天気晴朗なれども波高し
十月の山開きまでには、新しい鉱山の採掘計画を立てたい。
社長のオジちゃんに、そうせっつかれた。
そのために、私達は再び、鉱山への旅である。
面白がって、マリーパパまで行くというから、大変な騒ぎとなった。
テオドール隊長と護衛隊二十人は当たり前。
マドレーヌ大使とオリヴィエ大使も付き合わないとならない。
マリーも行くと言って譲らない。
ジョヴィも当然付いてくる。
その結果、大人数での旅行となった。
ヴァルデン共和国側からしたら、良い迷惑だろう。
他国の王の視察である。
共和国政府からも、外務大臣、鉱山を担当する開発担当大臣、軍務大臣まで同行した。
首相は当然である。
ただ、共和国としては、結果的には良い外交イベントにはなったと思う。
私は、偉い人用に用意された馬車と船に乗って向かった。
社長のオジちゃんとマリーパパは、凄く気があったみたいだった。
ノリが合ったのかもしれない。
サンテール王国での商売の許可も勝ち取っていた。
その代わりに、王家ならびに私に対しては利益度外視で付き合えと脅されていたけど。
瞬間で計算したのだろう。
社長のオジちゃんは、金鉱脈の利権の割合も即決して合意したくらいだった。
もう一つのビッグプロジェクトも決まった。
ヴァルデン共和国とサンテール王国を隔てる山脈のトンネル工事計画だ。
霧山脈と呼ばれているネーベルベル何とかと言う高い山脈。
その山脈の下を、向こう側までぶち抜く長い長いトンネルを掘ってしまおうという計画だ。
マリーパパからポップに言われた。
「ララ、お前出来るだろう。あの空間魔法とやらで、穴を開ければ良いのだ」
「まあ、出来ないことはないけど、歩いて向こう側に行く時間くらいはかかるよ」
「十分だ。女神倒したら着手だな」
「穴は通してあげるけど、穴を広げたり、崩れないように壁と天井を補強したり、換気の仕組み、ライトとかも必要だよ。それは、みんなでやってね」
マリーパパとそんなノリで決まってしまった。
唖然とする共和国政府。
両国の関係が大きく変わる一大イベントだ。
交易のルートも変わるし、交流は著しく増加するだろう。
食物の豊富なサンテールと仲良くなることは、ヴァルデンからすると、メリットでしかない。
カスティリオと不当な取引を続ける必要もないのだ。
共和国側は早速、計画の立案に着手すると言っていた。
そこまでやるのだったら、鉄道の敷設とかを考えた方が良いと思う。
そうすれば、世界は一気に狭くなるし、戦争なんか無くなると思う。
これは、チャールズに耳打ちしておこう。
自動馬車なんかよりも、鉄道だと。
山登りの時は、マリーもジョヴィも空間部屋で休ませた。
あの二人には流石に無理だと思う。
フローレンスも堂々と部屋に戻っていったよ。
姉も、気にせず部屋にいてね、と優しく言っていたし。
前回来た時よりも、雪はさらに減っていた。
大部分が溶けて、大河に流れたのだろう。
その分、山道が緩んでいた。
「マリーパパ、思ったんだけど、この山脈の反対側って、サンテールじゃん?」
「そうだな。その通りだぞ」
「多分、鉱石が埋まっていると思うんだけど」
「ん? んん? そうか……、そうだよな。片方だけって訳ないよな。繋がっているんだからな」
「まあ、山脈全部って訳じゃないだろうけど、サンテールは山脈に広く面しているからね。探せばあると思うよ」
「よし! わかった! ララ、それも一緒にやるぞ」
「一緒にって、ララが探すんでしょ?」
「もちろん、俺もやるさ」
「まぁ、マリーパパが死んじゃった後、マリーの代で国が傾くのは嫌だし、協力はするけどね」
「ララ、むしろ、お前が首相とかになれば良いのだ。そうだ。そうしよう。姉君含めて、優秀な人材だらけだ」
「サンテールは王国だから、首相なんて役職ないよ。それに、アス姉はさておき、ララはフローレンスと医院を建てるの。政治はイヤ」
「わかった。全て俺が何とかする。アストリッドが一番政治のリーダーとしては合うだろうな。チャールズは経済開発担当だな。うんうん。イメージ湧いてきたぞ。楽しくなって来たな!」
私とマリーパパの話を聞いている姉をチラっと見ると苦笑していた。
