大雨のイフヤ大河での戦い
サミール・ナスル大司教は、この街では『閣下』と呼ばれている。
大司教閣下という意味なのだろうが、よりリスペクトの念が籠められているように感じた。
十人ほどのリーダーが既に存在しており、その人たちを中心に街は運営されていた。
憲兵隊、教会、商家、農家等々と幾つかの責任担当エリアが決められているみたいだ。
姉も、その責任者が集まる会議に参加していた。
外壁が完成したこともあって、主に北部から様ざな人が集まってきていた。
首都カリーム・アーバからも多くの人が移住してきている。
未だ街の運営が安定している訳ではない。
大司教が合流したこともあって、各分野の責任者が集まって、日々、まつりごとを決めていく必要があった。
この街の小さな教会の二階。
フロア全体を活用した大会議室が、責任者会議の場所だ。
大司教のオブザーバー的な扱いのようだが、常に閣下の横に控える姿を見る限りは、有能な秘書、もしくは王妃の様にも見えた。
美味しい御馳走と、大司教の書庫閲覧はトーレドオフの関係だったと思うのだけど、
いつの間にか、歓待されている分、私たちも働かないといけない気がしてきた。
これも、閣下の人徳なのかもしれないけど。
フローレンスは教会の中に、治療院を開設した。
専属のシスターが付いてくれて、毎日そこで美しい女医さんの役をこなしている。
大司教が全員の健康診断を義務付けたので、連日長蛇の列である。
イフラシアには現時点でも三万人ほどの人口がいるらしい。
三万人の健康診断が終わるのは果たして、いつの日か。
どれだけ、ここに滞在させるつもりなんだよ、と私だけが呟いた。
チャールズとレオンは憲兵隊と一緒に訓練したり、近隣の街の教会から自動機械を回収してきたりしている。
姉は前述のとおりだ。
私も頑張っている。
もちろん、大きな手術や重症患者の診断時には、フローレンスを手伝ってもいる。
それとは別に、私は農家さんの手伝いと指導を中心に活動していた。
今後のことも考えて、薬草の種も各種提供した。
とにかく雨が多い土地柄なので、治水の仕組みを丁寧に作る必要がある。
下手したら畑が、冠水してしまうから。
盛り土をして、畑自体の高さを変える。
必要に応じて、畑の位置を空間魔法を使って移したりもした。
畑の下に排水設備を埋め込んだり、
雨水を大河まで流し込むための、水路も作ったりもした。
結局、閣下の思惑通りに、二十日間も、イフラシアの街づくりの支援活動を続けてしまっていた。
イフラシアで生活が始まって、二十二日目の夕方のことだったと思う。
早馬による報告が届いた。
ただちに責任者会議が招集され、姉と大司教が空間部屋から出て行った。
ちなみに、大司教は質素だが広い邸宅を持っている。
しかし、彼は寝る時以外は、この空間部屋で過ごすことが多い。
大司教の邸宅には、私たちに与えられた部屋がある。
私は、そこに空間部屋への裂け目を常時出していた。
皆、それぞれがバラバラで動いているし、忙しいのだ。
好き勝手に出入りできるようにしておいた。
大司教も自宅にいる時は、概ね空間部屋に入り、書庫の本を読んで過ごしている。
大司教の執事長だけが、この存在を知っており、緊急時にはこうして呼びに来ることになっていた。
執事長が呼びに来たということは、何か緊急で議論しないといけないことが起きたのだろう。
しばらくして、私たちも執事長に呼ばれることで、相当な問題が起きたのだと理解した。
教会の二階にある大きな会議室。
上座には大司教と姉。
左右に各責任者が別れて座っていた。
私たちは、後ろの方の席に案内されて座った。
「エッジ・シーカーの皆も来てくれた。もう一度、早馬による報告を繰り返す」
報告したのは、この街の憲兵隊の責任者、隊長さんだ。
