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漆黒の多頭ドラゴン、ズメイ・ゴリニチとの邂逅


三か月かかると言われていた山からの迂回ルートを、私達は二か月ちょいで踏破した。

二週間から三週間は縮められたと思う。


それでも、完璧には間に合わなかった。

街を襲撃する前には間に合った。

でも、その原因を作るところを止めることは出来なかった。

あと数時間早ければ満点だったかもしれない。


山の中腹で、私たちは、ズメイ・ゴリニチの棲み処を見下ろしていた。

球体の結界を浮かせて、針葉樹を越える高さから見学していた。


山の窪地に出来た大きな、大きな湖。

そこに数十体のズメイ・ゴリニチがいた。


「ドラゴンだね……」


チャールズが目を細めて呟いた。

複数の頭を持つ恐竜に近いかもしれない。

一番少ないので三つ頭。

一番多いので五つ。

色は赤褐色、茶色、黒、緑。

やっぱり恐竜に近い存在の様に、私には思えた。

三階建ての建物並みのサイズだ。


「あ、飛んだ」


「これ、早々に全滅しちゃうかもよ」


「いや、散開したわ……。何名かは逃げ切ることが出来るかも」


眼下、というよりも、湖の向こう側で起きているのは、兵士達との戦闘だ。

戦闘、というよりも、撤退戦だと思う。

何かを奪って逃げているのか、

それとも、奪おうとして諦めて撤退しているのか、

それも分からない。

数体の身体の大きいズメイ・ゴリニチが、兵士たちを追いかけ回していた。

火を噴き、爪で切り裂き、尻尾で投げ倒し、口で食い千切っていた。


「ギャウォォー!」


五つの頭を持つズメイ・ゴリニチを叫ぶ。

身体にビリビリと振動が響くような鳴き声。

心の奥底にまで恐ろしさが伝わる。

それを受けて、湖にいた何体かのズメイ・ゴリニチが空高く飛んで参戦した。

仲間を呼んだのだろうか。


「うーん。怖すぎ。どうするか悩む」


「街に行くようなら、僕らも参戦するしかないね」


「でも、どうすれば良いのだろう。止められるイメージが湧かない」


あのバカでかい恐竜を前に、私達は余りに無力だ。

敵に回してはいけない存在。

あの愚かな兵士達だけで許してくれれば良いのだけど。


「とりあえず、街の方向で迎え撃つ準備をした方が良いんじゃない? ララちゃん」


「うん。チャックの言う通りだ。赤信号、どこか結界を張れる広めの平地はない? 街に向かう通り道がいい」


「ララさん、うってつけの土地があります。行きましょう。少し急ぎます」


空中に浮かべた球体を慎重に地面に下ろす。

湖までは、なだらかな下り坂だ。

信号機トリオは球体をそのまま転がすことを選んだ。

湖近辺からは平地となる。

転がった方が早いと考えたのだろう。


「ララさん、念のために透明化お願いできますでしょうか」


「分かった」


そこからは、かつてやった事のある怒涛のハムスターダッシュだ。

私も姉も頑張らないといけない。

前回は私が最初に転んでしまって、球体と一緒に回転してしまった。

私に巻き込まれる形で、結果全員が球体と一緒にゴロゴロ転がってしまったのだ。

青信号と黄信号が左右の舵取りをする。

先頭真ん中はレオン。

私はヤバくなったら、球体を宙に浮かせる役だ。


高速で坂道を下り、何本かの針葉樹を倒しながら進む。

平地に下りてからも、下って来た速度を使って転がる。

左前方には逃げる兵士を追いかけるズメイ・ゴリニチが見えたけど、今は無視だ。


「そろそろです!」


私は球体を少し宙に浮かせて、速度を緩めた。

左側に進路を少し変えて、ゆっくりと転がる。

確かに、かなり開けたエリアが見えて来た。

平地、草原というより、沼地に近いのかもしれない。

ドロドロとした粘度の高い池の様な場所だった。


「ララさん、どうです?」


「うん。ここで迎え撃とう。もう少し木を切ってエリアを広げるね」


沼地に入るとズボっと球体が三割ほど沈んだ。

もう足では回転できない。

飛行魔法で浮かべて、エリアの真ん中まで移動する。


魔力を薄く薄く周囲に広げた。

ここ全体を落とし穴にしてしまうという手もある。

どういう手が効果的なのかと、考えは未だまとまっていない。

まずは、恐竜さん達が街に向かう時に、無視できない様な目立つエリアにする必要がある。

四方八方に恐竜さん達が入れるくらいの大きさ。


アヴェリーヌのジャガイモ畑でやった様に、薄く魔力を広げた。

その範囲の針葉樹を空間魔法で収納する。

大分拓けた土地になったぞ。

さぁ、どう迎え撃つか。


私が拓けた土地を眺めながら考えていると、赤信号が感慨深く話し始めた。


「ここは……、ラファエルが降下した場所なのです」


ラファエル?