でも、マリーパパの言う通りだと思う。
姉に国を任せれば、おそらく、その国は発展すると思う。
「マリーパパ、あと一つお願い。カウニア連邦、何とかしておいてね。あのままではいられない国だと思う。教会はあって問題ないけど、政治を握るのはダメ。宗教は宗教。政治は政治」
「そうだな。今は、国交断絶に近い関係になってしまったな。分かった。そっちは時間がかかるが、それも引き受けよう。だから、早く帰ってこい。マリーが、そして俺も待っている。それを忘れるな」
帰ってこいと言ってくれる。
故郷を追われた私達には嬉しい言葉だった。
こう言ってもらえる王様がいるのなら、私達はきっと頑張るだろう。
女神を倒したら、サンテールに戻ろうと、思える言葉だった。
共和国の上層部が、今の会話を聞いていたのか分からない。
でも、私達の近くまで来て言った。
「サンテール国王陛下。我が国と正式な同盟条約を締結頂けませんでしょうか?」
「アウグスブルク首相。いきなりどうした? 勿論、構わぬぞ。もともと友好関係であったのだ。何の問題もないだろう?」
「はい。ただ、ネーベルゲビルゲ山脈が両国の関係性を隔てていた、より遠く感じさせていたのは事実。今回ララ様のおかげで、一気に距離は縮まりました。今後、カウニア連邦のこともあり、北の国の中心はサンテール王国になるかと存じます。この機会に是非」
「ははは! なるほど! ララがいる国と仲良くしておくのは大事なことだな! よし決まりだ! 戻ったら、詳細を詰めよう! これから再び発展する自動機械産業の共同開発とかも面白いな! ユニオン・リパブリックだけが勝ち抜けるのは世界のためにならんしな」
「はい。女神時代の向こう側を想定して準備しておくべきです」
「良い言葉だ! マドレーヌ、オリヴィエ、二人で詳細を詰めよ!」
「「は!」」
集合住宅前に仮説テントが大量に建てられた。
国の要人を集合住宅で休ませる訳にはいかない。
共和国の兵士さんたちが、頑張って搬入してきたようだった。
ただ、マリーパパは、俺たちには不要だと宣言した。
「オリヴィエ、お前は共和国の人たちと関係を深めよ。マドレーヌはついてこい」
そう言って、堂々と私の前まで歩いて、部屋の中に入っていったよ。
もう、偉い人達が呆然としちゃっているよ。
本当に、この人は子供だ。
テオドール隊長とマリーパパが男子部屋を当然の様に占拠した。
チャールズ、レオン、ゲオの三人は男子部屋の奥のフローリングスペースで雑魚寝だ。
女子部屋は、マドレーヌ大使と姉の大人二人に部屋を貸し与えた。
子供達は、私のベッドで皆で寝るのだ。
何だか、楽しい。
姉とジョヴィが二人で夕食は用意してくれるらしい。
ジョヴィは姉のことが大好きだ。
姉が出来ることを出来るようになりたい。
夕食作りも、ニコニコして付き合っていた。
何も出来ない私達三人は、一緒にお風呂に入った。
「何よ! フローレンス! イヤらしいわ! その胸は何! エロ過ぎよ!」
マリーは、大人の胸になり始めているフローレンスの胸を見て、大声を出した。
「マリー! 声を落として! 男子に聞こえちゃうでしょ」
「うん。マリーよ、ララは安心した。持つべきものは友達」
同じような子供体型の裸体を見て、本当に安心した。
身長に違いはあるけど、成長には違いがない。
二人して、エロく成長しているフローレンスの胸を揉んだ。
「もう……。今日はマリーにもホルモン魔法をかけるわ」
「何よ? その魔法は」
「人間の身体には成長を促すホルモンってのがあるのよ。そのホルモンを作る部位を刺激するの」
フローレンスがマリーに私が毎日かけてもらってるホルモン魔法の説明をした。
「ララは毎日フローレンスにかけてもらっている」
私もフローレンスの話に同調すると、マリーにジッと胸を見られた。
「それ……。効果あるの? 全然ないように見えるわ!」
「あるのだ。いつか、ドカーンと爆発するように、お胸が大きくなるのだ」
「そしたら、私が時間魔法で時を戻すわ!」
「ダメ。絶対だめ。って、マリー、どれくらい戻せるようになったの?」
「ふふふ。三十分に伸びたわ!」
「凄いじゃん!」
