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再生の街イフラシアへの逃避行


私は立ち上がって、透明魔法を解除した。

大司教と呼ばれていた男性は、階段奥に姿を現した私たちを見て、口角を吊り上げて笑う。


焼けた様な浅黒い肌。

真っ直ぐスラリと伸びた体躯。

薄い唇。高い鼻。

顎髭は白かった。

眼光は鋭く、低く響く声と共に、力強さを感じさせた。


「終末の使徒001(ダブルオーワン)ローラ・アフ・ラーズドッティルか?」


「その名前は捨てた。今はララ・スティエルナ。ララって呼んで」


「ふっ。わかった。仲間は一人か? 他の三人はどうした?」


「ララの部屋で隠れている。オジちゃんは、ララの敵? 味方?」


「どちらでもない。共通の敵を持つという意味では、手は組めよう」


「敵は憲兵? それとも王様? はたまた女神?」


「最後だけが微妙じゃな」


まぁいいだろう。

敵の敵は味方だ。

空間部屋への裂け目を作る。

チャールズが声をかけに、中に入っていった。


それを面白そうに眺める大司教のオジちゃん。

三人が出てきたところで、何も言わずに歩き出した。

ついて来いということだろう。


廊下を抜けると、広いリビングルームだった。

ソファが置いてある。

全く生活臭がしない部屋だ。

物が全然ないのだ。

広い部屋にソファ。

観葉植物が一つ。

大きな棚には何もない。


「まずは挨拶をしよう。ワシの名はサミール・ナスル (Samir Nasr)。今はまだ、この国の大司教だ。少なくとも今日はな」


ソファに座ったまま、私たちも自己紹介をする。

姉、チャールズ、フローレンス、レオン。

挨拶が終わった後、私が最初に質問をした。


「左手の甲に七十番。オジちゃんも使徒だね?」


「そうだが……。七十? これは番号なのか?」


「そう。『L』は五十。『X』は十。Xが二つある。だから七十」


「なるほど……。未だ知らぬことは多いということか。さて、誰が詳しい話をワシにしてくれるのだ。アストリッド。其方は前教皇の娘じゃろう。其方から話を聞くのが良いかな」


「はい。父とは……、その、お知り合いですか?」


「勿論だ。あまり折り合いは良くなかったがな。まあ、互いに嫌い合っている訳ではない。考え方の違いだな。じゃが、現教皇イングリッド・アフ・ハルドソン (Ingrid af Haldsson)とは犬猿の仲だ」


分かりましたと姉は答えた。

そこからは、いつもの流れだ。

ヴァルデン共和国の話はしない。

セレニカーナ王国で起きたことまでで、留めた。

そこから先は、女神の襲撃を受け漂流して、アル・ナジール王国へ辿り着いたと姉は説明した。


大司教は、ひとつ大きく息を吐いた。

眉間に皺を寄せて、目を瞑る。


「昨日の女神様の御神託は、ララ、其方か?」


「うん。教会の自動機械の回収をしていたところだった。透明魔法でちょっとした悪戯をしただけ」


「ふっ。そのちょっとした悪戯が大騒ぎだったぞ。おかげで、昨日斬られる首が繋がったままだがな。その回収した自動機械も見せてくれ。あとはワシの頭の中のもな」


自動機械は、大司教の横のスペースにドンと置く。

こうして見ても、相当大きな自動機械だ。

ソファテーブルの上に、頭の中の小さな自動機械は置いてあげた。

コロンっと音がして、転がった。


「ララも聞きたい」


「ああ。構わぬ」


「まず。私たちが五人だって、どして知っていたの?」


「終末の使徒のパーティは五人。聞いていた構成とは少し違うけどな。だが、ワシは今日の朝、あの虐殺の中、姿を晒しリスクを冒してでも、民を懸命に救う其方らを見ていた。あれは本来であれば、憲兵と教会が必死になってやるべきことだ。残念だな……。指名手配犯が自己犠牲の精神で民を救い、護るべき憲兵が虐殺犯だ。それがこの国の現状だ」


