表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
44/52

カスティリオ王国の平定を誇る


「あれ? 誰もいないぞ」


オリベイラでのタスクは完了させた。

何ちゃら将軍も倒したし、教会の自動機械も排除した。

危ない武器も弾薬含めて、きっちりと回収した。


うん。

完璧だ。

チラっと赤青黄色の三色の残像が頭をよぎったが、

私は、心置きなくオリベイラを離れて空間部屋に向かった。


リビングルームに出たが、誰もいない。

また書庫か?

耳を澄ますと奥の方から、ピアノと歌が聴こえる。

これは女王と宰相コンビの仕業だろう。

きっと奥に置いてあったピアノも、早々に見つかったのだろうな。

そして、そこから離れられなくなっちゃったのだろう。

苦笑を浮かべながら、書庫に繋がる扉を開けた。


「おお、ララちゃん、お帰り。終わったのかえ?」

「ララちゃん、オスカーはどうしたのかしら?」


「オジちゃんは、仕事が忙しいから、夕方まで働くってさ。何とか将軍は倒したよ。オジちゃんが、気持ち悪い生首持ち歩いて、兵を従わせているよ。ニコラスさんは離宮を片付けるってさ」


「ララ、何とか将軍じゃないわよ。リカルド・エスコバル将軍ね。頭の中の自動機械は除去したの?」


「いけね。フローレンス、ナイスだよ。ララ、忘れちゃっていたよ」


「自動機械とは何かえ?」

「頭の中?」


「あれ? お母様もお祖母様もアス姉から聞いていないの?」


「ハハ、ごめん、ララ。お母様もお祖母様も空間部屋の案内をしている時にピアノと本を見つけて、それに夢中になっちゃって、全然話していないのよ」


姉もお母様、お祖母様呼びになったのか。

女王も宰相もニコニコ顔だ。

一気に子供達が増えて、嬉しいのだろうな。


「お母様もお祖母様もダメだよ。音楽は逃げない。まずはララ達の話をちゃんと聞いて。さあ、ソファに行くよ」


私は無理やり宰相さんを立たせて、二人と手を繋いで歩き出した。

まぁまぁ、とか。

あらまぁ、とか。

怒られるなんて、久しぶりだわ、とか。

孫の代の使徒が沢山生まれてきたわね、とか。

私達も歳取る訳ね、とか。

やっぱり孫に言われたら従うしかないわね、とか。

小さな使徒に手を引かれるなんて、長生きして良かったわ、とか。

色々、上品にハモりながら話しているのがウケる。


リビングルームの一番大きなソファに、手を繋いだまま、腰を下ろした。

私の右には女王のお母様。

私の左には宰相のお祖母様。

二人とも、私の手をお膝の上で両手で包み込んで、上品に笑っている。

姉が入れてくれたコーヒーを飲みながら、姉が定番のストーリーを丁寧に説明し始めた。


この二人は相槌が可愛い。

声も綺麗だし、話を聞きだすのも上手だ。

でも、セレニカーナ王国のアリーチェ・デ・ラ・ロッカ女王が亡くなったことを聞いた時は、凄く驚いて悲しんだ。

静かに涙を流して、二人して抱き合っていた。

間に入っている私まで巻き込まれた。

きっと、凄く親しかったのだと思う。

自分たちの姉妹だと言っていたよ。


逆に、アル・ナジールの王様が亡くなった件に関しては、静かに頷くだけだったけど。

使徒だからと言って、全員が家族の関係になる訳ではないみたいだ。


当たり前の様に、二人とも、自分の頭の中の自動機械の除去を望んだ。

私は取り出した後、二人に見せてから、大事にリビングルームの引き出しにしまった。


一通りの話が終わった後、女王と宰相は背筋を伸ばした。

その様子を見て、皆も、少し姿勢を正した。

私達を見渡した女王は一つ小さく頷き、凛とした声で仲間たちに告げた。


「アストリッド、フローレンス、チャールズ、レオン、そしてララちゃんや。わらわは、其方らの後ろ盾になろうぞ。サンテール王国、ヴァルデン共和国、新生イフヤ共和国とも手を取り合うことを約束するでおわす」

