カリブリ港の惨劇
大きな港。
活気のある市場が、海上の遠目からでも見える。
一面に広がる平野。
その殆どが畑だ。
北方面には山々が見える。
五月中旬。
カスティリオ王国南部にある大きな湾まで到着した。
カリブリ湾と呼ばれるところだ。
もう少し進むと港に着くだろう。
そこが、王国南部唯一の都市、カリブリ市だ。
「戦艦が、1,2,3……」
「十二あるね」
航海中は空間部屋で過ごした皆も、到着間近になって出てきた。
ナスル閣下に貸してもらった小型帆船は確かに早かった。
何よりも十名のクルーが秀逸な技術を持っていた。
たまにチャールズが後方部に設置した自動機械を動かして加速させる。
そのおかげで、想定よりも早く到着したはずだった。
それでも、カスティリオ王国海軍の戦艦は、既に入港していた。
フローレンスとチャールズが数えていたように、十二隻の大型戦艦が遠目からでも確認できる。
中型船も含めれば、もっと多いだろう。
「海軍以外の船も沢山いるわ。このまま入港できるの?」
「一応、商船だからね。入港時には内部を確認されると言っていたけど、その間だけ、空間部屋に退避すれば大丈夫だと思う」
アル・ナジール王国は滅んだが、まだカスティリオ王国では公になっていない。
当然、海軍は認識しているだろうけど、新国家に宣戦布告すらしていないのだ。
商船を拿捕したりすることはないだろう。
「ララ、どうする?」
「うーん。戦艦を出航させる訳にはいかないよね……。十二隻の大きな船を捜索して通信の自動機械を回収するまでは、港にいて欲しい」
「そうね……。あとは、船に自動機械があるってことは、監視の自動機械も飛び回っているリスクもあるってことよね」
「上陸するときは全員透明魔法だね」
「ララちゃん、上陸したら、即戦艦に忍び込もうよ」
「なるほど……。チャック良い案。でも、すごい時間かかりそうな気もする」
「見つかるのが最後の船だったら、数日かかるかもね。リュミエールの港の時は八隻だったけど、三日かかったわ」
甲板上部に結界を張るのは、すぐにできるだろう。
問題は通信の波長をキャッチするのに、しばらく維持し続けないといけないことだ。
キャッチした後は、場所を絞り込むために、結界を小さくしながら調べる。
場所を特定したら、船の内部を調査する。
あれだけ大きな戦艦だ。
内部調査の方が時間がかかると思う。
「ララ、壊しちゃえば?」
「ん? フローレンス、壊す? 何を?」
「簡単に直せない場所を、まずは全て壊すのよ。そうすれば、ゆっくり調査出来るわ」
なるほど。
皆で顔を見渡した。
レオンが、チャールズに適切な部位はあるかと問う。
「うーん。三本マストの大型船だからね。動力を奪うのならば、マストを折るのが一番手っ取り早いんだけど……」
「間違いなく、大騒ぎになるな」
「攻撃されていると判断されるのは間違いないわね」
大騒ぎになったとして何が起きるのか。
港から逃げられちゃうかな。
「マストを折らなければ良いのかな? 例えば、半分だけ切っておくとか?」
「ララちゃん、それだよ。出航する時は帆を張るからね。張った瞬間に間違いなく折れる」
「ララ、どうやって折るの? 空間魔法で抉ったら、半分でもマストは倒れるわ」
「練習した空間断裂魔法を使う。裂け目みたいなもの」
「分かったわ。それで行きましょう。チャールズ、ララを背負って走り回れるかしら。短時間で終わらせたいわ」
「アス姉さん、了解」
※
港に近づいたのを確認して、私たちは全員空間部屋に撤退した。
念のために、明日の午前中までは隠れていることになった。
船のクルーは、無事に入港したら、宿で休んでいてもらう予定だ。
