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東への航海。それとも漂流。


少し、地理のお勉強をしておこう。

社会の点数が取れない人は、ツマラナイだろうから、飛ばしてもらって構わない。

そうでない人は、是非、別添の地図を見ながら、お勉強してほしい。


この巨大大陸は十六の国で構成されている。

かつては、雪と氷で囲まれたウィンザーグローブも一つの国だったけど、かなり昔に滅んだ。

今では町や村の跡が、氷の遺跡となっているだけである。


十六の国は幾つかの地域で呼称されることも多い。


例えば、東の国。『東国とうこく』と呼称される。

東国と言えば、普通はミナセ共和国(Republic of Minase)を指すことが多い。


でも、マリーやレオンの様に、黒髪黒目の民族は他の国にもいる。

同じ東国のミョンジュ共和国(Republic of Myeongju)。

ミナセの北の隣国だ。

さらにその上のバイシン帝国(Empire of Bai Xin)もそうだ。

非常に古い国である。


かつては、ミョンジュもバイシン帝国の一部だった。

十王の一人、イ・ハナ (Lee Ha-na)という民主革命家が独立運動を起こし、ミョンジュ共和国を建国した。

四半世紀前のことなので、ミョンジュ共和国が未だに『南バイシン』と呼ばれたりする名残も残っている。


東国三国の下には、バリカン共和国(Republic of Balikan)という小国がある。

厳密には東国なのだが、小国で国力も低く、ミナセの兄弟国という位置づけの国だ。

そのため、東国は三国と言われている。

バリカンだけを『東南国』と呼ぶ場合もある。


バリカンは小国だが、その横にある湾は巨大だ。

バリカン湾と呼ばれる大きな湾を超えると、サンパウリーナ王国だ。


サンパウリーナ王国は、かつては海を挟んで南の島にあった小さな国だ。

マリーパパの親友が王様になって、北の大陸に侵攻した。

レオナルド・ダ・コスタ(Leonardo da Costa)。

この世界で一番、戦争が上手な王様だ。


バリカン湾を挟んだ大陸の中央南部にある三国は『中東三国』と呼ばれていた。

地図を見ると、東にはないのだが、『中南』と言うと、また別の地域となっちゃうのだ。

分かりにくい。


その『中東三国』は西から、アル・ナジール王国、ラージャスティ王国、カサ・デ・アグア王国と呼ばれていた。

サンパウリーナ王国がカサ・デ・アグアに侵攻して、北に追いやった。

大陸中央の最大勢力アメリカーナ王国が弱体化していた時期でもあったため、その東の領土をカサ・デ・アグア王国が占拠した。


なので、『中東三国』と呼んだとしても、アル・ナジール王国、ラージャスティ王国の二つしか、今は存在しない。

サンパウリーナ王国は、あくまでも南島の国の延長として捉えられている。


ちなみに、『中南』と言われると、カスティリオとセレニカーナを指し、『西国』と言われるとヴァルデンとサンテールを指す。



私達は、西国のヴァルデンから南の大海に出る。

それを東に向かう。

大陸の反対側にある、ミナセまで向かうのだ。


中南の二国を超え、

中東三国を超え、

サンパウリーナ王国の北大陸と南の島の間の海峡を抜け、

バリカン湾を横切り、東国の領域に入る。

そして、ミナセ共和国の首都ミナセの港に入港する予定だ。


大型帆船で、二十四時間休まずに運航しても、二か月要すると言われている。

普通は道中の港に停泊しながら進むので、最低でも三か月の旅程で向かうそうだ。


私達は少なくとも中東の国々には停泊できない。

出来れば二回の停泊で走り続けたいと考えていた。


一回目はカスティリオ王国の南の都市カリブリ市(Bahía de Calibri)。

次は中東を超えた先、サンパウリーナ王国のサン・マリーナ市(San Marina)だ。


当然、カスティリオ王国での停泊は危険が伴う。

何しろ今、戦争中の敵国である。

ただ、この手前にはセレニティア港しかないし、ここを超えると中東の国になってしまう。

停泊するとしたら、ここしかない。

念のため、鉱山のオジちゃんから、商会の関係者だと証明する書類も預かってきた。

何とか誤魔化せればよいと、ただただ願うばかりである。


「チャック、お疲れ様。まずはご飯食べる? それともお風呂にする?」


フローレンスがまるで新婚さんの様に、裂け目から空間部屋に帰宅したチャールズを出迎えた。


「ああ、ありがとう。まずはお風呂に入って来るよ」


「了解」


姉が立ち上がって、キッチンに向かった。

フローレンスが出来る妻風に質問をしていたが、実際に食事を準備するのは姉だ。

フローレンスはリビングで本を読んで勉強しているだけである。


小型船舶をちゃんと運転できるのは、チャールズだけだが、彼だけに舵を握らせている訳ではない。

レオン、私、姉の三人はチャールズが休んでいる間は、操舵室の番を受け持っている。

特に夜間の間は、周囲が見えないので、決められた方向に進むだけだ。

舵も固定されているので、念のための監視要員でしかない。


日中の主な時間帯はチャールズにしか任せられない。

彼は、羅針盤や天測航法、推測航法を駆使して、現在位置を特定して進路を定めている。

沿岸の特徴を航海データと照らし合わせて、確認もしている。

船の操縦とは、舵を上手に扱えるかではない。

航路をどう取るのか。

それが最も重要なのだ。


「フロ、なんか、それらしく、声をかけたけど、一番役立っていないのは、フローレンス」


「しょうがないでしょ! 出来ることがないのよ!」


私達は、主に夜間、順番に操舵室で番をしている。

特に夜の海は怖い。

そこはかとない不安に襲われる。

三百六十度暗闇に包まれるというのは、それだけで怖いのだ。


フローレンスは最初の三日で脱落した。

船酔いが著しくて、とても船の上にはいられない。

戻ってきて、半日間はベッドから出てこなかったくらいだ。