「そうよ。アストリッド、関係各国と連絡を取り、同盟締結が出来る手筈を整えるのが良いわ」


「かしこまりました。お母様、お祖母様。手配いたします」


いつの間にか、姉が優秀な部下にされちゃっているよ。

私だけ『ララちゃんや』だし、その声色は猫を可愛がるような声だった。


夕食は姉が作った。

豪華な沢山のお皿が並ぶ夕食だった。


姉が料理を作っている間、私はリビングルームで、二人の相手をしていた。

二人とも書庫にあった楽譜をテーブルに積み上げて、鼻歌で音を取っていた。


「レオンや、倉庫に転がっていたバイオリンを持ってくるでおわす」


「は!」


女王に命じられてレオンは走っていった。

バイオリンも転がっていたんだ。

私は全く知らなかったよ。


女王はバイオリンを大事そうに抱えて、楽譜を見て演奏し始めた。

うわっと口から驚きが出てしまった。

近くに座っていたフローレンスからも、えっ? と声が漏れた。

この人、歌だけじゃなくて、バイオリンも上手いんだ。

それも、大楽団のソリストになれるくらいの凄腕だよ。


「素晴らしいバイオリンざます……」

「そうよ。ピアノもよ。どちらも何千万Gはする逸品よ」


何千万?

フローレンスが驚愕で固まっている。

バイオリンなんて、箱には入っているけど、倉庫に転がされていたみたいだし、ピアノは埃を被っていた。

やべー部屋だな。

まあ、私の部屋なんだけど。


中将のオジちゃんも、信号機トリオも招いて、皆で食事を取った。

信号機トリオは、立たされて、ずっと歌わされていたけど。


「凄い。信号機トリオは歌が上手かったんだね」


「そうざますわ。だからカタリナが名を授けたでおわす」

「ふふ。懐かしいわ。今度は、セラーノの冒険者の歌をお願いしますわ」


「は!」


「お祖母様、シグナル・ライトって、こっちには無い単語だと思うけど、前世の記憶?」


「前世? ああ、『魂の記憶』のことね。違うわ。ロン・シュエメイに教えて貰ったのよぉ。自動馬車が発展すると、街にシグナル・ライトが設置されると。赤、青、黄色で道が明るく照らされるのよ。ララちゃん、素敵だと思わない?」


ああ。

宰相のお祖母様は勘違いをしているみたいだ。

信号機は、スポットライトではない。

そこまで明るさがある訳ではないのだ。

道を照らすほどの光じゃないんだよ。


「ロン・シュエメイとは、バイシンの賢人様のことですか?」


姉の問いに宰相のお祖母様が答える。

姉が知っているということは、有名な使徒なのだろう。

おそらく知性の十使徒。

さすがに賢人という名の欲望はないだろう。


「そうよぉ。ちょっとララちゃんに似ているかもしれないわ。小柄で可愛らしい女の子よ。バイシンで生きていけているかしら……。ララちゃん、もしあの子が幽閉されていたら、また救ってあげてね」