「わかった。もう一つ。あの憲兵の三人組は何者?」


アフマド・サイード(Ahmad Said)。

憲兵隊隊長。

カリム・アフマド (Karim Ahmad)。

憲兵隊特別隊員。

この二人は、異端者調査・追跡のスペシャリストだそうだ。

カリムの二つ名は『猟犬』


私と同じ歳の女の子は、選ばれし使徒。

ナディア・ジャファール (Nadia Jafar)。

視力・聴覚・嗅覚の感覚に優れており、女神像の最初の神託は「隠された悪行を見つけ出せ」だったそうだ。

何だよ、最初に隠された女神像の自動機械を見つけろよ。


「ありがとう。理解した。じゃあ。次に会ったら、ララが何とかしておく。それで、オジちゃんは首になっちゃうの? それとも本当に首だけになっちゃうの?」


「ハハハ。面白いな。それは恐らく同じ事だな。大司教の座を追われれば、ワシは斬首だろう。それは分かっている」


「王様に逆らったの?」


「そうだな……。陛下になのか……。ちょっとわからんがな」


ゆったりとした語り口。

心地良い低音が部屋中に響く。

大司教のオジちゃんの話は、自然と心に入って来た。

ちゃんと理解できたと思う。


この大司教の名前はサミール・ナスル (Samir Nasr)。

簡単に言えば、彼は宗教改革者だ。

アル・ナジール教会の大司教として、この世界の教会の在り方に、一石を投じた。

教会の権威を否定。

教会の腐敗を批判。


前教皇が言うように、質素倹約を説いて回っているだけではダメ。

これまでのアル・ナジール教会の様に、憲兵の力を使って弾圧を強いるのはもっとダメ。

積極的に民の救済をして、社会に貢献してこその教会であろうと。

実践主義者という訳だ。


ナスル派と呼ぶらしい。

彼が付けた派閥名ではなく、自然と賛同が広がり、多くの関係者に支持されて出来た一派だ。

ナスル派は、彼を大司教に押し上げるまで拡大した。

それが、この数年、女神の神託により、基盤が揺らいできた。

憲兵の力が増し、より暴力的な支配が広がった。

一部の地区の教会は憲兵に占拠され、完全に支配されているそうだ。


王様がどう考えているのかも、大司教は分からないと言っていた。

憲兵に賛同しているのか。

女神から何か神託が降りたのか。

今では、それも分からないと。


「つまり。大司教のオジちゃんは、この街を出ようとしているのね? だから、家人もいないし、家にも何もない」


「ふっ。そうだ。昨日の騒ぎがなければ、今頃は街の外だったはずだ」


「ごめんね」


「構わぬ。これも女神様。いや、インチキの方ではない本物の女神様の思し召しだ。其方らも来るか?」


「どこへ?」


「新しい都市だ。地図上では村の扱いになっているだろう。だが、ワシの仲間たちが、開拓して、外壁も構築した。既に多くの教会関係者や救いを求める民たちが集結しているはずだ。何年も準備してきたからな。ワシもいよいよ、そこに行こうと思っている」