本当に。

本当に、全く、どうしようもなく、役立たない女子である。


この小型船舶は基本は帆船と言われているし、実際そうだ。

でも、私達は補助の自動機械を一日中稼働させている。


この自動機械が補助と言われているのは、動力源の魔石の稼働時間に限界があるからだ。

八時間稼働したら、一日の残りは休ませないと使えない。

そう言われていたし、実際そうだ。


でも、フローレンスから、自分たちが魔力を注げばよいのよと言われてやってみた。

私、レオン、チャールズ、フローレンスの四人が、定期的に動力源の魔石に魔力を補充した。

四人も要らない、二人か三人が補充すれば、一日稼働し続けられることが分かったのである。


それ以来、二十四時間、三倍の速度で走り続ける高速船となった。

フローレンスが唯一、この航海で役立った出来事であった。


三倍の速度で運航していたので、想定よりも早く宿泊予定地に到着しそうである。

まだ、九日間しか経っていないこともあって、私達は次の停泊予定地に向かうことにした。

無理して、敵国の港に立ち寄る必要はない。

最も負担がかかっているチャールズが大丈夫だと言っているのが決め手となった。


カスティリオの南の端、カリブリ岬と南にある小さな氷の島の間の海峡に進路を向けた。

しばらくして、操舵室にいたチャールズが、空間部屋に入って来た。

先ほど、早朝を担当していた姉と変わったばかりだ。

その姉が眠そうな目でチャールズに声をかけた。


「チャールズ、どうしたの? 何かあったの?」


「うん、アス姉さん、みんなも聞いてくれ。相談がある」


「チャック、船は?」


「ああ、止めてきたよ。カリブリ海峡がさ、大型の戦艦で封鎖されているんだ」


うぇ。

そりゃ大事だ。

皆が操舵室に出て、望遠鏡で海峡を眺めた。

海峡とは言え、広い海だ。

当然、完全に封鎖は出来ない。

でも、近づいた船を妨害できるような布陣で、幾つかの戦艦が並んでいた。


「ララ、透明魔法で船を隠しちゃうのはどう?」


「うーん。フロが言った通り、ララも最初は考えた。でも、難しい」


透明魔法は、結界の中に光を通さずに、背後に屈折させることで透明に見せる魔法だ。

でも、船を結界で囲むことが出来ない。

海に結界ごと浮かぶだけになってしまうから。

結界を板の様に前面に張ることも考えた。

でも、それだと、透明魔法が発動しない。

発動するけど、無意味なのだ。

船は結界の後ろ側にあるのだから。


「チャック、速度を活かして強引に突破するしかないのではないか」


「そうだよな。結論はそれしかないか……」


「あの戦艦は大砲とか持っているの?」


「いや、この世界は火薬がないからね。ぶつけられる、横づけされて乗り込まれる感じだろうね」


「前方を塞がれたら、ぶつけるしかないわね……。ララ、前方は結界で壁を作るってのはどう?」


「うん。それは出来るけど、ララ達の船が結界にぶつかっちゃうけどね」


「結界を三角にして、鋭利にするとか」


「そうだね。それでも、ただの壁だから、衝撃を緩和するのが精々」


色々、案は出たけど、結局前方に三角の結界を作ることになった。

船の両側、上空にも結界の板を置く。

何か投げられても、弾いてくれるだろう。

もし戦艦に大砲があっても直撃はしない。

精々、上部の結界に押し込まれて、船が海に沈むだけだ。


皆、操舵室に残ることにした。

何かあったら、皆を囲む結界を張り、空間部屋に移動すればいい。

私は、船の前方、側面、上部、そして自分たちを結界魔法で囲った。


チャールズは、最初から全速力で船を進めた。

海峡が少しずつ近づいてくる。

波を斜めに切り裂くように船が進む。

何度も船が宙に浮き、胃がせり上がった。

フローレンスがギュッと抱き着いてくる。


近づいてみると、戦艦は巨大だった。

あまりにも大きさに違いがありすぎる。

前後、側面に鉄の板が張られている。

トゲトゲの槍みたいなものまで付いているよ。

何かライトの様なものを点滅させて、警告を送ってきているようだった。


数隻の巨大戦艦が動き出す。

私達の進路を塞ぐように横並びになった。


「チャールズ! ぶつかっちゃうわ!」


「分かっている! ギリギリまで! ギリギリで舵を切る! 機動力は僕らの船が上だ!」


天候は晴天だ。

この南の外れでも、太陽は分け隔てなく、陽を降り注いでいる。

波が高い。

小型船舶が何度も浮くように走り続けていた。


ブーウォワー!

と警笛が鳴り響いた。

戦艦の甲板から、弓兵が射撃し始めた。


チャールズが舵を切った。

横方向にGがかかる。

波が結界に当たり、激しく海水が弾けた。


一隻の巨大戦艦を躱して、間を抜けた。

「ヤバッ!」とチャールズから声が漏れる。


巨大戦艦の間に、もう一隻の中型船が隠れていたようだ。

それが進路を塞ぐように顔を出してくる。


「衝撃くるよ!」


舵を握っているチャールズを中心に皆で身を寄せ合った。

顔を出した中型船の鼻っ面に、三角結界がめり込んだ。

中型船は前半分が千切れて吹き飛んだ。

同時に衝撃。

結界が操舵室の壁にぶつかり、私達も結界に身体をぶつけた。


「抜けたよ!」


顔を上げると、戦艦は見えない。

背後に全て置き去りにしていた。

両サイドには海岸が見える。

海峡を真っすぐ速度を上げて、東進していた。


「ふぅ……」


姉が息をついた。


「あ、でも、後ろから追ってきているね」


レオンに言われて、皆が背後を振り向いた。

全戦がこちらに船首を向けていた。

でも、確実に追いつかれることはないだろう。

こっちはもう海峡を抜けようとしているのだ。


少しずつ、敵の戦艦は小さくなっていった。

完全に振り切っただろう。

全員が安心して力を抜いた。


「ララ、空間部屋開けて、もう私気持ち悪いわ……」


「うん、わかった。今……」


フローレンスに言われて、空間部屋に入る裂け目を開けようとしたところで。

大きな衝撃が来た。


ガン!

