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走るパーティ宣言


私達がサンパウリーナ王国の旗艦船から自動機械を除去している間に、皆、気持ちを落ち着かせたようだった。

情報を共有し、これからのことを考える余裕が出てきていた。

各国同士での会話も始まっている。


私は、除去してきた自動機械を一度皆に見せた。

大型の通信の自動機械。

空を飛ぶ、機関銃が搭載された自動機械。

小さな監視用の自動機械。

この街で回収した自動機械だけで、沢山あった。


これが、これまでも繰り返された女神のやり方の一つだと、姉が説明する。

共通認識を作った上で、全体での話し合いが始まった。


「全員揃ったところで、もう一度、ワシから謝罪したい。此度の事件、ホスト国として深く謝罪する。特にラージャスティ王国とサンパウリーナ王国には、甚大な被害を生じさせてしまった」


「はい。サンパウリーナ王国として、同盟国のイフヤ共和国に何かを請求することはございません。取り急ぎ、帰国して陛下の葬儀を行い、新しい王を選定してから、今後のことは協議させてください。ただ、女神を騙った連中に対する報復はレオナルド陛下の最期の遺志としても、必ずや我らの手で」


サンパウリーナ大使なのだろう。

まだ若い軍服を着た大使だけど、力強く宣言していた。


メーガンちゃんが、その後に続いて話をしようとしたところで、カスティリオ女王のお母様が、先に口を開いた。


「大使や。レオナルドが亡くなったことを公表するのは、少し遅らせなされ。それはメーガンもさな」


お母様の発言内容が意外だったのだろう。

サンパウリーナ王国大使もラージャスティ王国王女のメーガンちゃんも、怪訝そうな顔をして、その意図を聞いた。


「カスティリオ女王陛下、その理由をお教え頂けますでしょうか?」


「この件がサンパウリーナに伝わる前に、おたくの参謀がラージャスティに侵攻してくるかもしれぬ。もし、そうだとしたら、本件の黒幕の一人はサンパウリーナ王国参謀のガブリエル・サントスということになるでおわす」


「な! そんな馬鹿な! あり得ませぬ!」


サンパウリーナの国の関係者たちがザワザワと反応している。

半分は、あり得ないと首を振り、半分は、やはりなと頷いている。


「そうよねぇ。そもそもガブリエルが同行していない事が怪しいのよ。もし黒幕の一人だとしたら、通信の自動機械を経由して、既にレオナルドが亡くなった事を知っているでしょうね。おそらくラシード・サラーム王が死んだことも。チャンスとばかりにラージャスティに侵攻すると思うわ」


宰相のお祖母様も、お母様の意見に同意した。


「ヴァルデン共和国の首相のアウグスブルクです。ペレイラ大使。もしガブリエル・サントス参謀が軍を動かせるとしたら、どの様な名目が必要ですか? 参謀の命に兵は従いますか?」


ヘルガ首相の問いに答えたのは、サンパウリーナ大使ではなく、護衛隊長だった。


「近衛隊のエドゥアルド・ダ・シルバです。我が国の軍は参謀の命には従いません。国王陛下の命にのみ従います。先ほどの首相閣下のご質問の答えですが、もし参謀の言を受け入れることがあるとしたら、それは『陛下の報復』。報復先を提示させられた時のみです」


メーガンちゃんから、ヒュっと息を飲む音が聞こえた。

マリーパパが鬼のような形相で立ち上がって言った。


「それだろうな。今回の惨劇は全てラージャスティの所為にするのだろう。それを理由にガブリエルが兵を煽る。サンパウリーナ軍は報復の向け先を与えられて侵攻する。それが女神が描いたシナリオだろう」


「ねえ、大使でも近衛隊長でも、どっちでも良いんだけど、レオはどこに埋葬されるの?」


私の質問は、少し唐突過ぎたのかもしれない。

しばらく、間が有った。

答えてくれたのは、近衛隊長だ。


「陛下は……。地元のサン・ミラージュにご自身のお墓を既に建立しております。自分も陛下と同郷で……」


「分かった。今、遺体を持って帰っちゃうと、きっとキモ男の参謀に、良い様に使われるだけだよ。ララがサン・ミラージュに運んであげようか。時を止められるから、遺体も痛まないし……。それに、昨日、レオにサン・ミラージュを訪れるように言われたんだよね。手紙も貰っちゃったし。ララ、レオの故郷を見に行くよ」


