イフヤ共和国首都カリーム・アーバに戻る
「イヤッホー!」
舵を握るチャールズが大声で叫んだ。
高速船を体験してみたく、姉と私とレオンは操舵室に出てきていた。
フローレンスも、お母様とお祖母様も、空間部屋でぬくぬくとしている。
自動機械の高速船を簡単に表現すると、中型の三十フィートクラスのクルーザーだ。
ある程度広いキャビン、機能的なキッチン、バスルームも付いている。
勿論、私達には不要な設備だが。
インテリアデザインの質も高く、レザー仕立てのソファは高級感があるし、
屋根部分には開放的なデッキスペースを持ち、海風や太陽を直接感じられる。
もちろん、全天候型の設計なので、悪天候でも船内にいれば良い。
流線型のデザインは如何にも速そうだし、風を切るようなスタイリッシュな外観は素敵だ。
実際に速度も速い。
時速六十マイルと言っていたので、帆船の三倍近い速度だろう。
チャールズが叫びたくなるのも分かる。
「ねえ、チャールズ、海上航路って、どこまで安全になったの? イフヤ共和国の領海まで?」
「うん……。そこだよね、ララちゃん。女神の空の攻撃には、僕らの位置を捕捉する監視の自動機械が必要。監視の自動機械の活動範囲がハッキリとしないけど、少なくとも都市の通信機械の範囲外である必要がある。つまり……。絶対に安全なのは、イフヤ共和国の東端の都市バハール・シティまでだね」
「まあ、そうだよね。そこから先は陸地か……。最悪攻撃されたとしても、速度優先で海を走るか」
「僕、このサザンオールスターズ号が沈没したら、本気で泣く」
「チャック、変な名前つけないで。どこかで聞いたことがある感じがするし、ちょっとオジさんっぽくてイヤ」
「もう名前つけちゃったし、横にも書いちゃったもん」
「あ、あの『SAS』って、そういう意味か。百歩譲っても『SAS号』ね」
「うう……。いいんだ。僕だけがフルネームで愛するから」
「ねえ、チャールズ、監視の自動機械に捕捉されたくないのなら、海岸線から離れて遠いところを進めば良いのではなくて?」
「アス姉さん、分かるよ。言っていることは、分かる。でも、この世界の船の航海技術は羅針盤、星の位置、海岸の地形の読み取りの三点セットなんだ。それが一つでも欠けて、全然違うところに行っちゃうのが怖いんだよね」
「羅針盤だけじゃダメなんだ」
「うん。羅針盤は方位を示すだけであり、正確な位置情報を提供することはできないんだよね。船の位置を特定するためには、他の情報、例えば、航海時間や速度と組み合わせる必要もあるし、速度を測る機器もないからね。いずれも中途半端だ」
「なるほど。そうなると、やっぱりラージャスティからは陸路なのね」
「うん、そうだね。それか、ララちゃんの結界をバージョンアップさせるかだね」
「ララの結界のバージョンアップって?」
「結界で船全体を囲んだままだと、船が前に進まない。船の推進力が結界に伝わらないからね。結界の中で走るだけになってしまう。でも、囲う以外には、空からの攻撃に耐える結界が作れない……。僕も色々考えたんだけどね。三角形、ハニカム構造、ドーム状。形状を変えても意味がないんだよね」
「チャック、ララ、宙に盾を浮かせておくのはどうだ? 盾の形状を、チャックが言った三角にしておけば、空からの攻撃の角度を変えられるとかないか?」
「おー、レオン、良い案だ。でも強度計算がムズイね」
「大きな三角の結界を宙に浮かばせておく。サザンオールスターズ号の真上にね。攻撃されたら結界が下方に押される。そしたら、船が潰されちゃうよね。結界が衝撃を受けたら、角度だけ変えて、結界は解除する。そんなこと、ララちゃんできる?」
