キラキラ星の記憶
私達の目の前で驚愕していた。
首相と、鉱山を保有する商会の社長さんが、目と口を開けて呆然としている。
冒険者組合の本部長の額からは、汗が流れていた。
シュタインランドの首相官邸の広い応接室。
鉱山調査依頼の完了報告を一気に終わらせるべく、関係者を呼んでもらった。
首相、冒険者組合本部長、鉱山を保有している社長もやってきた。
私は説明の最中に、空間魔法で採掘してきた鉱石を床にゴロゴロ転がした。
彼らは、それを手に取り数分。
ワナワナ震えながら、フリーズしてしまった。
当然、そこで、説明は中断され、会議も止まった。
これから、スラッジスターを実際に見せる山場があったのに。
余りに長い間フリーズしているので、スラッジスターを結界で囲んで近くに置いてみた。
案の定、フリーズは解かれた。
その代わりに、会議室中がパニック騒ぎになっちゃったけど。
姉とフローレンスに怒られたので、一時、ヘドロの魔獣はお引き取り頂いた。
そして、ようやく、説明が再開された。
姉とゲオが中心になって、その後の話を一気に説明する。
彼らは、チラチラと鉱石に視線が行っているけど。
原因も分かり、討伐も完了したと聞いて、ホッとした表情を浮かべた。
「つまり……。毒ガスの原因だった伝説のスラッジスターを討伐、さらに生きたまま確保した上に、新たな金脈を発見した。そういうことですよね……」
「うん。一つトンネルを潰して、一つ山を崩したけど」
首相の言葉に、マイナス要素も付け加えておいた。
オークションでオウルベアを競り落とした恰幅良いオジちゃんが、豪快に笑い飛ばしてくれた。
「ははは! そんなもん、何てことはありません! 金塊ですぞ。ヴァルデンから金が採掘できる。これは大発見です」
冒険者組合の本部長が、引き攣った顔で汗を拭いた。
「その、冒険者組合としては、成果報酬の見積もりをしたいのですが……。伝説のスラッジスターを百以上討伐して、生きたまま確保した個体が一体。また、金鉱山を発見する。これはどうすれば……」
「本部長のオジちゃん。スラッジスターは二十体近くいるよ。欲しい?」
「は?」
「え!」
後半は殆どを燃やしてしまったけど、前半に捕まえた子たちは収納されたままだ。
首相が笑顔を向けて、買い取ると言ってくれた。
「今後、鉱山で発生する可能性のある魔獣です。フローレンス様とチャールズ様が考案してくれた化学除去以外にも、討伐の方法を見つけ出したいです。検証用に全て買い取らせてください。スラッジスターは伝説級ですから、一体当たり、幾らくらいでしょうか? 百万Gくらいでしょうか」
おいおい。
ヘドロの魔獣なんて、売れないって言ったのは誰だよ。
そいつの顔を全員で睨んだ。
そいつは目を瞑り無になっているけど、無駄だよ。
「凄い沢山いるけど、どうする? ララがいる間は、収納魔法でしまっておいてあげるけど」
「有毒ガスを塞ぐ堅牢な檻を作ります。出来るまでの間は、申し訳ありませんが、そのまま保有しておいください」
「エッジ・シーカーの皆さま方、私の鉱山から産出された金の売上分から、一定比率でお支払いします。その契約は後ほどお願いします。ララ様、申し訳ないのですが、もう一度、我らと掘削に向かってもらっても良いでしょうか」
「うん。いいよ。どこに多く鉱石が埋まっているかも、ララには分かるから。これまで随分と無駄をしちゃっていたみたいだよ」
「バイエルン社長。私どもは、冬が明けたら、旅立つ予定です。スケジュールだけ別途調整させてください」
「アストリッド様、勿論です。少しでも長くララ様に滞在頂けるように、私ども商会が保有する高速船を一台提供します。それがあれば、一か月や二か月、旅の短縮も出来るでしょう」
はぁ。
これは滞在期間をどうしても延ばすやつだな。
このオジちゃんは自分の思うように交渉するのが上手だ。
「社長、それは自動機械の高速船ですか?」
「お、そうですな。分かりました。チャールズ様に御満足いただけるような自動機械の高速船も弊社で開発しましょう。ただ、それは時間がかかりますからな。次に滞在なされた時のプレゼントとしましょう。今回は自動機械の補助付ですが、帆船で我慢ください」