「ララ、でも、いつになるか約束出来ないわ」


「もし戦争が起きなければ、ポルト・ド・ソルに早めにお持ちください。陛下が渡した通行証で簡単に通過できるはずです。ただ、ナタリア女王陛下の推測が正しく、戦争が起きた場合には、サン・ミラージュまでお願いします。時が止まっているのであれば、いつでも構いません。陛下の遺志を尊重する方が大事です」


近衛隊長が、そう明言した。

どちらにしても、ララが運んだ方が良いということだろう。

メーガンちゃんが手を挙げて、発言を求めた。

お母様が右手を優雅に指し示して、発言を促す。


「ララちゃん、私の父と母の亡骸もお願い。あと、皆様に確認しておきたいのですが、もし我が国の所為にするのならば、その論拠は何なのでしょうか。我が国の王も王妃も巻き込まれたのです。どの様な論拠なのか……」


「メーガンさん、光の使徒以外に、いなくなった人はいない?」


答えの代わりに、フローレンスが逆に問うた。

彼女の中で光の使徒が犯人一味なのは確定しているのだろう。

ラージャスティの国王陛下の護衛をしていた人から、その返答があった。

護衛隊長なのかもしれない。


「おります。王妃殿下の護衛隊員が行方不明になっています」


「門から外に逃げ出していないか、念のために確認してみたら如何でしょうか?」


「はい。既に確認済みです。事件直後、講堂が大騒ぎになって直ぐに、門から出たそうです。三名で足早に出て行ったそうです。三名とも女性。女性のみの出国なので、門の憲兵も記憶しておりました」


「三名?」


「はい。二人は今回の調印式の随行者です。光の聖女インドラ・アリ。そして、王妃殿下の護衛隊員サニヤ・クマール (Saniya Kumar)。もう一人は巡礼者の恰好をした老婆だったとのことです」


「老婆?」


「老婆です。巡礼者の格好で街に入ったそうです。大きな長い杖をついて、腰を曲げて入って来たそうですが、三名で出国するときは、背筋をピンと伸ばし速足で抜けて行った。長い杖を持っていることから、同一人物なのは間違いないと憲兵は言っておりました」


「ひょっとして、その老婆の正体に、もう当たりを付けています?」


最後の質問はメーガンちゃんがした。


「は。王女殿下。少々言いにくいのですが、おそらく……。我が国の使徒かと……」


サンディヤ・バルガヴァ(Sandhya Bhargava)

欲望の使徒の一人。

二つ名は『暗殺の使徒』。

ラージャスティ、アル・ナジールを中心に周辺国で、要人を暗殺。

女神教の敵を葬ることから、女神の審判とも呼ばれることもあったという。

欲望の使徒ならば、確かに七十近い老婆だと思う。


使徒三人。

まあ、間違いなく、女神の指示で動いているのだろう。

大型の通信自動機械も配備されていた。

環境としても十分だったという訳だ。


「狙撃したのは、間違いなく、ソイツだ」


レオンが横から口を挟んだ。

右手には、空の薬莢を指に挟んで皆に見せている。


「外壁の木の隅に、老婆が身体を預けて休んでいたのを、目撃した人が何名かいた。そして、そこに、この薬莢が落ちていた」


「レオン、見せて」


レオンは薬莢をチャールズに投げる。

キャッチしたチャールズはシゲシゲと眺めた後、言った。


「五十口径。間違いなく、ライフル弾だね」


「ああ。俺もそう思う。老婆が持っていたのは、杖ではない。布に包まれたライフル銃だ」


「メーガンちゃん、護衛隊員サニヤ・クマール (Saniya Kumar)って人と、光の使徒の間に接点はあるの? その暗殺の使徒との接点は不明だと思うけど」


メーガンちゃんは、小首を傾げながら、先ほど返答した護衛隊長らしき人に視線を移した。

護衛隊長も首を振りながら、私の質問に答えた。


「いえ……。接点の有り様がないのです。サニヤは王妃担当なので、ナヴァラトナにいます。王妃が他の街に行くこともありません。光の使徒は今回、初めて辺境の町を出たと言っていましたから……」


「つまり完全に女神からの指示ってことね。使徒だから直接指示が飛ばせる。多分、参謀も含めて四人に指示を出したのでしょうね」


「決まりじゃな。オスカー。ラ・フールにいる十万の兵士をラージャスティの支援に向かわせなされ。サミール、統一街道を通す許可を」


「は!」


中将がカスティリオ女王陛下の命に応じた。

元々、アル・ナジールに侵攻するためにラ・フールに集められていた兵だ。

準備も万端だろう。

ナスルのオジちゃんも、自国の通過と兵站の支援を約束している。


次に参戦を表明したのはサンテール王のマリーパパだ。

それにヴァルデン首相も続いた。


「サンテールもセレニティアに常駐していた戦艦と軍を、そのままサンパウリーナに向かわせよう。何も起きていなかったら、サン・ミラージュでレオナルドの葬儀に参列させるさ」


