合意と決裂と妥協と
お昼を超えても、姉も、お母様もお祖母様も戻ってこなかった。
私たちは、空間収納からフルーツを出して、それをムシャムシャ食べて空腹を満たした。
皆が返って来たのは、夕方近くになってからだ。
凄く疲弊した顔で帰って来たことからも、大変な話し合いが行われたのだろうということは、私にも想像が付いた。
ごめんなさい、と私は心の中で深く謝る。
もう少し上手な交渉の仕方、上手な会話の仕方があったのかもしれない。
でも、そういうのは、正直私には分からないんだよ。
苦手だし。
お母様とお祖母様は、音楽エリアに行って、荒んだ心を整えるように音を奏でていた。
中将も、それに同行したのか、それとも自分は読書なのか、書庫の中に入っていった。
姉はすぐにキッチンに向かって、夕ご飯の準備を始める。
「うう……。何も言ってくれないことが、逆に辛いよ」
私はフローレンスとチャールズに零した。
二人とも、私と一緒にソファで本を読んで寛いでいる。
フローレンスは医学の臨床の本を読んでいるし、チャールズは難しそうな機械関係の本だ。
「まあ、好転はしていないのでしょうね。三人の様子を見る限りは」
「僕、レオンから聞いてみるよ。アイツがどれだけ理解しているか知らないけど」
チャールズは姉の護衛に付いていたレオンから状況を聞いてくると言って、男子エリアに向かった。
レオンは自室かお風呂だと思う。
「ララが気にすることじゃないわ。各国の外交交渉だもの。元々仲悪かった国同士の外交交渉なんだから、上手くいく方が奇跡なのよ。ララ、放っておきなさい」
「うん。でも、ララが足を引っ張ったと思う」
「逆よ。ララが事態を好転させたんじゃないの。ここまで頑張ったんだから、後は大人が頑張れって事よ。何でもかんでも出来るスーパーウーマンだと思われるのも困るわ」
サバサバっと、フローレンスは割り切った。
爽やかな笑顔を浮かべて、冷たく突き放した感じだ。
フローレンスらしいと思う。
私はフローレンスに抱きついて、その胸にすりすりした。
しばらくすると、チャールズが戻ってきて、共有してくれた。
レオンはお風呂にいたらしい。
のんびりと浸かっていたところを突入して聞き出してきたそうだ。
「簡単にまとめると、同盟の条件を変えようと主張するカスティリオ王国、イフヤ共和国側と、あくまで軍事同盟にこだわるサンパウリーナ王国との協議だったみたいだね」
「チャック、同盟の条件の何が変わるの?」
「終末の使徒パーティの扱い」
「えー、ララ、別に求めていない」
軍事同盟だけ結べば十分だと思う。
私達は自分達で何とかすると思うし、そもそも同盟なんて、最初は軍事同盟から開始するべきだ。
「チャック、扱いって、具体的に言うと何だってレオンは言っていた?」
フローレンスはもう少し具体的なことを知りたがった。
「レオンも、ちゃんと理解している感じはしなかったから、僕の推測も少し入っちゃうけど、カスティリオ王国、イフヤ共和国側は積極的な支援と協働まで踏み込んで求めている。サンパウリーナ王国は、その話は切り離して協議だと応じない」
「まあ、そうよね。あの感じじゃ、絶対に折り合わないわ」
「お母様は、終末の使徒パーティとサンパウリーナ王国が戦闘になった場合は、カスティリオ王国はサンパウリーナ王国に宣戦布告するとまで言ったらしいよ。流石にナスル元首が諫めたらしいけど」
そりゃ、そうだと思う。
ナスルのオジちゃん、ナイスである。
お母様は言い過ぎだし、やり過ぎだ。
そんな簡単に戦争を起こしちゃダメだと思うよ。
「ナスル元首が、最低限、国内通行の安全保障を求めたいと要求して、そこで本日は終了という訳だ」
「チャック、随分簡単にまとめてくれたけど、それだけで夕方までかかった訳じゃないよね? 他にも話はあったの?」
「いや、罵詈雑言が飛び交う嫌みと暴言の応酬で、中々前に進まなかったとレオンは言っていたよ。護衛としては、いつサンパウリーナ王が激高して、大剣を抜くかを集中して見ていたから、議論は余り頭に入っていないと」
うう。
お母様とお祖母様が、綺麗な言葉で中傷している姿が目に浮かぶ。
マリーパパよ、早よ来ておくれ。
夕食もお風呂の時も、大人たちは、私に何も教えてくれなかった。
全然関係のない話を、皆で楽しそうにしているだけだ。
何となく気を遣われているようで胸が痛む。