ロン・シュエメイ(Long Xuemei)。

お祖母様が詳しく教えてくれた。

知性の十使徒の一人で、『賢人』と呼ばれていた女性。

セレニカーナ王国の賢者と並ぶ頭脳を持っていたという。

賢者さんが、理数系のトップなら、賢人のお祖母さんは文系のトップだそうだ。

ありとあらゆる古文書に詳しく、前世の記憶の保持者でもあるらしい。


「古文書? あれ? 『人類の起源を調べろ』『ワシは東の国で読んだ』って、ミナセじゃなくて、バイシンってこと?」


私の発言を補足するように、姉が賢者さんとの会話の内容を説明した。

彼は、女神の居場所を知るために、教会の力が弱く、古文書が残っている東の国へ行き、人類の起源を調べよと私達に言ったのだ。


私も思い出す。

あの時、私は『ミナセ? バイシン?』と両方の国を挙げて聞いたのだ。

賢者は咳込みながら、頷くだけだった。


「それはロン・シュエメイの元に行けとマルコは言っていたでおわすな」

「間違いないでしょうね。ロン・シュエメイならば、色々知っておるでしょう」


そうか……。

また旅の目的地が遠のいたな。

本当に大陸一周の旅になる。

しかも、バイシン……。

謎に包まれた独裁者のいる国だ。


食事が終わると、女王のお母様が、中将のオジちゃんに告げた。


「オスカー。ラ・フールに向かいなされ。そこで新生イフヤ共和国と和睦を結ぶぞ。アストリッドが他の国へも外交文書を送ってくれるでおわす」


「は! 陛下。兵士の護衛を準備しますので、二日ほど猶予をください」


「ダメじゃ。すぐに出よ。わらわは、この部屋におる。護衛は不要じゃ。着いたら、呼ぶでおわす」

「そうねぇ。アストリッドの食事が美味しすぎるし、楽器も、知らない楽譜まである。ララちゃん達と別れるまでは、ここに住むわ」


「は!」


「オジちゃん。詳しいやり方は、信号機トリオから聞くと良いよ。赤信号、ここからラ・フールまで何日?」


「うーん。下り坂だからね。六日程度じゃないかな」


その後の話し合いで、信号機トリオの荷馬車に、空間部屋への裂け目付結界を積んで運ぶことになった。

ラ・フールには沢山の兵士がいるし、オリベイラから連れて行く必要もない。

信号機トリオは、新たに国から指名依頼を受けた形になる。


「俺らが運ぶ荷物は……。終末の使徒パーティと女王陛下と宰相閣下……」


まあ、重い荷物だよね。

赤信号が深刻そうに呟いて、青信号と黄色信号が手を合わせて神に祈っていたよ。

その神は信頼しちゃダメだと思うけどね。


女王様の特別な計らいで、オリベイラで大量の高級ワイン、ジュースと果物を大量に貰った。

毎日飲んでも一生分あるのではないかと思える量だった。

執事のニコラスさん達も後から馬車でラ・フールに向かってくるそうだ。

高級食材もドサっと渡された。

私の収納がお腹いっぱいだと告げているよ。


姉とフローレンスが、部屋を二人に貸すと言っていたけど、あの二人は私のベッドで寝ることを選んだ。

ラ・フールに着くまでは、毎晩、母親と祖母に甘やかされる日々を過ごす。

三人でお風呂に入って、三人で川の字になって寝た。


ちなみに、信号機トリオに依頼を出した理由は、オジちゃんも空間部屋で過ごしたかったからだと私は思う。

中将のオジちゃんも、毎日リビングルームのソファで一日中、読書に励んでいたよ。

女王と宰相に怒られても、全く気にせず本を読み続けていた。

レオンとチャールズがベッドを使って欲しいと言っても、不要だと言ってリビングルームに居座った。

殆ど寝ていないと思う。

彼も貴重な六日の旅を堪能することにしたのだろう。


女王と宰相は、楽譜を写したり、演奏して覚えたりして数日間過ごしていた。

とても、全ての楽譜を網羅することは出来なかったらしく、女神討伐後は、長期滞在することを私達は約束させられた。


