アル・ナジールの終末と再生
「ララ様!」
西側に侵攻してきた、首都カリーム・アーバの憲兵一万は片付けた。
大橋も結界で塞いだ。
さぁ他のところに支援に入ろうと門の近くまで歩いていくと、伝令が走り寄って来た。
「西側は終わったよ。南と東は?」
「南はララ様に張ってもらった結界のおかげで、外壁の手前で撃ち倒せています。問題は東」
「どんな?」
「五分五分……。いや、少し押されています」
「分かった。ララが行く」
「ララ様、西は?」
「もう終わったよ。一万人片付けた。橋も塞いでおいた」
「え……、え?」
説明する時間も惜しい。
街を横断する道を走る。
途中でフローレンスがいる救護エリアの横を通った。
既に沢山の負傷者がいた。
列に並んで待っている人もいれば、
雨に打たれて、地面に横たわっている人もいた。
多分、何人かは亡くなっていると思う。
これは、ホントに東がピンチなのかも。
頼む、フローレンス、もう少し踏ん張っていてくれ。
「ララ!」
後ろから、足をビチャビチャ音立てて、大司教のオジちゃんが駆け寄ってきた。
「西は完了。今から東に行く」
「そうか……。ワシも行く。ここが正念場だ」
「違うよ。正念場はもっと先にやってくるよ。大丈夫。ドンと構えて待ってて」
「女子供に戦わせて、椅子にふんぞり返れる訳がないだろう!」
私は足を止めて、大司教と向き合った。
その身体に結界を纏わせる。
右手を差し出して言った。
「わかった。オジちゃん、手を繋いで」
「ふっ。なんだ? 急に怖くなったのか?」
「違うよ。手を繋いでいないと、オジちゃんまで地の底に堕ちていっちゃうから。絶対にララから離れないでね」
手を繋いで走る。
周りからみたら、子供がパパに手を引かれて逃げているように見えるかもしれない。
私の方が一歩先を走っているように、頑張って速度を上げる。
歩幅が違いすぎるよ。
頑張って倍の速度で足を回転させた。
※
二人で、ハァハァ言いながら、東の門を潜った。
少し先の街道沿いで大乱戦が繰り広げられていた。
遺体が、至る所に転がっている。
どんなに犠牲者が出ていても、
走りながら説明した通り、進めるしかない。
オジちゃんが息を整えて、大きな声で叫んだ。
「イフラシア兵! 門まで後退! 女神の使徒がやってきたぞ! 門まで後退せよ!」
低く重い大声が、雨を切り裂いて響き渡った。
少しずつ、撤退が始まる。
「アル・ナジールの憲兵に告ぐ! 西の大軍は壊滅した! 首都カリーム・アーバの憲兵一万は壊滅した! 撤退せよ! 我らは追わぬ! ただ向かってくるものは容赦をせん! 命の選択だ! 選べ!」
多くのイフラシア兵が戻ってきた。
門のところで、武器を構えている。
何名かは負傷者を担いで帰って来た。
ようやく、最後尾が見えてきた。
チャールズとレオンが、味方を撤退させるために、敵を牽制している。
撤退する味方の背中を襲い掛かろうとする敵を、チャールズが加速して斬りつける。
レオンは大盾で押し込んでいた。
「よし。オジちゃん。行くよ」
私たちは手を繋いだまま前に進む。
別の空間に繋がる入口を私達の周囲に張り巡らせた。
近づくものは、全員堕ちていくはずだ。
「レオン、チャールズ、もういいよ。ありがとう。ララに近づかないで。大廻りして門まで戻って待機」
二人とも、私がやっている事が、何となくは分かっているのだろう。
かなり離れたところを通って戻っていった。
もうこの辺は死体だらけだ。
歩くたびに、落とし穴の範囲に入った死体が、ズルっと堕ちていく。
まるで、地獄に引き摺り込まれている様に見えた。
「さあ。選べ」
雨が止んできたみたいだ。
水溜りに跳ねる水滴が減ってきた。
大司教は、さらに声を落として、前方にいる憲兵に声をかけた。
「さあ。選べ」
彼らからすると、大司教は敵の大将首だ。
その自分たちの敵の首魁が歩いてくる。
スラリとした長身。
豪奢な司祭服。
浅黒い肌に鋭い眼光、高い鼻、白い顎髭。
国王陛下が討伐の勅命を出した異端者の首魁は、間違いなく、この男だ。
それが、無手で、小さな少女の手を引いて歩いてくる。
この首を落とせば、自分たちの勝ちだ。
この首を持って帰れば、大金星。
憲兵隊での昇格、昇給が見込まれるだろう。
そんな欲望と、彼らは今、戦っている。
その戦いに勝てるかが、彼らの命の選択となる。
さあ、選べ。
「「「ウワァー!!」」」
欲望に勝てなかった何名かが突撃してきて、
闇に消えた。
さらに何人も、何十人も続く。
一斉に襲い掛かり、その全てが闇に飲み込まれ、消えていった。
「これで、其方らにも、女神様が何を選択したかは分かっただろう? 真の神敵がどちらか、分かったはずだ。其方らはどうするのだ? さぁ選べ」
国の教会のトップ。
大司教様がそう言って、ノシノシと近づいてくるのだ。
お前らの剣は、俺には絶対に届かない。
威厳ある立ち姿が、それを醸し出している。
神敵はどっちだ?