誰だっけ?

姉が耳元で教えてくれた。

ラファエル・モレノ。

あの火神。変態放火魔だ。


「ラファエルはズメイ・ゴリニチの棲み処の近くに降下しました。裸の五歳児が、この泥濘に膝を抱えて埋もれていたそうです。普通の人でしたら、気づかずに通り過ぎたでしょう。盲目のマルコ・モレノだったからこそ、見つけられたと言われています」


赤信号は、懐かし気、いや寂し気に話し続けた。

黄信号が蹲る少年の、青信号が盲目の剣士の演技をした。


「周囲にはズメイ・ゴリニチが大量にいたそうです。群れのボスがラファエルの前に伏せをして、ジッと見ていたとマルコ・モレノは言っています。まあ、見えない彼の目撃証言なので、馬鹿にする冒険者は多かったのですが、俺らは本当だったのだと思ってます」


ズメイ・ゴリニチは何ゆえに少年を許したのだろう。

森を荒らさなかったから?

まだ子供だから?

兵士を荒れ狂ったように追いかけ回す姿とはかけ離れ過ぎていて、想像がつかない。


「マルコはズメイ・ゴリニチが怒っていないことから、少年を救う選択をしました。ズメイ・ゴリニチの間に割って入り、少年を抱えて、街に戻ったそうです」


「ズメイ・ゴリニチが怒っているかを盲目剣士は判断出来たんだね?」


「はい。それは俺らにも可能です。目です。青い目をしている時は、通り過ぎろ。赤い目をしている時は、全速力で逃げろ。それをセラーノの冒険者は教えられますから」


彼らが怒るのは理由がある。

つまり、怒らせなければ友好的ということか。

少なくとも、五歳の子供を襲わずに見守る理性はある。

彼らには私達と共生する意思がある。

決して人類と敵対している生き物ではないということだ。

魔獣は敵。

その私のルールに従うと、どっちなんだろうかと、私は考えた。


「うん。決めた。赤信号、ありがとう。今の話で方針は定まった」


私達の周囲に少し大きめの四角い結界を作る。

長方形。

長い柱の様な結界だ。

それを地中に杭のように縦に埋め込む。

柱の六割を埋め込んだ。

地上部分に私達が立てるような内壁、床を作る。

球体の結界は解除した。


「ララさん、これは?」


「うん。ただの結界じゃ、パンチされたり、尻尾で叩かれると飛んでっちゃう。地中に杭を打ち込む形にした。ここで彼らを迎え撃つ」


「ララちゃん、どう倒すの?」


「うーん。出来れば倒さないでお引き取り願いたい。我慢比べして、どうしようも無いのなら、違う手段を考える」


「まずは攻撃を受け続けるってこと?」


「うん。最強魔獣の攻撃力と、ララの防御力の戦い」


「ララ、わたし達を無視して、街に行くってことはないの?」


「信号機トリオはどう思う? ララは、ここに人がいるのに、それを無視して街に行くことはしないと感じたんだけど」


彼らは互いの顔を見合わせて考え始めた。

そうだと思う、いや怒っているんだぜ、倒す相手がいて先にはいかない等々、話し合っていた。


「ララさん、俺らにも分かりません。でも、今でも兵士を倒し切るまでは、誰も街に向かっていませんからね。一旦、ララさんの感性を信じましょう」


「ララちゃん、落とし穴を作っておかないのはどうして?」


「チャック。あの子たちは、本当は闘いたくないんだと思うの。本当は、人類とも共存したい。そう言う子たちを問答無用で殺すのはイヤ」


「なるほど。じゃあ、ボスを結界で囲う。これは僕らが敵でないことを示すアピールにならないかな」


「そうだね。それは良い案かも。やりながら考えよう」



最初の一体がやってくるまでに、三時間要した。

兵士達は想定以上に頑張ったということだろう。

赤い、少し茶色が入った三つ頭の恐竜が低空から舞い降りてきた。


「ピィィィー!」


少し高い声で天に向けて咆哮した。

私は結界の音制限を少し強くする。

耳がキンキンするよ。


ここに人間がいるぞ。

そう言ったのだろう。

針葉樹を倒しながら、もしくは天から舞い降りるように、ワラワラと集まってきた。

そして、結界への攻撃が始まった。


ガン、ゴン、メシ。

色々な音がして、結界の中の空気に振動が伝わって来る。

最初、ヒッとか言っていた仲間たちも、少しずつ周囲を伺う余裕が出て来た。


結界の中に、作っておいた空間部屋への亀裂を使って、チャールズがフローレンスを呼びに行った。

青信号は部屋に置きっ放しの荷物から、大きなノートを持ってきて、恐竜の絵を描き始めた。


ゴォー!