「でも、お母様もお祖母様も、ラ・フールに暫くいるのでしょ? ララ達もナスルのオジちゃんと連絡着くまでは、一緒にいると思うよ。しばらく、ここにいれば良いんだよ」


「そうじゃ! それじゃ。オスカー、外で動くのは其方だけでよかろう。わらわは、ここで報告を待つでおわす」

「アストリッド、我が国の外交権限を其方に一時預ける。ラ・フールの代官と共に調整せよ」


「「は!」」


きっと、カスティリオ王国は、こうやって政治と軍事を二の次にしてきたのだろう。

だから、文化だけが飛びぬけて発展したのだ。

そして、簡単にクーデータで政権を奪われてしまう体制になっちゃったと。

私はブドウをパクパク食べながら、遠い目をして、そう思った。


ラ・フールには、全員揃って、徒歩で入場した。

門から少し離れたところに、荷馬車を止めて、そこから私達は歩いた。

女王も宰相も、堂々と歩いていた。


空間部屋にいる時は、女王のお母様も、宰相のお祖母様も、チュニックとペプロスで気楽に過ごしている。

ただ、それもアップリケや刺繍で豪華な感じだけど。

今日は二人ともワンピースドレスだ。

豪華な装飾は無いけれども、フリルやレースで重厚なデザインになっている。

女王のお母様が紅。

宰相のお祖母様はモノトーン。

本当にファッショナブルな人たちだと思う。


私は二人の間で、手を繋ぎながら共に歩く。

先頭では、中将のオジちゃんが、将軍の生首を掲げながら歩いていた。


あの生首は、ずっとリビングルームの棚の上に置かれていたのだ。

フローレンスが嫌がって、せめて顔をこっちに向けないでくれと懇願していた。


「中将閣下!」


門から走って来た兵士が、中将のオジちゃんに敬礼した。

その後、後ろを歩く私達を見て、愕然とする。

一人が走って戻っていき、残りの兵士さんたちは一斉に跪いた。


「女王陛下!」

「宰相閣下!」


「よいよい。はよ、わらわ達を中に入れるのじゃ」


そこから先は凄かった。

私達が門に到着する頃には、豪華な馬車、お馬さんも用意されていた。

私は女王、宰相と共に馬車に乗る。

中将のオジちゃん、仲間たちは馬に乗って、横に付いた。

後ろを振り向いたら、信号機トリオの荷馬車が遠くの方で付いてくるのが見えたよ。

遠すぎて、とても小さく見えた。


『反逆者であるリカルド・エスコバル将軍は打ち倒した!』

『女王陛下と宰相閣下もご無事である!』


何度か、オジちゃんが生首を掲げて叫んでいた。

多くの兵士が集まってきて、道の左右に整然と整列している。


「「女王陛下!」」

「「宰相閣下!」」


そんな呼びかけも多く聞こえた。

二人とも馬車の窓から優し気な微笑みを浮かべて手を振っていたよ。


代官がいる『中央塔』と呼ばれる建物まで、兵士達の列は続いた。

中央塔は代官や役人が働く建物でもあるらしい。

最上階は、女王や宰相が来た場合や、外交使節が来た場合の迎賓館になっているそうだ。

私達は、その迎賓館の宿泊部屋に案内された。


そこに、代官を始めとした役所の偉い人達、

中将の腹心の部下達も集められた。


「さて、皆の者。ご苦労であった。皆のおかげで、わらわもカタリナも無事じゃ。今後は迷惑をかけた各国と外交交渉を行う。皆、協力せよ」


「「「は!」」」


「わらわ達を救出してくれたのは、オスカー・フェルナンデス中将と、ここにいる終末の使徒のパーティじゃ。特に終末の使徒のパーティは、わらわの娘、息子同然として扱う。良いな」


「「「は!」」」


「軍の責任者にはオスカーを任命する。外交の大権はアストリッドに預ける。エレナ、アストリッドとチームを組んで難局を乗り越えるのじゃ」


「は!」


「わらわとカタリナは、この部屋で静養する。本日の夕食は冒険者パーティのシグナル・ライトを招くのじゃ。彼らの貢献があったからこそ、終末の使徒のパーティが自由に動けた。冒険者組合の支部長含めて招待しておくのじゃ」