彼らの心の中に迷いが生まれていく。
実際に襲いかかった人達は皆、
地獄に引き摺り込まれる様に消えていくのだ。
足が消え、
身体が消え、
剣を振り上げた手が最後に残り、
叫び声と共に、全てが飲み込まれていった。
流石に怖いだろうと思う。
その手を繋いだ私はどう見えているのだろうか。
さながら、悪魔の使徒に見えているのではないか。
「お、お、俺は降りる! もう戦わない!」
最初にそう言った人が、最も勇気のある人だ。
武器を捨てて、走り出した。
脱走者が一人出ると、あとは雪崩のように戦列は崩れるものだ。
俺も俺もと、全員が武器を捨てて走って逃げて行った。
敵は、もういない。
道の端に死体が折り重なっているだけだ。
私は、落とし穴魔法を解除した。
彼らが木々の間に延びた国道を走っていく背を、私はただ眺めていた。
「雨が止んだな」
大司教は空を見上げて、ボソっと呟いた。
「あ、本当だね」
「ララ。この国の民を代表して礼を言う」
「ううん。その礼はララに良くしてくれた人たち、この国の人たちに言ってあげて」
「そうだな。その者たちは、きっと大きな見返りを期待していなかったのだろう。その小さな善意が人類を救う結果に繋がるのだろうな」
「オジちゃん。一万人と何百人の憲兵さんが、ララの空間に収納されている……。これ、どうしようか?」
「ん? は?」
歩きながら、説明した。
落とし穴の向こう側を。
異空間に収納しただけであり、
一万人を生きて戻す事も出来る事を。
大司教閣下は、大笑いしながら、東の門を潜った。
その声は大きく、雨が上がった街に響き渡った。
※
私達は休むことなく、首都カリーム・アーバへ逆侵攻した。
率いる憲兵隊は百名。
それで十分だ。
カリーム・アーバを占拠したのち、治安維持が出来るだけでいい。
どうせ首都の憲兵は空なのだ。
戦いはもう無い。
姉とフローレンスはイフラシアに残した。
治療が必要な負傷者が多かったのと、大司教不在の間のリーダーが必要だった。
そのリーダーは、大司教が任命した。
「アストリッド、留守を頼む。皆の者、エッジ・シーカーのリーダーの意に従え」
あの声で、そう言われて反論する人はいない。
もとより、この数週間で、姉の信用はとどまることを知らずに上がり続けていた。
首都カリーム・アーバの軍勢が持ち込んだ馬と兵站は、全てそのまま活用させてもらった。
百人の憲兵は彼らの馬に乗り、彼らの食料を食べて飲んだ。
夜は道中の村や町の教会で休んだ。
もう、そこにも憲兵はいない。
もちろん、私たちと大司教は空間部屋で寝たけど。
通過する町や村で、大司教は歓迎されていた。
どこに行っても、多くの民が集まって、彼を迎え入れてくれた。
イフラシアに逃げる時には、隠れるように移動していたから、分からなかった。
彼は民から熱烈に支持されていた。
薄汚れた身なりの、泥だらけの子供を抱き上げて、頭を撫でた。
足腰が弱った老婆が会いたいと言えば、バラック小屋を訪れて話をした。
彼らの話を辛抱強く聞いて、彼らと共に粗末な食事を食べた。
彼らの手を握り、必ず、皆のために未来を良くすると誓っていた。
そして、それは、首都カリーム・アーバでも同じだった。
憲兵がいなくなった門は、自由に出入りできるようになっていた。
私たちが門を潜ると、多くの教会関係者が集まってきて、拍手で迎え入れられた。
そのうち、民が沢山集まり、『ナスル閣下! ナスル閣下!』の大昌和が湧きおこった。
何だよ。
超人気じゃん。
何の問題もないじゃん。
そう私は独り言ちた。
多くの民を引き連れる形で王宮へと向かった。
王宮の門に辿り着くと、彼は民に向かって、大きな声で告げた。
「王国を終わらせてくる! 民よ、ここまでワシを連れて来てくれたこと、礼を言う!」
そう言って、いつもの様に胸の前で、手を合わせて礼をした。