結界が炎に包まれる。

四方八方から火を噴きつけられる。


恐竜さん達が怒っているのは、確かに伝わった。

目は真っ赤だし、身体全体も少し赤みが付いているように見える。

ムキになって、結界に叩きつける腕にも、憎しみと怒りが籠められていた。


私は両手の平を彼らに向けて、敵ではないことをアピールする。

どうか、鎮まって欲しい。

愚かな人間が、しでかしたことを許して欲しい。

そう願い続けた。


しばらく攻撃が続いたが、ふいに恐竜さん達が正面の道を空けた。

そこから、ノシノシと近づく、ひと際デカい巨体が見えた。

五つ頭の漆黒の恐竜。

これが群れの長。ボスドラゴンか。


「ギャウォォー!」


目の前に来て、結界に、私達に向けて、五つの頭が同時に咆哮した。

音量制限している筈なのに、ビンビンと音響が響いた。

仲間たちが思わず耳を塞ぎ、頭を抱えるくらいの迫力だった。


目が真っ赤だ。

滅茶苦茶、お怒りになられている。


咆哮と共に、周囲の攻撃が激しくなった。

漆黒のボスドラゴンの振り下ろす鉄槌は凄かった。

結界が壊されるのではないかと、一瞬真剣に心配した。


太陽が傾き、空がオレンジ色に染まっても、恐竜さん達の攻撃は続いていた。

攻撃者が代わる代わる入れ替わり、様々な攻撃かなされた。

爪、尻尾、咆哮、火。

漆黒のボスドラゴンは、正面に立ち、私の目をジッと見つめたまま動かなかった。

赤い十個の瞳が私を睨みつけたまま離さなかった。


陽が暮れ、太陽が完全に姿を隠して、北黒の森は闇に包まれた。

攻撃は止んだ。

それでも、周囲にはズメイ・ゴリニチが取り囲んでいる。

赤い目に星の光が反射していた。

私達は百を超える赤く光る目に睨まれ続けた。


「ララちゃん、どうする?」


「目を逸らしたくない。みんなは空間部屋に戻っていて」


「ララ、わたしもここにいるわ」


「アス姉、一瞬だけ空間部屋にララも戻る。そこでご飯を食べて、お風呂に入って、ゆっくり寝てから、こっちの時間の一秒後に戻るつもり。だから、先に戻っていて」


「わかったわ」


私は視線を逸らさずに、後ろの姉に話しかけた。

空間の亀裂から、彼らが部屋に帰っていくのが分かる。

私は、四角い箱型の結界椅子を作り出して、そこに座った。


漆黒のボスドラゴンは、伏せをしたまま、頭を沼に付けて、私と目線を合わせていた。

赤い目が私に何かを問いかけているようにも感じた。


夜になると、恐竜さん達も眠るようだ。

周囲の恐竜さん達も、少し互いのスペースを空けて、休み始めた。

目を閉じている恐竜さんも多くなってきたみたいだ。

どうかゆっくり寝て、その怒りを鎮めて欲しい。

私は心の底から、それを願った。


夜中になり、漆黒のボスドラゴンの瞬きが多くなった。

五つの頭のうち、右側の二つは完全に目を閉じた。

しばらく待つと左側の二つも寝た様だ。

真ん中の頭だけが、私を見つめている。


私も少し眠くなってきた。

瞬きしている間に戻るから、待っていてね。

そう心の中で呟いてから、空間部屋に戻った。


「ララ、どんな? お風呂にする?」


「アス姉、ありがとう。お腹空いたから、何か食べたい」


みんなは先に食べていたみたいで、全員がダイニングテーブルに集まって来た。


「本当に我慢比べになってきちゃったね……。わたしもララに付き合うわ」


「うん。目を逸らしたら負けな気がする。ズメイ・ゴリニチの攻撃対ララの防御では負ける気がしない。でも、気持ちの強さで負けたら、許してくれない気がしてきた」


「俺もララに付き合うよ。睨みつけてやる」


「俺たちも勿論ですよ。長い人生で今が俺らのピークだと思っていますから」


「人生のピークって……、信号機トリオは、まだ二十代だよ」


「いやいや、ドレカヴァツの群れに殴り込みをかけたり、ズメイ・ゴリニチのボスとガン飛ばし合ったりするのって、エッジ・シーカーの皆と一緒じゃないと出来ません。この体験を生涯自慢して過ごそうと三人で話しているのです。最高の体験ですよ」


