ペレイラ司令官は真っすぐな人なのだろう。
繭を寄せて、不快そうな顔を浮かべた。
オジちゃんが、言葉を補足する。
「すまぬ。卑怯な手を使いたい訳ではない。なるべく多くの兵士をサンパウリーナ王国に帰したいのだ。司令官がいなくなることで、五万の兵士が無傷で帰国できるのであれば、貴殿としてもそっちの方が良いだろう?」
「はい、ありがとうございます。配下に五人の副官がおります。それが全ていなくなるのであれば、中隊長以下は兵を引くかもしれません。少なくとも聞く耳を持たないということはないかと」
皆が押し黙って考え出した。
今後のことを考えれば、指揮官クラスだけを排除するのが手っ取り早いやり方だろう。
夜間に指揮官のテントだけを狙って収納してしまえば良いのだ。
オジちゃんは、同じことを考えたのか、指揮官の寝所の見極め方まで確認していた。
傍から聞いている限りは、判別つくし、やれると思った。
姉とナスルのオジちゃんが、幾つかの書類をペレイラ司令官に渡した。
もしサンテールやヴァルデン共和国の兵士に会った時に、味方であると証明する手紙だと言っていた。
ペレイラ司令官も、深く彼らに礼を述べていた。
「ララ様。第三軍は第二都市ウマラセドリから撤退し、サンパウリーナ王国へ帰国いたします。申し訳ございませんが、部下を帰して頂けると助かります」
最初に会った時とはずいぶんと異なる態度で、私にそう依頼してきた。
勿論、了承する。
ペレイラ司令官は皆と挨拶を交わして、教会を後にした。
そのまま、城壁の門まで歩き、そこから二人で外に出た。
「じゃあ。ペレイラ司令官、また会おう。次に会うのは南の島だよ」
「はい。どうかご無事で」
差し出された大きな手を握り、私達は分かれた。
私は、城門前に広がっている道や平野にこれまで収納したサンパウリーナ王国の兵士さん達を取り出していく。
ある一帯の兵士達が裸になっているけど、それは許して欲しい。
開いている城門と、その前に立つ私を見て、兵士達が武器を持って突っ込んでくる。
城門よりも大きな結界を張っているので、透明の壁にぶつかって弾かれていた。
「総員! キャンプ地まで戻れ! 総員だ!」
ペレイラ司令官の大きな声が響いた。
駐屯していた平野に全員を集めて説明するのだろう。
結界に唾を吐きかけている兵士もいたけど、気にしないよ。
もうこの人たちは敵じゃない。
あとは、頑張って国を守って欲しいと私は逆に彼らにエールを送ったよ。




