ネリスでのオンボーディング
大陸の西北。
北の端にあるカウニア連邦(Federation of Kaunia)。
その横長い国土の右の端にあるネリス市(Neris)。
それが、今の私が住む街だ。
ネリスは『星』を意味する名前で、夜空の美しさが有名な田舎町だ。
カウニア連邦自体の人口が、千五百万人程度なので、そう栄えた国ではない。
カウニアの中でも、ネリスは最も閑静な市と言われている。
首都スオミアリス(Suomiaris)はカウニアの左側、西の方にある。
四つある大きな市も、ネリス以外は全てスオミアリスの周辺に存在する。
ネリスだけが、西の外れにあるのだ。
ネリスから首都スオミアリスまで、三千五百マイル離れているという。
馬車に乗っても約一か月はかかる道のりだ。
ネリスの直ぐ東側は、セヴェルスカ帝国(Empire of Severska)という別の国だ。
つまり、東の端から西の端へ、カウニアという国を横断する距離ということになる。
さもありなん。
首都スオミアリスは、二十九万人が住む街だ。
ネリスに比べれば遥かに大きいが、
他国の首都の中では、小さい首都だそうだ。
それでも、カウニアの中では最大都市だし、
『統一街道』と呼ばれる北から西回りに大陸を一周する大通りの始まりの街だけあって、観光客も多い。
ラルナー教の総本山がある街でもあるから、敬虔な信者も各国から集まって来るそうだ。
教皇であるお父さんやアスティ姉さんは、もちろん、首都スオミアリスに住んでいた。
それが、女神の指示で、急遽ネリスくんだりまでやってきて、私を保護し、ここで育てることになってしまったのだ。
大変、申し訳ない。
アスティ姉さんは、首都スオミアリスの中等学校に通っていた。
一年生の終盤、夏休みが明けた頃に神託があり、急遽ネリスへと向かったそうである。
女神の指示の通り、そのままネリスにしばらく住むことになった。
姉も二年生からネリスの中等学校へ転校するらしい。
この世界の教育制度は、こんな感じだ。
七歳から三年間初等学校に通う。
十歳からの三年間が中等学校。
十三歳から十五歳までが、高等学校。
そして十五歳で成人である。
いずれの国も概ね似たような教育制度だそうだ。
とはいえ、全国民が義務として通う訳ではない。
あくまでも、ご家庭、ご両親、そして本人の要望によるそうだ。
アスティ姉さんは、首都スオミアリスでも優秀な学生だったらしい。
それでも、初等学校には通っていない。
お父さんや、教会の司祭達から、個別に教えを受けていただけだそうだ。
中等学校からは勉強のレベルが上がると聞いて、入学したという。
首都の中等学校一年生の首席だろうと言われていたのだが、
今では片田舎のネリスへの編入である。
大変、申し訳ない。
カウニアの、特にネリスの気候は厳しい。
一年の半分以上は、雪と氷に覆われた世界になる。
カウニアの北半分は森であり、国民は南半分に住んでいる。
森のさらに北側には、一年中氷に包まれた大地があるそうだ。
どの国にも属さない『北の果ての大地』と呼ばれている。
私がネリスで保護されたのは、十月の中旬だった。
もう一週間遅かったら、雪で馬車が動かなくなっただろうと、お父さんが言っていた。
ネリスは、人が住めるギリギリの立地に建てられた街である。
主要産業は北の森で取れる木材だ。
フィー(Fir)とかピーネ(Pine)とか呼ばれる有名な木材を各国に輸出しているらしい。
また、北の森には毛皮が高く売れる獣も多い。
その所為か、筋骨隆々な男の人が多いのも、この街の特徴かもしれない。
年内いっぱいは、アスティ姉さんも中等学校に通うのはやめて、私の教育に集中してくれていた。
右にお父さんが座り、左に姉が座り、二か月間、連日の特別講義である。
大変、申し訳ない。
※
「物語調に語っているのは、覚えるため? それとも、わたしが見えない誰かに説明しているの?」
「あ、聞こえていた? ごめん、アスティ姉さん……。いつか誰かが私の物語を読んでくれるかもしれないと思ってね」