「「「は!」」」


その後、関係者間の挨拶が始まる。

姉と組むことになったエレナさんとは、このラ・フールの代官だった。

エレナ・バルガス (Elena Vargas)。

まだ三十代の若い代官だった。

眼鏡をかけた理知的な感じの女性で、姉とすぐに打ち解けて話していた。

姉にはレオンが護衛として付くらしい。


フローレンスは、ここ『中央塔』の一室で、医療院を臨時で開くことになった。

『再生の聖女』が特別に診察してくれるということで、役所の人たちが急ぎ場を整えると言っていた。

念のためにチャールズを護衛に付けた。


ある程度の話がまとまったところで、私はリビングルームの端っこに、空間部屋の裂け目を作って、女王と宰相と部屋に戻った。

後は勝手に出入りするだろうと思う。



ラ・フールに到着して三日後のことだったと思う。

この三日間は、凄く充実した日々だった。

女王のお母様と宰相のお祖母様が、空間部屋の楽譜に夢中になっていたのは変わらない。

でも、日に一度、ラ・フールの街を三人で散歩して歩くのが日課になった。

私の結界魔法があれば、暴漢に襲われても死ぬことはないと知った二人は、滅多に出来ないことをやりたいと言い出したのだ。


「数年離宮に隔離されていたのじゃ。わらわにも陽の光の下で歩くことを許しなされ」

「そうよぉ。オスカー、堅苦しいことを言ってはいけないわ。ララちゃんの防御の堅さはご存じでしょう」


そう言って、護衛に囲まれて歩くのを拒否した。

とはいえ、前後の離れたところに兵士達がいるのだけど。


三人で手を繋ぎ、ラ・フールの街を歩いた。

市場も行ったし、港にも行った。

商業地区の石畳みは綺麗に掃除されていて、市場には色々な曲が流れ歌われていた。

港の公園に座って、女王陛下はバイオリンを弾いた。

物凄い人だかりになってしまったよ。


「「「永遠の女王ナタリア!」」」

「「「創造主宰相カタリナ!」」」


この二人を呼ぶ際の、独特の抑揚の呼びかけ声があるようで、カスティリオ王国の人たちが何度も声をかけていた。


その三日目のことだったと思う。

港の市場で、街の人たちとお話しながら、散歩していた時のことだった。

兵士達が沢山集まってきて、中央塔へお戻りくださいと告げて来た。


「何があったのかえ?」

「まずは説明をしなさい」


「は! 港の第六軍の少将から、他国の戦艦が二十隻ほど向かってきているという報告がありました」


「他国? どこ?」


姉がナスルのオジちゃんに手紙を出して三日。

さすがにアル・ナジールの船が来るのは早すぎると思ったが、私は聞いてみた。


「はい、国旗はヴァルデン共和国とサンテール王国です」


「え? 嘘?」


姉は当然、その二国にも外交文書を出している。

でも、アル・ナジールは船ですぐ着く距離だけど、その二国はカリブリ岬をグルっと回ってこないと、この入り江の港までは辿り着かない。

たとえセレニティアの港にいたとしても、早過ぎるのだ。


「至急、中央塔に早馬を。歓迎の準備をせよと、エレナとアストリッドに伝えなされませ」

「私達は港に行くが良いわね」


「は! しかし他国の……」


「うん、大丈夫。その二国はララの友達。敵じゃないよ」


「はよ行きなされ。ララちゃんの言うとおりざます」

「どなたか案内してちょうだいませ」


「は!」


比較的近い位置にいて良かった。

港まで三十分程度だ。

桟橋の近くまでくると、向かってくる大型の戦艦が良く見えた。

この距離なら、一時間程度で着岸するだろう。

先頭はサンテールの旗艦船だ。

黄色とオレンジの国旗が、ひと際大きく風に翻いている。

つい、大きく手を振ってしまったよ。


旗艦船以外の戦艦は、海上で待機するようだ。

まあ、これだけの大型船を調整もなしに停泊させるのは問題になっちゃうだろうしな。

ヴァルデンの旗艦船がサンテールの戦艦の間を縫って、前に出て来た。


しばらく三人で眺めていた。

すると、サンテールの旗艦船の甲板に手を振っている人影が見えた。