私たちは大きな拍手に送られて、王宮の敷地に入った。
憲兵隊百名は王宮の門に残した。
沢山の民を王宮の中に入れる訳には、流石にいかない。
そこから先は私達だけが同行した。
王宮の敷地を私達は歩いた。
緑の芝生。
高い樹木。
大きな公園のようなエリアが続いた。
水路に水が流れているけど、噴水は止まっていた。
「あれ? 人が誰もいないよ? 皆逃げた?」
王宮の敷地を歩けど歩けど、人っ子一人いない。
贅沢な敷地は、まるで私たちのためだけに存在している様だった。
隣の大司教からは、大きな溜息が漏れ出た。
「五年。ワシが陛下と会わなくなって五年だ。少しずつ王宮で働く者が解雇されているのは知っておった。長く務めた王宮執事や侍女の姿も見なくなった。もう憲兵隊隊長以外は、陛下の離宮に行く者はおらんからな。何が起きているかも分からんかったが……。まあ、そうなのだろうな」
大司教は長身を沈めるように背を丸めた。
肩を落として、先を歩く。
見たくない現実を、ただ確認するために歩いた。
色々な建物があったが、目指す先は、最も大きな建物の様だった。
黄金の塔を持つ建物だ。
尖ったアーチや、大きなドーム型の形状をした金色の尖塔を持つ、ひと際大きな建物だ。
王の離宮まで進む。
扉は閉鎖されていた。
レオンが何度もぶつかって、ようやく大きな音を立てて扉が外れた。
ドン!
大きな音を立てて、巨大な両開きの扉が向こう側に倒れた。
埃が盛大に舞い上がった。
全く掃除が行き届いていない。
一歩足を踏み出すだけで、埃が舞う。
室内は暗く、窓には全て板張りが打たれてあった。
大司教は先に進んだ。
広い廊下を抜け、奥の階段を登る。
階段の窓も酷く汚れ、隅には蜘蛛の巣があった。
虫の死骸が、沢山落ちていた。
もう、とっくに殺されちゃっていたのだな。
いつだろう。
私が女神と縁を切って、一年ちょっと。
そのずっと前から、女神は憲兵に、この国を支配させていたのだろう。
神託と言う名で、直接支配をしていたのだろう。
王様の執務室の扉にも鍵がかけられていた。
レオンが体当たりで扉ごと壊して入る。
積み上がった埃が空気中に舞い上がった。
窓を塞いだカーテンの隙間から陽が差し込み、舞い上がった埃に反射した。
椅子に座っていたのは、骸骨だった。
豪奢なローブを着た骸骨だった。
これが、多分、王様だと思う。
床に小さな自動機械が転がっていたから。
「陛下……」
胸の前で手を合わせて、大司教は黙祷した。
長く長く黙祷していた。
「もう数年前には亡くなっていたんだね」
私は床に落ちた自動機械を拾い上げた。
床に、黒ずんだ痕が、血痕の痕が広がっていた。
「ローブの血の跡を見る限り、喉を切り裂かれたみたいだね……」
「まあ、そうだろうな。アフマド・サイード。憲兵隊隊長だろう。彼くらいしか、この部屋には入れん」
「王妃や御子様は?」
「二人とも既に鬼籍だ。不慮の事故でな。思えば、そこから少しおかしくなっていったのかも知れぬ。本当に事故であったかも、今となっては疑わしいな」
「国王の命令書ってのは、印鑑があれば有効なのかな。机には無さげ。憲兵隊隊長の部屋も捜索した方が良いね」
「まぁそうだな。あとで行こう。ただ、もう国は滅んだ。いや、滅んでいたのだ。その印も不要だ」
憲兵隊長の執務室は王宮の最も手前にある。
憲兵の塔と言われてる建物だ。
私達は、最奥の離宮から、門の方まで来た道を引き返していった。
「オジちゃん、覚悟は出来てるの?」
「どの覚悟だ?」
「国を背負う覚悟」
「アストリッドに言われた。ララ、其方と出会った。それが答えだと」
「ん? どういう意味? いつ言われたの?」
「初日だな。出会って、この街を抜け出した初日だ。アストリッドに書庫を案内された時に言われた」
「ララは意味が全然わからん」