「ふふふ。そんな人、いないわよ。それにローラ、『大変、申し訳ない』ばかり言っているじゃないの」
「ははは、ローラ、気にしなくて良いんだよ。僕らは使徒だからね。女神様から直接、御神託を頂いたのだからね。全力で臨むのは当然だ」
お父さんは教皇だけあって、熱心かつ敬虔な信者だ。
女神の指示に従うのは当然。
どんな犠牲を払ってでも、それを実現するのが自分の責務と思っている。
だからこそ、私への教育も厳しい。
ここで、私が女神を揶揄する発言をしようものなら、確実に怒られてしまうだろう。
「でも、ローラは優秀だよね。とても五歳とは思えない理解力だ。アスティも優秀だったけど、それを凌駕しそうだね。もう少し、レベルを上げてもよさそうだ。流石、女神様だ。よっぽど天界でしっかりと教育を施したのだろうね」
「うん。方法はさておき、初等学校に通う必要がないのは間違いないわ。中等学校でも十分な気がする」
そう言うアスティ姉さんは、もう少し俗物的だ。
世間慣れしていると言っても良いのかもしれない。
女神様絶対です! という素振りは微塵も見せない。
多分、私と姉の二人だったら、女神イジリの冗談を言っていると思う。
とはいえ、父の言っていることは、私も同意する面が多々ある。
この身体は、紛れもない幼児だ。
だが、目覚めた時から、言葉は喋れるし、内容も理解できた。
『主要産業』『輸出』『教育制度』『国と首都、市の関係』
父や姉が説明した、これらの用語も全て理解できる。
到底、幼児には意味不明な言葉だと思うのだが。
距離表示を『マイル』で説明された時に、一瞬何だか分からなくなった。
それでも馬車の速度を聞いて、凡その時間を算出することが出来たのだ。
おそらく基礎的な計算能力も備わっているのだろう。
今、父や姉から教わっているのは、この世界の歴史、地理、国や文化の違いだ。
その辺の知識は全く無かったから。
逆に言うと、それらは女神の力でも、初期インストール出来なかった内容ということになると思う。
「うーん。お父さん、アスティ姉、ありがと。この世界の戦争、内戦も全て終わっている」
「そうだね。これから起きる可能性はありそうだけど、この二十年は起きていないね」
「そうなると……。『平定すべき世界の混乱』って何だろう。『悠久に続く平穏な世界を人類に与える』って私は何をするべきなんだろう」
「ああ、ローラの御神託の内容だね。幾つか思うことはあるけど、もう少し学んでからにしようか」
「うん、わかった。ちなみに闇の魔王とか、異世界からの侵略とかってのも、いないよね?」
「闇の魔王…?って?」
「異世界からの侵略って何?ローラ、宇宙人とかのこと?」
何となく頭に浮かんだ事を口にしたら、二人に不思議がられた。
どうも魔王もいない異世界転生のようだ。
「いや、ふと思いついただけだから、自分でもよく分からない……」
※
ネリスでの生活の半分は雪かきだ。
日中の殆どの時間は、雪かきに取られていると言っても過言ではない。
屋根から雪を落とし、道に積もった雪を道の端に寄せる。
家のドアから道までの通り道を確保する。
大変な重労働だ。
私は小さなスコップを持って、チマチマ手伝うだけだが、
姉は大人サイズのスコップを持って、一人前の仕事量をこなす。
父は教会の偉い人だけあって、街中の困った人のところに行って手伝ったりもしていた。
私の仕事は、むしろ雪かきよりも、二人が帰ってきた時に、温かいお風呂に入れるための準備だ。
井戸から水をくみ上げて、自宅の横に建てられたお風呂場まで運ぶ。
その後、薪をくべて、風呂釜に火を当てる。
帰ってきた時に、丁度良い温度にするためには、タイミングも重要だ。
ご飯を作ったり、洗濯をしたりするのは、得意じゃない。
家事一般は、アスティ姉さんにお任せだ。
お風呂とお掃除くらいはやらないと、申し訳がない。
こういうのって、魔法とかでパパッと出来ないのかな。
風呂釜に火をくべながら考えた。
「ん? 魔法? 魔法ってなんだっけ?」
つい口に出して呟いてしまった。
魂のテーマは『空間』……。
空間魔法?