「本当ですか! ありがとうございます! 是非!」
こうして、また訪れることもコミットさせられるのだ。
チャールズは社長の企みに気づいていない。
だけど、きっと、次に私達が来た時も、鉱山の掘削に協力させようとしているのだと思う。
だって、私が地中を探ってあげることで、彼らは無駄な穴掘りをしなくて済むのだから。
鉱山の社長から得た情報で、幾つか分かったこともあった。
鉱山で働く人たちは、たまにトンネルの最奥で、用を足すことがあるらしいのだ。
スラッジスターは有機物を食べる魔獣である。
その汚物に誘われて、坑道に入ったのではないかと言っていた。
その辺も、檻に放ったスラッジスターで検証してみるそうだ。
帰り際に、冒険者組合の本部長から、チャールズもフローレンスも、一級冒険者に昇格となる旨、伝えられた。
これで全員が一級冒険者のパーティとなった。
※
大使館で、マリーとマリーパパが首を長くして待っているそうだ。
首相は苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
何かがあったのだろうか。
「いや、事前に皆さまに聞いた通りで、偉大な十王のリアルな一面を垣間見ただけです」
そう呟かれた。
あのお子ちゃま王様は、一体何をしでかしたのだろうか。
半ば無理やりにだが、ゲオも連れて言った。
マリーに会わせようと思ったのだ。
選ばれし使徒同士。
同じ歳だし、隣国でもある。
仲良くなっておくべきだと、私もゲオに言った。
歩いても二十分程度の道のりを、首相に用意してもらった豪華な馬車に乗って向かった。
早馬で知らせが入っていたのか、大使館の門は開いており、建物の前にはズラッと人が並んでいるのが見えた。
「あ、マリー発見。お、ジョヴィもいるぞ。仲良くなったみたいだな」
その横には、マリーパパとテオドール隊長の姿も見える。
皆がセレニティアの港で見送ってくれていたように、手を振って待っていてくれた。
マリーはピョンピョン跳びはねて手を振っている。
大歓迎だな。
あの二人の周囲だけ、やたら明るく輝いているように見えた。
「ララ! フローレンス!」
マリーが馬車に下りた私達を待つことなく、走って飛び込んできた。
ギュっと抱き着かれて、頭を撫でられる。
あれ、少し身長差が増したか?
「ちょっと! 心配したんだから! セレニティアで大惨劇が起きたって!」
「おう。わんぱく娘たちよ。心配したぞ。賢者との話も聞かせろ」
「ジョヴィから、色々聞いたわ! 私達すぐに仲良くなったのよ!」
「教会ごと破壊されたらしいな。女神がさらなる兵器を使ってきたとか」
「パパにすぐに行くべきよって私が言ったのよ!」
「山越えで、またすごいことをやったらしいな。オウルベアだと、お前たち……」
マリーとマリーパパが一緒になって話しかけて来る。
しかも二人とも声が大きすぎるんだよ。
「うるさい。二人とも黙る。良いから中に入る。ちゃんと話すから、まず黙れ」
私がそう言ったことで、二人ともシュンとなった。
本当に子供みたいな人たちだ。
大きいワンちゃんと小型犬。
怒られてションボリするところもソックリだ。
テオドール隊長が苦笑を浮かべて、王様の肩を叩いていた。
「これが002(ダブルオーツー)、001の下だと言うことは俺にも分かった……」
後ろにいるゲオから小さな呟きが聞こえた。
「おい。山猿。僕に挨拶はないのか?」
「あ? くそチャック! 肉壁になって守れたのか? 全然活躍の声が届かないわ!」
「あ? 僕の大車輪の働きを語ってあげようではないか。応接室に早く連れて行け」
「もう。二人共黙る。二人だけで別室にするよ」
いつものじゃれ合いが始まったけど、後にして欲しい。
レオンとゲオがビックリした顔しちゃっているよ。
応接間に行く間にも、チャールズ対マリーのやり取りは続く。
私はジョヴィに近づいて話しかけた。
「ジョヴィ、どう? マリーとは仲良くなった?」