報告内容を聞いて、私は、まぁやはり、そうなるよな、と感じた。
アル・ナジール国王陛下より勅命あり。
『北の異端者の街を討伐せよ。元大司教サミール・ナスルを討伐せよ』
その勅命をうけて、首都カリーム・アーバより憲兵隊一万が侵攻開始。
同時に南部憲兵隊各地区へも出陣命令有。
そんな報告だった。
一万人がどの程度の戦力なのかが分からない。
どれだけの本気度なのかを確認したく、最初に私が質問した。
「一万人って、カリーム・アーバにいる憲兵さんの何割くらいなの?」
「ララ様、全軍です。つまり、国王陛下は全軍にて、イフラシアをすり潰せと命令したということです」
なるほど。
もちろん、イフラシア側にしても、憲兵隊との戦闘は十分に想定されていたことだった。
そのために、この街の憲兵隊は訓練していた。
いつかは、内戦になるだろうと、外壁も作った。
あれは、私たちが来て、数日後の事だったと記憶している。
偵察の憲兵が近くで目撃されたという情報も上がっていたのだ。
敵は知っている。
この街の存在も。
ナスル派の動きも。
元々、彼らは重点的にマークされていた存在なのだから。
「ララよ。アストリッドと相談した。其方らには、やるべき事がある。それは人類全体にとって、非常に有益なことだ。この小さな街での抵抗よりも、其方らが目的を達成する方が、よほど重要だ。これはワシの指示でもあり、懇願でもある。どうか、この街をすぐに離れて、確実にやり遂げてほしい。これまでイフラシアに与えてくれた慈悲と支援。重ね重ね、礼を言う」
大司教が立ち上がって、胸の前で手を合わせた。
それを見て、責任者たちも後に続く。
「うん。ありがとう、大司教のオジちゃん。もう少し教えて。この街の兵隊さんは何名だっけ?」
「ん? 総勢三千だが……」
「隊長さん、首都から一万。南部からは五千人くらい?」
「は。バハール・シティから出陣しないのであれば、三千から四千程度だと思われます」
このイフラシアは、主にアル・ナジール国の北部の人達が集まった街だ。
北部に配属されていた憲兵は、ほぼ、ここに集結している。
その数が三千。
首都と第二都市以外の南の憲兵は、北部より多いと言う。
全ての地区の全憲兵を遠征させる訳には行かないだろうしな。
全部で五千人いたとしても、出陣は三千から四千程度というのは妥当な推測かもしれない。
そもそも、首都カリーム・アーバから、全戦力を向かわせるというのが、異常なのだ。
「うん。決めた。ここで戦うよ」
「「は?」」
「「「え?」」」
責任者の人たちは、驚いた表情を浮かべている。
大司教は目を大きく広げた後、下を向いて口角を少し上げて笑みを漏らした。
姉が、私はきっと、こう言うだろうと彼に伝えていたのか。
やはり、そうなったか、という感じの表情を浮かべた。
仲間たちもウンウンと頷いている。
もう一つ後押しをしておきたい。
ここで士気を下げるのはダメだ。
これは勝ち戦だ。
わざわざ後手を踏んで負けて上げる必要はない。
「みんな、これはチャンスだよ。ここで一万をやっつければ良い」
「いや、ララ様……。一万を倒すのは……。頑張って守り切るのが関の山です」
「それに、一万倒しても、まだ三千はいるのです……」
「籠城しましょう。そのための食料も持ち込んでいます」
「そうです。閣下、我らが駆逐されても、我らの遺志は残ります」
責任者の人たちは随分と後ろ向きだ。
四倍の敵。
それに慄くのは分かる。
でも、戦争って数だけで決まるものでもない。
「いや、出来るよ。一万、やっつける。そして、首都カリーム・アーバの王宮に逆侵攻する。オジちゃん、あのスラムの子たちが救えるよ。ララは、あの子に、首を吊るされちゃった女の子に恩を返していない。あの子は……、もう死んじゃったけど、貰った恩は返す」