ジッと手を見つめて、手の上の空間をイメージしてみる。
そもそも空間とは何か?
物体が存在し、現象が発生する場所。
どう捉えれば良いのだろう……。
物体の位置、形状、方向、大きさ、位置関係。
空間を頭の中で操作したり、視覚的にイメージする能力が必要。
空間を捉えるために必要なもの……。
「分かった。視覚的に図形をイメージしちゃえば良いのか」
手の平の上に、ボール状の物体をイメージしてみた。
何かが身体から吸い出され、手の平の上に何かが乗った。
見えない。
でも、そこに確かにある。
何かが手の平の上に存在しているのは感じられる。
左の人差し指でツンツンとしてみた。
「やっぱり、何かがある……」
爪が当たると、コンコンと硬質な音がした。
目に見えないけど、新しい空間が生まれた。
もしくは、この空間を捉えるために、境界線を私が作ったのか。
「見えない。もうちょっと曇りガラスみたいにしたい……」
そうイメージしたら、色がついた。
曇りガラスである。
曇りガラスで覆われた丸いボールが生まれた。
手の平で転がしたり、地面に落としたりした。
火の中にくべても何の変化も起きない。
割れもしないし、燃えもしないのだ。
火の中から取り出すのに苦労したけど、嬉しくなって、雪かきから帰ってきた父と姉に見せてみた。
「ねー、アスティ姉、見て、何か出来たの! 空間? これが空間魔法?」
「魔法……、魔法って何?」
「不思議な力?」
「ははは、何だか分からないけど、不思議なものを作り出す力が、ローラにはあるってことだね! 女神様は偉大だ」
姉にはキョトンとされたが、父は手放しで喜んでくれた。
「ローラ、わたしにはよく分からないけど、それで世界の混乱を平定するの? どうやって?」
どうやってだろう?
えいっと、空間ボールを姉に投げつけてみた。
「こうやって。悪い人を退治するとか?」
「痛! ローラ、痛いわよ。うわっ、硬い」
その後、姉と空間ボールのぶつけあいに発展した。
本当に、かなり痛い。
夢中になって投げ合っているうちに、身体中に青あざが出来てしまった。
痛ければ痛いほど、強く相手に投げ返してしまう。
そうしているうちに、徐々にエスカレートしていった。
力の無い女の子同士だけど、決して壊れることのない硬質なボールをぶつけ合うのだ。
考えてみると、物凄い危険な行為だと思う。
父に、もうやめなさいと言われるまで、争いは続いた。
世界に平穏が訪れる代わりに、家庭内の平穏が崩されてしまった。
※
世界に平穏を与えるのはさておき、ネリスは私に平穏を与えてくれた。
約二年のネリス生活だったが、心身ともに平穏で安定した日常を過ごせた。
この世界の父と姉には、ありとあらゆる愛情を注いで貰えた。
ネリスは何んもない街だが、その分、人は穏やかで多くを求めず幸せに暮らしていた。
自然の厳しさも受け入れて、みんなで助け合って過ごしていた。
雪に包まれた街は、凄く綺麗だった。
夜空はどこまでも澄んでいて、どんな時でも星は輝いていた。
転生して二年ほど経った頃に、首都スオミアリスへの引越し話が出た。
姉が中等学校を卒業して、首都にある高等学校への入学を決めたのだ。
父もそろそろ教皇として、首都で活動を始めないといけないこともあった。
それに。
私もスオミアリスに行ってみたいとは思っていたのだ。
スオミアリスの教会だけでしか出来ないことがある。
それは、女神との対話だ。
首都スオミアリスにある女神像に問いかけると、稀に返答が貰えることがあるそうだ。
決して会話ではない。
問いに対する返答が、生涯に一度あるかも知れないね。そんな程度の話だ。
それでも、この世界に十個しかない本物の女神像でしか起こり得ない奇跡だと言われている。
また、女神教の総本山であるスオミアリス教会が、最も奇跡を起こす回数が多いとも言われていた。