いつも使っている宿屋の場所も教えて貰った。
「さて、じゃあ、私とチャックで行きますかね」
美味しいパンと卵の朝食を食べた後、作戦を開始することを私は伝えた。
「ララ、私も新しい街に行きたいわ。透明魔法でしょ。バレないわ」
「フロ、もし大騒ぎになったら、ララ達は逃げないといけない。フロを探す手間がかかる」
「その時はクルーが泊っている宿屋の前で集合しましょ」
もう。
私は姉を見た。
姉も少し考えた後、それを了承した。
「わたしも見ていたいしね。レオン、申し訳ないけど、フローレンスを守って貰えるかしら」
「勿論です。アス姉さんも俺が守ります」
「わかったよ。三人とも手を繋いで行動して。透明魔法だから、はぐれたら迷子になっちゃうよ」
私はチャールズに、おんぶしてもらう。
他の三人は姉を中心にして、手を繋いだ。
姉とフローレンスは、お揃いの黒の帽子とマント。
フローレンスがまた少し大きくなったかも。
少しずつ、姉の大きさに近づいている。
そのスタイルも。
ぶー。
透明魔法を全員にかけてから、小型帆船の甲板に出た。
良かった。
天気は晴れだ。
きっと良いことが起きる。
太陽を見上げて少しホッとした。
無事に入港出来た様で、港の端の方に小型帆船は停泊していた。
軍関連の船が停留している場所とは真反対の場所みたいだ。
深い緑色で塗られた軍の戦艦は、遠くの方に見えた。
桟橋をチャールズは走った。
沢山の商船が積み荷を積み下ろししていた。
この辺は倉庫に隣接しているエリアのようだった。
さらに進むと客船が沢山停泊していた。
右手には賑わっている市場が見える。
ここが大きな港だと言うことは、市場を見ると良く分かった。
さらに奥に進むとバリケードで塞がれたエリアとなった。
周囲を兵士さんが警備している。
ここから先は軍関係のエリアということだろう。
チャールズは一番手前の大きな戦艦に入ろうとして、途中でやめた。
踵を返して、奥の方に進む。
チラッと振り返って理由が分かった。
あれが旗艦だろう。
一際大きいし、緑の国旗が、平野部から流れる風で旗めいている。
旗艦ということは、最も警戒がされているだろう。
最初からリスクを冒す必要はない。
チャールズは、おそらくそう判断したのだと思う。
でも、通信の自動機械があるのならば、それはきっと旗艦なんじゃないのかな、とも思った。
チャールズは一番奥の戦艦に階段を駆け上がって登った。
一番奥のマストに近づいて止まる。
「ちょっと待っててね」
平野部から受ける風を受けて出航するのだろう。
そう考えると、亀裂を入れるのはどっちだろ。
身体に当たる風を感じた。
結構、強い風が吹いている。
すぐに倒れちゃうのもマズイな。
機首方面、平野部とは反対方向に亀裂を入れる事にした。
空間を断裂するように、亀裂をマストの半分くらいまで入れる。
「オッケー。次行こう」
チャールズの耳元で囁いた。
順調にマストへの亀裂を入れていった。
半分程度の戦艦のマストを処理した後で、ふと思う。
これって、船底に穴を空ける方が良いんじゃないかな。
徐々に沈んでいく様な穴を複数箇所に開ける。
そっちの方が、復旧に時間がかかる様な気がする。
むしろ、再起不能になれば、今後の戦力低下にも繋がるような気がする。
八隻目からは、方針変更した。
船底に近い位置、その接岸している側に幾つか小さい穴を入れていった。
すぐには沈まないだろうけど、今日中には気づくだろう。
十隻まで、終わらせた。
残り二隻。
旗艦の隣の船に乗り込もうとしたところで、港に大きな音が響いた。
ガン!
メリメリ……ドン!