次の日は姉だけが、外に出て行き、お母様とお祖母様は部屋に残った。
その次の日に、ついにサンテール王国とヴァルデン共和国の船が到着したと聞いて、私はホッと息をついた。
マリーとマリーパパ、ジョヴィ、テオドール隊長が空間部屋にやってきた時、ついマリーに抱き着いて泣きじゃくってしまった。
これじゃ、まるで子供の様だと思ったけど、それくらいホッとしたのだ。
「ララ! どうしたの! イヤなことがあったのね! 私に任せなさい!」
マリーに抱き着いて泣いちゃったけど、マリーを頼っている訳ではない。
マリーパパのことを待っていたのだ。
そのマリーパパは、眉間に皺を寄せていた。
「おいおい、着いた早々になんだ?」
「フィリップよ。わらわ達から現状を共有しよう。奥のテーブルに来るが良い」
「そうねぇ。あの乱暴者に最も近い粗忽者はフィリップでしょうからね。しょうがないから頼るわ」
中将のオジちゃんが、書庫の扉を開けて、奥へと誘った。
音楽室の向こう側は、前に使っていたダイニングテーブルが置いてある。
そこで話すのだろう。
テオドール隊長も付いていった。
「ララ、私も聞いてくるわ! ちょっと待っていて!」
マリーまでもが、ドレスの裾を持ち上げて走って行ってしまった。
私は、ジョヴィとフローレンスに挟まれて、ソファに座らされた。
ジョヴィが、道中の面白話を話してくれる。
チャールズが、フローレンスが、レオンまでもが、その話を広げ、気を紛らわせてくれた。
「何よ! 戦争よ! 戦争! パパ! 行きなさい! 愚か者を滅ぼすのよ!」
そんな大声が、壁の向こうの方から聞こえた。
つい私は笑ってしまった。
リビングルームのソファに座る仲間たちからも、苦笑が漏れる。
「あの山猿……、話し合いの邪魔なだけじゃないかな」
チャールズが言った言葉が合っていたのか、マリーが我慢できなかったのかは分からない。
しばらくすると、マリーだけがリビングルームに戻って来た。
足をドンドンと床に叩きつけて歩く音がする。
これは、マリーが怒っている時の歩き方だ。
「ララ! 気にすることはないわ! まっっっっっったく、無いわ!」
「山猿、声がデカいんだよ。王女だろ。もっと上品に話せ。お母様を見習え」
「お母様も私と同じくらい怒っているわ! 一緒よ!」
「だから、それを、どう表に出すかの違いって言ってんだよ」
「黙れ! ゴリラ! ゴリラが付いていながら、何よ。一発ぶちかましてやればいいのよ!」
いつものチャールズ対マリーのバトルが始まった。
でも、すぐにジョヴィが間に入る。
彼女なりの精一杯の大きな声で間に入った。
「ねえ! 私、面白いのを持ってきたの! これ、知っているでしょ!」
ジョヴィが鞄から何かを取り出して見せた。
偉い。
この子は本当に良い子だと感心した。
「そうよ! これよ! 私とジョヴィで見つけたのよ!」
「トランプ!」
「うわ、この世界にもあるんだ」
「懐かしいな」
「やっぱ、みんな知っているんだね。良かった。マリーとね、話していたんだけど、選ばれし使徒ならば覚えているんじゃないかって」
ジョヴィが取り出したのは、カードゲームのトランプだ。
四つのマークに十三までの数字。
でも、本当に面白かったのは、ここからだ。
ジョヴィだけが呼び名が違うのだ。
私、マリー、フローレンス、チャールズ、レオンの五人は『Trump』と呼んだ。
ジョヴィは『Playing Cards』と。
また、『Carte da gioco』というセレニカーナ古語も頭に浮かんだと言う。
カードゲーム、という意味だそうだ。
「へぇ、ジョヴィ、ナイスだよ。凄く面白い話だ」
「ありがとう、ララ。でもね、まだ続きがあるんだ。この四つのマークなんだけどね、どんな意味?」
ジョヴィは四枚のカードを抜いて、テーブルに並べた。
四つの異なるマークのカードだ。
私は普通にそれを伝えた。
ハート、クラブ、ダイヤ、スペードだと。
「ふふ。やっぱりマリーと一緒なんだね。私はね『聖杯、棍棒、貨幣、剣』なんだ。これって、前世で住んでいた国が違うってことだと思わない? 多分、マリー達は同じ国の出身なんじゃないかな」
私はフローレンス、レオン、チャールズの顔を見る。
みんな、私と同じ呼び方をしているようだ。
「でも……、みな、顔が……、異なる民族だよね……?」