「政治の本を幾つかピックアップして渡された。政治体制の分類と違いを学べと。ララと出会ったということは、真の女神様は既にそれを貴方に求めているという事だと」
「怖! アス姉、怖いよ。偶然の出会いに運命的な意味を持たさせるのは危険」
「ふっ。まあ、結局は人が、自分自身で解釈して選ばないといけない。それは分かっている。ララ、先程の質問の答えだが、其方の空間部屋で覚悟を決めた。元々は死ぬ覚悟をしていたのだがな……」
「分かったよ、オジちゃん。ララがやれる事は手伝うよ。あの子達を救ってあげて欲しい」
「ああ。分かっている。ララに頼む事は少なくする。甘えてはならない。もう十分、助けてもらった。今日のところは、あと一つだけだな」
「なに?」
「まあ、まずはアフマド・サイード憲兵隊長の執務室に行くぞ」
最奥の離宮が最もひどい状態だった。
ほぼ、外交もしていなかったのだろう。
迎賓館の様な場所も、宿泊施設も全てが閉鎖され、荒んだ状態だった。
一番手前の憲兵が使っていた塔に入る。
一階は食堂や会議室の様だった。
私達は最上階へ向かう。
おそらく、隊長の部屋は一番上だろうと当たりを付けた。
最上階、最奥の部屋。
かなり大きな部屋だった。
手前部分は書類棚になっており、綺麗に分類されて沢山の書類が並んでいた。
「ララちゃん、これ、全て個人データだよ。地区、街毎に分類されていて、調査された個人の情報が記載されている」
「なるほど。凄い読書家だと思って見直したけど、ただの悪趣味なゴシップ記者だったってことだね」
「まさに。誰と浮気してるとか、保有している資産とか、最近の大きな買い物とか……、ヤベーよ」
「マーケティングはバッチリってことだね」
「それらは後で焼却処分させないとな」
「建物ごと火を付けた方が良いよ」
「そうだな、そうしよう」
超特大の金庫室には大量の金貨。
国庫はここで管理されていたという訳だ。
これは燃やす訳には行かない。
大司教の指示で、私が一時預かりした。
「ララ、大司教様、これが王印ですかね?」
「レオン、ナイス。それだよ」
「ララ、こっちには興味深い物があるぞ。隣国カスティリオ軍最高司令官リカルド・エスコバル将軍との書簡だ」
「クーデター野郎とやっぱ繋がっていたか」
「ああ、一番最初は五年前だな。女神の指示で情報交換を始めたみたいだな。これは後でゆっくり読もう」
重要そうな書類だけピックアップしていく。
その作業だけで、三時間要した。
「ララ、この建物を燃やす前に、今日の頼み事を先に伝えておきたい」
「うん。いいよ」
「王宮と教会。其方は、見てどう思った?」
「嫌い。自分たちだけキラキラ着飾っていてキモい。広場の向こうには、パン一つ食べられない人がいるのに」
「その通りだ。この権威の象徴の建物を壊したい。ララ、頼めないか?」
なるほど。
凄い時間をかければ、塔単位で収納することは可能か……。
倉庫に眠っているエネルギー鉱石を使って、魔力量を上げるとか。
出来ないことはないけどな……。
「ララちゃん、女神の攻撃でセレニティアの教会は一撃で崩れたじゃん。あれって、建物を支えてる柱と壁が壊れたからだと思うんだよね」
「ん? チャールズ、どういうこと?」
「全部を壊したり、全部を収納する必要はない。土台や柱、支えている壁を一部だけ壊せば、勝手に崩れる」
「なるほど。オジちゃん、瓦礫はどうするの?」
「スラムの民に報酬を与えて片付けさせよう。良い公共投資って奴だ」
「ララが出してもいいよ。お金持ちだよ」
「ハハハ! 女神の恵みか! まぁ、少しで構わん。女神の公共工事と銘打てれば十分だ。あの金庫の金を俺も使うさ」
火を着ける前に、建物を支えている柱ってどれだろうかと、魔力を展開して調べてみた。
この塔の場合は、四隅の柱のようだ。
この国のコンクリート造の建物は鉄筋が組まれているんだな。
この建物だけかな。
鉄筋を除去しちゃうとか。
あれ?