「出来なくはない。ただ練習が必要」
「そうだね。陸地で練習だね」
私は先日、中将と一緒にオリベイラの離宮に入った時のことを思い出した。
周囲に空間ボールを出しておくのは良い方法だった。
矢も守れるし、あの空を飛ぶ蜘蛛型自動機械の機関銃掃射からも守れるだろう。
何よりも一緒に移動できるというのが有難い。
「アス姉に聞くまでもなく、ララには良い予感がしない。あの雲がさらなる危機の予感を感じさせる」
「ふふ。わたしもずっと思っているわ。何が起きるのだろうか、何が嫌な感じなのだろうかと、一生懸命に考えている」
「俺はサンテール王たちの話を聞いていただけだが、ラージャスティよりもサンパウリーナの方が嫌な感じがした。本当に信頼して良いのか疑わしい」
「マジで? 僕にとっては、逆が良かったな。ぶっちゃけ、ラージャスティだけが敵ならば、リスクを負ってでも海で逃げることが出来る。でも、サンパウリーナは超海軍大国だ。あのサンパウリーナ海峡を抜けるのは相当難儀だよ」
「レオンはどして嫌な感じがしたの?」
「ああ、ガブリエル・サントスだ。お母様とお祖母様が、あんなに嫌いになるということは、本当に信じるに値しない男なのだと思う」
「誰だっけ?」
「ララ、参謀よ。サンパウリーナ王国の知性の十使徒」
「ああ、キモ男か」
「キモ男って、ララちゃん、会った事ないでしょ?」
「ははは。いや、ララが言っているんじゃないんだよ、チャック。お祖母様が言っていたんだよ。キモ男って」
「うん、レオンに言われて、わたしも分かったわ。嫌な予感は全て、そこから始まっている」
「アス姉が言うのなら間違いない。じゃあ、警戒する対象は、サンパウリーナだね」
姉とレオンはシッカリと頷いた。
チャールズは、物凄く嫌な顔をする。
あの天に登る黒い雲が、全てキモ男が起こしていることならば、打ち払うまでだ。
何が起きるのが分からないことが一番怖い。
敵が誰なのか分からないのは、一番嫌だ。
※
朝方出発して、夕方には到着した。
馬車だと十日かかる。
ほぼ一割の日程で来れたということだ。
マジで高速船最高である。
カリーム・アーバの港のど真ん中に停めて、そのまま空間収納にしまった。
私達の高速船は、ここに置いておく必要はない。
いつでも取り出せるようにしておいた方が良い。
カスティリオ王国の三人組、女王、宰相、中将は、空間部屋に残した。
私達は五人で、お馬さんに乗って、港の市場を抜けて、広場へ続く道を進む。
凄く久しぶりの感覚がするけど、前回この街を出発したのは、五月だった思う。
半年も前ではないのだ。
久しぶりに思うのは、多分、この数か月が物凄く濃厚だったからだと思う。
殆どが雪山での日々だったはずだけど、強く記憶に残っているのは不思議と街の中の出来事だ。
特に、お母様とお祖母様と一緒に過ごした日々が、何よりも素敵だった。
「あ、教会が完成しているわ。素敵な教会ね」
「あら、ほんとだ。ナスルのオジちゃんっぽい教会だね」
アル・ナジールと言えば、金色のドーム状の塔を持つ教会だ。
でも、新しい教会は地味だけど、荘厳かつ厳格な印象を受けた。
大きな正方形の建物の上に、小さな正方形の建物が乗っている。
既に公開されているのだろう。
多くの信者さんが、一階に出入りしていた。
「ちょっと見て行こうよ」
チャールズの誘いに応じて、広場を抜けて、教会の横の馬繋場で馬を降りる。
一階部分の天井は高い。
一階全部が女神の講堂と同じような天井の高さをしているらしかった。
「あら、女神像の講堂が一階の全てを占めているんだね」