青信号と黄色信号が何かをしているけど、私には伝わらないよ。

苦笑を浮かべることしか出来なかった。


夜中ずっと、私達は全員で漆黒のボスドラゴンと睨み合った。

漆黒のボスドラゴンは、五つの頭が交代で休むことにしているみたいだった。

真ん中の子が寝ると、両脇の二つが起きて睨みつけて来た。

ローテーション出来るんかい。

そりゃズルいよ。


とは言え、私も人の事は言えない。

朝方、陽が昇る前に、私達も一度、空間部屋で仮眠をさせてもらった。

朝ごはんも食べたいし。

もちろん、私は一瞬で戻って来るので、彼らにはバレていない、はず。


陽が昇ると共に、再攻撃が始まった。

漆黒のボスドラゴンが起き上がり、空に向けて咆哮した。


「ギャウォォー!」


それが起床の合図であり、攻撃再開の合図だったようだ。

再び始まる攻撃。

爪、尻尾、炎。

踏みつぶし攻撃もあった。

私は立ち上がって、手を前に翳して、落ち着け、敵じゃない、怒りを鎮めろと伝える。


二日目も陽が沈むまで、攻撃は繰り返された。

代わる代わる恐竜さん達は入れ替わり、疲れ果てるまで結界に向かって攻撃を繰り返した。

漆黒のボスドラゴンは結界の前に立ちふさがった。

立ち上がり、私達を十の瞳で見下ろした。

赤く燃え盛る怒りは、未だ消えていなかった。


結果、三日間続くのだが、身体よりも気持ちを保つのが苦しかった。

誰かの怒りを受け続けるのは、思っている以上にシンドイ。

心が擦り減っていく、削られていく気がした。


目が疲れ、足腰が痺れて来る。

そのうちに、頭がボンヤリして意識を保つのが難しくなってきた。

そんな時は、他愛も無い話を男性陣がしてくれた。

主にチャールズと赤信号が色々な話を教えてくれた。


一番興味深かったのは、あの火神の話だ。

彼は、この地に降下して、セラーノの街に連れていかれ、そこで育てられた。

冒険者組合に連れていかれた裸の五歳児は、酷く怯えていたそうだ。

ブルブルと身体を震わせて頭を抱えていたらしい。

そりゃ、こんな暗い森で、大きな恐竜に囲まれたのだ。

トラウマになる体験だろうと私は思った。


その恐怖が引き起こしたのか。

それとも、ズメイ・ゴリニチの加護が本当にあったのかは分からない。

震える身体が突然燃えたそうだ。


周囲の冒険者が慌てて、バケツで水をかけても消えない。

少年も自分の身体が火に包まれているのを見て、パニックになったそうだ。

泣き叫び、転げまわった。

でも、周りの冒険者たちは何も出来ない。

手を差し出すことすら出来ないのだ。


少年が意識を失うまで、火は消えなかったという。


「その後、しばらくしてですが、彼には転生前、死ぬ前の記憶があることが分かりました。その……、焼死だったそうです。まだ小さな子供だったらしいのですが、家族と抱き合いながら、炎に包まれて死んだ。そう言ったそうです」