誰だかわからないけど、ひょっとしたらマリーパパかもしれない。

私も全力で手を振った。


「あ! マリーだ!」


「マリー? 誰でおわす?」


「うん、アンヌ=マリー・ド・フランス。サンテールの王女だよ! ララの友達なの! 動物好きな元気な女の子!」


あらあら、まぁまぁ、また孫が増えるのね等々、両脇から明るい返事が聞こえた。


「マリーパパもいるね!」


「おほほ……。誰だか分かったでおわす。わらわもそう呼ぶこと」

「ホントに。おかしいわ。あの生意気なフィリップもララちゃんからすれば、ただのパパだもの」



「ララーーー!」


旗艦船が着岸して、タラップが設置されてすぐに、マリーが走って来た。

護衛の兵士が慌てて追いかけてくる。

その後ろには苦笑を浮かべたジョヴィや、マリーパパにテオドール隊長の姿も見える。


「マリー!」

「ララ!」


ガッシリと抱き合った。

抱き合うと同時にマシンガンの様にブツブツ攻撃が始まった。

簡潔に一言でいうと、『非常に心配した』ということだ。

有難い。


「これは、これは、ナタリア女王陛下とカタリナ宰相閣下ではないか。わざわざ、国のトップ2がお迎えに来てくれるとは、光栄だ。」


「あら? 気づきませんでしたわ。マリーパパ。わらわは可愛いマリーちゃんを迎えにきたでおわす」

「そうそう。付き添いの保護者はそこで待っていてくださいまし」


「な! ナタリア、カタリナ……、それは些か長年の友に対して……」


「あ、マリー、紹介しないと。ジョヴィもこっち来て!」


私はマリーとジョヴィを呼んで、女王のお母様と、宰相のお祖母様にマリーとジョヴィを紹介した。


「マリー、ジョヴィ、私達のお祖母様とお母様よ。やったね」


「え? ララ、私達のお母様とお祖母様になってくれるの?」


「うん。そうなの」


「そうじゃ。わらわは、第五世代の娘達の母じゃ。お母様と呼びなされませ、マリーとジョヴィ」

「そうよぉ。私はお祖母様よ。幾らでも甘えてね」


「やった! ママとバアバでもいい?」


「ちょっと……、マリー、失礼よ。様は付けないと」


「ママ様? ババ様? 変よ!」


「ホホホ……。マリーよ、ママで良いぞ」

「マリーは、マリに似ておるのぉ。容姿も名前も似ておる……。まさかフィリップ……、実はマリの事が好きだったなんて事ありませんよね?」


「はあ? そんなことあるか! マリとは、そこまで交流ないわ! どっちかと言うと、俺はアリーチェが……、あ、すまぬ。アリーチェの件、残念だ」


「其方が、わらわの妹の事を語るでないわい」

「そうよ。貴方には嘆く資格すらないわ」


「うう……」


マリーパパは、この二人の女性には勝てないのだろうな。

もうタジタジだ。

私は、宰相のお祖母様が言っていた『マリ』という人が誰なのか聞いてみた。


マリ・サイオンジ(Mari Saionji)。

十王の一人であり、現ミナセでは総理大臣を引退して、皇族的な立場として国民に崇拝されているそうだ。

この二人の友人でもあると言う。

妹じゃないんだな。

ミナセの人なので、マリーと同様に黒髪黒目の美人さんだそうだ。

『マリ・サイオンジ』と聞いて、『西園寺真理』という漢字が頭に浮かんだ。

真理、真里、麻里、幾つか同じ音の漢字も浮かぶ。

これも古語だろう。

あとで、マリーやフローレンス達とも話してみよう。


そうこうしているうちに、ヴァルデン共和国の旗艦船も到着したみたいだ。

ヘルガ・フォン・アウグスブルク共和国首相と数人の大臣がやってきた。

あ、護衛しているのは、ゲオのお父さんだ。

ゲオ、やっぱ来ていないよね。

ゲオパパ、連れてきてくれればいいのに。


マリーパパが、ヴァルデンの人たちとカスティリオの人たちを繋いでいた。

互いを紹介して、挨拶を交わしている。

まさか、ここでトップ2と会えるとは思っていなかったのか、大臣たちは最初驚いた顔をしていたよ。

その後、私も首相達と再会の挨拶をした。