「毎日、パパの時を戻しているのよ! 若返り魔法ね!」
「そうね。毎日かければ、一年で一週間は寿命が延びるってことね」
「はや! フローレンス、計算が速い!」
「うん。フロはお勉強しか出来ない女子なの。陰キャなの」
「ちょっと!」
キャピキャピと、はしゃぎながら、十一歳らしい会話をした。
三人とも知能レベルは大人だけど、不思議と子供みたいになるのが面白い。
「ねぇ、フローレンスはチャールズと結婚するの?」
「え? なんなの、マリー、ひょっとしてチャールズが好きなの?」
「ない! ない! 異性としては全くないわ!」
「ん? マリーどした? 婚約話でも出ているのか?」
「うん……。一応、王女だからね、最近は多いのよ……。二人はどうなの? 結婚とか」
「ララは全く想像できない。でも、フローレンスはチャックと結婚するべき」
「何よ、ララまでどうしたの?」
「うーん。何だろう。そうなるために、転生した気がしないでもない。一緒にこの世界に降下した。何らかの繋がりや理由があるような……。気がするだけ」
「まあ、大人になったら考えるわ」
「否定しないフローレンス」
「間違いないわ! それに私は祝福するわよ!」
「もうやめて。マリー、レオンとかどうなの? 同じ民族でしょ?」
「レオン君はチャールズ以上に家族的な感じが出会った時からしたわ! でも、結婚相手じゃないわね!」
「ほう。どして?」
「サンテールが東の国の民族を王として仰ぎ見るのは無理よ。私がこんなでしょ? だから、結婚相手は分かりやすい金髪の人とかだと思う。ヴァルデン人も黒髪が多いからね。サンテールかカウニアの人じゃないかな」
「なるほど。王女も大変だね」
「そうなのよね……。イマイチ、ピンと来ないのよ」
「マリー、これは医師としてのアドバイスだけど、二次性徴が始まるまで決断しない方が良いわよ。女性としての身体にならないと、女性としての勘も働かないわ。しばらく保留にしなさい」
「なんかムカつく。ちょっと早く成長したから、上から目線」
そう言って、私達はフローレンスの胸を揉む悪戯を繰り返した。
お風呂から出ると、姉とジョヴィから、マリーの大声がこっちまで聞こえてきたと言われた。
あの『フローレンス! イヤらしいわ! その胸は何! エロ過ぎよ!』という発言である。
リビングルームにいた男子三人が居たたまれなくなって、書庫に歩いて行ったと言っていた。
フローレンスは真っ赤になって、マリーの脛を蹴り飛ばしていた。
三日かけて、金脈の特定と、試掘を行ってあげた。
空間魔法を初めて見る人たちも多く、共和国の大臣たちに質問攻めにあった。
社長さんは、もうニコニコ顔である。
私は、なるべく奥まで魔力を伸ばして、多く鉱石が取れそうな金脈に順番を付けていった。
マリーパパは初日で飽きたのか、チャールズ達を連れて、山に狩りに行っていたよ。
彼らも大変である。
※
マリー達は九月いっぱいまで滞在して、サンテールに戻っていった。
サンテール軍が、セレニティアの港を占拠。
ヴァルデン共和国軍と合流し、セレニティアの街は制圧した。
そのニュースを聞いて、マリーパパは国に引き揚げて行った。
私達はシュタインランドの船着き場まで、見送りに行った。
彼らは、大河沿いに船で海まで下り、停泊している大型客船に乗って帰るそうである。
マリーとジョヴィは、案の定、大粒の涙を流して別れを惜しんだ。
私達の無事を祈ると、繰り返し繰り返し何度も言った。
「マリー、次に会う時は、胸が大きくなったララだから」
「うう……。ララ……、フローレンスみたいにエロい身体になってもいいから、無事に帰ってきてね」
「ちょっと……。もう、やめてよ。マリー、またね。ちゃんとケガしても私が治すから心配しないで」
「わかった……。チャールズ、レオン君、頼む。アス姉さんと、フローレンスとララを頼む。本当に、本当にお願いします」
マリーは、東の国の人達みたいに、腰を折り曲げて、男子二人に頭を下げた。
長く長く、頭を下げた。
「大丈夫だよ。山猿は心配するな。ジョヴィ、山猿を頼むぞ。お淑やかな王女にしてくれ」