「そうね。私は明らかに西北方民族の顔だし、マリーとレオンは東方。チャックとララは、その間の子みたいな感じだよね。前世が同じ国とは思えないわ」
フローレンスは明らかにそうだ。
サンテール王国というよりも、カウニア連邦の人たちと似た様な民族だと思う。
綺麗な金髪と白い肌、青い瞳。
姉と一緒だと思う。
見た目も姉妹だし。
そうだ。
先日思ったことを皆にも話そうと考えていたのだ。
私はリビングルームの棚から、紙とペンを複数取り出して、テーブルに置いた。
「ねぇ、この間、思ったことがあったの。『マリ・サイオンジ(Mari Saionji)』。私、何処かの国の古語が思い浮かんだの。マリー、フローレンス、チャールズ、レオンなら同じ言葉を書けるかも知れないと思ったのだけど 」
「あ! ララ! 分かる! 私も思ったの!」
四人が紙とペンを持って、何かを書き始めた。
私も書く。
皆が書き終わったところで、一斉にテーブルに並べて見せた。
『西園寺真理』
『西園寺真里』
『西園寺真理』
『さいおんじまり』
『サイオンジマリ』
「あれ? 何か違う?」
「いや、ララ、でも、これ全部読めるわ。同じ意味よ」
うーんと悩んでいる時に、書斎に繋がるドアが開いて、姉とマリーパパ、テオドール隊長が出てきた。
そのまま、ちょっと出てくると言って、三人で出掛けて行った。
多分、あの王様に会いに行くのだろう。
「ねぇ、『ババ抜き』やろう!」
「お、マリー良いね。やろう」
ジョヴィが知っているルールとは、少しだけ違うが、私達ルールで押し切る。
呼び方も少し違った。『Old Maid』とジョヴィは呼んでいた。
その辺も先ほどと同じ、転生前の記憶の差異だ。
その後、ポーカーや大富豪を皆で夢中になって楽しんだ。
一番盛り上がったのは、大富豪だ。
『革命』や『八切り』など、知っているルールが個々に違うのも楽しい。
最終的には一番負けたマリーから、一番勝ったフローレンスが今日のデザートを奪う権利を得て夕食になった。
思いがけず夢中になってしまった。
でも、持つべきものは同じ歳の仲間だと、私は心底感じたよ。
ずっと胸にあったモヤモヤが晴れた気もした。
※
「ララ。心配するな! キチンと合意してきたぞ!」
夕食の席で、マリーパパが、豪快に笑いながら教えてくれた。
今日はナスルのオジちゃんも、ヴァルデン共和国の首相も一緒に、教会の最上階で食事を取った。
これまでの経緯をヴァルデン共和国の首相にも説明しつつ、マリーパパが今日のサンパウリーナ王との交渉の結果を教えてくれたのだ。
「マリーパパ、どう合意したの?」
「ああ。軍事同盟は当然だ。問題はララ達の扱いだな。エッジ・シーカーとサンパウリーナが敵対すれば、軍事同盟は事実上、御破算になる。サンテール、ヴァルデン、イフヤ、カスティリオが許さないからな」
いつの間にか、ヴァルデンまで、それに同調すると決めつけられちゃっているよ。
首相の顔を見ると、少し苦笑した後、私の顔を見て小さく頷いた。
「だから、今回の同盟にララ達の扱いの件も合意条件に含めることになった」
「なるほど。でも、あの王様はララの味方にならないって言っていたよ」
「いや、違うな。アイツは『気に入らない』と言っているだけだ。アイツはな。自分が一番強くないと、えっと、つまり、自分より強い奴が現れると、いつも、そう言うのだ。『気に入らない』と。ララがやっつけちゃったんだろ? だから、『気に入らない』のは当然だ」
「えー、子供かよ」
「わはは! そうなんだ! ガキなんだ! アイツは本当にガキだ!」
「わらわからすれば、フィリップもレオナルドも同じ人種さな」
「そうよぉ。大人になりきれなかった子供ね」
「うるせー。女には分からないロマンを追いかけているんだ!」
「マリーパパ、じゃあ、何を合意したの?」
「終末の使徒パーティの国内通行許可だな。積極的に助ける必要はない。最低限、邪魔をしない。それを着地とした」
「なるほど……」
「パパ、何て言ったの?」
「アンヌ=マリー、簡単なことだ。『この世界最強の女神との戦いを、俺たち最後の戦にしようぜ』って言っただけだ」
「くだらぬ。まったく、くだらぬ」
女王のお母様に一刀両断されていたけど、まあ効果的な説得だと思う。
一番強敵に目を向けさせれば良いってことだ。