北部にある山々から西のラ・フロール湾(Bahía de la Flor)に流れている大河がある。

名をイフヤ大河(Ihya)と言う。

また、国の丁度真ん中の位置に東西を走る国道があるそうだ。

東西街道と呼ばれている国道だ。

イフヤ大河と、その東西街道が交差するところに、新しい街を建てているという。


ナスル派が建てた都市だ。

名をイフラシア(Ihyasia)という。

『再生の場所』という意味だ。


「アス姉、どう思う?」


「行きましょう。本物の女神様の思し召しよ」


皆も頷いている。

チャールズは元々北部に行くべきだと言っていたしな。

問題はどうやって行くかだ。


その後は、具体的な街からの脱出方法を皆で話し合った。



大司教が街の外に出るのを、憲兵が止めることは出来ないはず。

ただ、馬車内がチェックされるのは避けられないだろう。

もし、王様の命令書が出てしまった後では、もっと厳しい対応となるはずだ。

それこそ、ここに乗り込んで身柄を拘束されるのは間違いない。


私たちは、大司教に即時、街を離れることを勧めた。


イフラシアまでのルートは、統一街道を北上し、イフヤ大河を超えて、東西街道を右に曲がるだけだ。

分かりやすい。

私たちならば、すぐに追いつくことができる。

気にせず、出発してくれと背中を押した。


姉たちは空間部屋に戻した。

再び、私とチャールズ二人での逃避行だ。

なんか、こう言うと、ロマンチックに聞こえるかもしれないけど、全く、そんな感じはしない。

兄と妹なら、まだマシ。

下手したら、父と娘みたいになってしまいそうだ。

気を引き締めて、背伸びしないと。


二階の窓から、大司教の馬車が自宅の敷地を出るの見送った。

沢山の憲兵がいる。

もちろん、あの三人組もいた。

隊長と猟犬と嗅覚に優れた女の子。

憲兵犬三人衆だ。

クンクン匂いを嗅いでいるのが、また犬っぽい。


女の子が頷く。

馬車から、該当の匂いがするのを嗅ぎつけたのだろう。

三人組は馬に乗って、馬車を追った。

上手く釣れたみたいだ。


私たちは窓を開けて、そっと一階に下りた。

空間結界階段だし、自分の姿も透明化しているので、実はこれ、超怖い。

御者さんに開けっ放しにしてもらった門から出る。

ここからは、チャールズに背負ってもらってのダッシュだ。

パパ、頑張って欲しい。


馬車の匂いは、私たちが着ていたスラムで買った服で付けた。

特にチャールズが着ていた服で匂いを付けた。

フローレンスがチャールズの頭や上半身を、その服でゴシゴシと擦った。

たっぷりと体臭が染み込んだ服で、馬車の至るところに匂いを付けたのだ。


少し距離を離して、馬車と、それを追走する憲兵犬三人を追う。


外壁の門は閉鎖されたままだった。

バリケードが設置されており、憲兵が誰も通さないようにしている。


大司教はバリケードの前で馬車を降りて、憲兵に何かを告げている。

おそらく、ここを通せと言っているのだろう。

三人組が追いつき、その話に加わり始めた。


我々が想定しているシナリオはこうだ。


大司教『国の教会を全て管轄している大司教の行動を制限する権限は憲兵にはない』


憲兵隊長『憲兵としては指名手配犯を出さないための措置。それは憲兵の権限内』


大司教『自分と指名手配犯には関連性はない。あるのならば証拠を求める』


憲兵隊長『馬車を調べせて欲しい。それで疑いは晴れる』


大司教『馬車を調べて何もなければ、自分は外に出れる。それで良いか』


憲兵隊長『もちろんです』


想定しているシナリオ通りになったのだろう。

隊長が、クンクン女に合図を出した。

クンクン女は馬車をグルっと一周してから、馬車の中に入った。


「チャック! GO!」


チャールズが加速する。

馬車の中は、チャールズの体臭で鼻が曲がるくらいの悪臭だろう。

あのクンクン女が馬車を嗅いでいる隙に、私たちは、その横を通り過ぎる。

チャールズの最大速度で透明魔法付き。

多少の違和感があっても、一瞬のことだ。


ブゥワッと、宙に浮く感覚がした。

チャールズがバリケードを飛び越えた。

外壁の門を通過したところで、私は後ろを振り返る。

大丈夫だ。

誰も何も気づいていない。


「チャック、遠目から確認しよう」


馬車の中の確認が終わったようだ。