使徒であれば、最低一度は女神像から返答を貰える。
多くの人はそこで『魂のテーマ』なるものを女神から教えて貰えるのだ。
言い方は『理念』『役割』『使命』『特性』とバラバラだが、示しているものは変わらない。
『自分は何者で、この世界で何を求め歩めばよいのか』
その道標と言われている。
※
出発日が決まった日の夜、父から何度目かの要請を受けた。
「それでローラ、考えはどうしても改めてはくれないかね?」
「公表のことだよね? うん、少なくとも成人するまでは非公表で」
「公表すれば教会の全面的な支援を受けられるし、各国の『選ばれし使徒』との面談も可能だ。色々な教えを乞うことが出来ると思うよ」
「うん……。それも成人後で大丈夫」
父が執拗に依頼してきているのは、私が『終末の使徒』だと教会に伝えても良いかということだ。
今のところ、単なる普通の使徒ということにしてもらっている。
使徒自体が特別な存在なので、普通も何もないのだが。
また、使徒であることも、教会内の一部上層部だけに制限させてもらっていた。
これは姉の助言を受けてのことだ。
『公表されると学校で面倒くさいことになる』
姉の実体験に基づく助言なので、多分本当にそうなのだろう。
父としては、『カウニアに最期の使徒が降臨した』と大々的に言いたいのだ。
彼にとって、カウニア並びにスオミアリスは、女神教の神聖なる始まりの地である。
そこに微塵の疑いもない。
そこに、わざわざ教皇に庇護しろと、神託を降ろす存在を降下させたのだ。
女神教にとって、私が特別な存在として認知されて当然だという思いなのだろう。
「ローラ……。せめて、教会の上層部だけにも……」
「嫌。情報はどこかから漏れる」
姉の方をチラっと見て、援護をお願いした。
姉は持っていたコップから水をゴクリと飲んだ後、小さく頷き、言った。
「お父さん。焦ることないじゃない。まだ各国から全ての『選ばれし使徒』の情報は寄せられていないのでしょ? 一番、最後に公表するのが相応しいと思うよ」
「まあ、そうだね……。サンテールからの情報によると、やはり使徒は全部で百人だそうだ。そうなると、二十五人の所在は判明していない……」
「あと、女神像への謁見の付き添いは、わたしがやりますね。教会の人を付けると大事になっちゃうから」
「いや、アスティよ、それは僕がやるよ」
「ダメよ、お父さん。教皇自らが謁見の付き添いなんかしたら、それこそ大騒ぎになっちゃうから」
「いや、一応、娘だからね。父親が付き添いするのは当然だろう」
「わたしの時はイングリッド様にお願いしてたよね?」
「う……」
「着いた当日にコソっと謁見するので、申請手続きだけはお願いしますね」
「わかったよ……。内容はちゃんと報告してね」
「勿論よ」
姉がこちらを見て、ニコっと微笑んだ。
キュンとするくらい美しい女性になったと思う。
今年で十二歳なのに、もう大人の女性みたいに見える。
父が言っていた『選ばれし使徒』の存在は、今年情報としてネリスにも届いた。
教皇の父の元にも、わざわざ早馬で報告が上がったのだ。
隣の国、カウニアの南側にあるサンテール王国(Kingdom of Santerre)の首都リュミエール(Lumière)に、使徒が現れた。
私とほぼ同時期のことだったそうだ。
胸の中央に「Ⅱ」と彫られた使徒は、すぐに教会に保護された。
そして、リュミエール教会の女神像に謁見した際に、神託を受けたと言う。
『貴女は百の使徒の中でも、わたくしに特別に選ばれた使徒。貴女への加護は『時間』。平穏な世界の時を管理なさい』
その神託のおかげで、全使徒が百であることが公になった。
『選ばれし使徒』と命名され、すぐに王家が身柄を引き取ったと言う。
その後、サンテール王国は、王女就任式を大々的に行って、『選ばれし使徒』を喧伝した。