「オジちゃん、隠し部屋がある。この壁の向こう」
魔力を展開して違和感に気づけた。
小さい部屋が、書庫の奥に隠されている。
チャールズとレオンが色々調べ始めた。
床から潜り込むように、向こう側に抜けられるようになっているみたいだ。
私は余裕だけど、男の人はギリギリ通れるくらいの大きさだ。
私が先に向こう側に行ってみたけど、大人一人分のスペースしかない。
一旦、棚ごと収納してから、戻って、皆で調べてみた。
「暗殺記録……だな」
「王様と家族もだね。他にもいっぱいいるよ」
「馬鹿だな、何でこんなものを取っておいたのだろう」
「殺人犯のコレクションとか?」
「分からんが、証拠として確保だ」
※
王宮にある全ての離宮、塔を崩した。
柱の一部だけを収納魔法で切り取るだけで、建物はバランスを崩して崩壊する。
本当にちょっとで良いのだ。
そのうちに、どの角度で、どれくらい切り取れば、真下に崩れていくのかも学んだ。
建てるのは本当に大変なのに。
多くの時間、多くの人手、お金だってかかる。
でも、壊すのは、簡単で、あっと言う間だ。
この建物たちが、いつ頃建てられたものなのかは分からない。
憲兵の塔はかなり新しかった。
逆に最奥の王様の離宮は、建て方も古い感じがした。
歴史的な建物だったかもしれないけど、
どうせ形あるものはいつかは壊れる。
だとするならば、意味のある壊し方をした方が良いのかもしれない。
王宮を壊し、
教会を壊す。
それは、この国にとって、必要な儀式なのだ。
過去との離別。
過去の破壊は『再生』の第一歩なのだから。
私が王宮を壊している間に、教会の関係者たちが、教会から色々な備品を広場に出してくれていた。
集まった民たちも、一緒になって手伝ってくれていた。
女神像はそのままにしておけって言いたくなったけど、
司祭の人たちが必死になって、大事そうに広場の真ん中まで運んでいた。
王宮の解体経験を活かして、上手に崩すことが出来た。
真下に積み木崩しのように、教会は崩れて行った。
セレニティアの教会は、女神に壊されて、私たちも一緒に瓦礫に埋もれた。
多くの人たちと一緒に瓦礫に埋もれた。
瓦礫の小山の上から見た風景を、私は、私たちは忘れられない。
あれは、絶望、そのものだった。
地獄の景色だった。
今、カリーム・アーバの教会が目の前で崩れて行った。
あのステンドグラスも、綺麗な絨毯も全て瓦礫に埋もれた。
でも、広場に集まった人たちからは、拍手と歓声が起きた。
大きな声で、『ナスル閣下! ナスル閣下!』と連呼されている。
皆の顔は、喜びに満ちていた。
『再生』に向かう希望に満ちた顔だった。
「今! 終末の使徒ララ・スティエルナの力を借りて! アル・ナジール王国は滅亡した! この国は再生される!」
サミール・ナスル大司教が、いや、サミール・ナスル国家元首が声を上げた。
いつも通りの声。
低く心に直接響き渡るような声だ。
「今日から、この国はイフヤ共和国となる! 民よ! 勝鬨を上げよ!」
「「「「ウォーー!!」」」」
おめでとう。
オジちゃん。
でも、ここからが正念場だよ。
『再生』の名を持つ国だからね。
本番はここからだ。