そんな音が響く。
ビクっと身体がすくんだ。
チャールズの足が止まる。
「ララちゃん、マスト、折れちゃったみたい……」
二隻目の戦艦のマストがポキッと折れてた。
それが他のマストにぶつかり、ドミノ倒しを起こしちゃったみたいだ。
「あちゃ……」
同じ様な音がして、三隻目のマストも一本、折れて倒れた。
四隻目の船にぶつかって、甲板が割れる音が響く。
「「「敵襲! 警戒モード!」」」
ピーと大きな笛が色んな所で鳴り、兵士さん達が船から沢山降りてきた。
チャールズも一旦、乗船を諦め、少し距離を離した。
「おるな……、この間のヤツじゃ。これは……、不可視の御技を使っておるぞ!」
旗艦から、見覚えのあるヤツが降りてきた。
真っ直ぐと、こちらに向かって来る。
アイツだ。
盲目の剣士。
「チャック、アイツは、何故か私たちが見えるの。動かないで。落とし穴を張る」
私は、自分たちの周囲に落とし穴魔法を張った。
近づいてみろ。
引き摺りこんでやる。
沢山の兵士が行き来している中、道端まで下がった私たちに向けて、真っ直ぐと歩いてきた。
そして、首を傾げて、止まった。
「なんじゃ? 罠か?」
くそ、コイツ、やっぱ魔力的なモノを感知出来るみたいだ。
盲目の剣士はニヤッと笑った後、腰にぶら下げていた瓶を取り出して、私たちに向かって投げつけて来た。
パリン!
チャールズの足元に勢いよく叩きつけられて、割れた。
赤い血飛沫みたいなものが上がり、私たちにかかった。
「ここじゃ! ここに隠れておるぞ! お前らにも見えるはずじゃ!」
やられた。
この間の戦いの後、対策していたのは向こうも同じか。
血飛沫ではなくて、赤のペンキだ。
纏っている透明結界にベッタリと着いちゃったな。
でも、一度解除して、またセットすれば良いだけだ。
まあ、逃げる時にそうしよう。
ワラワラと兵士が集まって来た。
私は透明魔法を解除して姿を現す。
チャールズの背中からも降りた。
「皆の者。コヤツが終末の使徒じゃ。奇妙な技を使う。気をつけるのじゃ」
コイツ、ずるいな。
兵士たちを使って、罠だと思ったモノを確認するつもりだ。
自分はかなりの距離を取って、様子を見ている。
私はしれっと魔力を伸ばす。
逃がさないよ。
盲目の剣士は、ここで捕える。
「かかれ!」
兵士達が合図と共に一斉にかかって来て、一斉に堕ちていった。
「ほほぉ。奇妙な技じゃの」
「余裕ぶっこいてるけど、オジちゃんも、もう終わり。さようなら」
足元に迫っていた魔力に気づいたみたいだ。
全力で逃げるけど、もう遅いよ。
逃げる盲目の剣士を捕まえる様に、私の魔力が伸びる。
足、ふくらはぎ、腿、お尻と、下からせり上がり、全身を捉えた。
収納。
「オヤジー!」
旗艦の甲板から叫び声。
火神の使徒だ。
今日は裸体じゃないんだな。
甲板から乗り出して、消えた盲目の剣士を捕まえる様に手を伸ばして叫んでいた。
「てめー! ぶっ殺す! そこで待っていろ!」
うんうん。
待っているから、こっちにおいで。
「ワハハ! 面白れぇ事になってるじゃねーか!
ノコギリ野郎。
アイツもいるのか。
旗艦に乗ってるってことは、セレニティアを襲ったのは、カスティリオ王国の指示ってことじゃん。
隠す気もないのかよ。
来いよ。お前も来い。
周りの兵士たちは、何度かチャレンジしてきた。
そして、皆堕ちていった。
今は、周りを囲んで様子見してるだけだ。
「出航だ! アクアリスに一度戻るぞ! 女神様の御神託だ! 急げ! 乗船せよ!」
甲板に現れた、もう一人のオジさんが、威厳ある声で、そう叫んだ。
白髪の五十代。
ノコギリ野郎と同じ様に立派な体躯。
海軍の帽子を被っている。
深緑色の軍服も豪華だ。
色んな金のバッジを胸に付けている。
あれが、何とかって名前の将軍か。
「「「は!」」」
兵士が散って行く。
旗艦はもう動き出してしまった。
「チャック、二隻目は沈めるよ!」
そう言って、背中によじ登った。
チャールズが加速して、二隻目に近づいて、階段を駆け上がる。
岸から船の甲板に登る階段だ。
ガンウェイとか言ったかな。
それが甲板に引き上げられていく所を、飛び乗る。
そのまま強引に登り切った。
甲板にいた兵士たちと、すぐに戦闘が始まる。
私はマストに躊躇なく中距離の断裂魔法を放つ。
ハズレ、当たり、当たり、ハズレ、当たり。
五発で三本のマストを折った。
走りながらでも、当たる様になった。
かなり成長したと思う。
「脱出!」
チャールズが甲板から全力で岸に飛んだ。
うぇっ。高っ。
思わず目を瞑る。
着地の衝撃が激しくて、私も転げ落ちた。
ゴロゴロと岸を転がる。
「ララちゃん、走るよ!」
チャールズに抱きかかえられた。
そのまま加速する。
「ララ! 結界!」
姉の声がした。
何だかわからないけど、姉の言うことは絶対だ。
厚めの結界を周囲に張った。
ドン!