「はい。皆さま方、色々ありがとうございました。アストリッド様、教えてもらったことマスターしておきます」
「はい、ジョヴィ。マリー殿下を頼みましたわよ。いつかサンテールで戻った時には、また仲良くして頂戴ね」
マドレーヌ大使も一度帰国するようで、私達はお別れを言った。
共に山越えをした仲だ。
特に姉は色々なことを教わっていた。
恩師との別れの様に惜しんでいた。
「じゃあな。終末の使徒パーティよ。我が国は、其方らの無事の帰還を待っている。良いニュースが来るのを期待しているぞ」
※
私達が出発したのは、十二月の末のことだった。
新型ボウガンを受け取り、姉はゲオやレオンと一緒に山で狩りをしに通った。
扱い方に慣れるのに時間がかかる故と言っていた。
手動クランク付ボウガン。
十本の矢を格納可能。
レバーを引っ張ると下部の格納箇所から自動でセットされる逸品だった。
矢も本体もオウルベアの爪と骨だ。
オウルベアの矢は勿体ないので、通常矢を主に使うと言っていた。
チャールズは、社長のオジちゃんに提供してもらった、小型帆船の運転を習っていた。
この小型帆船、中古とは言え、かなり立派な船だった。
十人が中で生活できるようになっていた。
まあ、私達は食堂くらいしか使わないだろうけど。
帆の上げ下げも、レバーで出来るそうだ。
加速機構の自動機械が補助としてついていて、通常の船の三倍というのは嘘ではなかった。
とはいえ、チャールズは船の操縦の素人である。
本当は一年かけて学び、その後独り立ちするところを、三か月弱で学んだ。
頭の良いチャールズだ。
それでも、大変だったと思う。
その間、私は定期的に鉱山に行くことになった。
採掘作業は進んでいる。
その支援と助言をしにだ。
チャールズが小型船舶で送り迎えをしてくれた。
もう一つ、自動馬車のα版も完成した。
ただ、本当に試作レベルの自動馬車だった。
フレームとベースの自動機械の機能は、社長のオジちゃんの会社で頑張ってくれた。
見た目は完成状態である。
軽い鉄で出来た車体。
四角い箱ではない。
お馬さんのように、ノーズだけ前につき出ていた。
ここに自動馬車の機構が組みあがっているそうである。
魔石はオウルベアの魔石を組み込んだ。
パワーは世界一だと思う。
それでも、イマイチだった。
何がイマイチかと言うと、自動で走りださないのだ。
何人かで後ろから押してあげないと進まない。
一度走りだせば、オウルベアパワーで、滅茶苦茶速い。
でも、また止まってしまったら、押す必要がある。
とても、実用的な乗り物ではないと思う。
チャールズ曰く、ギアという機構が必要だそうだ。
その辺の知見がヴァルデンには残っていない。
ユニオン・リパブリックに行って教えてもらうしかないと言っていた。
自動馬車は、それまで、私の空間収納でお休みである。
ヴァルデンの市場で、時間をかけて、必要な食材を買い集めた。
お水も火種もお湯も空間収納には沢山入っている。
もし、空間部屋が使えなくなっても、一年以上は生きていけるだけの物が私の空間収納には格納されているのだ。
姉の武器も手に入ったし、レオンの大盾も念のために購入しておいた。
乗り物も自動馬車はあれだが……、小型船舶は手に入った。
準備としては万端と言えるだろう。
お世話になった関係各所と挨拶を交わして、私達は出発した。
レナさんと別れの挨拶が出来なかったのが、何よりも悲しい。
でも、あの人とはまた何処かで会うだろう。
レオンが、自信満々にそう言っていた。
それよりも、あの人に誇らしく思ってもらう自分になることが大事だと。
私もそう思う。
皆もそう思っているようだった。
時間を伝えていなかったので、見送りはいない。
ヴァルデン大河に停泊させた小型船舶に乗って、海まで出て、大海を渡るのだ。
既に夏になったシュタインランドの街を歩いて、大河まで向かった。
冬に来た時と違って、街に騒がしい浮ついた雰囲気は何処にもない。
堅実で真面目で懸命で苦難を乗り越えて働くヴァルデン人の姿しかなかった。
「あ、ゲオ」
船着き場に、一人の少年が立っていた。
ゲオルク・フォン・ハンブルク。
この街で出会った同じ歳の選ばれし使徒だ。