「そうね……。しかも、全面公開。扉も開けっ放し。多くの人が同時に参拝する。開かれた教会を作りたかったのね」
私達は一階の講堂に足を踏み入れた。
あの細長い講堂ではない。
沢山の人たちが入れる講堂だ。
綺麗なステンドガラスも、豪華な絨毯もない。
ただ、フローリングの床があり、
ただ、大きな窓ガラスが、はまっているだけの明るい空間だ。
女神像は少し高い壇上、講堂の一番奥に置いてある。
そこに、沢山の人が額を床に押し付けて参拝していた。
「ここの女神像が、結果的に一番幸せそうに見える」
講堂の案内役として、壁際に立っていたシスターに、チャールズが何やら声をかけていた。
しばらく待っていると戻ってきて、私達に告げた。
「この上の二階が議事堂になっていて、三階より上が役所になっているみたいだね。ナスル国家元首は五階にいるみたいだよ。憲兵さんに言えば案内してくれるってさ」
「分かった。じゃあ、憲兵さんに言おう」
多分、外から見えた大きな正方形が、この講堂と議事堂なのだろう。
大きいけど、天井が高いから、大きな正方形に見える。
三階より上の小さな正方形が役所部分なのだと思う。
五階建てなのかな。
憲兵さんに声をかけると、一階の講堂脇の待合室にまずは案内された。
しばらくすると、憲兵さんが戻ってきて、二階に案内すると言われた。
議事堂を見せるつもりなのかなと思って、二階に上がると、来賓用の大きな応接室に通された。
多分、他国の偉い人たちが来た時に話したりする場なのだろうと思う。
「皆! よぉ戻ったぞ! アストリッド、ララ、フローレンス、チャールズにレオン。皆、無事で良かった」
ナスルのオジちゃんは、扉を開けるなり、そう言って、私達全員を呼び込んで抱き寄せた。
何だか懐かしい感じがした。
低く心に直接響かせるような声。
私の心の一番柔らかいところまで、ちゃんと届いた。
「早馬で報告は受けた。素晴らしい……。本当に素晴らしいぞ。そして、良く戻ってきてくれたぞ」
「はい。あの後も大きな動きがあったので、ご報告させていただきたいのです」
何ちゃら将軍のクーデータの件は、手紙で伝わっていると思う。
姉は、先にサンテール王国とヴァルデン共和国が、ラ・フールに来てからの話を伝えた。
空間部屋に、カスティリオ王国の女王と宰相も連れてきていることも。
ナスルのオジちゃんは、高笑いをしてから、大きく頷いた。
その後、幾つか質問を重ねて、より詳しい内容を確認する。
一通り理解した後で、それでは早速会おうかとナスルのオジちゃんは言った。
「うん、分かった。ちょっと待ってて」
私は空間部屋に行き、書庫の奥まで歩く。
女王のお母様と宰相のお祖母様を呼んだ。
「お母様、お祖母様、ナスルのオジちゃんが会いたいってさ。今、新しく出来た教会の二階の会議室にいるの。行こう」
「そうかそうか。『ナスルのオジちゃん』かね。サミールが随分柔らかく感じられるさね。あの堅物は元気かえ?」
「ふふふ。ララちゃんがきっと柔らかくしたのでしょうねぇ。新しい教会、見てみたいわ。あの堅物サミールのことだから、美しさの欠片もない教会にしてしまったたのではなくて?」
「ララが案内するよ」
二人とも非公式の会議だからか、豪華なドレスではなく、外行きのワンピースドレスだ。
まぁ、部屋着じゃないだけマシだけど。
そのまま、元の場所に戻った。
「女王陛下、宰相閣下、お久しぶりでございます。この度は来訪頂き……」
ナスルのオジちゃんが、胸の前に手を合わせて挨拶をしているところを、女王が手を振って遮った。
「よいよい。サミールよ。わらわは堅苦しいのは嫌いじゃ。今日はララちゃんの母親として遊びに来たのじゃ。サミールは『オジちゃん』さね」