衝撃。
結界内の大気がビリビリと揺れた。
耳がキーンとする。
チャールズも足を止めて私を庇う様に抱き込んでうずくまった。
ドン!
もう一発。
女神の攻撃か。
何なんだよ、マジでアイツ。
「ララちゃん、走るよ!」
「うん。もっかい、透明化するね」
ペンキがベットリ付いた結界を脱ぎ捨てる様に解除する。
もう一度、身体を纏う結界を作って、透明化した。
チャールズが走る。
周りには巻き添えになった兵士たちが死んでいた。
肉片となって、散らばっていた。
手が、腕が、足が、内臓が飛び散っている。
チャールズが足跡をつけない様に気をつけて、駆け抜けた。
姉達が何処かで見ていたのだろう。
でも、何処にいるかは分からない。
集合場所は宿屋の前。
そこまで駆け抜けよう。
岸から、市場の方に駆け上がった。
多く人が集まる市場。
速度を落として、そこをすり抜ける様に進む。
「ギャー!」
「ウワー」
「逃げろ!」
私達が進む左手、
市場の反対側から、悲鳴が上がる。
「ララちゃん、アイツだ。飛ぶ自動機械。機関銃積んでるヤツだよ」
悲鳴が上がった方向を見て、私も分かった。
あの蜘蛛みたいな飛ぶ自動機械。
四つ足に扇風機を付けて、飛んでいるヤツだ。
あれが数台、地上近くを飛び回っている。
そして、人々に向けて、乱射していた。
鉄の石を、無差別に、掃射していた。
逃げる人の背中に。
誰かを守ろうとしている人の頭が弾けた。
兵士にも容赦はない。
逃げ惑う人達。
倒れた人達から流れる夥しい血。
「行こう、チャック」
「あれ、僕らを誘き寄せてるんだよ!」
そう言うことか。
透明化して姿を隠した私たちの代わりに、
無差別に人を撃っているってことか。
「ララ! 子供が! 来て! 撃たれた!」
向こうから、フローレンスの叫び声がする。
子供が犠牲になって、その治療に向かったのだろう。
「チャック、行こう。フローレンスが呼んでる」
「分かった。ララちゃん、僕の透明魔法を解いて。オトリ役やるよ」
人混みを抜けてから、私も、チャールズと一緒に透明魔法を解いた。
来るなら来い。
撃ち落としてやる。
「五台! 一台は僕がやるよ!」
チャールズが速度を上げて、走っていった。
飛んだ。
跳躍したのだろう。
ホバリングして掃射している自動機械を剣で叩き落とした。
あと四台。
ホバリングして掃射していた方向に、宙に浮いて運ばれている被害者がいた。
レオンあたりが、抱えているのだろう。
そうなると、レオンが向かっている方向、
あの沢山の負傷者が横たわってる場所にフローレンスがいるはずだ。
その近くに飛んでいた自動機械が矢で撃ち落とされた。
姉か。
姉のボウガンだ。
オウルベアの特別製の矢だろう。
あと三台。
「ララ! こっち!」
フローレンスの呼ぶ声がする。
その方向、被害者が集まっているところに走った。
途中で、レオンから、自分も透明化を解除して欲しいと言われた。
即座に解除する。
盾を背負う様にして運んでいる人を守っていたみたいだった。
でも、顔は腫れてる。
鼻血を流して、片目が塞がってた。
あぁ、これ、あの鉄の石を顔に食らったヤツだ。
「ララ! 順番に鉄の石を取り除いて!」
「了解」
近づいた瞬間、身体中に衝撃が走った。
ガガガガガガ
イタタタタタ……
メッチャ撃たれてる。
狙い撃ちされてるよ。
身体中に穴が空きそうな痛みが走る。
もう一枚、結界を張って顔を上げた。
アイツ、撃ち落としてやる。
斬撃魔法を放つ。
一発、二発、三発。
全然、当たんないや。
しばらく、その場で撃ち合っていたが、
そのうち、ターンして港の方に消えていった。