「ゲオパパ、ゲオは連れてこれなかったの?」


護衛に立っていたゲオのお父さんに、私は声をかけた。

いきなり話しかけられて驚いていたけど、すぐに相好を崩して話してくれた。


「はい。息子は置いてきました。実は非常に来たがったのですが、流石に戦地に未成年を連れて行く訳には行きません。ララ様、息子と仲良くしてくれて本当に有難うございました。ララ様達と出会ってから、息子は大きく成長しました。全て、終末の使徒パーティの皆様のお陰です」


「ううん。ララ達もゲオに助けられたし。それに仲間だから。手紙書くから渡してくれる?」


「勿論です。本当に、本当に有難うございます」


背後から、名前を呼ばれた。マリーパパだ。

中央塔に向かうそうだ。

マリーとジョヴィは、女王のお母様と宰相のお祖母様の手を繋いで歩き始めている。

マリーが二人の顔を見上げて、ずっと話しかけている。

二人もニコニコしながら応じていた。


私は早歩きで、マリーパパと首相の近くまで寄って聞いてみた。


「ねぇ、どして、ラ・フールに来たの?」


「おお、本当は降伏勧告をしにきたんだ。俺らはカリーム・アーバで五国同盟締結に向かう最中でな」


「五国? サンテール、ヴァルデン、イフヤと……あとはどこ?」


「ラージャスティとサンパウリーナだな」


「うわ。すごいね、そこまで話は進んでいたんだ」


「そうだ。お前らの行方が分からなくなって、数か月経ったからな」


「カスティリオも同盟には加盟すると思うよ。そしたら、西南部六か国が一つになるね」


「そうだな。ナタリア達と協議して合意できそうなら、彼女らもカリーム・アーバの調印式に参加することになるのだろうな」


その後、歩きながら、マリーパパと首相に、カスティリオでの話を説明した。

二人からは、アル・ナジールでの出来事を含めて、色々な質問があった。

そうか、アル・ナジールの件も手紙を出していただけだからな。

中央塔に着くまで、ずっと私は説明していた。


二人とも、凄く喜んでくれたし、沢山褒めてくれた。


「ララ、よく頑張った。俺は誇らしいぞ」


「本当です。西南部に訪れる平和は、全てララ様達のお陰ですよ。私も誇らしいです」


そう言ってくれた。

中央塔の入口で、マリーパパが言ってくれたことを私は噛みしめながら、中に入った。


「ララ、女神が敵であることは間違いないが、結果的に女神が言った通りにララは動いていると思うぞ。『世界の混乱を平定して、悠久に続く平穏な世界を人類に与えること』。それをお前は間違いなく実行していると俺は思うぞ」


女神が言った真意はさておき、私達が動くことで、確実に平和は訪れている。

アル・ナジール王国も、カスティリオ王国も。

確かにそれは、誇っても良いことなのだろうと、私は考えた。


カスティリオ王国でも、多くの使徒から自動機械も回収できた。

出会った使徒の半分以上が味方になったし。


008選ばれし使徒、火神の使徒ラファエル・モレノ (Rafael Moreno)

023カスティリオ王国将軍リカルド・エスコバル (Ricardo Escobar)

033盲目の剣士マルコ・モレノ (Marco Moreno)

041シグナル・ライト赤信号カルロス・マルティネス(Carlos Martinez)

042シグナル・ライト青信号ダニエル・マルティネス (Daniel Martinez)

043シグナル・ライト黄色信号エミリオ・マルティネス (Emilio Martinez)

074十王、カスティリオ王国女王ナタリア・デ・サラゴサ (Natalia de Zaragoza)

082知性の十使徒、カスティリオ王国宰相カタリナ・デ・ラ・クルス (Catalina de la Cruz)

093欲望の十使徒、殺戮の使徒カール・ツー・フランケン (Karl zu Franken)


ちゃんと、前に進んでいる。

そう思った。



世界地図

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