「そうよ。サミール、まずは孫達に教会を案内してもらうわ」
「わはは。母親と祖母か。しまったな。先に父親役を立候補しておくべきだったか」
「そうよの。フィリップよりは、サミールの方がマシじゃ。カタリナの想像通り、堅物サミールが随分と柔らかくなったの」
「そうねぇ。サミール、新国家建設、おめでとう。カスティリオは其方の味方ぞ」
「カタリナ様、ありがとうございます。隣国同志、仲良くしてください」
再び、一階に下りて、教会の講堂から見始めた。
結果的に国家元首自らが、案内役を務めていた。
しかも、大量のダメ出しをもらって怒られながらの案内である。
「開かれた教会なのは素晴らしいの」
「そうねぇ。サミールらしいわ」
「ただ、美しさが全く足りておらんのぉ」
「各国からの参拝者もいるでしょうからね。また来たいと思わせるものがないとねぇ」
「参拝の場所だけ絨毯が合った方がよいだろうのぉ」
「贅沢を避けたいのでしょうけど、神秘さが欠けているわ」
等々。
言われたい放題である。
多分、オジちゃんは、女王のお母様の五つ歳下とかだと思う。
姉に怒られている弟みたいな感じに見えて来た。
大きな背中が少しずつ丸くなってきたよ。
「ナスル元首よ。カスティリオ王国が貴国に大変迷惑をかけた。王として、お詫びする」
二階の応接室に戻ってきて、温かいお茶を一口飲んだ後、女王のお母様は、背筋を伸ばして、そう言った。
サミールというファーストネームではなく、キチンと国家元首として相対していた。
まあ、謝罪だからな。
当然と言えば当然だ。
お母様が言うと、全く謝っている感じがしないけど。
頭も下げていないし。
「いえ。互いに軍のトップに裏切られた身。同罪を抱えた同志だと思っています」
「そうじゃの。では互いに助け合おうではないか。互いに同じ娘、息子を持つ親戚同士じゃ。わらわは、農業支援をしよう。サミールはカスティリオ王国の教会の建て直しを手伝ってくれ」
「承った。ナタリア女王。感謝する」
良かった。
最初の会談の成功を私は確信した。
その後は、また徐々に気軽な感じに戻った。
新生国家イフヤ共和国の国歌は、二人が作ると言って、オジちゃんに丁重に断られたりしていた。
※
サンテール王国とヴァルデン共和国の船がカリーム・アーバに到着する前に、サンパウリーナ王国の船が先に到着してしまった。
マリーパパと一緒に会うことをイメージしていたので、私はちょっと嫌な流れになったと感じた。
私はさておき、姉はナスルのオジちゃんの手伝いをしていたりしているのだ。
流石に、顔を合わせない訳には行かないだろう。
案の定、初日にナスル元首とサンパウリーナ王の会談の場で、姉は言われたらしい。
「其方が終末の使徒の姉、アストリッドだろう。終末の使徒と会いたい。調整せよ」
当然、姉は了承した。
ナスルのオジちゃんが、自分も同席すると言ったらしいが、無下に断られたらしい。
「たとえ、フィリップであろうとダメだ。カタリナもナタリアもだ。サミール、其方も終末の使徒の味方であろう? 俺の邪魔をするな。判断は俺がする」
「王よ。まさか、幼子と一対一で会うとは言うまいな。それは許容しませんぞ」
ナスルのオジちゃんの、そんなドスの効いた低音の反論にも、王は甲高い大きな声で笑い飛ばしたそうだ。
「わはは! お前らは本当に大事にしているんだな。フィリップ、サミール、ナタリア、カタリア、ヴァルデンの首相もだろ? 錚々たるメンバーを誑し込むような人たらしが、ただの幼子の訳なかろう。一対一だ。護衛も不要」
お母様とお祖母様は、無視せよと言った。
でも、私は会おうと思っている。