「クソ女神め。どうして、そんな子供に火の力を授けて降下させたんだよ」


「その体験があったからこそ、火の力が付いたのか知れないわね」


「いずれにしても、あの放火魔は、子供のまま死んで、子供のまま転生したってことだね。大人になったことが無い子。色々社会に適合出来なかった理由も察しられる」


焼死した記憶を持つ。

それは過酷なトラウマだろうと思う。

しかも、自分自身が火を纏う力があるのだ。

どう折り合いを付けたのかは分からない。


でも、彼は結果的に自分の精神を屈折させた。

歪んだ精神を育んだのも事実だ。

私は、アイツが女の人を黒焦げにして笑っていたのを忘れない。

自分の家族が苦しんで焼け死んだことを、他人にやっているのだ。

どんなに辛い体験をしていたとしても、同情する気はない。


ただ、虚しい気持ちがするだけだ。

それも人の一生。

それも人間の一面。

そう考えると、ただただ虚しい。


四日目の朝方。

漆黒のボスドラゴンの、五つ頭の真ん中の子が目覚めた時、その瞳が青かった。

それまで起きていた左右の端の頭の子の目も、青く戻る。


「ララちゃん、青だね……。もう怒っていないってこと?」


「ララさん、他のズメイ・ゴリニチが目覚めるまで待とうよ」


「いや、もう大丈夫だと思う。結界を解除するね」


チャールズから、「ちょ、ちょっと待って……」という声がするが、私は気にしない。

立ち上がって、周囲の結界を解除した。

ズボっと腰深くまで泥に埋まってしまった。

足場を作る床だけ、再生成する。


頭を地面に付けたままの漆黒のボスドラゴンに向けて進んだ。

五つ頭の真ん中の子の前まで進む。

その大きな鼻先に手を当てた。


「ごめんね。ボスさん。人間が悪いことをした。ララが代わりに謝るから許して欲しい」


鼻の穴が、私の頭よりも大きかった。

その横を手で撫でて、真摯に謝罪をした。

もう十分、恐竜さんたちの怒りは伝わった。

あの馬鹿どもが何をしたのかは知らない。

でも、凄く怒るようなことをしたのだと思う。


『小さいの。なぜ。戦わない』


喋れるのかーい。

とは勿論言えなかった。

喋っているのではない。

念話に近い感じがした。

直接脳波に干渉しているようなコミュニケーションの仕方だった。

言葉ではなく、概念で伝わって来る感じだった。


「貴方たちは敵ではない。私達人間の全員が敵ではない。それを知ってほしかった」


『我らは全が個。分からぬ』


全員が常に一つの考えで動く。

バラバラな行動はしない。

ズメイ・ゴリニチはそういう種族なのだろう。

漆黒のボスドラゴンは、多分、そう言っているのだと思う。


でも、人間は残念ながら違う。

色々な人がいて、様々な考え方があり、多種多様な生き方をする生き物だ。

俯瞰してみれば、皆が一つの流れに乗って活動をしているのだけど、

個々で見ると、違いが沢山ある生き物だと思う。


「ごめんね。人間には色々な人がいるの。愚かな奴も。優しい人も。ごめんね」


『其方らは知らぬと』


「うん。愚か者達は何をやったの?」


『我らの卵を奪って逃げた。取り返したが我らは許さぬ』


「ごめんね。人間全員が貴方達と争いたい訳じゃないの、多くの人はリスペクトしている」


青い目を細めて私たちを見渡した。

私だけでなく、私たち全員を見渡した。


『分かった。其方は神の子か』


「神の子? ララは人間だよ」


『……』


五つの頭の全ての目が閉じられた。

長く考えている様だった。

しばらく待っていると、十個の青い瞳が開いて、私を見つめてきた。


『必要なら助力する。いつもで来るが良い』


「ありがとう。黒い子。また来るね」


漆黒のボスドラゴンはノソリと頭を起こして立ち上がった。


「ギャウォォー!」


天に向けて咆哮した。

マズい、結界を解除してしまっていたよ。

鼓膜が破れるような振動が伝って来た。

慌てて耳を手で塞いだ。


周りにいた恐竜さんたちが一斉に飛び立つ。

湖の方向に向けて飛び立った。

凄い風が周りに吹き荒れた。


漆黒のボスドラゴンが、最後に飛んだ。

大きな翼を広げて、暴風を吹き荒らして飛んで行った。


皆でその姿を見送る。

翼を動かすたびに、針葉樹の木が大きく揺れていた。


「ララさん、ズメイ・ゴリニチの主と会話していたの?」


「うん。ボスさん、お話出来るみたい。聞こえなかったの?」


皆が首を横に振って否定していた。

あれは、私の脳に直接届けられたのか。

その、やり方は分からない。

私には想像もつかない。

でも、あれも神に近い生物だとは感じた。


皆に、漆黒のボスドラゴンと話した内容を伝えた。

青信号も黄色信号も、おふざけなしに聞いていた。


「はぁ。分かりました。ズメイ・ゴリニチとは絶対に敵対しないように、俺らも冒険者組合に報告しておきます」


「ララ、この国の上層部にも言わないとね」


「あ、そうだ。女王さんを助けないとだ」


「まずは、セラーノの街に行きましょう。皆様は街を守ったのです。歓迎されるべき英雄ですよ」


「ありがとう。ララ達が英雄ならば、信号機トリオもね」


私達は、ズメイ・ゴリニチの棲み処に背を向けて歩を進めた。

あの恐竜さん達が火を噴きまくったからか、この周囲には雪が残っていない。

私は振り向いて、漆黒のボスドラゴンさんが飛んだ先を眺めた。

もう一度会いに来よう。

多分、きっと来ることになる。

なんだか、そんな予感がした。


西側立体地図

挿絵(By みてみん)

世界地図

挿絵(By みてみん)

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