「はい。ララ様、本当にありがとうございました。マリー様とお会いできて救われました。毎日が楽しいですし、動物たちも可愛くって……」
「うんうん。仲良くなると思っていたよ」
「はい。今は、マリー様の専属侍女的な形で、色々学ばせてもらっています。その、あの御方は……、その……、色々あれですので」
「ふふふ。分かるよ。何の調整も計画もせずに、好き勝手に振る舞っちゃうからね。思うがまま自由気ままにね」
「はい!」
「マリーのためにもなると思うよ。大変だけど、一緒に仲良くやっていこうね」
ジョヴィはフローレンスからも肩を叩かれていた。
姉が頭を撫でている。
良かった。
女神から切り離して、本当に良かったと思えた。
応接室に入るなり、また質問攻めにあったが、まずはレオンとゲオを紹介した。
二人とも選ばれし使徒。
マリーと同じ歳だ。
「なんだか、レオンとアンヌ=マリーは顔立ちが似ているな。兄妹みたいじゃないか」
「わかるわ! 他人とは思えないもの! レオン君って呼んでもいい?」
「あ、あぁ、勿論構わない。いや、構いません」
「ははは! 敬語は不要だ。選ばれし使徒同士。仲良くしてあげてくれ。ゲオルクもだ!」
「は! ゲオルク・フォン・ハンブルク。有難く」
いちいち、堅苦しいよ。土の子、ゲオ。
漸く、これまでの流れを落ち着いて説明できる場となった。
姉が話し出すと、余計なチャチャを挟むことなく、二人とも大人しく聞き始めた。
セレニティアの入国から、あの惨劇の話となり、国王陛下は人目を憚らず涙を流した。
もちろん、片目剣士のオジちゃんの話だ。
フィオレンティア、ベルクシュタット、シュタインランド。
レナさん達、ウッドランド・ドゥエラーとの出会い。
オウルベアとグリズリーの討伐。
ジョストと公開オークション。
鉱山の毒ガス事件とスラッジスター。
こうして、まとまって姉から話を聞くと、誰か別の人達の英雄譚みたいだ。
その人達の一大冒険活劇を聞いているように感じた。
実際に、王様と王女殿下は、話を聞きながら表情をクルクルと変化させていた。
拳を握り、歓声を上げ、そして落胆したり、また笑ったりもした。
一通り話が終わった段階で、大使館の人が入ってきて、コーヒーを入れ替えてくれた。
マリーパパは、コーヒーの代わりに、ワインをくれと要求していた。
女の子にケーキを頂戴! と大声でマリーは言っていた。
「その……、フローレンスとチャールズ。オリバーの件、返す返すも残念であった……。俺にとっては……、その、すまない」
王様は前を向いたまま、ポロポロと涙をこぼした。
後ろのテオドール隊長も同様だ。
彼らにとっては、私達以上に付き合いの長い仲間だ。
片目を失い離職したとしても、大事な仲間だったのだろう。
だからこそ、選ばれし使徒を預けたのだ。
フローレンスとチャールズも下を向いて、涙を流していた。
「すまない。俺にとって、大事な友達だった。テオドールにとってもそうだろう。怒りに震えて、どうにかなりそうだ。でも、ララよ。遺体はとっておいてくれたのだよな。ありがとう。サンテール王国に連れて帰り、丁重に埋葬しよう」
「うん。でも、ララが連れて帰るよ。船で輸送すると傷んじゃうから」
「そうだな。では、任せるぞ」
「ララ達も怒っている。今でも思い出すと叫びたくなる。でも、仇は必ず取る。女神は許さない」
「そうだな。賢者が残した言葉が気になるな。ミナセに向かうのは分かった。それが良いだろう」
「うん。鉱山のオジちゃんが、高速船を用意してくれるって言っている。それに乗って行ってくるよ」
「鉱山のオジちゃん?」
姉が補足説明をしてくれた。
金鉱脈の話と、売上の一部を貰えることも追加で説明しておいた。
「わかった。その契約とやらは、俺も立ち会おう。お前らじゃ、相手に良いように丸め込まれるだろうしな。サンテール王国の使徒相手に、俺の前で不当に得をしようとはするまい」
私と姉は、正確に言うと、カウニア連邦で生まれた使徒だ。
でも、名前も変えたし、あの国には、もう戻れないだろう。
冒険者登録をしたのは、サンテール王国だしな。
でも、王様自ら、自分の国の使徒だと言ってくれるのは、正直嬉しかった。