姉、チャールズ、レオンは危険だから断れと言い、フローレンスは結界に閉じ込めてやればいいと言い放った。
「うん。流石、フローレンス。じゃあ、この部屋に連れて来る。ソファで二人で話す。お母様もお祖母様も、ダイニングテーブルに座っていて。何かあったら、助けに来て」
「素晴らしい案さね。ララちゃん、乱暴者の挑発は無視なされませ」
「アストリッド、お茶は私が出すことにするわ」
「お祖母様、かしこまりました。苦いお茶にしましょう」
「あれ? アス姉、キモ男はいないの?」
「あ、そうなのよ。ガブリエル・サントス宰相は同行なされていないわ。本人から断られたって言っていたわ」
「うーん。相当な反対にあっているということかな?」
「ナスル元首との会談では、全く言っていなかったわ」
「ララの件だけが、意見相違があるんじゃない? 同盟の件は相違なし。終末の使徒の扱いは相違あり」
「そうね。フローレンスの言う通りかもしれないわ」
※
サンパウリーナ王は、ナスルのオジちゃんとの会合以外に特に予定はない。
そのため、翌日の午前中に私との会談がセットされた。
教会二階の応接室。
でも、実態はそこは待ち合わせの場所に過ぎない。
到着早々に、空間部屋に移動する予定だ。
私は先に応接室に入って、ソファに座りながら、部屋に魔力を広げた。
入ってきたら、いつでもサンパウリーナ王を魔力で包めるように。
入念に準備をしておいた。
教会の憲兵に案内されて、威風堂々と王様は応接室に入って来た。
扉が開き、そして閉まった。
扉から黄金のたてがみを持つ偉丈夫が歩いてくる。
七フィートまではないだろうが、六フィート半はありそうだ。
大きくてカッコよい。
ボサボサの金髪の無造作ヘア。
それが、黄金のたてがみに見える。
マリーパパと同じように陽に焼けた肌。
でも、この人の方が地黒な肌だと思う。
太い眉毛に大きな瞳。
鼻筋は高く通っており、口元には笑み。
「其方が終末の使徒か?」
声は、見た目に反して、甲高い声だった。
それがギャップに感じて、私も笑いを浮かべてしまった。
「そっちが、サンパウリーナ王?」
想定外の切り返しだったのか、高い声で大きく笑った。
ワハハとウキキキが入り混じった笑い方だ。
「そうだ! 俺がサンパウリーナ王のレオナルド・ダ・コスタ(Leonardo da Costa)だ! 女神の加護は『勝利』だ!」
「ララ。ララ・スティエルナ。ララって呼んでいいよ。サンパウリーナ王はレオで良い? その黄金のたてがみ。覚えやすい」
「ワハハ! 良いぞ。ララとレオで行こう」
「レオ、ちなみに女神は加護なんて渡せないよ。レオが元々強かっただけ。勝てるヤツを選んで送り込んできただけ。自分の手柄だよ。誇ってよい」
「お前凄いな! 女神より偉そうだな!」
「あ、いけね。忘れていた。レオ、行くよ」
「あ? 行くってどこにだ?」
つい、このまま話し続けちゃうところだった。
私はレオごと、空間部屋に移動した。
ソファを指差して、そこに座っていいよと伝える。
レオをキョロキョロと周りを見渡して、ダイニングテーブルの方を見た後、また大きな声で笑ってから座った。
「レオ、聞きたいことは何?」
「あ? ララが俺に頼みがあるんじゃないのか?」
「ララが? 無いよ。別に」
「フィリップからは、庇護してほしいと依頼があったぞ」
「そんなの、マリーパパが言っているだけ。別にララは要らないし、求めたこともない」
「お前。俺が敵に回っても良いってことか?」
「人類の敵なら排除する。女神の敵ならララの仲間。それだけ」
「排除? チビがか? 勝利の加護を持つ俺にか?」