「逆侵攻?」
「ララ様! 何を!」
ガヤガヤしてきたな。
大司教が一喝した。
そして、私に問うた。
「ララ。案があるのだろう? 教えよ」
「首都カリーム・アーバからの戦力は全軍。一万人の全てを投入して、すり潰すつもり。つまり、堂々と真っすぐやってくるよ。負けるとは微塵も思っていないからね。統一街道と国道を軍の威厳を示しながら行進してくるはず」
「ふむ。間違いないな。続けよ」
「彼らは西のイフヤ大河の大橋を渡って来る。それはララ一人で良い。一万人の相手はララ一人でやる。伝令さんだけ一人貸して頂戴」
「「「「「はあ?」」」」」
「この街の憲兵はどう使う?」
「弓兵は南側。あの丘を登って来る憲兵がいたら、対応してほしい。アス姉も付ける。北側は大河に護ってもらっているから放置。だから、だからね、この戦いの勝負は東側。東側が勝負を分けるポイント。全戦力をそっちに向けよう。三千対三千だよ。一対一で勝て。それだけで、あのスラムの女の子を、みんなを救えるんだよ。チャールズとレオンを付ける。彼らは強いよ。倒れないからね。二人とも頼んだ」
「おうよ」
「承知」
ザワザワと議論が始まった。
一対一なら、絶対に勝って見せると隊長さんが言う。
他の責任者は、そもそも西から来る一万に街が蹂躙されてしまうと嘆いている。
大司教は私に向けて、その先を続けよと目で訴えている。
周りの雑音は放置して、先を続けた。
「広場に救護エリアを作る。負傷者を即時搬入するのは憲兵じゃなくても出来る。フローレンスが効率的に治療できる体制を整えて欲しい」
「やります。再生の聖女に付き添うのは、教会の役目。それは私がやります」
教会の責任者が挙手をして、自分たちはやると宣言してくれた。
農業の責任者が、自分たちは負傷者の輸送を受け持つと言ってくれる。
少しずつ、皆の気持ちが前を向いてきたのが分かった。
「ふむ。ララよ。本当に良いのか? 他国の内戦に積極的にかかわることになるぞ? 勝つも負けるも、その血を全身で浴びることになる。それで本当に良いのか?」
当然。
大司教に、そう私は伝えた。
あのカウニアの美しい大地を離れる時に、私と姉は、躊躇することを止めると決めたのだ。
この会議室に立ち並ぶ責任者の顔を見渡して、私は告げた。
私の名はララ・スティエルナ。
終末の使徒001(ダブルオーワン)。
この国の腐った政治に終末を告げに来た使徒。
でも、その先の未来を創るのは皆だよ。
この都市の名は再生。
皆は、内戦の向こう側を見据えよ。
そこが皆の真の戦いの場。
前座の試合は軽く終わらせるよ。
大司教は、手を叩き満面の笑みを見せた。
そして、立ち上がり、全員に告げた。
神託は降りた。
会議は終わりだ。
準備を始めると。
「真の女神様が遣わしてくれた本物の使徒だ。その慈悲の心は、皆、良く知っているだろう。我らは使徒を信じて戦うぞ。使徒の言う通りだ。我らの真の戦いは、この内戦の向こう側にある。乗り越えるぞ」
「「「「おう!」」」」
※
南側は勝てるだろう。
問題は、弓兵で対処できないくらいの人数が、丘を登って来た時だ。
だから、外壁の外側にもう一つ結界を作った。
外壁よりも背の低い、腰の高さくらいの結界だ。
そこで、足を止めさせる。
足が止まれば狙い撃ち出来るだろう。
結界に気付いて、登って来たとしても、また外壁のところで足が止まる。
姉と相談して、このやり方でいけると判断した。
問題は東側だ。
勝負の東側。
これは、街の憲兵さんや、チャールズ、レオンとも皆で入念に話し合った。
東側の門は、そのまま国道に続いている。
国道の上に、イフラシアが建てられているのだから当然だ。
東側の国道の左右は両方とも森だ。