私も最初から、頭を下げて、協力を依頼すれば、すんなり行ったのだろうと思う。
交渉下手なのだろう。
むしろ、私が一番お子ちゃまなのだ。
「フィリップ。わらわに教えよ。ガブリエルが同行していない理由は何故かえ?」
お母様がマリーパパに質問をする。
ガブリエルって誰だっけなと思ったが、フローレンスの顔を見て思い出した。
口パクで、『キモ男』と言っている。
サンパウリーナの参謀とか言われているヤツだ。
「ああ。お前らに言われたから、ちゃんと聞いてきたぞ。レオナルドも困っていたな。ガブリエルは完全に女神の手に落ちている」
「うぇ」
「何よ! それ! バカじゃないの!」
私の口からは呻き声が、マリーからはストレートな罵倒が漏れた。
でも、仲間たちも凄く嫌な顔をしている。
お母様も汚物でも見ている様な顔をしていたよ。
「どうも、ガブリエルがこれまで草案した戦略も、女神の御神託があったらしい。レオナルドには、自分が全て考えた顔をしていたみたいだがな。ガブリエルとしては、御神託に従っていれば、自分たちは勝ち続けられるのだ。レオナルドにも、そう言ったらしいぞ」
マリーパパの話を聞く限り、今回も女神の神託はあったらしい。
ラージャスティの地を更地にせよ。
裏切りの国イフヤ共和国を落とせ。
サンテール、ヴァルデン、カスティリオの三国を攻めよ。
具体的な時期の指定すら合ったらしい。
「レオナルドも久しぶりに自身に御神託があったと言っていた。『終末の使徒にすら、其方は勝利するであろう』とな」
「フィリップよ。そんな危険な思想を持つ男を自国に置いてきたのか? レオナルドは馬鹿かえ」
「ん? ナタリア? どういう意味だ?」
マリーパパはキョトンとした顔をしているけど、この場にいる全員が気付いたよ。
特にナスルのオジちゃんや、女王のお母様、宰相のお祖母様は当たり前だ。
自分がやられたことだからだ。
「マリーパパ、クーデータだよ」
「なっ……。いや……、ないだろう……。流石にない。レオナルド抜きに兵士達がガブリエルに従うことなどありえん。アイツは、嫌われ者だぞ」
「そうよぉ。嫌われているだけではないわ。忌み嫌われているのよ。気持ち悪いのだもの。でも、その辺も女神が何か作戦を授けたのかもしれないわねぇ」
※
翌日、ラージャスティの国王夫妻が到着したとのことで、私達も全員で挨拶に赴いた。
噂通りのニコニコ笑顔の感じの良い夫妻だった。
それに、国王夫妻の跡取り娘の王女まで同行していた。
国王ラフール・ナイアール (Rahul Nair)
王妃カリシュマ・ナイアール (Karishma Nair)
王女メーガン・ナイアール(Megan Nair)
ラフール国王は、十王の一人だ。
ラルナー教の中にも沢山の分派があり、ラージャスティは分派同士の争いが激しかったそうだ。
このニコニコ国王は、いずれの分派にも肩入れすることなく、女神様だけを尊ぶ、その一心だけで全てを自身の元に集めた。
ニコニコしているけど、実は交渉上手なのかもしれない。
彼の加護は『友愛』。
誰も裁かず、誰も罰せず、皆が幸せになることだけを求めている賢王とラージャスティでは言われている。
カスティリオ王国の女王のお母様や、宰相のお祖母様からすると、民の困窮に手を差し伸べない愚か者に過ぎないらしいのだが。
王妃は前評判通り、美しい人だった。
『サリー』と呼ばれる女性の伝統的な衣装をまとっている。
縫い目のない一枚布、しかも凄く長い布を、アンダースカートと短いブラウス、『チョリ』と呼ぶらしい、その上から巻きつけて着ている。
その布が煌びやかで、豪奢な印象を与えている。
メーガン王女は可愛らしいサルワールカミーズだ。
パンジャビドレスと呼んだ方が良いかもしれない。
ゆったりとしたズボンの『サルワール』と、長めのシャツ『カミーズ』のセットの組み合わせ。
『ドゥパッタ』という大きなスカーフを頭から覆っている。
ピンク色なのが、彼女の女の子っぽさを増している。
「これはこれは。お話は伺っておりますぞ。ナスル大司教を救ってくださった大恩人だとか。この世界の全ての争いを平定してくれる聖女の様な方だとか」
「ララ様は豊作の恵みをお持ちだと伺っております。どうかラージャスティにも加護を頂けますと助かります」
ニコニコ国王と王妃には丁寧に挨拶された。
王女様はさらに感じの良い人だ。