彼が同行したいと思っていたことを、私達は知っている。
それを言い出したいけど、言い出せない思いでいたことも。
毎日、一緒にいたのだ。
それくらいは分かる。
でも、最後は姉の一言で、彼は未練を断ち切った。
出発前日の夜に、お別れパーティをやったのだ。
その時に姉はこう言った。
「ゲオルク。貴方はもう何処にいても私達の仲間よ。きっと、何かあれば駆け付けてくれる家族でもある。だから、わたしが長姉として言うわ。ヴァルデンを守り抜きなさい。貴方はそれが使命なはずよ。そして、わたし達もそれを望んでいる。マリーがサンテールを護り、貴方がヴァルデンを護る。女神を倒した後の人生の方が、わたし達には長いわ。それを楽しみに大人になりましょうね」
あのクールキャラは、そう言われて、顔をクシャクシャにして泣いた。
意外にも、ワンワンと声を出して泣く子だった。
すぐにレオンが駆けつけて、抱き寄せた。
チャールズが続き、フローレンスと私が頭を撫でた。
「はい……。アストリッド様、俺、ゲオルク・フォン・ハンブルクは、皆と共に闘います。この地で闘います。だからどうか……」
「心配するな。ゲオルク、俺たちは戻って来る。次のジョストは俺が勝つ。それまで精々鍛えていろ」
「そうだ。僕が勝つけどね。レオンもゲオも一蹴してやる」
最後は笑って大使館から、久しぶりの自宅へと戻っていった。
育ての親のヴィルヘルム隊長は未だに戻っていない。
一人で過ごさせるのも可哀相なので、ずっと私達と一緒に生活していた。
最終日のお別れパーティを終わらせた後、私達が彼を見送ったのだ。
姉がそっちの方が別れやすいからと言って。
「やっぱり、見送る側が良いと思ったから、来ちゃったよ」
「うん。ゲオ、ありがとう。大事な友人に見送られるのは、ララは嫌いじゃない」
「ゲオルク、ありがとうね。わたし達は戻って来るから。だから、心配しないで待っていてね」
「はい。アストリッド様。皆とまた会える日まで、俺は頑張って実力を伸ばします」
全員とハグをした。
今日のゲオは泣かなかった。
頑張っていたと思う。
でも、私達が、私達の船が出航していくるのを見ているうちに、堪えきれなくなったのだろう。
遠ざかっていくゲオが、ワンワン泣いているのが見えた。
それを見て、私もグッと来た。
レオンは、流れる涙を拭うことなく、手を振っていた。
小さくなって、もう見えなくなるところまで、私達は手を振った。
ヴァルデン大河は今日も広大で、私達の流した涙も全て飲み込んで海の方に流れていた。
ゲオがいる遥か先には、何度も通ったヴァルデン山脈が高く聳えていた。
「アス姉、嫌な予感はする?」
「うーん。ミナセに行くべきだと、全身が訴えているわ」
「じゃあ大丈夫だね。不安はないよね?」
「あるわ……」
そう言って、アス姉は操縦するチャールズの方を振り向いた。
あぁ、素人が操縦する船だからな……、まぁ、そうだよなと私も思った。
「ちょっと! チャック、ちゃんと運転してよね! お姉様が、嫌な予感がするって言っているわ!」
「え? マジで! ちょっと、アス姉さん、僕を不安にさせないでよ」
「うん……。ごめんね。ララ、申し訳ないけど、念のため、あくまで念のためよ、海に出たら、船を結界で囲んでおいて欲しいのよ」
「了解。ん? だけど、結界で船を囲ったら、前に進まなくなっちゃうよ」
「あぁ、そうよね。じゃあ、どうしましょうかしら」
「上空に結界を張っておこうか。転覆しそうになったら、船を結界で囲うから」
「そうね……。そうしましょうかね」
準備万端。
前途洋々。
そう思っていたけど、姉の言葉で私も少し不安になってきた。
天気晴朗なれども波高し。
そう言い換えることにした。
何があろうとも、その波を乗り越えれば良いのだ。
背中を押してくれる仲間がまた増えた。
彼らが遠方から祈りを送ってくれると思う。
ヴァルデン山脈から、ヴァルデン大河を吹き抜けて来る風が背中に当たった。
結界をまとっているが、夏らしい暖かな風のように感じられた。
視線は前方だ。
大きな海が広がっている。
波が高いけど、私達なら乗り越えられる。
帽子を手で抑えながら、私は前方を見据えた。