「ララちゃん、三台とも逃げたよ」
駆け寄って来たチャールズに声をかけられる。
「やっぱ、通信の自動機械は旗艦の船に積んであるんだな。多分、通信距離の限界じゃないかな」
この飛行機械は通信で指示を受けて動いているのだろう。
自律して判断している訳でないと思う。
だから、通信範囲内から出られないのだと思う。
「そっか。旗艦は出航しちゃったもんね。じゃ、監視の自動機械もいなくなるね。でも、旗艦が首都に入るまでの短い間だ」
「ん? どして?」
「この国のネットワークは生きている。各町の通信の自動機械。いわばハブだね。それを取り除いていないからね。旗艦が首都に近づいたら、ネットワークにまた繋がる」
「そうか。女神の指示がどこでも届くと……」
そういう仕掛けかと納得した。
飛行の自動機械も、監視の自動機械も、大型の通信自動機械の近くじゃなくてもいい。
女神の指示が届くネットワークの範囲なら活動出来る。
そうだよな。
クレールモンの近くで姉と二人で馬に乗ってる時に、映像を撮られているもんな。
姉とフローレンスの透明魔法も解除して、市場の惨劇の治療に当たった。
亡くなった人は多かった。
蜂の巣にされ、心臓も肺も撃たれている。
足や腕に当たった人は、まだ良い。
フローレンスが最初に治療していた女の子も亡くなってしまった。
出血多量だった。
沢山の兵士が集まって、手伝ってくれた。
負傷者を集めて、亡くなった人を搬出していく。
私達は特に疑われる事なく活動出来た。
顔バレしている訳では無さそうだな。
他にも街の人たちが沢山集まってくれていた。
教会の人も、冒険者も、農家の人も多かった。
皆、女神教の信徒らしく、胸の前に手を合わせて、黙祷していた。
セレニティアの人達の様に、私達からすると少しオーバーな感じで嘆き悲しんでいた。
一通りの治療が終わった後は、自分たちを治し癒した。
フローレンスは背中を撃たれたらしく、自分で背中に回復魔法をかけてた。
私も顔だけは守ったけど、全身が痛い。
纏うタイプの結界は、決して鉄の石を貫通させない。
でも、薄く柔らかい結界だから、全ての衝撃を吸収出来る訳ではないのだ。
きっと沢山、青アザが出来たと思う。
撃たれながらも、負傷者を守りながら搬送していレオンが一番酷かった。
顔は腫れて、鼻は折れていた。
「アス姉は平気?」
「うん。多分、足にアザが出来ているわ。お風呂で治すから大丈夫」
良かった。
姉の可愛い顔に傷を付けた日には、部品一つまでバラバラにして破壊してやる。
「あの……、一級冒険者パーティのエッジ・シーカーの方々ですよね?」
姉と私に、そう声をかけてきた人達がいた。
チャールズとレオンがスッと、近づいて前に立つ。
「すみません。声を落とします。敵ではありません。我らも冒険者パーティです。冒険者組合の依頼で任務に当たっています」
冒険者。
確かに身なりは冒険者だ。
全身が魔獣の革だ。
上半身は毛糸のセーターを中に着込んでいる。
暖かそうな帽子も毛糸だ。
赤、青、黄色。
色違いの帽子を被っていた。
足は重厚なブーツ。
背中には大きなナップザック。
剣を挿しているけど、クレールモンにいそうな山登りハンターみたいな格好だ。
「あれ? 三つ子?」
よく見ると同じ顔立ちの青年達だった。
二十代後半の男の人が三人。
同じタイミングで、同じ様な顔をして、ニカっと爽やかに笑った。
真ん中の赤い帽子の人が話す。
「はい。三つ子の冒険者パーティ、シグナル・ライトです。普段はセラーノで活動している二級冒険者パーティです」
シグナル・ライト。