首都リュミエールでは、ちょっとしたフィーバーになったそうだ。
父は、当然このことを知っている。
だからこそ、隣国への対抗心から、私の存在を公表したいのだと思う。
「その『選ばれし使徒』はまだ一人?」
「あれ、ローラに言っていなかったかな。もう一人、ヴァルデンで報告があった。『土神』の加護と言われたそうだよ。その時の神託で、『選ばれし使徒』が二十人いることが判明した」
「土神……。神が付いたね」
「そうなんだ。引き取ってすぐに、土の魔法を発現したそうだよ」
「ローラだって、空間魔法を発現したわ」
「まあ、そうなんだけどね。それで、『選ばれし使徒』には特別な力が与えられたと言うことも知れ渡った。第五世代の使徒は神に近い存在と教会では言われているよ」
教会では『選ばれし使徒』は『第五世代』と呼ばれている。
世代とは、『始まりの使徒』が生まれてきてから、使徒のジャンルというか特徴によって分類されたものだ。
【第一世代】
『始まりの使徒』から続いた全十人の使徒。
『欲望の十使徒』とも呼ばれている。
世界に混乱と破壊をもたらした。
始まりの使徒が人類歴千三百年に、
他の欲望の使徒は翌年に転生した。
【第二世代】
『知性の十使徒』とも呼ばれている。
いずれも知性に溢れ、図抜けて頭が良かった。
混沌とした世界に落ち着きと理性を取り戻した十人だ。
父もここに含まれる。
人類歴千三百十年ごろに転生した使徒たちだ。
【第三世代】
『十王』とも呼ばれている使徒たちだ。
戦争や内乱が続く社会を統一したリーダーシップ優れた人たち。
第二世代とタッグを組んで、今でも国の王や上層部に座っている人たちが多い。
先のサンテール王国の国王も『十王』の一人である。
人類歴千三百二十年に一斉に転生した。
【第四世代】
最近になって『五十のリーダー』と呼称されるようになった世代。
第三世代以降、第五世代が生まれた人類歴千三百五十年までの間に転生した人たちだ。
今になって、この世代が五十人存在しているのが判明した。
教会に報告されている第四世代をカウントしても、十名弱足りないそうである。
この世代の特徴は、『何か秀でたところがある』という専門性だろう。
第三世代は類まれなリーダーだった。
第四世代は、特定の領域を前に進める実務的リーダーと言う位置付けかもしれない。
姉を始め、第四世代には若い人たちも多いので、未だ全体像が見えないところもあるのだ。
「お父さんが『教育』で、お姉ちゃんが『直感』だっけ? それは何て言われたの? 『加護』? 『使命』?」
「僕は『使命』だったな。『貴方の生の意味は教育』と言われた。使命って言葉ではなかったけどね」
「わたしは『特性』だったな。でも、全然ピンと来ていないんだよね。女神様間違えちゃったのかな」
「アスティ。口を慎みなさい」
「あ、はい、ごめんなさい」
父に怒られたので、私も発言をやめて口を噤んだ。
下を向いて、少し笑いを堪えた。
姉は、非常に論理的な人だ。
勉強も出来るし、学識も高い。
感情的になることも滅多にない。
勉強も家事も何でも出来るスーパー女子だと思う。
でも、『直観』からは遠いと思うんだよな。
間違えちゃった、か。笑える。
いずれにしても、女神像の前に行くのは楽しみだ。
何て問いをかければ良いだろうか。
チャンスは一回だ。
父の様に、何度か答えがあった人もいるが、普通は最初の一回だけだという。
姉も百回以上行ったが、返答は最初の一回だけだと言っていた。
自分もそうだと思う方が良いだろう。
何を聞くべきだろうか。
女神像の前に立つまでの一か月半の間に、キチンと考えを纏めようと改めて思った。
窓から、整然とした畑が見えた。
この二年で、私が大事に育ててきた薬草や野菜たちだ。
この子たちもどうするか考えないとな。
陽の光を浴びた畑を見ながら、やることいっぱいだと胸を高鳴らせた。