「ヴァルデンもセレニティア港から出陣しましょう」


「ちょっと待ってください! 我が国が本当に宣戦布告した訳ではありませぬ。未だ仮説ではありませんか!」


各国首脳の判断が早い。

サンパウリーナ大使が、それを懸命に止めていた。

マリーパパとお母様に一蹴されていたけど。


「その通りだ。勘違いするな。わらわは、ラージャスティの支援に向かわせるだけじゃ」

「俺らもだ。サン・ミラージュでレオナルドの葬儀に参列させると言ったろう」


「ペレイラ大使、お言葉ですが、大使が心配なされるのは、そこではございませぬ。セレニカーナ、アル・ナジールはクーデターで滅びました。カスティリオ王国もその危機にあったばかりなのです。手口は全て同じ。軍を掌握した者の暴走です。今回も全く同じ流れで進んでいます。対応が後手に回ると、国が消滅しますよ」


ヴァルデン共和国首相にまで言われて、大使は苦々しい顔をしているが、これは大使の理解力や想像力が足りないと思う。

これでサンパウリーナがラージャスティに侵攻してきたら、本当に国が滅ぶ危機だと思う。

すでに六国同盟は締結済みなのだ。

サンパウリーナ対同盟五か国の戦争になっちゃうのだ。


ん?

周辺国はどう判断するのだろうか。

私は、ふと思ったことを口にした。


「ねぇ。レオが死んじゃって、一番喜ぶのは、どの国?」


「ララ、そりゃ、カサ・デ・アグアだろう。故郷の地を取り戻したいと、切に願っているだろうからな。ん? そういうことか!」


「フィリップと同じタイミングに気づいたのが悔しいの。だが、ララちゃんの言う通りだ。大使よ。やはり公表は控えよ。公表したら北から侵略されるぞえ」


「は。サンテール国王陛下。カスティリオ女王陛下。助力感謝します。参謀に煽られてラージャスティに侵攻したら、攻め滅ぼされるのは我が国ということですね……」


「その通りだ。大使。我が隊は旗艦船で直ぐに帰国しよう。王都ポルト・ド・ソルに怪しげな動きがあれば、すぐにサン・ミラージュに向かう。そこで、連合軍の受け入れを準備する。大使、其方、守る物を間違えてはいかんぞ」


「かしこまりました。エドゥアルド・ダ・シルバ隊長、どうか我が国の民をお願いします」


「俺らサンテールとヴァルデンは、サン・ミラージュを拠点にする。南の島から北に上がる感じとなるだろう。カスティリオ王国は統一街道を東に進む。ララ達はどうする?」


マリーパパが私達に聞いてきた。

私は皆と顔を見合わせた。

私に一任すると言う感じなので、代表して答える。


「まずバハール・シティまで自分たちの船で行く。そこから統一街道でラージャスティに入る。おそらく……、ラージャスティはセレニティアと同じ目に遭うと思う。だから、ララたちはラージャスティの人たちの支援に入る」


「ララちゃんや、わらわにも分かるように教えなさいませ」


「あ、ごめん、お母様。基本的に偽女神は大きな戦争を起こすのが目的だと思うの。街ごと破壊されるような大きな悲劇を求めている。色々悪だくみを画策しているけど、やろうとしていることは、一つ。武の力で文明社会を破壊する。そのために戦争を起こさせる」