信号機かい。
それで、赤、青、黄色か。
あれ、この世界に信号機なんて無いな。
同じ事を思ったのか、チャールズとレオンが剣に手を当てて問うた。
「どうして、僕らの事を?」
「あ、警戒しないでください。俺らは使徒でもあります。終末の使徒から、皆様の殺害指示も女神から受けました。あ!ちょっと待って!話は最後まで聞いて!」
剣を抜いたレオンに向かって、両手を前に出して、待ってくれアピールをしている。
三人同じ姿だよ。
ウケる。
「冒険者組合からは、エッジ・シーカーがいた場合は協業する様にも言われています。エッジ・シーカーの見た目は詳しく聞いていました。その名前と特徴も……」
私達はいつもの格好をしている。
女性陣は一風変わった帽子を被っているし、マントもお揃いだ。
確かに知っている人はすぐに判るだろう。
「終末の使徒の一味とエッジ・シーカーが同一人物だとは、港の戦いで判りました。その……、マルコ・モレノとの戦いを見ておりましたので」
「マルコ……? 誰だっけ?」
「ララちゃん、あの盲目の剣士だよ」
「はい。マルコ・モレノとラファエル・モレノ。盲目の剣士と火神の使徒の二人の追跡、可能ならば捕縛か殺害。それが冒険者組合からの依頼です」
「なるほど。それで、終末の使徒とエッジ・シーカーの繋がりを知ったと。ちなみに、その件は秘匿しているんだ。女神にも知られていない。それで、僕らを女神の指示を受けて殺害するのかい?」
「とんでもない!俺らはただの冒険者です。女神教の信者でもない。一級冒険者として、各国の人達を助けてきたパーティをリスペクトしています」
「なるほど。それで、ララ達と協業したいと。一つ、ララに教えて。シグナル・ライトってパーティ名は女神が付けたの? 赤、青、黄色。そのパーソナルカラーも?」
「え? 女神から?」
「うん。最初に女神像に参拝した時に、神託があったの? シグナル・ライトって、この世界にはない機械の名前だよ。その三色が自動的に切り替わる機械」
「え? そうなの? 俺らは女神像の謁見ってしていないんだ。この国には無いし、隣国に行くのも大変だし……」
そんな事もあるんだ。
まあ、カスティリオ王国には本物の女神像はない。
隣国のセレニカーナ王国かアル・ナジール王国まで行く必要はある。
「じゃ、どして、その名前?」
「あ、このパーティ名はナタリア女王陛下とカタリナ宰相に謁見した時に付けて貰ったんだ。二人とも楽しそうに、俺らを見て笑ってさ……。パーティ名と、この色を付けろと……」
彼らは互いを見渡して、照れ臭そうにした。
ナタリアさんかカタリナさんは、前世の記憶持ちなのかな。
どちらにせよ、ユーモアに溢れている人達みたいだ。
「了解。じゃあ、友達になろう。まずは、どこかで落ち着いて情報交換したい」
「良かった……、男の子達も、剣から手を離して。ホント、敵じゃ無いから」
メインで話すのは真ん中の赤い子の役割みたいだな。
両脇の青と黄色の子達は、リアクション担当。
二人でシンメトリーに反応する。
まるでコントみたいだ。
「ふふ。では、シグナル・ライトの御三方、宜しくお願いしますね」
姉が微笑んで前に出て来たところで、チャールズとレオンは身を引いた。
姉が右手を差し出して握手する。
上陸して早々、大事になった。
沢山の死者も出た。
この人達は、ある意味、私たちの身代わりでもあると思う。
私達は三人の信号機達と共に、惨劇の舞台を離れた。
市場は未だ喧騒に包まれている。
多くの人は嘆き悲しんでいた。
唯一良かった事と言えば、三人の友達をゲットしたと言う事くらいである。