「ねぇ。レオ、加護なんて無いの。それに、この部屋に簡単に連れて来れたでしょ? ここじゃなくて、何もない部屋に送ることも出来るよ。空気も光も何もない部屋に。行ってみる?」
「ふっ。おもしれー、やれるものなら……」
私はサンパウリーナ王を違う空間へ送り出した。
イメージしたのは、先ほど私が言った通りの空間だ。
あの人ならば、一分くらいは息が無くても生きていられそうな気がする。
一応、三十秒だけ数えて、元に戻した。
目の前に喉を押さえながらヒューヒュー言って苦しがっている王様が現れる。
すぐにフローレンスが飛んできて、回復魔法を注いだ。
ゲホゲホ咳き込みながら、呼吸を整えている。
「レオ、勝利の加護なんで無いの。レオは強い。でも、死ぬ時は死ぬ。それはララも一緒。その限界ある生の中で、限界ある自らの力で、自分が何を信じ、何をするのか。それを、ただ決めるだけ。レオ。もう一度聞くよ。レオは人類の敵? それとも味方? どっち?」
キッと厳しい目がこちらを向いた。
背中から大剣を抜く。
その大剣の先からコツンという音がして、自分の周りに不可視の結界が張っていることに気づいた様だ。
空いた左手でペタペタと結界に触って確認している。
王様が大剣を抜いたことで、チャールズとレオンが飛んで来たけど、その様子を見て彼らも剣をしまった。
ただ、真横から睨み付けているだけだ。
「人類の敵じゃ無いが、お前の味方では無い。そう言う回答もあるよな?」
「そうだね。うん、あるね。その時はララの邪魔をしないなら、放置するよ。それがレオの回答? だとしたら、教会に戻して上げるから、もう話しかけないでね」
キッと睨み続けたまま、沈黙の時間が流れた。
ダイニングテーブルで、お母様とお祖母様がソワソワしている。
少しの時間だけど、この王様の事は何となく分かった。
この人は、勝負したいのだ。
いつ何時でも、誰かと勝負して勝ちたい。
そう言う人なのだ。
自分の存在証明のためか、ただ面白いからなのか。
でも、私には関係ない。
この人との勝負なんて、興味ないし、面倒くさいし、時間の無駄だ。
私の知らないところで、誰かと戦っていて欲しいと思う。
「気に入らねえな……。俺はお前のことが気に入らねえ」
「分かった。じゃあね。さようなら」
私は王様を教会に戻した。
今まで王様がいた場所を私はジッと見つめた。
全員と仲良くなれる訳ではない。
全員に理解してもらえる訳でもないのだ。
しょうがないと思うしかない。
「ララちゃんや、わらわを教会に送り出しなされ」
「私も行くわ。アストリッドも来なさい」
「はい、行きます」
「お母様もお祖母様も、ララの事は気にしなくていいよ。レオの事はもう放っておこう。そう言うこともあるし、ああいう人もいるよ」
「分かっておる。ただ、ララちゃんと組めない国と、わらわは手を結びたくないと、サミールに伝えるだけじゃ」
「そうねぇ。ララちゃんが言った事は間違っていないわ。皆が選ぶべきなのよ。自分の意思で決めるべき。同じ結論の人だけが、手を結べば良い」
ナスルのオジちゃん、ごめんなさい。
イフヤ共和国からすれば、自国の安定化のために、軍事同盟はどうしても欲しいはずだ。
それが、私の存在の所為で纏った話を壊してしまう。
謝罪の言葉を呟きながら、応接室へ空間部屋に繋がる裂け目を作った。
レオンが、姉が、お母様とお祖母様も出て行った。
最後に中将がこちらをチラリと見て大きく頷いてから出て行った。
フローレンスが、私の隣に座って、肩に腕を回してきた。
チャールズが後ろから、頭を撫でてくれた。
鬼門はラージャスティじゃなくて、やっぱサンパウリーナの方だったなと、改めて思った。