「そうね。ララの言う通りだわ。セレニティア、カリブリ港、あとセラーノにもそうしようとしていたわ」


「偽女神は何を狙っているのだ?」


「悲劇を通して、人々が諦めること。高望みしてはいけない。鶏さんの様に鶏舎の中で大人しく過ごしなさい。人の心が折れることを待っている」


私の言葉に、皆が言葉を失った。

唖然、呆然、愕然。

その後には、静かな怒り。


最初に立ち上がったのは、やはりマリーだ。


「絶対! 許さないわ! 今日の事も私は忘れない! 何度でも立ち上がってやる!」


「山猿、さっきまでお祖母様の胸に埋もれてメソメソしていたじゃないか」


「うるせー! チャールズ! いけ! 戦え!」


ピーピー喧嘩し始めた二人を引き離す。

チャールズの服をフローレンスが引っ張り、マリーの視界をジョヴィが立って遮った。


「よし。決まりだな。準備しよう。我らが無事であることを、まずは民に見せつけることにしよう」


マリーパパが立ち上がった。


「お母様、お祖母様、ここからは連れていけない。ラ・フールかアクアリスで待っていて」


「そうじゃの。オスカー・フェルナンデス中将よ。わらわは旗艦船に乗ってラ・フールに戻る。其方は総司令官として軍を率いて、ラージャスティへ入れ」


「は!」


「メーガンちゃん、準備して。行くよ。偽女神にやられる前に、少しでも多くの民を救おう」


「ララ、マリーとジョヴィを連れていけ。何かあった時にお前を救えるのは『時の管理人』だけだ。そして、必ず無事に帰ってこい」


「やった! パパ! ありがとう!」


マリーとジョヴィが二人して抱き合って喜んでいた。

でも、私達としても、いてくれると本当に助かる。

マリーは何かあった時の切り札として。

ジョヴィがいることで、姉の負担も減るだろう。


私は亡くなったレオと、メーガンちゃんの父母のところに行った。


「レオ。ララは、レオが言ってくれた言葉を忘れない。必ずカタキは討つ。だから、もう勝ち負けなんか気にせず、ゆっくりと休んでいてね」


帽子を胸に当てて、私は黙祷した。

仲間たちも、同じように祈る。

メーガンちゃんも、お父様とお母様にお別れの挨拶をしていた。

皆のお別れを待ってから、私は順番に収納した。


その後、私達は、お母様やお祖母様、ナスルのオジちゃんにも、マリーパパや中将のオジちゃんとも別れの挨拶を告げた。

皆が私達の無事を祈り、私達がやり遂げることを信じていてくれた。


皆と別れた後、私達は手分けして、旅の準備を始めた。

姉、レオンは食材の買い出しを。

私以外の残りのメンバーは洋服を買いに行った。

マリー、ジョヴィ、メーガンちゃんは、もう少し動きやすい服が必要だ。

私達と御揃いの服が欲しいとマリーは言ったけど、今回は間に合わない。

既製品で我慢してもらう予定だ。


私は、街の外に出かけて、これから必要と思えるものを大量に空間収納しておいた。

主に土と水だ。

近場の林を丸ごと収納して、百年以上経過させて腐葉土を沢山確保した。

川の水も大量にゲットしておく。

未だヴァルデンの大河でゲットした綺麗な水も、まだ、沢山あるけど、水はあればあるだけ役立つと思う。


その後、皆と再合流して一番最初にやったのは、空間畑の拡張だ。

確保した土を全て使って、畑を拡張した。

ジャガイモ、サツマイモ、ミレット、ソルガム、大麦、小麦。

それ以外の野菜も、四期から五期分、育てて収穫した。

これらは種としてだけでなく、困窮した人たちに与えるための物だ。

そう言ったら、全員が頑張ってくれたよ。

土だらけになって、泥だらけになって、汗だくになって、農作業を皆でこなした。


「最高よ! こういうことなのよ! 私がやりたかったのは!」


マリーはぺったんこな胸を突き出すように主張した。

確かにマリーは豪華な王宮よりも、お日様の下で畑仕事する方が似合っている。

ジョヴィは逆に辛そうだったけど。

フローレンスと同じインドア派だろうし。


メーガンちゃんは、姉と一緒に薬草の栽培と収穫もやっていた。

あっちは知識と技術が必要な領域だ。

メーガンちゃんも頭が良いのだろう。

すぐに覚えることが出来たようだった。

何百万Gする薬草だとは、きっと知らないと思うけどね。


マリー、ジョヴィ、メーガンちゃんは、書庫内にあるゲストルームを割り当てた。

お風呂は女子エリアを使うことになる。

ジョヴィが来たことで、家事はジョヴィが中心に回すことになった。

姉から色々な料理を教わりたいそうで、キッチンには基本的に二人が立つことになった。

メーガンちゃんも女子力高めみたいで、姉の弟子二号として、ジョヴィと一緒になって、色々教わっている。


女子力コンテスト単独断トツ最下位のフローレンスに、活躍の場を与えるべく、私は気になっていたことを相談することにした。

出発前の最後の夜の日のことだ。

チャールズ、レオン、フローレンス、そして私。

議題は、私達が殺された日、敵が一体何をしたのか、ということだ。


フローレンスは正解に辿り着いていると思うので、ストレートに聞いてみた。