この森をどうするかが、話し合いの大きな論点だった。
森を上手に活用して、ゲリラ的に戦う方法もある。
逆に敵が森に潜み、散開されて戦い難い可能性もある。
イフラシアの憲兵達は、堂々と国道で迎え撃つと決めた。
一対一。
そうであるのならば、勝つ意思が強い自分たちが勝つと。
南部から来る敵の憲兵は、所詮、指示されたから戦うだけだ。
そこに彼らの強い気持ちはない。
東の門から国道を進み1マイル地点まで、左右の森を切り拓いて、少し広めにした。
自分たちで戦場を用意した。
ここに来い。
ここで戦ってやると、明確に示した。
その1マイルは、左右の森から国道に入れないような結界を張った。
森から進んできても、国道に出る時に透明な壁に阻まれる。
1マイル地点まで戻り、国道を進まないと、街の門にはたどり着けない。
東の門は、敢えて開けっ放しにした。
籠城はしない。
自分たちが突破されたら、街に侵入される。
だからこそ、自分たちは強い意思を持って戦える。
彼らはそう決めた。
※
小雨が降って来た。
イフヤ大河の大橋の前に立ち、私はコンクリートに雨が染みわたる様子を眺めた。
小さな黒い滲みがポツポツと出来て、やがて大きな滲みに拡がっていった。
幅三十フィートの橋。
自分の周りには既に結界を張り、透明化してある。
大橋を渡って来る人たちからは見えない。
門に続く道には、誰もいないように見えるはず。
しかも門は開いているのだ。
全速力で大橋を渡って、街に入りたいと思うのが人間の心理だろう。
イフヤ大河の向こう側には大軍が行進していた。
あと少しで、その先頭が大橋に足をかけるだろう。
橋の出口は結界で塞ぐ。
透明な壁に阻まれて、誰も橋を渡り切ることは出来ない。
イフヤ大河は今日も急な濁流が流れている。
何を浄化してきたのか、酷く汚れた水だ。
大橋を渡れないからと言って、ここに飛び込む愚か者はおるまい。
私は地面に手を置き、魔力を薄く長く、大橋の表面に広げていった。
幅三十フィート。
長さは千……。千五百フィートくらいか。
橋の奥まで頑張って延ばす。
時間をかけて一度張ってしまえば、後は維持するだけだ。
魔力消費は多くない。
あともう少しだ。
おそらく、一度に三千から四千人は、大橋を渡れると思う。
大橋に乗る最大人数はそれくらい。
それを一度に収納するつもりだ。
数千人の収納は、流石にやったことがない。
時間をかけて、魔力を薄く、長く、広げていった。
一気に収納することが出来るのであれば、それを三回ほど繰り返せば良い。
うん、この辺かな。
広げた魔力が、大河にかかる大橋を渡り切った。
顔を上げて、行進してくる大軍を目視した。
先頭が私の結界の前に到達して、そこに透明の壁があることに気づいたようだ。
数人で壁をペタペタ触って、後ろに何かを伝えている。
それでも、すぐに行進が止まる訳ではない。
もっと前に詰めろ。
出来るだけ多くの人が大橋に乗っている方が良い。
雨足が強くなってきた。
地面を叩く音が大きくなっている。
この辺かな。
そう思ったところで、大橋に展開した魔力を、上に持ち上げた。
大橋に乗っている全員を魔力で掴む。
少し、魔力を増やして強化した。
えぃ!
出来た。
大橋に乗っていた数千の憲兵が一気に消えた。
大橋の向こう側がザワザワしている。
大河に落ちたのかと、探し始めてもいた。
分かる訳がない。
しばらくして、また大橋を渡り始めた。
今度は行進ではない。
全員が剣を抜き、臨戦態勢で進んでくる。
でも、先ほどよりも、表情に余裕がないし、進む速度も落ちているよ。
「透明の壁がある!」
「進めないぞ!」
「とまれ!」
最前線にいた憲兵が壁をペタペタ触り確認し始めた。
それでも、大橋を渡る憲兵は止まらない。
えぃ!