と結界に何かが当たり、

船が海中へと沈められた。


操舵室に海水が入り込み、埋まった。

私は全員を魔力で包み、空間部屋に収納した。


「なに? 何が起きたの?」


「上部の結界に圧し潰されたみたいだね……。僕、天井が潰されて頭に当たったよ。痛ぇ」


「俺も……。頭を強く打った」


背の高い男性二人は頭部を強打したらしい。

フローレンスが慌てて、回復魔法を注いだ。


「敵戦艦じゃないわね……。また、あの女神の攻撃かしら?」


「それしかないと思う……。でも、どこで監視されていたんだろう」


「大型戦艦に通信の自動機械が配備されているんじゃないかな。あそこの海峡を監視するために」


「もう、お船、沈んじゃったよね……」


操舵室も海水で埋まっていた。

おそらく、あのまま海底に沈んだだろう。

チャールズが地図を広げて現在地図をマークした。


カリブリ海峡を抜けて、北東に舵を切っていた。

海峡を抜けてからの速度と時間を元に位置を推測する。


「僕らがいるのはこの辺。結界で漂って、岸に上がるしかないよね」


「カスティリオ王国の半島に辿り着くのかな。カリブリ湾の反対側に」


「海流が西から東に流れているから、最悪、中東になっちゃうかも」


「そのまま、西に流されていけば、サンパウリーナだよね」


「そうだね。数か月の漂流になるだろうけどね……」


「中東でもラージャスティを望む。サンパウリーナは近い」


この空間部屋にいても、何も始まらないし、何処にも辿り着けない。

再び、全員を結界で囲い、そのまま元の場所に戻った。

海の中。

結界は海面に向かって浮上した。


私の身長だと、背伸びしても海面より上の風景が見えない。

ただ、空が見えるだけだ。

チャールズとレオンが周囲を見渡して、状況を教えてくれた。


「戦艦が周囲を捜索しているみたいだ。こっちに来そうだね」


「うぇ。見つかっちゃうかな」


「ララ、透明魔法よ」


「あ、そうだね。そうしよう」


結界を透明魔法で包んだ。

海面に浮かぶ結界が、上からどんな風に見えるのかは分からない。

見つかったら、また部屋の中に逃げ込むしかない。

他にやれることなんて無いんだから。


「思い切って、船を奪う?」


「うーん。船に何人くらいいるんだろう。負けはしないけど、勝ち切れるかな。結局、ボコられて逃げ込むのがオチのような」


「戦艦はやめておきましょう。せめて中型の船ね」


しばらくプカプカ浮かんでいたが、近寄る船はなく、私達はただ流されているだけだった。

チャールズが西の岸の方向をジーっと見ていた。


「うん。やっぱり、カスティリオ王国からは離れていっているみたいだ。北、ちょい東くらいの方向に漂っているのかな」


「チャック、つまりは?」


「アル・ナジール王国に向かっている」


姉が露骨に顔を顰めた。

フローレンスが首を横に振っている。



漂っている間に空間魔法に関して、疑問が生じた。

この結界は少しずつだが、移動している。

この結界の内部に、空間部屋に繋がる裂け目を作ったらどうなるのか?

それも一緒に移動するのか?