確かに噂通り、美形、爽やか、知性、その全てが揃っている感じがした。
「メーガンちゃんって呼んでもいい? ララの事はララって呼んで」
「勿論ですよ。じゃあ、私はララちゃんって呼ぶわね」
「うん。アス姉に感じが似ている。同じ歳だよね?」
「そうよ。アストリッド様とは同じ歳。さきほど挨拶して御友達になったわ」
良かった。
姉にも同期の仲間は必要だと思っていた。
ラージャスティの次期女王陛下なら、姉にもピッタリだと思う。
「メーガンちゃんも使徒?」
「そうなのよ」
チラっと左手の甲を見せてくれる。
『LVI』と刺青の様な彫り物があった。
おっと、ナンバーまで姉に近いじゃないか。
「凄いね。アス姉、運命の出会いだよ。五十四番。アス姉と一つ違いだ」
この場の進行を仕切っていた姉に声をかけると、こちらにやってきて、互いの手の甲を見せあっていた。
私は彫り物の意味をメーガンちゃんにも説明する。
二人で手を取り合って喜んでいたよ。
人種は違えど、美人二人が微笑ましい。
「ララ様、使徒と言えば、ご紹介したい者がおるのです。ララ様方と同じく『選ばれし使徒』。我が国の『光の聖女』です」
そんなラージャスティ国王の言葉に皆が反応した。
選ばれし使徒?
仲間たちの視線が全てこちらに集まった。
サンテール王の近くにいたマリーも、その言葉を聞きつけて、トコトコとこちらに向けて歩いて来た。
王妃が壁際に控えていた女の子に声をかける。
護衛と一緒にいることから、侍女だと思っていたよ。
モノトーンのサリーで全身を纏った少女。
額には黄色のピンディ。
小さめの宝石が埋め込まれていた。
あれって、独身でも付けるものだっけなと一瞬考えた。
「インドラ・アリ (Indra Ali)です。お会いできて光栄です。終末の使徒」
中東の特有の目鼻立ちの濃い顔。
痩せているからか、全身から鋭さを感じさせる。
中でも、目が怖かった。
ギュっと胃袋が捕まれたような感じがした。
「アリさんは、光魔法の使い手さん?」
「はい。本当に世界を明るくするだけの力ですが」
部屋を明るく灯すとか、
暗い道を懐中電灯みたいに明るくできるとかではなくて、
『世界を明るくする』
そう言った。
壮大な思想の持主なのか、志高く懸命に背伸びしたいのか、ちょっと分からない。
私が返答するタイミングを逃してしまったからか、会話が止まってしまった。
マリーが一歩前に出て、何かを言おうとした時、光魔法の使徒が聞いてきた。
そのセリフで、マリーの足が止まる。
前に踏み出した足が、中途半端な位置に下ろされた。
「女神様を裏切った。その自覚は、おありなのですよね?」
私はさらに言葉に詰まる。
その様子を見て、チャールズが横から出て来た。
「アリ様、僕らは裏切ったつもりは特にございません。裏切る前提となる信頼も約束も、何もございませんから」
チャールズが矢面に立つことを引き受けてくれたみたいだ。
私の服が背中の位置で引っ張られた。
多分、フローレンスが、それとなく下がれと言っているのだろう。
「命も、加護も貰っておきながら、『何もない』と?」
「命はさておき……、人類だけじゃなくて全ての生物の根源ですからね。それを一人の神の所業と考えるのは科学的ではありません。また、加護に関しても同様です。我々は、自分が持つ能力が、元々身に着けていた能力だったということを知っております。それを証明することも出来ます。加護というのは間違いです」
私の空間部屋を知っていれば、女神に与えられた力ではないと誰もが分かる。
でも、サンパウリーナの王様みたいに、加護として女神に与えてもらったと信じている人は、使徒の中にも多い。
そう思わせられている。
そういう事なんだと思う。
「皆様のことは理解しました。残念です」
そう言って、光の使徒は自分から壁際に戻っていった。
こりゃ、仲良くはなれなさそうだな。
私は展開していた魔力を使って、光の使徒の頭の中から、自動機械だけ除去しておいた。
もう二度と話すこともないかもしれないのだ。
本人の了承は不要だろう。
言っても信じるタイプでもないだろうし。
私は楽しそうに話している姉とメーガン王女をチラっと見た。
ラージャスティの王女と仲良くなれたのだ。
選ばれし使徒と上手く行かなくても良しとしよう。
全員と仲良くなれる訳ではないのだ。
そう思って、一つ溜息をついた。