どうやって、私の結界は破られたのか、と。


「うーん。正直に言うと分からない。あれから、書庫で幾つか調べたのだけど、まだ確証はないのよ」


「そうなんだ。でも、仮説はあるの?」


「あるし、トリガーが光魔法だと言うことは分かっているから、別に科学的な証明が必要な訳じゃないのよ。片手間に考えるわ」


「フローレンス、仮説で良いから、僕にも教えてよ」


「説明が難しいのよ。簡単に言うと『相転移』ね」


「うん、ララには全然わからない」


「この世界を水に例えましょう。水がいっぱいある。ララの結界はその水を強力な魔力で『固定』しているのよ。ガチガチに固めた状態にしている」


「うん」


「そこに『引き金(トリガー)』を打ち込むと、『氷(固定された空間)』が一瞬で『水』に強制的に状態変化させられてしまう。これが『相転移』ね」


「そのトリガーが光魔法?」


「そうよ。おそらく、何秒か当て続けないと状態変化は起こせないはずよ」


「フローレンス、光でそんなことが出来るのかい?」


「うん。そこが未だ確信が持てないところ。おそらく『空間の真空崩壊』だと思うのよね」


フローレンスの難しい説明を、チャールズが簡単な言葉で整理することで、何となくだが理解できてきた。


通常の空間は、様々な周波数を持ち、常に微細に振動している。

その振動があるからこそ、空間内は伝達できるのだ。

でも、空間結界はその振動を『一定に固定』している。


結界内の空間を極端に固定させすぎると、周囲の不安定な空間との間に『偽の真空(ゆらぎ)』状態が生じる。

その結界の固有振動数に対して、『共振』を引き起こすような特定の光の点滅を送り続ける。

そうすると、これが空間の『ゆらぎ』を増幅させ、臨界点を超えた瞬間に空間の性質が『安定』から『暴走(転移)』へと切り替わる。

つまり、結界が相転移して『割れる』のだ。


「よくわからないけど、あの光魔法は微妙に点滅していて、結界に揺らぎを作って割ることが出来ると言うことなのね」


「そう。知っておけば良いのは、原理じゃないのよ。あの光魔法に何秒間か照射されたら、結界は壊されるということだけ」


「ララ、俺も気になっていたことがあるけど、言って良いか?」


「うん。レオン、どした?」


「結界は通常見えない。そして透明化魔法をかければ、結界の中も見えなくなる。そうだったよな?」


「うん」


「たぶん、敵から結界は見えるようになっていると思う」


それは私も気になっていた。

サンパウリーナの旗艦船に向かう時に、透明化していた私達を、あの空飛ぶ自動機械は捕捉していた。

レオンも、あの時、見えているみたいだ、と叫んでいた。


「それは僕、調べたよ。これだと思う」


チャールズがソファテーブルに積み上がった本から、一冊抜き出して見せてきた。

武器に関する本だった。

色々な武器や防具、装備品のカタログか事典だ。


「この多波長センサーってのを搭載したスコープだと思う」


チャールズも、ライフル銃を構えた暗殺の婆さんが、どうやって結界が壊れたことを知ったのかが気になっていたそうだ。

結界は見えない。

光魔法で壊したとしても、あるかないかも、普通は分からないのだ。

でも、暗殺の婆さんは壊れた瞬間に狙撃を始めた。

つまり、結界が見えていたのだろうと。


「透明化魔法は特定の波長、つまり可視光を屈折させている魔法だ。でも、全ての波長に対して完全という訳ではない。だから、可視光、赤外線、レーダー波とか異なる波長を同時に検出できる多波長センサーをライフルのスコープに搭載していたと思うんだ」


「チャック、あの空飛ぶ自動機械にもか?」


「おそらくは。ララちゃん対策でバージョンアップさせたのだろう」


「つまり。走るしかないということだ」


「ん? ララちゃん?」


「透明化魔法で隠れて進むのは意味がない。お馬さんは狙撃されたら死んじゃうから使えない。光魔法は何秒か連続照射されなければ良い。つまり。走る」


「これ?」


チャールズが、腕を曲げて、前後に振った。

走る動作だ。


「そう。それ。レオンやレナさんは走って移動しているって言ってた。ララ達も出来る。はず」


フローレンスが露骨に顔を顰めて首を振った。

レオンとチャールズは苦笑している。

私は早速、ピアノを弾いているマリーのところや、料理中の姉達のところに言って宣言をした。

私達は走るパーティになるのだ、と。


マリーは、「私はそー言うの好きよ!」と満面の笑みを見せて、姉とメーガンちゃんは苦笑いした。

「あらあら」

「まあまあ」

とカスティリオ王国のお母様とお祖母様みたいな反応だった。

幼い子が頑張ってるわね、的な感じだ。


違う。

走り、戦い、チャレンジするのだ。

終末の使徒パーティ、エッジ・シーカーの三大原則を、私は今、ここに、高らかに宣言した。


世界地図

挿絵(By みてみん)

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