答えは移動する、である。

結界に囲まれた空間ごと移動しているのだから、そういうもんだ。

まあ、ここまではいい。


では、私が空間部屋に入り、裂け目を閉じる。

しばらくしてから、また同じ場所に戻ろうと、空間部屋から裂け目を作った場合。

どこに生じるのか。

元々結界があった場所、つまりは海の中に出るのか。

それとも、移動した結界の中に出るのか。


答えは、移動した結界の中に裂け目は生じる、である。

つまり、あの世界の特定の座標に繋げているのではない。

私がイメージしているところに、空間を繋げているということだ。


まあ、難しい話はさておき。

私がずっと海に漂う結界の中にいないといけないという事は無くなった。

念のために誰かを結界の中に置いておく。

念のために空間部屋の裂け目も作りっぱなしにしておく。

定期的に結界と裂け目は作り直した。


ヴァルデン大河でやったように、進みたい方向の海を格納して、

結界後方に取り出して、結界を任意の方向に動かすこともやってみた。

チャールズ曰く、あまり効果はなさそうだとことだったので、早々に諦めた。

しょうがない。

大いなる海に勝てる魔法など無いのだ。


ヴァルデン共和国の大河の河口から、カスティリオ南端のカリブリ海峡まで十日。

結界で漂うこと、一か月。

漸く、岸が見えてきた。

チャールズ曰く、あと数日で接岸できるだろうとのことだった。


一か月も漂流すると、もう何処でいいから辿り着いてくれと願うようになる。

別に生活に困っていた訳ではない。

空間部屋で各々色々やっていた。

私は魔法の鍛錬を集中してこなしていた。

実際に幾つかの成果はあった。


フローレンスはずっと勉強していたけど、回復魔法の鍛錬は怠っていなかった。

姉も勉強していた。


マドレーヌ大使に出会って以来、姉は趣味の物理や数学の本を読むのをやめた。

代わりに社会や政治、経済の本をずっと読むようになった。

やっぱり、そっち系統に進むのかなと、私はそっとしておいたが。


レオンは魔力強化と剣の訓練を、男子エリアの奥でしていたみたいだし、

チャールズは自動馬車をひたすらにいじっていた。


個人鍛錬期間としては、まとまった時間になったとは思う。


新しい年は、この漂流期間に迎えた。

人類歴千三百五十七年。

姉は十七歳。

私達は十二歳。

ささやかながら、空間部屋でパーティをした。

男子達は高級アヴェリーヌ牛のステーキを堪能した。

女子達は数少ないケーキを楽しんだ。

本当にささやかだけど、幸せなイベントだった。


「おそらく、この辺りだと思う」


チャールズが指さした地点は、アル・ナジール王国のちょっとした半島だった。

小さな出ベソみたいに、南に突き出た半島。

西に馬で十日進めば、首都カリーム・アーバ(Karim Abad)。

東に馬で十日進めば、第二都市バハール・シティ(Bahar City)。

その中間にある小さな半島だ。


「どっちに行くの?」


「可能ならば、ララは首都カリーム・アーバの女神像から自動機械を除去したい」


「それって、どれくらい危険なんだろうね……。」


「そうだね……、僕も分からないけど、ほぼスネーキングミッションなのではないかと」


「チャック、スネーキングミッションって何よ?」


「敵の領域に潜入し、目立たずに任務を遂行すること」


「見つかったらどうなるの?」


「例の憲兵とか言う奴らに追い回される。捕まったら、斬首」


「えー! ヤバイじゃん、やめようよ。ララ、今度にしましょう、無理は厳禁よ」


「うん。でも、あれを放っておくと、監視の自動機械とか、使徒への連絡とかもされちゃうから、逃げるのも大変になる」