「マリーパパは、セレニカーナ王国の女王アリーチェさんとか知り合い?」
「ああ。もちろんだ。アリーチェ・デ・ラ・ロッカ。同じ歳の使徒だ。美しい女性だった。温かみのある優しい女だった。実は縁談の話があった。まあ、俺は生涯独身を宣言してしまったからな。実現しなかったが、結婚するのであれば、アリーチェが良いと思ってはいた」
「アリーチェさんも独身だったの?」
「そうだな。そういう意味では、カスティリオ王国のナタリアも同じだな。二人とも、男性との色恋よりも民や文化、芸術に興味があったからな」
「ナタリアさんも、殺されちゃったかな?」
「おそらくはな。政治には無頓着だが、戦争を容認する愚か者ではない。殺害されたか、幽閉されたかだな。実行犯はリカルド・エスコバルで間違いないだろう。あいつならやりかねんが、女神の指示がないと積極的には動かなかっただろう」
アリーチェ・デ・ラ・ロッカ(Alice della Rocca)。
十王の一人。
『慈愛の女王』と言われた人だ。
十五歳の時に、教会の女神像の前に横たわっているのを、教会のシスターが発見。
その際に、「慈愛の女王として、信仰に篤い街を治めよ」と御神託があったそうだ。
当時の国王陛下が王女として引き取り、他の王位継承者を降嫁させて、女王に据えたという。
ナタリア・デ・サラゴサ (Natalia de Zaragoza)。
カスティリオ王国の首都アクアリスに転生した。
十年ほど前に転生していた知性の十使徒カタリナ・デ・ラ・クルス (Catalina de la Cruz)の自宅前に降下する。
カタリナは芸術の使徒であり、既にアクアリスで著名な画家になっていたそうだ。
ナタリアへの女神の神託は『文化の発展』。
アリーチェ同様に、王家に引き取られて女王に就任。
就任後は、カスティリオ王国の文化発展を推し進めたという。
それまでの、軍事増強路線から、大きく舵を切ったことから、軍部との折り合いは悪かったそうだ。
つまり、カスティリオ王国軍リカルド・エスコバル将軍からすると、
数十年前に女神の指示で、軍事強化に待ったがかけられた。
きっと惨憺たる思いを堪え、我慢したのだろう。
でも、今回は、反対に女神の神託で、自分の番だと言われた。
そう言うことだ。
そりゃ、全身全霊で臨むだろう。
「うん。マリーパパの説明で、背景は理解できた。それで勝てるの?」
「もちろんだ。向こうに戦闘を止めさせれば勝ちだ。こっちは別に領土が欲しい訳じゃない」
「サンパウリーナ王国もラージャスティ王国と戦っているんだよね? サンパウリーナは戦争で領土を増やしてきた国。ラージャスティを併合したいんじゃないのかな?」
「いや、あそこは民族的に全く異なる国だ。くれると言っても、レオナルド王は要らんと言うだろう。ここで叩いて国力を落としておきたいだけだろう」
アル・ナジール、ラージャスティと二つ並んだ王国は、女神教の熱心すぎる信者の国だ。
毎月二回断食するくらいだし、信徒以外は断罪される。
毎朝、正午、夕方と決まった時間に、女神像がある都市カリーム・アーバに向けて、平伏して拝礼する習慣もあるそうだ。
私からすると、狂った宗教国家だと思う。
女神像がある西側のアル・ナジール王国の方が、苛烈な傾向があり、
東側のラージャスティ王国の方が、少しおおらかな気がする。
おおらかと言うか、いい加減なだけかも知れないが。
「ララの感想は概ね合っている。だが、軍隊はラージャスティ王国の方が強い。アル・ナジールの方は、国内を統治するための憲兵に力を入れ過ぎだ。他国よりも、自国の裏切り者を探し出して断罪することに注力を注いでいるからな」
隣で、姉がブルっと身震いした。
両腕を抱えて、嫌な顔をしている。
「アス姉、どうした?」
「その二つの国は嫌だなって思ったの。かつて、私達は教皇の娘だった訳でしょ? 彼らからすると、最大の裏切り者じゃない?」
「うん……。間違いないね。絶対に立ち寄らないようにしよう」
「そうだな。あの国は女性蔑視も著しい。女性が目立つ装いをするのも許されない。少なくとも姉君やフローレンスの金髪は絶対に見せてはダメだろうな。切り落とされて丸坊主にされるのが、関の山だ」