クンクン女が、馬車から出て来る。

首を傾げながら、出てきた。

おかしいな。

何も無かった。

表情がそう言っていた。


大司教が馬車に乗ると、バリケードが動かされた。

無事に出発だ。


大司教は北に向かわず、馬車を反対方向に向ける。

これも、事前の打ち合わせで決まったことだ。

次の国道の交差点まで、統一街道を反対に進む。

おそらく、憲兵の尾行が付くだろう。

わざわざ、行先を絞らせる必要もないのだ。


ゆっくりと馬車が、私たちの目の前を通り過ぎた。

五人の憲兵が馬に乗って、馬車の尾行を開始した。

あの三匹の憲兵犬が来てくれれば良かったのに。

残念。

あの三匹は門に残るようだ。

そのまま、何かを相談していた。


私たちは馬車を尾行する憲兵の後を追った。


次は私が頑張る番だ。

出来れば、次の国道との交差点に辿り着く前に終わらせたい。


チャールズが徐々に憲兵との距離を詰める。

もう少し。

私は魔力を先の方に展開する。

尾行する五人の憲兵を、魔力でお馬さんごと包み込んだ。


まずは五人を収納した。

この間の憲兵と同じ場所。

牢獄部屋へと送り込んだ。

次はお馬さんだ。

空間厩舎へと送り込む。


そのまま、馬車のところまで速度を上げた。

並走して、馬車の窓をコンコンと叩く。

大司教が指示したのだろう。

馬車が止まり、大司教が降りて来た。


「イブラハムよ。ご苦労だった。手筈通り頼む」


大司教が御者に告げた後、そのまま、馬車だけが統一街道を反対方向に進んでいった。

バハール・シティまで、御者には優雅な一人旅をしてもらう予定だ。

お金は沢山持たせてあるはず。


「大司教のオジちゃん、一度、ララの部屋に行くからね」


私達のことは見えないだろうから、念のために声をかけてから、三人で空間部屋に戻った。



「なるほど……。アストリッドが言った通りだな。神域と言っても過言ではない」


空間部屋に初めて入った大司教の第一声はそれだった。


「さぁ、着替えるよ。夜中まで頑張って駆けるから」


ここからは、三人で馬で駆ける予定だ。

カウニアから出国した時と同じように、緊急事態モードで八日程駆け抜ける。

十時間走り、十時間空間部屋で休む。

空間部屋と現実世界の時間はリンクさせない。

十時間休んでも、現実世界の一分後に戻って、夜中も駆け抜ける予定だ。

お馬さんは沢山いる。

お馬さんも、一時間毎に乗り換えるつもりだ。


前回と違う点もある。今回は透明魔法を使う。

お馬さんにも私たちにも透明魔法をかける。

パカパカ走る蹄の音だけがすると思うけど、まぁ、気のせいだと思ってもらおう。

誰かに見られる方がリスクなのだ。


だから、最も動きやすい格好に着替えた。

大司教もラフな私服姿である。

長いローブは避け、憲兵と同じような短い丈の長さの服だ。


「雨が降ったらどうする?」


「ララが結界で囲うから、濡れないよ。夜道が見えにくくなるだけ」


「あ、ララちゃん、倉庫から懐中電灯を見つけたから、今日からそれを使うよ」


「え? そんなのあるの?」


「うん。魔石で動く。前方だけ照らすように少し改造したけど」


でも、そうすると透明魔法の意味がなくなるのではと思ったけど、

夜中だから、良しとしよう。

見かけた人は驚愕するだろうけど。

謎の光だけが動く怪奇現象だ。


「じゃ、アス姉、行ってくるね。ここの時間の夕食には帰る」


「はい。大司教様もお気を付けて」


「ふむ。今晩から暫く世話になる。皆のもの、宜しく頼む」


長い手を折り曲げて、胸の前で手を合わせた。

これが、この人なりの礼の仕草なのだろう。



この国に来てから、毎晩雨に見舞われている。

チャールズの懐中電灯のおかげで、大分マシになったとは言え、

星明かりの無い夜が暗くて怖いのは間違いない。

特に国道は道幅も狭く、舗装状態も良くない。

ところどころで、馬の足が滑ったりするのも恐怖だった。


私たち時間で八日。

現実時間で四日で、新しく出来たイフラシアに到着した。

到着した時には、既に陽が沈みかけていた。

背後から射すオレンジ色の太陽で、私たちの影が長く伸びていた。


私たちは馬の歩を緩め、透明結界を解除してゆっくりと進んだ。


「思ったより、立派な外壁」


「ああ、そうだな。あの外壁は、俺も見るのは始めてだ。頑張ってくれたのだろう」