二回目。
同じくらいの数、収納出来たと思う。
あと一回で終わるのかな。
向こう側には、未だに沢山の憲兵の姿が見える。
残り人数が分からないな。
流石に、同じ事は繰り返さないみたいだ。
何名か少ない人数でやってきたけど、
しばらくすると、誰も渡ってこなくなった。
まあ、そうだよな。
原因が分かるまで様子見するだろう。
雨が激しい。
向こう側まで見通せなくなってきた。
じゃ、今度は私が渡ろう。
トコトコと大橋を渡る。
大橋の前に部隊は整列しているみたいだ。
いつでも、号令がかかったら走れる様に剣も抜いている。
大橋に罠が仕掛けられていることは彼らも理解しているだろう。
全速力で駆け抜けようと、精一杯の準備をしていた。
あの、遥か奥に設置されている大きなテントが指揮所かな。
大橋に展開していた魔力を歩きながら延ばす。
大橋の対岸の向こう側へ、魔力の絨毯を移動させていく。
それだけずっと同じ場所に立ち止まっていてくれれば、出来ちゃうよ。
大橋を渡り切る前に、残っていた部隊全員を収納した。
大橋の向こうには、もう誰もいない。
あの指揮所だけだ。
大橋を渡り切って、誰もいなくなった道を進む。
奥の指揮所に向かって歩を進めた。
雨が強い。
大河の岸辺だからか、風も強い。
横殴りの雨が、結界に当たり、流れて行く。
視界が悪い。
この雨音に紛れて近づき、そっとテントごと収納しちゃおう。
そう思いながら、歩いた。
「敵襲!」
テントから、あのクンクン女が飛び出してきた。
何だよ。匂いかよ。
あいつ、結構面倒くさいな。
クンクン女に続いて、例の二人の憲兵犬も出てきた。
他にも十人いる。
これが全部か。
憲兵犬三人は最後尾。
先に十名が剣を抜いて近づいてくる。
歩きながらも、キョロキョロと周りを見渡している。
もう少し近づけ。
この距離なら、瞬殺だ。
魔力を展開して……。
収納。
次は。憲兵犬の三人組だ。
さらに奥に魔力を展開した。
「いるわ! 離れて!」
ちっ。
匂いか。
私はチャールズじゃない。体臭はない……。はず。
足音か。
三人が散開した上に、動き回っている。
一人一人近づいて収納するしかないか。
動いている敵に収納魔法は未だ弱い。
もっと効率的な方法はないのかな。
勝手に罠にかかってくれる方法がいいな。
動き回っている敵が、特定の場所に入ったら自動的に収納される設置型みたいなもの。
あ、うん、良い案、思いついたぞ。
足を止めて、魔力を自分の周囲数メートルに集中させた。
透明魔法を解除する。
周囲を囲う結界も解除した。
姿を見せた私の周りを三人の憲兵犬が囲い始めた。
「終末の使徒ローラ・アフ・ラーズドッティルだな」
隊長さんに問われた。
他の二人は別方向に散ったままだ。
私の右後方に猟犬と言われた男の子。
左後方にはクンクン女だ。
目の前の隊長さんと話しているうちに、後ろから襲いかかって来るのか。
「違う。私の名前はララ・スティエルナ。インチキ女神に貰った名前は捨てた」
「貴様。女神様を愚弄するのか?」
「当たり前。アイツは詐欺師だからね。オジさんも騙されているよ。早く気付いた方が身のためだよ」
後ろから二人が同時に襲いかかってきた。
私の展開した魔力の範囲に足を踏み入れた途端、世界から消えた。
空間の裂け目を作れるのであれば、空間に続く穴を作ることも出来るはず。
空間に繋がる裂け目ではなく、
空間に繋がる面を作った。
異空間に続く落とし穴を作っておいたのだ。
それも大きな落とし穴を、前後左右に四つ。
行先は、この人たちだけのための空間だ。
ギュウギュウじゃない牢獄空間じゃないだけマシだと思うよ。
満足してほしい。
「貴様! 何をした! 二人を何処にやった!」
「女神が好きなんでしょ? 送ってあげたの。さて、あなた一人になっちゃったよ。一万人が一人になった。さあどうする? 降参する?」
襲い掛かって来ると見せかけて、逃亡を選ぶ。
そうだよな。
そう思っていた。
だから、もう魔力は展開済みだ。
一歩踏み出したところに作っておいた落とし穴に、隊長さんは吸い込まれていった。
イチイチ魔力で包み込んで、空間収納するよりも、地面に落とし穴を作った方が楽だし早い。
これは、新しいやり方を発見したぞ。
ふぅと一つ大きな息を吐いた。
踵を返して大橋の方向を見る。
街の外壁までは見通せない。
それくらいの大雨が降っていた。
大河の流れが速いな。
この橋を渡る以外に、西から攻める手はないだろう。
念のために、橋の入口を塞ぐ結界を設置した。
この橋渡るべからず。
橋を渡って、街に戻る。
西側一万人、討伐完了。