「そうだね。僕も、書庫で仕組みを調べたんだけど、多分、通信のネットワークってのが張り巡らされていると思う。各教会を経由して、世界中に張り巡らされている。女神と通信するのは、女神像がある大型の通信機械だ。それを破壊するのと、各教会のネットワークを分断すれば、そのエリアの監視の自動機械は機能しなくなるはず」


「お姉様! お姉様の考えを教えてください。それが一番確かです」


これまで黙っていた姉が、口を開こうとして、また閉じた。

うーんと何かを考えている。

これまで蓄積された情報を、高速でスキャニングしているみたいだ。


「首都カリーム・アーバ、第二都市バハール・シティ、どっちも大変だと思う。そういう意味ではどっちでも同じかな。状況に応じて、都度判断していくしかないと思う」


フローレンスが、ホラ見ろって顔を一瞬だけして口を閉じた。

どっちでも変わらないのだ。

ということは、首都カリーム・アーバ一択だ。

チャールズがニコって笑顔を見せてから言った。


「首都カリーム・アーバに向かうことを第一プランにしよう。あとは状況を見てだね。僕はね、統一街道は無理だと思っているんだ」


アル・ナジール王国は海岸沿いに統一街道が走っている。

当然、首都もバハール・シティも、統一街道沿いに建てられた都市だ。

隣国ラージャスティに行くには、統一街道を東進して、バハール・シティを抜ける必要がある。


「だからね。首都カリーム・アーバに行けるのなら行く。行けないのなら、もしくは行った後は、北上すべきだと僕は考えている」


「ユニオン・リパブリック?」


「そうだ。統一街道を東進してラージャスティから、サンパウリーナ王国ポルト・ド・ソルに抜けるのが東進ルート。同じ距離を北上すれば、ユニオン・リパブリックだ」


「ちょっと! チャック! 自分が行きたいだけでしょ! 港に出ないと船に乗れないのよ!」


「うん。フローレンス分かっているよ。まあ、僕が行きたいのは間違いないんだけどね。統一街道は間違いなく警戒されている。ラージャスティも同様だと思う。しかも、サンパウリーナ王国との国境沿いは戦争状態だよ。危険極まりない」


「北への道なら、田舎道だし、憲兵の網も緩いと」


「そう思うんだよね」


「チャールズ、山越えできますかね?」


「アス姉さん、ずっと上り坂ですが、峻烈な峠がある訳でありません」


「チャック。船じゃなくて、自動馬車を完成させて乗っていくことを考えている?」


「そうなんだ。そっちの方が結果的に早いかもと思うんだよね」


「わかった。でも、一つ問題がある。東進と北進では、アル・ナジール王国内の距離が倍増する。ひょっとしたら、全速力でラージャスティに抜ける方が安全かもしれない。だから、一旦、状況を見よう。現時点では判断しない」


私がそう言うことで、一通りの議論は終わった。

今、判断するには、情報が少なすぎる。

特にアル・ナジール王国の情報が。

外国から見た噂レベルの話しかないのだ。


異端者狩りに多くのリソースを割いている。

外国と戦う軍隊よりも、国内の異端者を断罪する憲兵が重視されている。


もし、それが本当だとしたら。

憲兵が大量にいて、南も北も細かい網が敷かれていたら。

そして、その憲兵が強者だらけだったら。


私達は全力でラージャスティに逃げ込むべきだろう。

ひょっとしたら、このまま結界で漂い続けて、何とか東に向かった方が良いかもしれない。


全ては、自分たちで確認してからだ。


大分、重苦しいストーリーになってきちゃったな。

女神討伐どころか、逃避行が主軸の話に移って来ちゃった。


あ、そういえば、この国の空はどんなだったかな。

空を見上げよう。

太陽が出ているか。

星は出ているか。


もう曇天はウンザリだ。


そう思って、私は空間部屋から、外に出た。



世界地図

挿絵(By みてみん)

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