今度はフローレンスからも、身震いが伝わってきた。
ちょっと話が重くなってきちゃったな。
私は話題を変える良い機会だと思って、マリーとジョヴィに聞いてみることにした。
「マリー、ジョヴィ、最近、月を見た?」
二人の反応は異なっていた。
でも、傾向としては似たような物だった。
「月……。あれ? 月って、この世界にもあるの? 月の無い世界だと思っていたわ」
これがマリーの反応だ。
こっちは、私達と同じような傾向だ。
一方のジョヴィは、ゲオと似た反応だった。
『空』『太陽』『星』それらの単語は、転生した時には知らない単語だった。
転生してから、知った概念であると。
よって、『月』も知らないということだった。
選ばれし使徒でも、二つに分かれる反応。
もう少しサンプルを集めないと分からない。
「マリーは、古語とか読めたりしたことある?」
「古語? サンテール古語? 全然分からないわ。チンプンカンプンよ」
「猿は古語どころか、普通の単語すら、覚束ないからな」
「あ? 脳筋チャック! 一度、チンチンにしてやろうか?」
「はいはい。じゃあ、知っている音楽とかはあった?」
「あったわ! 私、ピアノも弾けたのよ!」
マリーが興奮冷めやらぬ状態になり、ピアノがあるダンスホールまで、連れて行かれた。
マリーパパも、自慢気で得意気だ。
ドカっと音を立てる様にマリーはピアノの椅子に座り、おもむろに弾き始めた。
「Twinkle twinkle little star」
と誰もが知ってる曲を歌いながら弾き始めたが、その後の歌詞が続かない。
「ララララ……」と適当に歌っている。
「おい! 山猿! 歌詞を覚えてないじゃないか! 童謡の歌詞くらい覚えろよ」
チャールズが、バカにした感じで声をかけた。
でも、その後の演奏を聴いて、さすがのチャールズも押し黙った。
それくらい見事な演奏が続いた。
どんどん演奏のレベルが上がっていく。
これでもか、という速弾きになった。
演奏が終わった時には、全員が拍手を捧げたくらいだ。
マリーは、ふぅと息をついて、額の汗を拭った。
「不思議な話はここからなの。チャールズが言った通り、私は最初のフレーズしか、歌詞を知らない。でもね、自然に違う言葉の歌詞が出てきたのよ」
マリーはまた、一番最初の簡単版の演奏を始めた。
「KIRAKIRA HIKARU OSORA NO HOSHIYO」
そう歌い始めた。
知ってる。
分かる。
でも、歌えはしない。
何を言っているかは分かるけど。
でも、隣からは歌声が聞こえた。
マリーと同じ様に歌っている。
フローレンス、チャールズ、そしてレオンだ。
彼らはちゃんと歌えていた。
「ララは知らないのね、意外だわ」
歌い終わった後、フローレンスに、そう言われた。
「うん。歌詞は知らない。でも、歌詞の内容は理解できる。『キラキラ光る。空の星よ』そう歌っていた」
「なあ、ララよ、他の子達よ、それは何処かの国の古語だよな?」
「うん、マリーパパ、そうだとは思う。でも、他の言葉は出てこない。ただ、理解出来ただけなの」
私はそう返答したが、皆はどうなのだろう。
マリーもフローレンス達も頷いていた。
「まあ、其方らが世界を旅すれば分かるだろう。どの国の古語か分かれば進展もある」
「でも、どうやって確認すれば良いんだろ……。現地の人に、フローレンスの音痴の歌でも聴いてもらうか」
「ちょっと! ララ! ひどいわ!」
ハッキリと分かったことがある。
フローレンスは運動神経が発達していないだけではない。
ひどい音痴だ。
きっと勉強以外の才は女神に奪われたのだろう。
逆にチャールズはメチャクチャ歌が上手かった。
思わず振り向いてしまう歌声だった。
フローレンスと足して2で割って欲しいと思ったくらいだ。
『月』の次は『星』か。
何か、関係があるのかな。
知っている曲を歌っても、頭も胸も痛まなかった。
私もギターに触って、何かを思い出してみるか。
楽しそうにピアノを弾く、マリーを見てそう思った。