流石に首都カリーム・アーバの堅牢さには及ばない。

でも、三メートルほどあるし、オウルベアに襲われない限りは大丈夫だろう。

内戦になった時に、どれだけ持ち堪えられるかだな。

破城槌とかだと簡単に壊されてしまいそうだ。


ただ、大河を上手に使っているのは確かだ。

大河を渡る橋を抑えてしまえば、統一街道からやって来る敵戦力と戦いやすい。

南側は急勾配の坂になっているので、高さのあるこちら有利だ。

北側は大河が護ってくれるだろう。

そうなると、反対側、西の方からグルっと回り込まれる時がピンチってことだな。


西の方には森が広がっている。

森を切り裂いて、東西街道は作られているようだ。


この周囲は殆どが畑だ。

ちょうどこの辺りが、アル・ナジールの南北の中間点。

ここに来る途中から、森か畑ばかりの風景が続いていた。

小麦や大麦、豆類などを栽培しているのだろう。

国自体が農業国家なのだと思う。


「ララ、チャールズ、ここまで連れてきてくれたこと、心より礼を言う。ありがとう」


「連れて来た訳じゃない。一緒に来たんだよ」


「ふっ。まあそうだがな。四日で、しかも誰にも見つからず辿り着けたのは、ララ、其方のお陰だ」


「でも、残念?」


「残念? 何がだ?」


「書庫の本が読めなくなっちゃうよ?」


「ふっ。其方らもすぐに出発する訳ではないだろう? しばらく、歓待させてくれ。アストリッドに美味いものを食べさせてもらってばかりだからな。少しは御馳走を振る舞いたい。其方らが出発するまでは、ララの部屋に通わせてもらうさ」


大司教が夢中になって読んでいたものは、政治と経済の本だ。

姉が読んでいるジャンルと、駄々被りである。

二人して、色々な議論を楽しそうにしていたよ。

私が全く興味のないジャンルだった。


イフヤ大河に架けられた大きな橋を渡る。

ヴァルデン大河と異なり、水は茶色く濁っていた。

毎日、あれだけの雨が降るからだろう。

水位も高く、流れも急だった。

ここに落ちたら、死んじゃうかもしれない。

そんな大河だった。


大河を渡ると、憲兵が数人で近づいてきた。

味方の憲兵なんだろうけど、分かりにくいよ。


「閣下! お早い御着きで、驚きました」


「ふむ。皆、ご苦労であった。客人が五人いる。悪いが執事長に先ぶれを出して貰えるか。我が家に招待する予定だ。部屋は一部屋で構わん」


「五人……?」


「ふむ」


「は! かしこまりました」


「執事さんとかはこっちに先に行かせていたんだね」


「ああ。俺に付き合って死なすのは申し訳なかったからな」


厳しい顔をしているし、厳格な人柄なのは間違いない。

でも、この大司教のオジちゃんは、優しい人なのだ。

厳しいのは自分にだけ。

他者には優しすぎるくらいだと思う。

だから、王様の最後まで信じたくて、ギリギリまで我慢していたのだと思う。


「そういえばさ、オジちゃんって、女神から何て言われたの?」


「何て? 御神託か? いつの御神託だ」


「最初のやつ」


「ああ。俺は『救済』だな。『迷える子羊を一人でも多く救済せよ』だ」


「ふふ。ぴったりだね。女神も良いことを言う……。ときもある」


「ふっ。かつては心が震えたモノだがな。最近では女神様が言う救済と、俺が思う救済は意味が全く異なるのだろうと思うようになった」


「間違いない」


外壁の鉄製の門が大きな音を立てながら、上がっていった。

向こう側で憲兵さんたちが、懸命にロープを引っ張って持ち上げているようだ。

門の向こう側には、街が広がっていた。

西陽が射して、オレンジ色に輝いている街だ。

地面も舗装されていないので、茶色の地面に良く映えた。


多くの建物が二階建ての建物の様だった。

レンガ造り、コンクリート、土壁、統一感はない。

街の人たちは、みすぼらしい身なりを、皆していた。

貧しい農家の人が多いのかも知れない。

サラちゃん達家族のことを、少し思い出した。


ここの人達は貧しいけど、スラムの人たちとは違う。

皆が笑顔で走り回っていたから。


「うん。悪くない」


自然と私はそう呟いていた。



世界地図

挿絵(By みてみん)

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